2024年 4月号(アフリカニュース発掘部)

アフリカニュース発掘部2024年4月号です。
参考:アフリカニュース発掘部とは?

■目次

1 ルワンダのジェノサイドから30年:消されてきた女性たちの記憶(ルワンダ 歴史 政治 ジェノサイド)
2 世界初:ナイジェリアで5種混合髄膜炎ワクチン(ナイジェリア 感染症 ワクチン)
3 南アの電力危機とソーラー発電(南アフリカ 社会 経済 エネルギー)
4 カカオ豆供給の減少が及ぼす影響(コートジボワール ガーナ 食料)
5 ウガンダの油田開発(ウガンダ エネルギー)
6 2024セネガル大統領選挙(2):選挙後の状況(セネガル 選挙)

1.ルワンダのジェノサイドから30年:消されてきた女性たちの記憶

ルワンダ 歴史 政治 ジェノサイド

● 概説 1994年4月6日、ルワンダでジェノサイドが発生した。多くの男性が殺され、国を追われ、投獄されたことは、それまで男性中心社会であったルワンダのジェンダー・ダイナミクスを変化させた。 もちろん女性も暴力の被害者となった。約3か月の間に、25万人が殺され、50万人がレイプの被害にあったとされている。 ジェノサイド後、ルワンダは女性の政治参加が最も進んでいる国の一つとなり、国会議員のうち61.3%が女性を占めている。 同様に、他分野でも男女平等が進められてきた。 男女平等が推し進められる一方で、依然として女性の就職率や就学率は男性と比べて低く、また家庭内暴力の被害も多い。
著者は175人の「救助者(rescuers: ジェノサイド発生時にジェノサイドの対象とされた人びとを保護した人びと)」への聞き取り調査を分析し、女性たちの語りが、ジェノサイドの集合的記憶から疎外されてきたことを明らかにした。 ルワンダのジェノサイドをめぐっては、「歴史的に対立してきたツチとフツという二つの民族集団の争いの結果としてのツチに対する大量虐殺」という枠組みで語られがちである。しかし、この枠組みによって、ツチとフツの民族間の対立は植民地政府により恣意的に作られたものであること、トワの人びとも同じく虐殺の対象とされたこと、暴力の行使を拒否し、ツチ、トワを保護し、そのために殺されたフツも多くいたこと、という記憶が消されてしまう。 ルワンダ政府は、ジェノサイドの公式見解を「フツによるツチに対しての大量虐殺」としているが、ツチのみを被害者とするとすることで、被害者優位の階層構造を維持していると言える。 このような語りの偏りは、「救助者」による語りにもみられる。公式のジェノサイド記念式典においてジェノサイドの経験を語ってきたのは、ほとんどが男性の「救助者」であり、女性の「救助者」が経験を語る場を与えられてこなかった。つまり、ジェノサイドをめぐる集合的記憶から、女性たちの経験は省略されてきたのである。 彼女たちの「救助者」としての行為は無視されてきた一方で、虐殺に関わった女性たちは「monster」として断罪されてきた。このことは、加害者女性たちの虐殺後の社会への参加を男性のそれより一層困難にさせ、なぜ彼女たちが虐殺をすることとなったのかという議論さえできなくさせている。また、被害者女性の「レイプの被害者」や「夫を亡くした被害者」という側面のみが注目されてきたことは、彼女たちの他の経験を無視してしまう。 女性たちの語りに耳を傾け、彼女たちが経験してきた巨大な暴力に関して繊細に議論をしていくことは、ルワンダのジェノサイドにおいて集合的な記憶が誰によってどのように作られているのかを理解し、そこに存在するジェンダー間の格差を浮き彫りにするために重要である。
 
 
● 感想 言葉では表しきれない巨大な暴力があったという事実が、集合的記憶を構築する人びとが男性に偏ってきたことや、それが政治的に使われていることを見えにくくしてきたのだろう。 ルワンダは男女平等に関して先進的なイメージしかなく、その裏で、いまだに女性たちの就業率や進学率が男性のそれと比べて低いことは知らなかった。これも、女性議員の比率が高い、という事実が先行して、「ルワンダ=男女平等」と思い込んでしまい、実際の数字が見えにくくなっていた、見たつもりになっていたのかとはっとした(インターン:青木)。
 
● もっと知りたい!  「レイプで生まれた子ども:ルワンダジェノサイドにおける性的暴力」(The Conversation) Denov, Myriam 2024. “Children born of rape: devastating legacy of sexual violence in post-genocide Rwanda.” The Conversation. 3 April. 

