カメルーンにおけるCOVID-19 の現状

The present situation about COVID-19 in Cameroon

『アフリカNOW』114号(2020年9月30日発行)掲載

執筆:土手 香奈江
どて かなえ:創価大学法学部卒後、大阪産業大学大学院にて博士前期課程修了。2003〜2005年、在コートジボワール日本大使館で専門調査員として勤務する。ベナンのアフリカ協同開発大学留学(2010〜2012年)を経て、2013年よりIPD(Institut Panafricain pour le Développement / Panafrican Institute for Development)にてプロジェクト調整員として勤務。


カメルーンの人々のコロナ感染状況と政府による対策

2020年3月7日、カメルーン出身でフランス国籍を持つ入国者が新型コロナウイルスに感染していることが発表され、彼がカメルーンの新型コロナ感染者第一号となった。8月12日付けで公式に発表されている感染者数は18,389名、死亡者数は401名(死亡率2,2%)、回復者数は16,459名(回復率89,5%)となっている(カメルーン保健省)。カメルーンはアフリカ大陸の中でも9番目に感染者数の多い国であり、かつ最も感染者回復率の高い国だと言う。第一号の発症確認後、3月17日夜、カメルーン首相は以下の13項目の措置を発表し、3月18日からの遵守を市民に呼びかけた。

1. カメルーンの陸・海・空の全ての国境を閉鎖する。これに拠り、国外からの乗客輸送を担う航空の運航は見合わせとなる(生活に必要不可欠な物資を調達する貨物便を除く)。
2. カメルーン入国査証の発行を停止する。
3. 全ての教育機関を閉鎖する。
4. 50人以上の集会を禁止する。
5. 学校や大学の行事を延期する。
6. 飲食店は18時に閉店する。
7. 市場やスーパーマーケットでは、顧客の入店を管理するシステムを導入する。
8. 都市内および都市間移動は真にやむを得ないものに限定する。
9. 公共交通機関の運転手は過密な乗客搭載を避ける。
10. 民間の医療機関や宿泊施設等は、当局によるCOVID-19対策オペレーションに協力する。
11. 公共行政機関が10人以上が参加する会議等を開催する場合には、ICTの活用を優先する。
12. 国外のカメルーン政府機関のサービスは見合わせる。
13. 国民は、国際保健機関(WHO)の推奨を踏まえ、石けんによる手洗い、うがい、握手やハグ等の接触を避ける。

コロナ発生直後の街中・生活の変化

13項目の措置発表後は、街中の様子が大きく変わった。これまで、相乗りタクシーでは後部座席に3人、助手席に2人の乗客が座っていたが、それ以降、後部座席に2人、助手席に1人のみの座席が許されることになった。バイクタクシーも乗客を2人以上を乗せることが禁止された。都市間を行き来するバスでは、座席を空けて着席しなければならない。人々は外出の機会を減らし、学校や大学も閉鎖されたため、タクシーやバイクタクシーの利用客は一気に減った。交通業界への打撃は計り知れなかったと思う。
カメルーンでは、友人や知人でお金を出し合い、順番に集まったお金をもらっていく頼母子講(たのもしこう:仏語でレユニオン[réunion]と呼ばれている)が盛んで、支払日にはメンバーで集まり飲食を共にすることが慣例であった。しかし、コロナ発生後は飲食の機会をなくし、モバイルマネーを活用して集金し、該当者に送金するシステムに変更したレユニオンも多かった。
スーパーや銀行や病院では、施設に入る前に警備員やスタッフにより検温が実施され、消毒用ジェルを手にかけられる。給料日に長い行列のできる銀行では、マスク着用なしに入行できず、入行者数に制限がかけられた。銀行前にテントと椅子が設置され、入行制限された人々はそこで待たなければならない。小さな商店でも店先に石けんと手洗い用の水の入った蛇口付バケツが置かれている。ただ、実際にこれで手を洗っている人は少ない。コロナ以降、街中ではこの蛇口付バケツ(またはゴミ箱)と様々なデザインのおしゃれな布製マスクを売っている人々をよく見かける。
学校の閉鎖後、国営放送局では、夏季休暇に入るまで様々な学年を対象とする公開授業が放映されていた(6月1日からは、受験生のみを対象に学校が再開された)。フランスやアメリカ系のインターナショナルスクールでは、オンライン授業が実施されていた。私の子どもが通う幼稚園では、オンライン授業とはいかないが、課題が指定された学習ノートを保護者が週の頭に園に取りにいき、家で子どもたちに課題をさせて、週末にノートを提出する、という対応が取られた。
諸外国で多く見られるテレワークといったITを活用した取り組みは、カメルーンではあまり実施されなかったように思う。私の勤務先のNGOでは、コロナ感染第一号発覚後に在宅勤務が認められ、情報共有のためワッツアップ(WhatsApp)の職場グループが作られたが、仕事がはかどらないという上司の判断により、2週間後には通常勤務に戻った。テレワークを実施しているのは大使館や国際機関などにほぼ限られるのではないかと推測する。ただ、閣僚会議をオンラインで行っている様子はテレビでよく報道されている。

