食料価格の高騰は農民にとってチャンスなのか

白鳥清志さんに聞く 

Dose rising food prices means a chance for farmers?

『アフリカNOW』 No.81(2008年6月30日発行)掲載

執筆者:白鳥清志
しらとり きよし:AJF、JVC会員、TCSF理事。2004年よりJICA専門家として、JICAエチオピア農民支援体制強化計画で、農民参加による農業研究の制度化に取り組んでいる。また、2003年にアフリカ理解プロジェクトを立ち上げ現在、副代表を務め、アフリカ理解の促進やアフリカでの教育支援にも取り組んでいる。専門は農業・農村開発。

AJFは5月23日に、ハンガー・フリー・ワールド(HFW)、日本国際ボランティアセンター(JVC)と共同で公開セミナー「アフリカ農民から見た食料価格高騰」を開催。エチオピアから一時帰国中の白鳥清志さんに、アフリカの農民から現在の食料価格高騰を見るとどう見えるのかについてプレゼンテーションを受け、質疑を行いました。白鳥さんのプレゼンテーションをもとに、エチオピアの農業の現状と課題、食料価格高騰が引き起こした問題をまとめました。


標高2000メートルの高原が広がるエチオピアは、病虫害が少ないことから、ヨーロッパ市場向けの花卉栽培が増えています。オランダやイスラエルの企業が数百ヘクタール(ha)の土地を使って栽培したバラなどの多くは、オランダの市場を経由してヨーロッパへ送られていますが、一昨年からドバイを経由して日本の市場にも届けられるようになりました。
中東向けの野菜やチャット、スターバックスとの提携で話題になったコーヒーなど、エチオピアの主要な輸出品は農産物です。一方、穀類や燃料、自動車などを輸入しています。輸出も輸入も年々増えていますが、2006年の輸出額約10億米ドルに対し輸入額は約45億米ドルと大幅な入超状態です。自動車の輸入が増えていることは、4年前には見られなかった渋滞があることから実感できます。

GDPの半分、労働人口の8割を占める農業の現状

エチオピアの農業生産は、近年の農業投資の増加により、2006年には前年比11%以上も成長しています。外国資本による花卉栽培など、300haの農地で2,000人を雇用する大農場経営も一部にありますが、国内の食料生産の9割は、耕作面積が2ha以下の小農によって担われています。エチオピアでは、土地はすべて国有で、農民は土地の利用権を持っています。

エチオピアの農業には以下のような課題があります。
1、不安定な天候:年間降雨量だけみれば農業生産が可能であっても、降る時期が一定しないため植え付けがうまくいかない、5日間で20ミリという植物が生育するに必要な雨量が続かなくて立ち枯れしてしまう、などの難しさがあります。一昨年、昨年は豊作だったのですが、今年は大雨季の時期になっても雨が遅れるとの予想が出されています。干ばつだった2002年に家畜を売ってしまった牧畜民が、5年経ってまだ干ばつ以前の状態に戻っていないと言われています。干ばつによる被害からの回復はそれほど困難です。
2、肥沃度の低い土地:中央リフトバレーの場合、1999~2004年の平均で1haあたりの生産量が、トウモロコシで1.85トン、小麦・ソルガムが1.35トン、エチオピアの人々の主食であるテフだと0.9トン弱しか生産できません。また、土壌がアルカリ性のために、栽培できる作物が限られる土地もあります。加えて肥料も限られており、最近では、価格も高騰しています。有機肥料を作ろうにも、牛糞を燃料に使っている地域も多く、土壌の肥沃度を回復させるだけの肥料を作ることが困難です。土壌保全の技術も十分ではありません。
3、農民の多くが年間を通してみると食料の購入者になっている:収穫期に農産物を販売し、植え付けを迎える頃には食料を購入するというサイクルからなかなか抜け出せないでいます。小規模農民の場合、生産者自身も食料を購入せざるを得ないほど生産性が低いことも問題です。食料援助は、農村部の収入が十分でない農民や都市部の貧困層にとって必要不可欠になっています。また、借金のある農家は、家畜を持っている場合、家畜を売って必要な現金を得ています。家畜がいない場合は、生活に必要不可欠な現金を得るために農地そのものを貸し出してしまうケースもよくあります。このような状態では、農民自身が農業への投資を行うことは非常に困難です。資本や技術を持つ外国資本による農業投資は農村に雇用を生み出し、一部の人たちに安定収入をもたらしています。また、政府による農民向け信用制度の充実が重要な役割を果たすことになります。
4、水不足に苦しむ地域が多い:オロミア州では、不安定な天候をカバーするために州政府が溜池作りを推進し、2万個とも言われる溜池が作られました。しかし、せいぜい2ヶ月程度しか貯水できない、家畜用の水が不足するなど、水不足の問題は解決していません。水が溜まらないところも多くあります。
5、農民の識字率の低さ:新しい農業技術を導入するためにも、また、市場情報を活用して農産物を高値で販売するためにも、文字を読むことは重要です。

食料価格高騰:農民にとってのチャンス?

