2024年は「世界選挙の年」:UHC2030が選挙キャンペーンガイドブックを発表

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジは選挙の重要課題になりうるか

充実するUHC2030のアドボカシーガイドブックのラインナップ

UHC2030が発表したUHC選挙キャンペーンガイドブック

2024年は11月の米国大統領選をはじめ、英国や欧州諸国の殆ど、南ア、インド、韓国など、多くの国々で大統領選挙や総選挙などが行われる「世界選挙の年」と言われている。選挙はその国の保健・福祉政策なども大きく左右する。ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)達成のための調整やキャンペーン等を担う国際機関「UHC2030」と、同機関への市民社会の参画枠組みである「市民社会参画メカニズム」(CSEM)は共同して、この3月、各国でUHCに取り組む市民グループなどが選挙に向けてキャンペーンを行うためのガイドブック「選挙アドボカシー・ガイド UHCを投票用紙に」(Election Advocacy Guide: Getting UHC on the Ballot)を発表、3月14日にはウェビナーも開催した。

UHC2030とCSEMは、UHCに関わるアドボカシーの基本となる「全ての人に健康を:UHCアドボカシー・ツールキット」を発表後、UHCのための予算と透明性や説明責任、社会参画などをテーマに、UHCに取り組む市民活動家などに向けて、多くのガイドブックを発表してきているが、今回の選挙ガイドブックもそのラインナップの一つを構成するものとなる。

選挙キャンペーンの実際を6つのステップに分けて解説

ガイドブックは、各国の選挙において、市民がどのようにUHCに関するキャンペーンを効果的に行い、各国の社会・福祉政策においてUHCを主流化していくかについて、以下の6つのステップに分けて解説している。ガイドブックは10ページとコンパクトなもので、選挙を対象としたキャンペーンを計画・実施する上で必要なことを簡潔にまとめた内容となっている。

(1)キャンペーンのターゲットとなる層を定める
◎選挙には幾つかの種類(大統領選挙、国政選挙、地方選挙など)があり、選挙に関わる主体(政党、議員候補、その他)の役割も異なる。選挙の種類や働きかけの対象の違いに応じて、何を求めていく必要があるかを解説。また、政治的中立を保つことの重要性などにも触れている。
(2)キャンペーンのメッセージを準備する
◎選挙キャンペーンで何を訴えるかについて幾つかの例を引いて紹介する。UHCの法制化、保健予算の拡充など。また、候補者や政党を説得するのにどのような論理を使うと良いかなどについてもヒントを示している。
(3)ターゲットに働きかける
◎メッセージを決めたら、大統領候補や国会議員候補、政党などに具体的に働きかける必要が出てくる。その手法などについて解説する。また、政治的環境の難しさによって、積極的に働きかけが出来ない場合に、代わりに何が出来るかについてもヒントを示している。
(4)メッセージを広める
◎どのようにメッセージを広め、世論を味方につけるかなどについて、ウェビナーやシンポジウムの開催や、メディアの活用なども含めて解説している。
(5)選挙での候補者や政党の公約や約束を記録する
◎各政党や候補者が、UHCや保健に関する公約を掲げ、選挙運動を行っている場合、これらを記録し、選挙後にこれらの政党や候補者に働きかける上での証拠にするといったことを解説している。
(6)選挙後のフォローアップを行う
◎選挙キャンペーンは、選挙が終わったら終わりではなく、実際に各候補者や政党が選挙中に公約したことなどについて、実施に移すように働きかける必要がある。その重要性について解説する。

ガイドブックをキャンペーン実施のきっかけに

実際には、各国の保健・福祉政策はそれぞれの国の固有性にかなり規定されており、また、近年は政治に関わる社会の分断が極めて深刻化している状況がある中で、こうしたガイドブックが提示する内容は一般論に終始しており、そのまま活用することはなかなか難しいことも事実である。しかし、こうしたガイドブックをUHC2030やCSEMが出すことにより、国際的にUHCに取り組んでいる市民社会団体が「とりあえず、やってみよう」と考え、とりくむきっかけになる場合もあると思われる。日本でも衆議院の解散と総選挙が2024年中に行われる可能性がある、そこでUHCに関連するキャンペーンを市民社会として展開できないか検討する意義はあると考えられる。