2. 世界初:ナイジェリアで5種混合髄膜炎ワクチン

ナイジェリア 感染症 ワクチン 髄膜炎

● 概説 2024年4月、髄膜炎菌の主要な5つの株(A、C、W、X、Y)に有効な髄膜炎ワクチン「Men5CV」が、世界で初めて、ナイジェリアで導入された。ナイジェリアでは髄膜炎菌性髄膜炎が流行しており、2022年10月1日から2023年4月16日までに1,686人の感染者が報告され、124人が死亡、致死率は7%であった。 その多くは1歳から15歳までの子どもであった。特に感染者の多いナイジェリアの北部では、ワクチン忌避、栄養不足、高温、乾燥といった、流行の好条件がそろっている。同地では1996年、史上最大規模として言われる流行が起こり、12万人以上が罹患し、1万2000人以上が死亡した。これをうけて2000年に入り、ビル&メリンダ・ゲイツ財団の支援のもと、WHOとPATHが共同開発した、特にアフリカの子ども向けの低価格な髄膜炎菌性髄膜炎(血清型A)のワクチン「MenAfriVac」が開発・製造された。同ワクチンはアフリカ髄膜炎ベルトのもとにある2億6000万人に供与された。これにより血清型Aは事実上根絶されたが、血清型C、W、X、Yが出現した。今回のワクチンは、主要な血清型であるA、C、W、X、Yのすべての混合ワクチンである。

● 補足(玉井) 
(1)髄膜炎とは?
髄膜に細菌、ウイルス、寄生虫等が感染して炎症を起こす病気。細菌性が特に懸念され、死亡または重篤な合併症を起こす。原因菌は肺炎球菌、髄膜炎菌、インフルエンザ菌など。症状は発熱、頭痛、項部硬直など。全ての年齢で感染の危険があるが、幼児のリスクが高く、感染と死亡の約半数は5歳未満の子ども。2017年推定で新規感染500万件、死者29万人。今回のワクチンは髄膜炎菌が引き起こす髄膜炎(髄膜炎菌性髄膜炎/Meningococcal infection)のためのワクチン。
(2)髄膜炎菌性髄膜炎とは?
「アフリカ髄膜炎ベルト」として知られる地域で広く発生。髄膜炎菌は他の多くの細菌と同様に患者の咳やくしゃみなどの飛沫により人から人へ感染。治療は他の多くの細菌性髄膜炎と同様で主に抗生物質による。
(3)国際社会の取り組みは?
2020年11月のWHO総会で採択された2030年までのロードマップ(開始は2019年)がある。それによれば、ワクチンで予防可能な細菌性髄膜炎症例数50%減少と死亡数70パーセント減少、髄膜炎後の障害の減少と生活の質向上を主な目標としている。
(4)ワクチン「Men5CV」は誰が開発・製造?
商品名はMenFive®、開発はイギリス政府等の支援のもと、COVID-19ワクチンでも話題となったインド血清研究所(Serum Institute of India)とPATHが共同で13年間に渡り行ったもの。アフリカ髄膜炎ベルトでの展開が本格化するのは2025年以降でGavi(低所得国のワクチン支援を行う国際機関)が行う予定。

● 詳細記事 
Mohammed, Idris 2024. “Nigeria is pioneering a new vaccine to fight meningitis – why this matters,”The Conversation, 25 April. 

● 感想 ワクチンの詳細情報がもっとほしいので楽観視できないが、それでも久しぶりの明るいニュースと言ってよいのでは。A株対応のMenAfriVacはかなりの成果を上げており(経験談のある方のお話をいつか伺いたい…)、今回も同様の成果を期待したい。人口が多いことも関係するが、ナイジェリアの髄膜炎菌性髄膜炎の被害は毎年ひどく、いつもニュースを見ていて辛かった。国際社会のレベルで確実にワクチンが供与されるよう、しっかり監視していかねばならない。同時に、現場でワクチン接種に奮闘する人々、また子どもたち自身や子どもを世話する人々が主役となる仕組みを考えていかなければならない(玉井)。

● もっと知りたい!
(1)補足3で言及したWHOによる髄膜炎対応に関するロードマップ(WHO. 2020. Defeating meningitis by 2030: a global road map.
(2)本件に関するWHOの発表(2024年4月12日)(WHO. 2024. In world first, Nigeria introduces new 5-in-1 vaccine against meningitis, 12 April.