今年4月から急に食料価格高騰が世界的なニュースになっていますが、エチオピアでは近年、経済活動が活発化し、道路工事や住宅建設が続いていることもあって、物価上昇がずっと続いています。燃料価格の高騰による影響もあります。地方分権化や国境貿易の活発化などによる現金収入の機会を増えたことも物価上昇につながっているようです。食料価格高騰の原因の一つと言われるバイオ燃料向けのサトウキビ生産にも、エチオピア政府は力を入れています。
一方、普段は農産物の値段が安いと不満を口にしている農民が、食料価格高騰の恩恵を受けているようには見えません。先述のように農民たちも総量で見れば食料の購入者であり、また肥料や燃料など農業生産のために必要なものの値段も上昇しているからです。

政府や国際機関は、かつての飢饉の経験に学び、食料の状況を調査してアラートを発する、公共事業を行って地域住民の収入を増やし食料へのアクセスを保障するcash for food事業を行なうなど、食料危機による被害を小さくするための取り組みを進めています。

国際協力活動による農民支援の課題

日本まで輸出されるバラを作っている大農場と、大雨季の雨を待って牛を酷使して耕作しそれでも総量で見れば食料購入者にならざるをえない小農とでは、同じ農業と一括りにできない違いがあります。大農場に雇用され働いて技術を身につけたとしても、現状では、必要な資金や農業資材を自力で得ることも、制度的な支援によってアクセスすることもできません。
最近エチオピアでも普及している携帯電話を使い、農民同士が各地の市場情報を交換して、有利な市場へ農産物を持ち込むという動きが支援対象農民に見られます。こうした農民自身の取り組みを後押しするためにも、農村部の道路、潅漑、市場情報や農業技術の情報などの生産基盤構築、適正技術の開発と普及活動において、中央政府・地方政府や国際協力機関、NGOがそれぞれに果たすべき役割があると考えます。
エチオピアには、移動しながら家畜を育てる牧畜民も少なからずいます。国土がすべて国有地という現在の体制の中で、牧畜民が家畜を放牧させてきた土地が大規模な農場として開発される、家畜のための水場が国有農場に取り込まれてアクセスできなくなるといった事態が、各地で起きているようです。国際協力機関や海外のNGOは、牧畜民の権利にも注意を払っていかなくてはならないと考えています。


【エチオピアの食料事情】

エチオピアでは、昨年末に同国を訪問したFAO/WFPの農産物・食料供給見通し調査団の事前報告によれば、生育期に多量の降雨があり、肥料および改良種子使用が広がり、病虫害の発生がきわめて少なく、また耕作面積が広がったことから、大雨季収穫は今期も豊作との見通しであった。これで4年連続の豊作になる。
(中略)エチオピアでは、ソマリ地方の大部分で、2007年6月半ば以来の紛争と緊張のため、移動と国境を越えての交易が制限され、その結果この地域の遊牧民および農耕遊牧民の生活は著しく困難になっている。遊牧民たちは、所有する牧畜のミルクと肉および野生の食料といった限りのある食料に頼らざるをえなくなっている。エチオピア政府は、規制の緩和および国連や他の人道援助機関と合同で対応することに合意しているが、食料支援実施が遅れ、食料配布所が減らされ、食料支援の対象設定や他の支援策の実施にあたって問題が生じているために、状況はほとんど改善されていない。(中略)ソマリ地方の100万人の人々(642,000人は移動規制地域内)が緊急の食料支援を必要としている。さらに、10?11月と降雨が少なく、穀類価格が上昇し、定められた地域内での交易も移動も規制されていることから、遊牧民および農耕遊牧民の食料入手が困難になっている。バッタの発生もソマリ地方全体への脅威となっている。(中略)
また、エチオピアでは、大豊作との見通しにもかかわらず、主要な市場の穀類価格は堅調である。この2-3年起きている、こうした事態の背景には、食料を投入する食料支援から地域市場での購入のための資金援助への転換などもあって経済の流動化が進んでいること、農民たちが収穫直後に農産物を売り払うことよりも信用貸し付けを受けながら販売条件を良い時期に農産物を市場に出す取り組みが広がっていること、地区レベルへの予算的支援が進み給与所得者による実効需要が高まっていること、税関を通るものも通らないものも含め国境を超える穀物交易が拡大していること、企業や援助機関による地域市場での穀物購入が拡大していること、何よりも経済活動全体の活性化、特に都市部での道路や住宅建設の拡大がある。食料価格の高止まりが続くことから、貧しい世帯が適切な食料を入手することがますます困難になることが予想される。

出典:FAO Crop Prospects and Food Situation 2008 No.1, 2008年2月


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