• info@ajf.gr.jp
  • 〒110-0015 東京都台東区東上野1-20-6丸幸ビル3F

インドのワクチン輸出停止で途上国のワクチン供給はどうなる?

COVAXは「インド依存」の限界を突破できるか?

インドを襲う「巨大感染拡大」の世界へのインパクト

世界最大のワクチン製造・輸出能力と巨大なジェネリック薬産業を有し、「貧者の薬局」とも言われてきたインドが、3月末以降、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の変異株による巨大な感染拡大に見舞われ、巨大な規模の医療崩壊が生じている。5月1日には、一日の感染者数が40万人を超え、死者数も3600人に迫った。インド政府は感染が急拡大し始めた3月下旬の段階で、インドで製造されたワクチンの輸出を停止し、さらに、ワクチンの緊急輸入に踏み切った。インドは5月4日現在までに1.58億回のワクチン接種が行われているが、これでカバーされたのは人口の5.8%に過ぎない。ブルームバーグの「COVID-19ワクチン・トラッカー」によると、一日の接種回数は196.9万回(5月4日)であり、このペースが続くと、人口の75%がカバーされるのに2.6年かかる計算となる。

インドが巨大な感染拡大の影響で、少なくとも一時的に、ワクチンの輸出国から「輸入国」に転じたことにより、世界はCOVID-19ワクチンの供給に大きな不安を抱えることとなった。英国はCOVID-19ワクチン接種の先頭に立っているが、その一定割合はインド最大のワクチン製造業者であるセーラム・インスティチュート・オブ・インディア(SII)が製造したワクチンである。インドによる輸出禁止措置は英国のみならず、カナダやサウジアラビアなど、インドからワクチンを輸入していた富裕国にも影響を及ぼしている。より深刻なのは、ワクチンの衡平な供給を図る国際協調のメカニズムであるCOVAX(ACTアクセラレーターのワクチン・パートナーシップ)への影響である。

ワクチン供給のほとんどをインドに依存するCOVAX

COVAXの地球規模供給予測(4月7日発表)

4月7日に発表されたCOVAXの地球規模供給予測(Global Supply Forcast)では、COVAXは2021年中に、途上国にワクチンを無償で供給する「COVAX事前買取誓約」(COVAX-AMC)により、92の国と地域に対して合計最大17億回分のワクチンを供給でき、これは対象国の人口の最大26%をカバーしうると試算している。このうち、法的拘束力のある形で確保されているのが合計13.1億回分であるが、このうちの実に11億回分が上記SII社製のワクチンで、この半分(5.5億回分)がアストラゼネカのライセンス生産分、残りの半分がまだ実用段階に達していないノヴァヴァックス社のライセンス生産分となっている。ファイザー/ビオンテック社のmRNAワクチンはわずかに4000万回分にすぎず、COVAXのうち開発部分を担当するCEPI(感染症対策イノベーション連合)から相当額の資金を得て開発されたモデルナ社のmRNAワクチンはCOVAXでは扱われていない。COVAXはWHOの「緊急使用リスト」に掲載されたワクチンを供給できるが、現時点ではノヴァヴァックス社のワクチンは未掲載のため、現在、調達の対象となるワクチンは合計7.6億回、この72%をSII社製のアストラゼネカのワクチンが占めていることになる。

第4波に見舞われたインドが3月にとったワクチン禁輸措置によって、インドからのワクチン供給は停滞している。インドは1月末から3月にかけて6400万回分のワクチンを輸出したが、4月については、わずか120万回分にとどまっている。COVAXを含む国際協調の枠組みであるACTアクセラレーターを統括する世界保健機関(WHO)は、インドの現状にもかかわらず、COVAXが「本年上半期分に予定されていた供給を実現できるだろう」と述べている。また、COVAXの中でワクチンの調達を調整しているGAVIは、「SII社とCOVAXの契約には法的拘束力がある」とし、インドによるワクチン輸出再開に期待を寄せている。一方、インドのCOVID-19第4波は、5月に入って若干減少傾向を見せてきたものの、その傾向が定着するかは予断を許さない。また、今後もし小康状態を実現したとしても、国内のワクチン接種を優先する政策は継続せざるを得ないだろう。

ACTアクセラレーター、COVAXを束縛する旧来の開発援助モデル

先進諸国は、世界貿易機関(WTO)に途上国側が上程している「COVID-19関連製品への知的財産権一時免除」の提案に反対する中で、自国のCOVAXへの貢献の大きさと、国際協調の成功例としてのCOVAXを再三にわたって強調している。しかし、現状から浮かび上がってくるのは、COVAXがそのワクチン調達の過半を、巨大な経済と技術力を有するとはいえ、下位中所得国で国内に圧倒的な貧困層をかかえ、さらにCOVID-19の急拡大による巨大な医療崩壊に直面しているインドに依存しているという現実である。

さらにいえば、COVAXとWHOは残念ながら、二国間交渉によって多くの途上国に供給されている中国とロシアのワクチンを自らの枠組みに組み込むことに成功していない。その結果として、COVAXは欧米の伝統ドナー国の資金拠出により、欧米の伝統ドナー国に拠点を置くメガ・ファーマが知的財産権を保有するワクチンを途上国に作らせたうえで途上国に供給するという、旧来の伝統ドナー主導の開発や人道支援モデルから脱却できていないのである。インドの今回のCOVID-19危機とワクチンの輸出禁止措置は、このモデルの持続可能性に赤信号を灯している。「万人が安全でなければ、だれも安全でない」というスローガンに基づいてCOVID-19に取り組むためには、旧来の先進国主導の開発援助モデルを超えた新たなモデルが模索される必要がある。

<参考記事>

COVAX says India’s Serum Institute bound to supply virus vaccines (April 4, 2021, Reuters)

Analysis: India shifts from mass vaccine exporter to importer, worrying the world (April 16, 20201, Reuters)

COVAX expects to deliver COVID-19 vaccine doses to all nations despite increased demand in India: WHO (April 9, 2021, Business Today)

Coronavirus: India temporarily halts Oxford-AstraZeneca vaccine exports (March 24, 2021, BBC News)

COVAX Global Supply Forecast