7項目の追加対策

それでも、感染者数はウナギ上りに増加していく。4月9日には以下の7項目の対策が追加された。
1. 公共の場所でのマスク着用の義務化。
2. 薬、検査キット、防護マスク、除菌アルコールジェルの国内製造の推進。
3. 全州都において、新型コロナウイルス感染者を専門に扱う病院の開設。
4. 新型コロナウイルスにかかる追跡調査・検査の強化。
5. 公用語(仏語・英語)および現地語を用いての都市圏および地方における啓発活動の強化。
6. 3月17日発表の13項目の対策(国境閉鎖等)を講じた上での必要な経済活動の維持継続。
7. 現在実施している諸対策、または隔離措置等に違反した者に対する制裁措置。
以降、マスク着用の義務は厳しく取り締まられるようになり、銀行や病院、大手スーパーなど、マスクなしに施設内に入ることを拒否するケースも多く見受けられた。
ただ、カメルーンでは、外出禁止令などの強硬策は取られていない。それでも、コロナによる人々の経済活動に対する影響は甚大なものがあったと推察できる。4月30日には、19項目の国民支援策が発表された。
主な内容は、
・バー、レストラン、レジャー施設等の18時以降の営業可。ただし、客や利用者はマスクの着用やソーシャルディスタンスの確保など感染防止措置を取ることが義務づけられる。
・バスやタクシーなどの公共交通機関における乗員数の緩和。ただし、乗客のマスク着用は義務であり、乗員超過は禁止。
・各種税金の支払い延期・免除
などである。タクシーでは後部座席に3人座ることが許可され(助手席は1人のまま)、マスク着用、社会的距離を保つことを条件に、飲食店の営業時間も通常通りに戻った。警察官による、タクシー内での運転手や乗客のマスクの有無の取り締まりが強化された。
通話料無料の1510番が設置され、感染が疑われる場合は、病院に行くのではなく、同番号に電話することが推奨されている。

人々のコロナに対する意識の変化

19項目の国民支援策が発表されて以降、街中の人出が少しずつ回復し始め、6月には人々のコロナに対する恐怖心もかなり薄れてきたのか、バーや飲食店ではコロナ以前と同じとは言わないが、ある程度の賑わいを取り戻している。7月に入ると、コロナが終わったかのような雰囲気が流れはじめ、マスク着用者も少なくなった。マスク着用の有無を取り締まりる警官の姿もほぼ見られなくなった。以前は、私がマスクを忘れてタクシーに乗車して、運転手にとがめられることも
あった。8月に入ってからは、タクシー内でマスクを着用しているのが私だけであるのに気づくことも多々ある。8月上旬にヤウンデ市内で最も大きな市場に買い物に出かけたが、通行人を観察してみると、マスクを着用しているのはざっと見ても20人に1人ぐらいの割合であった。
インターネットで日本の感染対策、人々の生活状況や意識の変化に関する記事を読んだり、日本にいる家族と連絡を取り合ったりしていると、私を含むカメルーンにいる人々と、日本にいる人々との意識の違いに驚くことがある。先日、姉に、手術をした高齢の義父を子どもと訪問したことを話すと、「コロナ中に高齢者の訪問なんてしていいのか」ととがめられた。カメルーンでは、コロナ禍の最中であっても、病気の家族、祝い事や不幸があった家族や友人を訪問しないでいたら、そちらの方がかえって問題になる。

