UHC、PPR、結核…3つのハイレベル会合が乱立する2023年の国連総会

コロナ後の国際保健レジーム形成に勢いをつけられるか?

国連、パンデミックへの備えと対応に関するハイレベル会合の2023年開催を決定

国連PPRハイレベル会合開催決定への対応方針を運営委員会で決めたUHC2030のロゴ

国連総会は7月29日、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、南ア、インドネシアなど11か国が提案した、「パンデミック予防・備え・対応に関するハイレベル会合」開催の提案を採択した。これにより、2023年9月に「パンデミック予防・備え・対応」(PPR)に関する国連ハイレベル会合が開催されることとなった。

2021年・22年は、9月の国連総会の時期には、国連で保健分野に関するハイレベル会合は特段開催されなかったが、この決定により、2023年9月の国連総会時期には、もとから決まっていた「結核ハイレベル会合」(前回は2018年)、「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)ハイレベル会合」と並んで、3つもの保健課題のハイレベル会合が乱立することとなる。

PPRについては、2021年にWHOのトラックで「パンデミックへの備え・対応に関するハイレベルパネル」(IPPPR、共同議長:エレン・ジョンソン=サーリーフ元リベリア大統領、ヘレン・クラーク元ニュージーランド首相)、G20財務トラックで「国際公共財としてのパンデミックへの備えと対応のための資金調達に関するG20ハイレベル独立パネル」(HLIP、共同議長:オコンジョ=イウェアラ元ナイジェリア財務相、サーマン・シャンムガラトナム・シンガポール上級相、ラリー・サマーズ元米財務長官)がそれぞれ報告書を出し、これらを踏まえて本年9月にはG20財務トラックのイニシアティブの延長上で、世界銀行に「パンデミックへの備えと対応金融仲介基金」(PPR-FIF)が設置された。また、WHOを舞台に、「パンデミック条約」(WHO-CAII:WHOの条約・協定・その他の国際的取決め)の策定交渉、および、現存の「国際保健規則」(IHR)の改定交渉が2024年を目途に進められている。来年9月のPPRハイレベル会合はこれらのプロセスに首脳・閣僚レベルの権威付けを与えるものとなる。

米国政府は、決議文について十分な検討がされなかったことに不満を表明しつつも、交渉には建設的にコミットすると声明。一方、市民社会でパンデミックへの備え・対応に向けた政策提言を行っている「パンデミック行動ネットワーク」(Pandemic Action Network)は、ハイレベル会合について、「地球規模の保健上の脅威に立ち向かう、市民社会や民間セクターに開かれたハイレベルな評議会(a high level council)を設置することが、このハイレベル会合の目標に据えられるべき」との声明を出した。これは、IPPPRがその報告書「COVID-19:最後のパンデミックに」で示した、各国首脳からなる「地球規模保健脅威評議会」(Global Health Threat Council)の構想と関連するものである。

UHCハイレベル会合とのシナジーを:UHC2030は運営委員会で方針討議

一方、PPRハイレベル会合開催の決定が急になされたことで、もともと2023年に予定されていた「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)に関するハイレベル会合」および「結核に関するハイレベル会合」の側は、国際保健における国連や各国の政治的意思が「パンデミックへの備えと対応」の側に大きく傾いてしまう可能性があることに、大きな警戒感を持っている。実際、3つのハイレベル会合を、何の連携・協力もないまま、別々にやるということでは、それぞれ十分な成果は得られなくなる。そこで、この3つの会合をどうつなぎ、成果を最大化するかという課題が急浮上している。

世界保健機関(WHO)、世界銀行、経済協力開発機構(OECD)の3機関が管轄する、UHCの促進のための調整機関「UHC2030」は、10月17-18日の二日にわたって定例の運営委員会を開催し、UHC、特に保健システム強化(HSS)とPPR、また、PPRの上位概念たる保健安全保障(Health Security)の連動性を確保し、保健システム強化と保健安全保障の主流化を目指す戦略を策定した。また、UHC2030がUHC進捗のための「カギとなる提言」(Key Asks)が、2019年に制定され、PPRや保健安全保障が含まれていなかったため、これを改定するタスクフォースを発足させ、また、改定に向けたガイドラインを決定した。実際のところ、PPRに光が当たる中で、UHCについては、もとからの概念の抽象性の問題もあって、課題が埋没しかねないとの危機感がある。実際には、パンデミックは新たなワクチンや医薬品の迅速な開発と供給だけで対応できるものではなく、平時の強力な保健システム、パンデミック時に迅速に緊急対応しサービス供給を急拡大できる能力(surge capacity)の涵養、加えて、肥満や非感染性疾患など、パンデミックに対する脆弱性を低減し、パンデミックに対するレジリエンス(強靭性・弾力性)を確保しておくこと、が必要である。

2023年は、パンデミック条約策定やIHRの改正を2024年に控え、COVID-19を踏まえた新たな国際保健レジーム形成のかなめとなる年になる。3つのハイレベル会合が、適切な協力・連携を得て、これに貢献しうるのか、それとも、セクショナリズムを克服できず、保健全体のモメンタムを高められずに終わるのかが問われている。