3. 南アの電力危機とソーラー発電

南アフリカ 社会 経済 エネルギー

● 概説
南アフリカで電力危機が深刻である。連続的な停電は、最長で1日12時間にも及び多くの人々が自宅の屋根にプライベートのソーラーパネルを設置する「ソーラーブーム」が起こっている。 南アフリカでは未だ電力供給量の80%を火力に依存しているが、火力発電所の老朽化により、電力供給がままなっていない状態が続いている。政府は、再生可能エネルギーの発電所の建設ではなく、国民によるプライベートソーラーパネルの導入を推進しており、今後、国の停電状況は更に悪化するだろうと予想されている。 一方で、このソーラーブームによって、「エネルギーアパルトヘイト」と形容できるような電力供給の格差が浮き彫りとなっている。 南アフリカの各自治体の主な収入源の1つが各世帯から徴収する電気代である。ソーラーブームの推進によって、裕福層がプライベートソーラーを利用するために、電気代による収益が減少し、その結果、貧困層への電力の供給が更に悪化してしまう。実際、ケープタウン東部の自治体では電力収益が約1800万米ドル減少している。また、電気代も過去10年で300%値上げしており、電力アクセスの格差は広がるばかりである。その結果、違法にケーブルを繋いで電力を盗む事例も多発している。 政府による再生可能エネルギーの開発は急務である。

● 詳細記事 
Bourdin, Julie 2024. “South Africa’s energy crisis is driving a ‘solar boom’, but there’s a downside,” African Arguments. 28 March. 

● 感想
「アパルトヘイト」という強い言葉を使っているのには驚いたが、実情はそのように形容せざるを得ないほど深刻なのだろう。炭坑や火力発電所で働く人びとの労働力が安く使われる一方で、彼らが電力を使用できていない現状は大変皮肉で衝撃だった。停電による影響は幅広く、水の供給や医療などどれも深刻になりうる。
また、違法にケーブルをつなぐことで、例えば発火するなどしてしまうと大変危険である。ヨハネスブルグでの大火災も記憶に新しい。大きな事故が起こる前に、まずは電力の供給を安定させ、電気代を下げることを政府として進めていくべきと思う(インターン:青木)。

● もっと知りたい!
(1) 新田菜穂子2023「電力不足が深刻化、計画停電は今後も続く見通し」日本貿易振興機構ビジネス短信(1月30日)
(2)「南アフリカのエネルギー政策が成功しない理由」(Winkler, Hartmut. 2024. “South Africa’s new plan to end power cuts is seriously flawed. Here’s why.” The conversation. 9 January.  

4. カカオ豆供給の減少が及ぼす影響

コートジボワール ガーナ 食料

● 概説 世界のカカオ豆生産の60%を占めるコートジボワールとガーナにおいて、カカオの生産量が大幅に減少している。背景の一つとなるのがエルニーニョ現象で、これにより同地域の気候が変化し(特に乾燥)、カカオ膨梢ウイルスを含め、農場に大きなダメージを引き起こしている。またカカオの木の老化と代替農場の不在という影響もある。歴史的にカカオ農家は木が古くなった場合、別の森林で農場を探すのだが、これが見つからなくなってきた。さらに一部の農家は違法採掘業者に金銭と引き換えに土地の採掘を許し、その結果カカオ栽培ができない土地が増加している。こうした要因によりカカオ生産量は減少しているのだが、グローバル市場におけるチョコレート需要は年々増加している。他方、農家の人々の生活は苦しい。価格は上昇しているものの、生産量の減少により収入は減っている上、近年のインフレと通貨下落により、農家の貧困が深刻である。さらに、現地のカカオ加工施設がカカオ豆を購入する力がなく工場の閉鎖が起こっている。これは結果的にグローバル市場におけるチョコレート価格の高騰をもたらす。他方で、カカオ豆を生産している西アフリカ諸国の交渉力は上昇しているように見受けられ、これらの国々が協力してカカオ農家にとってより有利な条件を交渉する良いタイミングであると考えられる。
このようにカカオ生産が「持続不可能」な様相を呈するなか、代替品に注目が集まっている。それを先導するドイツのPlanet A Foods社は、オーツ麦やひまわりの種の成分を変化させてカカオマスやバターの代替として用いる技術を利用し、カカオフリーのチョコレートを製造している。著者は、「全体として」見た場合、つまりチョコレートの高い需要にこたえるためのカカオ生産が大規模な森林伐採や炭素排出をもたらすることで気候を悪化させていること、また大規模生産が労働虐待を起こしてきたことなどを考慮すると、このようなカカオ代替製品が解決策の一つになり得ると考えている。

