=「世界健康危機モニタリング委員会(GPMB)」と市民社会は合同会議に合わせて提言書を発表=
サウジアラビアを議長国とする2020年のG20サミット・プロセスの一環として、9月17日、G20財務相・保健相合同会議がヴァーチャルで開催され、共同声明が発表された。財務大臣と保健大臣の合同会合は、昨年6月のG20大阪サミットに合わせて開催されたのが最初であり、今回の会合は、2年連続、2回目となる。昨年の会合では、全ての人が無料または廉価に必要な保健・医療にアクセスできることをめざす「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ」(UHC)の実現のための財政や資金の在り方が主要テーマとなり、各国の財務当局が公共の保健医療への支出の重要性を共有することが課題となったが、今回の会合では、昨年末に発生し世界を席巻している「2019年コロナウイルス病」(COVID-19、新型コロナウイルス感染症)への対策が主要議題となった。会合の成果は「共同声明」にまとめられた。本年4月に開催された「G20保健大臣会合」では、参加国の意見の違い等で閣僚宣言をいまだに発表できていないが、今回の会合では、共同声明の形で会議の成果を文書で確認できたことで、何とか面目は保ったとの評価もある。
ACTアクセラレーターなど既存の国際協調の取り組みを評価
G20財務・保健相合同会合の共同声明は、COVID-19の脅威がUHCの重要性を再確認したとして、UHC実現に向けた保健財政の重要性を説きつつ、COVID-19に関連する新規技術の開発と平等なアクセスを一体で手掛ける「ACTアクセラレーター」、とくにその中のワクチン・パートナーシップ(COVAX)の重要性と、知的財産権の自発的なライセンスの重要性を強調した。G20には、米国をはじめ、COVID-19対策の国際協調に背を向ける国も少なくない中、ACTアクセラレーターの重要性や、COVID-19対応の正当性の検証については触れつつもWHOや国連システムの重要性について基本的な合意ができたこと自体は、あまりにも基本的なこととはいえ、現状の世界情勢に照らせば評価に値する。また、人獣共通感染症や薬剤耐性とワン・ヘルス・アプローチの重要性なども、パンデミック防止の観点を付加されつつ言及された。一方、欧米・日本など伝統的ドナー国と中国やインド等を含めた新興ドナー国の双方が結集するG20に最も期待されるのは、COVID-19対策に必要な資金拠出に関する誓約であるが、今回の共同声明には、資金誓約などは全く含まれず、COVID-19の克服やUHC実現に向けた「野心度」の低さには、特に市民社会から批判の声が上がった。
市民社会の提言書などは政治的意思の動員や資金誓約を要求
この合同会合に向けて、いくつかの提言書が発表された。主要なものは、9月11日に発表された、G20に向けたグローバルな市民社会の提言枠組みである「市民20」(C20)の提言書と、グローバルな保健危機に関するモニタリングを高レベルで行う「世界保健危機モニタリング委員会」(GPMB)の提言書である。
C20の提言書は、COVID-19に対する保健システム、R&Dと平等なアクセス、栄養不良や予防接種の取り組み、ジェンダーや人権ベースのアプローチと市民社会のエンパワーメントの重要性を説いたうえで、ACTアクセラレーターへの350億ドルの資金拠出や、グローバルファンドの「COVID-19影響緩和緊急プラン」への50億ドルの資金拠出(ACTアクセラレーターへの拠出との重複分を含む)をはじめとするCOVID-19による保健上のインパクトの軽減のための資金投入、国連貿易開発会議(UNCTAD)などの提言に基づく総額5000億ドルの「保健回復のためのマーシャル・プラン」の実施、全ての国がGDPの5%を公共保健支出にあてること、また、GNIの0.7%をODAにあてるべきといった数値目標を列挙し、さらに、「誰一人取り残さない」COVID-19対策や、腐敗防止と透明性・アカウンタビリティの確保などを強く訴えるものとなっている。
一方、WHOや世界銀行、各国の有識者などが世界の保健危機に関する独立したモニタリングを行うハイレベル委員会である「世界保健危機モニタリング委員会」(GPMB)は、9月14日、COVID-19に関する二つ目の報告書である「混迷する世界」(The World in Disorder)を発表した。同委員会は2019年、COVID-19拡大の前に「危機に直面する世界」(The World at Risk)を発表しているが、この報告書はその延長上で、COVID-19パンデミックによって混乱した世界の現状を分析し、5点にまとまった「行動の呼びかけ」を行っている。元ノルウェー首相・WHO事務局長のグロ・ハーレム・ブルントラント氏と、ユニセフやUNAIDSなどを渡り歩いてきたセネガル人のアルハジ・アス・シー氏の二人に率いられるこの委員会がまとめた5点は以下のとおりである。
(1)国家指導者を含めた世界のあらゆる指導者への「責任あるリーダーシップ」の呼びかけ:
(2)市民への「参画型の市民的行動」の呼びかけ:具体的には政府への監視と感染症に対する責任ある行動
(3)地球規模の保健安全保障のための強力かつ迅速な対応が可能な国及びグローバルなシステムの構築
(4)パンデミックの脅威の規模に見合った予防と準備への持続的な投資
(5)保健緊急事態に能動的に備えるグローバル・ガバナンスの構築
「資金」に大きくシフトした市民社会の提言書に対して、GPMBの提言書は、必要な政策とその根拠を冷静に述べているという点で対照的ではあるが、いずれも、国家政府、市民社会、民間セクター等それぞれに対して、COVID-19および今後の保健上の脅威に対して、より能動的な対応をG20に対して迫っているものである。G20は11月にはヴァーチャルで首脳会議を開催し、12月には次期議長国であるイタリアに引き継がれる。また、G7も、来年には米国から英国に議長国が移り、主要な伝統的ドナー国が集まる会合として重要な意味を持つ。1月のWHOの「国際的な公衆衛生上の緊急事態」(PHEIC)宣言から9ヶ月で100万人以上の死者を出すに至ったCOVID-19に直面して、特にG20の国家指導者には分裂・分断から連携と責任ある行動への転換が早急に求められている。