移行期を迎えるACTアクセラレーター

=失敗も含めた貴重な教訓の正しい評価と継承を=

「オミクロン株」による軽症化でCOVID-19への注目が低下

2021年11月末に南アフリカ共和国の研究機関が同定した「オミクロン株」は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)をめぐる世界の動きを大きく変えた。感染力が極めて強い一方で、重症化割合がデルタ株などと比較して低下した同株が、デルタ株をはじめとした旧来の株に置き換わっていく中で、多くの国々で、COVID-19やパンデミックの重要性に対する認識は低下した。さらに、2月のロシアのウクライナ侵略開始で、COVID-19は過去2年続いた世界の筆頭ニュースの地位を明け渡すこととなった。世界貿易機関(WTO)で1年以上にわたって議論されてきた「COVID-19関連製品に関する知的財産権の一時・一部免除」について、6月の閣僚会議で極めて不十分な形での決着がなされたのも、COVID-19に関する医薬品アクセスのニーズが一定低下したことが背景にあると思われる。

「移行期」に向かうACTアクセラレーター

ACTアクセラレーターを構成する国際機関・民間財団

では、2020年4月、世界保健機関(WHO)のパンデミック宣言から1カ月強で設立された、ワクチン・治療・診断・保健システムの開発から供給までを手掛ける保健関係の国際機関と民間財団の協働メカニズムである「ACTアクセラレーター」(COVID-19製品アクセス促進枠組み)は今どうなっているのか。

ACTアクセラレーターは、特にワクチンに関するパートナーシップである「COVAX」が注目されてきた。COVAXはもともと富裕国を含む共同購入メカニズムとして構想されたが、富裕国の多くはCOVAXからワクチンを購入せず、結局、これまでと同様、富裕国が拠出した資金によってワクチンを購入し、これを途上国に提供するという垂直型のイニシアティブに変質した。さらに、2021年の段階では、供給されるワクチンの相当部分をインドにある世界最大のワクチン製造企業「インド血清研究所」(SII)の製造したアストラゼネカ社のウイルスベクターワクチンに依存していた。ところが、インドがデルタ株の爆発的蔓延で自国製造のワクチン輸出を禁止した結果、COVAXの機能の多くが失われる事態となり、この状況は2021年10月のワクチン輸出解禁まで続いた。その後、COVAXは持ち直し、より多くの種類のワクチンを各国に供給するようになった。8月末までに16億回分のワクチンが146か国に供給されている。

ACTアクセラレーターは、2021年の10月に開催された運営評議会で、中間戦略レビューを踏まえて構築された新たな戦略計画と予算の下に、少なくとも2022年9月まで任務を延長することとなった。それ以降、特にCOVAXをめぐって、何度か資金調達のための国際会議が開催されているが、資金ギャップは7月段階でいまだに110億ドルに及んでいる。

来月には、運営評議会が決めたACTアクセラレーターの活動期限が到来する。これについて、7月6日に開催された第11回運営評議会では、以下のような方向性が打ち出されている。

  • ACTアクセラレーターは、10月以降半年間の「移行期」に入る。
  • ACTアクセラレーターが行ってきたワクチンや治療薬その他の供給といった業務は2023年の途中まで継続し、その後、通常行われているプログラムに統合される。
  • 運営評議会は10月に移行のための会議を開催し、継続して移行期にACTアクセラレーターが行う業務を監理する。
  • 一方、ACTアクセラレーターは独立評価を行い、その教訓を今後作られるパンデミックへの備えと対応に関するグローバルなメカニズムに引き継ぐ。この評価は、独立した評価事業者によって行われ、評議会のメンバー8名と市民社会代表4名で構成されるリファレンス・グループによって監督される。

失敗も含めた貴重な経験の評価と引継ぎを

COVID-19がパンデミックの急性期から、「残存感染症」(Endemic)へと移行するなか、ACTアクセラレーターも10月以降、6カ月の「移行期」に入り、この移行期の中で、COVID-19のワクチン・治療・診断や保健システムによる対応も国際機関が通常行っているサービスの中に統合していくこととなる。COVID-19の歴史の中で、保健分野の国際機関と民間財団の連携によって緊急に作られたACTアクセラレーターはまず国際連帯の象徴となった。一方で、資金不足や供給不足により充分な機能を果たすことができなかったことは、パンデミックを前にしての世界の分裂や不作為の象徴ともなった。ACTアクセラレーターの教訓は、失敗も含め、適切な独立評価によって今後に引き継がれ、より良い実践へと結び付けられなければならない。