デルタ株拡大に対応するため、不足額166億ドルのうち77億ドルの緊急拠出を求める
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関するワクチン、診断、治療、保健システムの研究開発から供給までを一手に担う多国間協力の枠組み、ACTアクセラレーター(COVID-19関連製品アクセス促進枠組み)が8月16日、COVID-19の原因となるSARS-COV-2(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2型)の変異株の一つである「デルタ株」の世界的な拡大に際して、77億ドルの緊急拠出を求める緊急アピールを発出した。
3月以降のインドでの感染拡大の原因となったデルタ株は、これまでの株や他の変異株よりも感染力が強いことなどから世界的に拡大し、現在までに135カ国で存在が確認され、多くの地域で、もともとの株や他の変異株に置き換わってCOVID-19流行の中心となっている。デルタ株の流行により、これまで他地域に比べて被害が小さかった東南アジア大陸部やサハラ以南アフリカにおいてもCOVID-19が拡大している。一方、低所得国、中所得国は、規模の大きな上位中所得国を含め、ワクチン、予防、診断、治療のいずれにおいてもニーズと供給のギャップが深刻な状況となっている。
ACTアクセラレーターは、これらの必要物資の開発と供給に多国間で責任を負っているが、昨年4月の設立以降一貫して、援助国からの資金拠出を確保できず、慢性的な資金不足が続いてきた。現在も2021年中の資金が166億ドル不足する状況となっている。今回の77億ドルの緊急アピールは、新たな資金の要求ではなく、この不足分のうち、77億ドルを緊急に拠出することを援助国側に求めるものである。77億ドルの内訳は概ね以下の通りとなっている。
77億ドルを何に使うのか
◎検査(24億ドル):低所得国・中所得国の検査を現在の10倍に拡大し、どの国においても最低限必要な検査ができるようにする。(担当機関:FIND(革新的新規診断技術基金)、ユニットエイド、ユニセフ、グローバルファンド、WHO)
◎酸素(12億ドル):中等症~重症の患者を治療するために緊急に必要な酸素を確保する。(担当機関:ユニットエイド、グローバルファンド、ユニセフ)
◎個人防護具(PPE)(17億ドル):200万人の保健ワーカーに基本的な個人防護具を提供する。(担当機関:グローバルファンド、ユニセフ)
◎研究開発(10億ドル):治療・診断・予防のための医薬品やワクチン等の製品について、デルタ株に適切な効果を持たせるようにする。(担当機関:FIND、CEPI(感染症流行対策イノベーション連合:ワクチン開発のための国際機関)、ユニットエイド、ユニセフ、WHO)
◎各国への技術協力等(14億ドル):治療・診断、予防のための医薬品やワクチン等の製品の展開について、危機的状況や脆弱な状況のある国々を含め、国レベルで適切に実施するための技術協力や実施支援。(担当機関:FIND、ユニットエイド、ユニセフ、グローバルファンド、WHO)
ACTアクセラレーターの成果
一方、ACTアクセラレーターは、この声明に先立って、本年の第2四半期(4月~6月)における活動報告書を発表、同枠組みが予算額に比して乏しい資金の中でどのような取り組みを行ったかについて報告している。実際のところ、世界的に注目されている「ワクチン・ギャップ」のみならず、検査、治療いずれも先進国と低所得国の間には大きなギャップが存在するが、これについて、ACTアクセラレーターも確保した資金を活用して取り組みを行っている。主要な成果として挙げられているのは以下の通り。
◎診断部門:8400回分以上の迅速診断キットの配布、迅速診断キットの価格低下の実現(5ドル→2.5ドル)、診断関連製品の製造技術の移転と域内製造の促進、70カ国以上でのラボのインフラ支援等
◎治療部門:デキサメタゾン300万処方など治療薬関係に3700万ドル、3.16億ドル分の医療用酸素を供給。医療用酸素のニーズはCOVID-19発生前の12倍に上る。これについて、医療用酸素大手と契約し、低所得国・中所得国に供給。2021年7月以降については、9700万ドル分の酸素(270万アイテム)を供給。第2四半期において、グローバルファンドのCOVID-19対応メカニズムを通じ、2.19億ドルを費やして各国の酸素供給に活用。
◎ワクチン部門:COVAX事前買取枠組み(AMC)対象国84カ国への1億3750万回分のワクチン供給を含め、138カ国に1億8620万回分のワクチン供給。研究開発については、11のワクチン候補を同定して支援。
◎保健システム部門:4月末までに5億ドルを費やして各国の保健従事者の個人防護具(PPE)を供給、同時に価格低下を実現。140カ国でワクチン供給の実施に関する調査を実施。
現状の在り方のレビューも実施
COVID-19の収束が見えず、先進国と途上国のワクチン、診断、治療、保健システムのギャップも継続している中、ACTアクセラレーターは、2021年第3四半期において現状の達成状況と役割、課題などについてレビューを行い、2022年第1四半期以降に向けて現在の在り方を変えて行くことが目指されている。このレビューについては、グローバルなコンサルティング企業の一つであるダルバーグ・アドバイザーズ社がACTアクセラレーターの各機関および運営評議会の支援を得て行うこととなっている。このレビュープロセスについて、ACTアクセラレーターに関するアドボカシーを行うNGOネットワークである「パンデミック行動ネットワーク」(PAN)およびこれに関わる市民社会団体が提言書を提出するなど、ACTアクセラレーターをめぐる動きも活発になってきている。