米国政府、コロナ関連重要技術を「医薬品特許プール」と共有化

=第2回世界COVID-19サミットでの発表はパンデミック関連医薬品の「国際公共財」化に道を開くか=

世界COVID-19サミットでのバイデン大統領演説の該当部分

2020年10月以降、世界貿易機関(WTO)で審議されている、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関連する知的財産権の一部・一時免除提案は、一部諸国の反対により膠着状態が続いている。一方、COVID-19ワクチン・医薬品などの途上国への技術移転や製造能力強化については、遅まきながら、部分的に進展がみられつつある。

2022年5月12日に米国のバイデン政権が開催した「第2回世界COVID-19サミット」で、COVID-19に関わる新規技術の途上国への技術移転につながる大きな発表があった。バイデン米国大統領は、同サミットでの演説の中で次のように述べた。「本日私は、米国が世界保健機関(WHO)のCOVID-19技術アクセス・プール(C-TAP)を通じて、枢要なCOVID-19関連技術を共有することを発表する。私たちは、多くのCOVID-19ワクチンで活用されている『安定化されたスパイク・タンパク質』(Stabilized spike protein)を含む、米国政府が所有する保健技術を活用可能にする」。

同日、医薬品特許プール(MPP)とWHOのCOVID-19技術アクセス・プール(C-TAP)は、米国の国立衛生研究所(NIH)との間でなされていた、COVID-19の革新的な治療、ワクチン、診断技術に関わる11種類の技術に関するライセンス契約交渉において合意に達したとの声明を発表した。二つのライセンス契約によって提供された11種類のCOVID-19関連技術の中には、バイデン大統領が演説で述べたように、現存する多くのCOVID-19ワクチンで活用されている「安定化されたスパイク・たんぱく質」技術などが含まれている。WHOのテドロス事務局長は「これは連帯と共有の具体例となる」、MPPのチャールズ・ゴア事務局長も「命を救う医薬品を世界で最も厳しい状況にある人々に届けるという目標のためのライセンス契約だ」と、それぞれ歓迎の意を表した。

WTOの知財権一時・一部免除や途上国への技術移転に向けた政策提言に力を注いできた多くの市民社会も、米国のこのイニシアティブを歓迎している。米国でこの運動の中心的な存在の一つとなってきた「パブリック・シチズン」は5月12日、声明を発表し、「米国は、WHOに技術を共有することで、遅まきながら、より良い未来への一歩を踏み出した」と評価した。同団体の医薬品アクセス・ディレクターのピーター・メイバーデュク氏(Peter Maybarduk)は「この発表は、出来上がったワクチンを供与するのみならず、知識を共有するというもので、それこそが『慈善』と『正義』の違いである」と、この決定を高く評価しつつ、「これがもたらす実際の利益はまだ不確定だ」とし、さらに高いレベルの共有化や資金拠出を求めた。

また、COVID-19関連の知的財産権免除のキャンペーンを展開するグローバルなネットワークである「ピープルズ・ワクチン連合」(People’s Vaccine Alliance: PVA)の中核をなす国際NGO、オックスファムは、ロビー・シルヴァーマン・オックスファム米国民間セクター・アドボカシー担当上級マネジャー(Robbie Silverman, Senior Manager, Private Sector Advocacy, Oxfam America)名で、「今回の発表は、全ての人が必要とする必須技術の共有に向けた大胆な行動といえる」としつつ、本丸のWTOにおける知的財産権免除は「今なお緊急に必要である」とし、米国にWTOにおいても大胆な指導力の発揮を求める、とする声明を発表している。