「パンデミック条約」の討議にも負のインパクトを与える可能性
オミクロン株の登場でパニックに陥る各国の在り方を批判
11月中旬に南部アフリカで存在が判明した変異株について、世界保健機関(WHO)は26日、これを「懸念すべき変異株」(VOC)に分類し、「オミクロン」と命名した。各国はデルタ株の記憶もあって一斉に南部アフリカ諸国への渡航制限を相次いで発表した。南アフリカ共和国の国際関係・協力省(外務省)は27日、声明を発表し、新たな変異株の登場にパニックとなる各国の姿勢を厳しく批判した。
11月29日~12月1日の3日間、スイス・ジュネーブで「パンデミック条約」について討議するWHOの臨時世界保健総会が開催されるが、普段から変異株に注目し、積極的に遺伝子解析を行って、WHOの「国際保健規則」に忠実に透明性をもって世界に通知した南アフリカ共和国が、各国の支援を得られるどころか、国際航空網を断絶される結果となったことは、この「パンデミック条約」に関する議論にも大きな悪影響を与える可能性がある。
南アの専門家も欧州諸国の態度に懸念
WHOの保健緊急プログラムの責任者であるマイケル・ライアン氏は変異株の出現に対する各国のパニック的な渡航制限の実施を「脊髄反射的反応」(Knee-jerk reaction)と呼び、各国に対して、安易に渡航制限を施行しないように警告した。南ア外務省の声明はこれを引用し、「今回の各国の渡航禁止措置は、先進的なゲノム配列解析を行い、新たな変異株をいち早く検出してきた南アフリカ共和国に処罰を与えるようなものだ」と批判している。また、今回のウイルスの遺伝子解析を行った南ア東部クワズールー・ナタール大学感染症対応・革新センター(CERI)のトゥリオ・デ=オリベイラ教授は「世界は南アとアフリカに支援を与えるべきで、差別したり孤立に追い込んではならない」と述べた上、「南アフリカ共和国は科学情報についてきわめて透明性を持って対応している。我々は自国と世界を守るために、大規模な差別に痛めつけられる可能性があるにもかかわらず、こうした通知を行っている」と述べた。
WHOが保健に関して持っている二つの法的拘束力を有する条約のうち一つが「国際保健規則」(IHR)である。同規則では、公衆衛生上の懸念ある事態を構成する恐れのある事態について、アセスメントした後24時間以内にWHOに通報することを義務付けている。WHOの臨時の世界保健総会で検討されるのは、パンデミックに関して、この国際保健規則で十分カバーされていない領域を含め、より包括的な条約を制定するかどうかということである。南アでのオミクロン株の検出に対して各国が「脊髄反射的反応」(WHO)に終始する傍らで、臨時の世界保健総会では「次のパンデミック」に関する、通知などを含めた備えの話を粛々と行う、ということでは、多くの国はこうした国際規則上の通報義務を履行しなくなるのではないか、とオリベイラ氏は懸念する。
南アフリカ共和国は、実際、COVID-19パンデミックが始まった時から、グローバルなCOVID-19対策についてリーダーシップを発揮してきている。2020年4月に発足した、ワクチン、診断、治療における開発と供給を一体で手掛ける「ACTアクセラレーター」について、南アは共同議長を務めている。また、インドとともに世界貿易機関(WTO)に提出した知的財産権保護免除提案は、実際の免除自体は勝ち取っていないものの、各地域における生産能力の拡大に関する具体的なプログラムが徐々に広がってきている。一方、南部アフリカへの渡航制限を行った欧州の先進国は、ワクチンを独占し、南アを含む途上国との間に「ワクチン・アパルトヘイト」ともいうべき格差を生み出した。もしこのギャップがなく、途上国にも公平に医薬品が供給されていれば、「オミクロン株」やデルタ株のような変異は生じなかった可能性がある。
ボツワナでも保健省が声明発表:感染は外国からのミッション
一方、11月11日、オミクロン株が最初に検出された南部アフリカのボツワナの保健省も、ボツワナにおける同株の展開について声明を出している。同声明では、もともとオミクロン株が最初に検出されたのは、ボツワナ国民ではなく、他国からの外交ミッションで訪問した4名の外交官であること、その後、濃厚接触者の追跡を行ったが、同株に感染した人はいなかった、と述べている。