=1985年以来の「知的財産権至上」政策の大転換が意味しているのは、コロナ危機の真の意味での深刻さ=
5月5日、米国バイデン政権のキャサリン・タイ通商代表は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン等に関して、知的財産権の免除を支持する声明を発表しました。この決定は、欧米の巨大製薬企業が握ってきたワクチン等の新規予防・医療技術の独占権を緩和することで、製法・ノウハウ等の共有を促進し、ワクチン等の製造能力を持つ世界各地の企業がワクチン等を増産できるようにし、世界の公衆衛生上のニーズを満たす形でワクチン等を供給して、コロナを克服することを目的としています。
米国はこれまで、日本を含む他の先進国とともに、世界貿易機関(WTO)でインド・南アフリカなど世界100ヶ国以上が求めていた「新型コロナ関係の知的財産権の免除」に反対してきましたが、米国が賛成に転じたことにより、WTOの議論が飛躍的に進むことが期待されます。タイ通商代表は声明で「知財権免除に関するテキストベースの交渉を進める」と明言しています。
米国は1985年のレーガン政権下で出した「ヤング報告」以来、民主党・共和党政権を問わず、知的財産権保護の飛躍的な強化と世界化に邁進してきました。今回のタイ通商代表の声明は、36年の長きにわたるこの政策からの決別を示すものです。実際、バイデン政権が政策転換を打ち出すかもしれないということは、過去数か月にわたってささやかれ、製薬企業を含む産業界がこぞって、政策転換に反対するとの強力な圧力をかけてきました。それを経験した上での今回の発表は、バイデン政権が不退転の決意でこの転換に臨む、という強い意思の表れです。
バイデン政権の意図は、タイ通商代表の声明で既に明白になっています。声明では、バイデン政権は知的財産権の重要性に信を置きつつも、コロナ危機がもたらしている未曽有の極端な状況に対して、とにかく多くの人々の命を守るワクチン等の予防・医療技術を届けなければならないという使命に基づいて、この決定を行う、としています。即ち、これが意味するところは、世界を覆うコロナ危機の圧倒的な深刻さであり、今までの仕組みに頼っていては、これを克服できない、という、極めて過酷な事態です。実際に、世界はコロナ危機が「最後のパンデミックではない」という現実に直面し、今後の「連鎖する危機の時代」に対して、多国間での「パンデミック条約」を含む新たな協力・連携体制の構築に向かっています。
私たちは、今回のバイデン政権の決定にあたり、目先の企業利益の動向や欧米の巨大製薬企業の株価の変動だけに目を奪われるのではなく、まずもって、私たちが、これまでの仕組みでは乗り越えられない危機の深淵に立っているのだ、という事実を自覚する必要があります。そのうえで、これからの「地球の限界」の危機の時代に際して、バイデン政権が知的財産権を核とする「独占と競争のパラダイム」から、連鎖する危機を団結して乗り越えるための「共有と協力のパラダイム」への転換の道を歩み始めたことについて、その意義を自覚する必要があります。
コロナ危機に際して、WTOにおいて「知財権の一時免除」を正面から主張し、世界の大多数の国々を味方につけたのは、南アフリカ共和国をはじめとするアフリカ諸国でした。私たちは、その先見性に目を見張るとともに、米国がグローバルな「共有と協力のパラダイム」への世界の歩みに合流したことを歓迎し、これまで米国とともに知財権免除に反対してきた日本政府も、この流れに合流することを強く求めるものです。
<参考記事>
キャサリン・タイ米国通商代表のCOVID-19知財権免除に関する声明
(米国通商代表部)
<参考:上記資料の日本語訳>
キャサリン・タイ米国通商代表のCOVID-19知財権免除に関する声明
ワシントン発-米国のキャサリン・タイ通商代表は本日(5月5日)、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンの知的財産権保護の免除を米国バイデンおよびハリス政権が支持するとの声明を発表しました。
「これは世界的な保健上の危機であり、COVID-19の地球規模感染症がもたらしている未曽有の状況は、空前の措置による取り組みを必要とする。米国政府は、知的財産権の保護に強く信を置くものであるが、この地球規模感染症の終息のために、COVID-19ワクチンに対する知的財産権の保護を免除することを支持することとした。我々は、その実現のために必要な、世界貿易機関(WTO)でのテキストベースの交渉に積極的に参加する。WTOのコンセンサスに基づく性質と問題の複雑さを考慮すると、この交渉には時間がかかるものと考えられる。」
「米国政府の目的は、安全で効果的なワクチンをできるだけ早く多くの人々に届けることである。 米国民へのワクチン供給が確保された段階で、わが国政府は民間企業や可能な限りのパートナーと協力して、ワクチンの製造と流通を拡大するための努力を続ける。 また、ワクチンの製造に必要な原材料の増産にも取り組む」
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キャサリン・タイ通商代表・大使のツイートから
このような未曽有の時代と状況が、空前の措置を呼び起こした。
米国は、パンデミックを終わらせるためにCOVID-19ワクチンの知的財産権保護を免除することを支持し、その実現のために@WTO交渉に積極的に参加していく。