アフリカ連合、南ア製造のJ&J社ワクチンを軸にワクチン供給メカニズムの本格運用に目途をつける

=影を落とすワクチン米国原料工場での原料汚染問題=

アフリカ独自のワクチン供給イニシアティブ

この3月から5月にかけて、インドでは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が急激に感染拡大し、医療崩壊と大量死を招いた。インド政府は同国内でインド血清研究所(Serum Institute of India)などにより大量にライセンス生産され、輸出に回されていたアストラゼネカ社のワクチン(コビシールド Covishield)などの輸出を禁止し、国内使用に回した。これらのワクチンの多くは本来、国際協調による途上国へのワクチン供給の仕組みであるCOVAXに回される予定であったが、インドの輸出禁止措置によりCOVAXは供給不足にさらされ、COVAXによるワクチン供給に頼っていた国々へのワクチン供給も困難な状況に陥っている。

COVAXによるワクチン供給の対象となっている低所得国・下位中所得国の多くはサハラ以南アフリカに存在している。アフリカ連合およびアフリカCDC(アフリカ疾病予防・管理センター)は、2022年末までにアフリカの人口の6割にワクチンを接種する目標を立てており、その目標を達成するために、自らのワクチン供給メカニズムとして「アフリカワクチン確保タスクチーム」(AVATT: African Vaccine Acquisition Task Team)を設立して目標を追求してきた。6月14日、アフリカ連合と世界銀行は、AVATTを支援し、4億人に早急にワクチン接種を行うことに合意した。

AVATTはアフリカ連合委員会、アフリカCDC、アフリカ輸出入銀行(Afreximbank)、アフリカ連合COVID-19特別代表および国連アフリカ経済委員会(UNECA)のイニシアティブで、この3月に、米ジョンソン&ジョンソン社(J&J)との間で、南アフリカ共和国のジェネリック医薬品メーカーであるアスペン・ファーマケア社がライセンス生産している同社のウイルスベクターワクチン4億本の供給を受ける契約を締結していた。アフリカ連合と世銀のイニシアティブは、世銀がAVATTのプログラムを無償資金協力及び譲許的なローンにより資金援助するものである。COVAXのワクチン供給のロジスティックスを支援してきたユニセフが、AVATTについても支援を行う方向性となっている。

アフリカCDCのウェブサイトにある「ワクチン・ダッシュボード」のコーナーには、アフリカ諸国がどのイニシアティブによってどのワクチンを入手しているかについての詳細が示されている。現在までのところ、AVATTによるワクチン供給は南スーダンやモーリタニア、ギニア、リベリア、シエラレオネなど13カ国、ワクチンの種類はアストラゼネカとなっている。今後、ここにJ&Jのワクチンが供給されていくことになろう。

影を落とす米国エマージェント社のワクチン原料汚染問題

アフリカ連合およびアフリカCDCという主体が中心となって、国際機関を巻き込み、ライセンス生産とはいえ、アフリカで製造するワクチンを活用して実施する、このAVATTの先行きに影を投げかけているのが、今年3月に、J&Jワクチンの原材料を生産する米国「エマージェント・バイオソリューションズ」社による原料汚染問題だ。同社は2001年の米国同時多発テロ後に起きた炭そ菌テロに対して、炭疽病ワクチンを製造するために設置された企業で、COVID-19ワクチンについても、トランプ政権の下で原料製造に巨額の資金を投入され、いわば「国策会社」として成長してきた。このエマージェント社は、アストラゼネカとJ&Jの二つのウイルスベクターワクチンの原料を製造することになっていたが、この3月、同社において、J&Jワクチンの原料にアストラゼネカの原料が混入するという問題が生じ、工場は操業を停止した。4月、同社に米国食品医薬品局(FDA)が査察に入ったところ、「医薬品の製造管理及び品質管理の基準」(GMP)について数多くの違反が発見され、FDAは同社におけるJ&Jワクチン製造の停止を命令した。結局、6月までに、同社が製造したJ&Jワクチン7500万本分の原料が廃棄され、1000万本分が安全と判断されて出荷が許可されることとなった。

割を食った南ア製造J&Jワクチン:200万本のワクチン廃棄へ

この割を食ったのが、同社から3月までに輸出された原料によって、南アフリカ共和国の東ケープ州ガーベラー(旧ポートエリザベス)にあるアスペン・ファーマケア社の工場で製造された200万本のワクチンである。同社はJ&J社から原料の提供を受け、これをワクチンに加工して完成品にする作業を請け負っているが、この原料が、米国ボルティモアのエマージェント社の工場での製造過程ですでに汚染されていたというわけである。南アの医薬品規制当局は6月、この200万本のワクチンについて廃棄処分を決定した。

J&J社のワクチンはウイルスベクターワクチンで、常温保存が可能、さらに1回の接種のみで免疫の獲得が可能ということで、当初は「ゲームチェンジャー」として期待されていたが、その後、アストラゼネカ社のウイルスベクターワクチンと同様、使用した人にまれに血栓症が出るということで問題となった。さらに、原料製造を付託されていたエマージェント社に医薬品管理上の問題が生じたことで、大きく評価を下げた。エマージェント社のスキャンダルは、中国やロシア、キューバなどのワクチンに対して安全面での優位性を強調する西側メガ・ファーマの主張を大きく傷つけるものともなっている。