コロナに関する意識・経済調査

私が勤めるNGOでは、国連開発計画(UNDP)の支援によるプロジェクトの一環で、7月上旬にヤウンデ市内にて主にインフォーマルで小規模経済活動を行う約1,800人に、コロナに関連したアンケート調査を実施した。アンケートの目的は、人々がコロナの予防措置に関する正しい知識を持っているか、措置を取っているかを調べ、その上でコロナに関する啓発活動の在り方を見直すことと、人々が受けた経済的な影響を調べることにあった。
 「公共の場ではマスクをつける(91.2%)」、「他者と1メートル以上の距離を取る(48.3%)」、「手を頻繁に洗う(68.8%)」等のコロナ対策の一般的な知識は、多くの人々がテレビ(81.2%)やラジオ(36.7%)、SNS(21,0%)、近親者との会話(7.2%)などを通じて持ち合わせていた。ただ、実際にマスクを常に着用していると回答した人は51.8%であった。そのうち、布製マスクを利用している者は95.6%、使い捨てマスクを使用している人は3.4%であった。布製マスクは200~300CFAフラン(約40~60円)と安価で購入でき何度も洗って長期に渡って使用できるのに対し、使い捨てマスクは500CFAフラン(約100円)と高く、数回洗って使うと使用に耐えなくなるからであると推測する。未だに握手をしてあいさつすると答えた人は19.7%おり、その理由として「習慣だから(51.1%)」、「文化だから(15.9%)」、「友情の証だから(13.6%)」と言った回答が見られた。
また、最近ではコロナ感染の有無を調べる簡易検査所が多く設立されているが、「検査をしたことがある」と答えた人は16.2%に過ぎなかった。検査をしない理由を問うと、「検査をすることが怖い(44.7%)」、「コロナの症状がない(23.7%)」という回答が目立った。ほんの一握りではあるが、「コロナは存在しない」と答えた者もあった(1.1%)。
経済的な影響があったと答えた者は、全体の90.9%に上る。19項目の国民支援策が発表されて以降、人々が外出し、経済活動が回復しつつあると言っても、道端で果物、古着、ピーナッツ、サンドイッチ、クッキーやあめ、小袋に入ったウイスキーなどを販売するインフォーマルで活動する人々のなかには、人々が外出を控えて売り上げがほぼゼロになった時期に、生活のため活動資金を使い果たし、借金をしながら経済活動を続けているという人もいた。中には、活動資金がないため何も販売していないが、活動場所を他人に取られないため座り続けている、という人もいる。「経済的な影響を抑えるための措置を取ったか」との質問には71.4%の人が「いいえ」と答え、その理由として「資金がない」と答えた人が46.2%であった。「いくらの資金があれば経済活動を立て直せるか」との問いには約半数の人が、5,000CFAフラン(約1,000円)に始まり、100,000CFAフラン(約2万円)以下の金額を示していた。
アンケート調査の結果を踏まえ、医療関係者、教育関係者、メディア、地元の伝統的首長、市役所関係者、宗教関係者、若者、女性団体代表者などが集まり、コロナに対する人々の意識、メディア戦略について議論を行った。その中でも、人々のコロナに関する意識、対策が緩んできていることを指摘する声が相次いだ。
私のパートナーも5月の時点でコロナに感染し、コロナの怖さを身をもって体験したカメルーン人の一人だが、回復後しばらくは慎重に行動していたものの、7月に入ってからはコロナ感染前と同じように友人や兄弟を連れて飲み歩いている。「コロナと共存しながら生きていくしかない」と言うのが彼の言い分である。


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