● 詳細記事 Odijie, Michael E. 2024. “Cocoa beans are in short supply: what this means for farmers, businesses and chocolate lovers,”The Conversation. 19 March.

● 感想 年々小さくなっていっているように感じる、身の回りで手に入るチョコレートに深くかかわる問題のようなので興味をもって紹介してみたが、どうやらこれからは小さくなるだけでなく値段も上がるのではないかと思った。文中最後の部分のカカオ代替製品は全く近未来的で面白いが、カカオの栽培で外貨を獲得している国やチョコレートを製造していたり売っていたりする会社を根底からひっくり返す製品となりそうなので、どのように世間に受け入れられていくかが楽しみなところである(インターン:奥平)。

● もっと知りたい! 
(1)「気候変動に伴う作物への影響とそれによるイースターエッグの価格高騰」(Rowlatt, Justin 2024. “Easter eggs costs rise as climate change hits crops,” BBC 21 March.)
(2) 「カカオ豆の不作の深刻化に伴うチョコレート価格の高騰」(Aljazeera 2024 “Chocolate prices to keep rising as West Africa’s cocoa crisis deepens,” Aljazeera 30 March.)

5. ウガンダの油田開発

ウガンダ エネルギー

● 概説 
2006年、
ウガンダ北部で原油60億バレルの埋蔵が確認された。 このうち経済的に採掘可能なのは14億バレル、ピーク時の生産量は20万~25万バレル/日と予測され、採掘は25年可能と推定されている。 石油採掘コストは設備投資と操業費で約190億米ドル、また生産前はインフラ、操業施設、生産井の開発のために約125億~150億米ドルの費用がかかる。石油生産による年間収入は15億~20億ドルと予想されている。
・石油資源開発計画:2012年に外国企業2社を含む石油資源開発に関する計画が合意に至った。トタル・エナジーズ(Total Energies)社が56.67%、中国海洋石油集団(CNOOC)が28.33%、ウガンダ政府が国営石油会社を通じて残りの15%を所有する。生産開始は2025年を予定しており、生産ライセンスは最初の石油採掘から25年間有効となる。
・インフラ整備:外国企業は探鉱、油田、原油パイプラインの開発、石油生産のコストを負担する。政府は、道路、ホイマ国際空港などその他のインフラを供給する。また外国企業は、油田純収益の60%までをコストとして請求することが認められている。ロイヤリティとコスト回収後の残りは、外国企業と政府の間で共有される。外国企業は、日々の生産量に応じたロイヤリティのほか、法人税や所得税を政府に支払う。
・パイプライン建設:原油はタンザニアのタンガ港までパイプラインで運ばれる。2022年2月、トタル・エナジーズとCNOOCは、油田開発とパイプライン建設に関する決定書に署名している。パイプラインの総工費は推定35億~50億ドルで、2025年の石油生産開始に間に合わせるように完成させる予定である。このパイプライン建設計画(East African Crude Oil Pipeline (EACOP) Ltd.)への出資比率は、ウガンダ国営石油会社(15%)、タンザニア石油開発公社(15%)、トタル・エナジーズ(62%)、CNOOC(8%)となっている。
以上を踏まえつつ、本記事の著者は(詳細は博士論文で議論しているとのことだが)同開発を基本的には支持する立場から、政府は生産分与契約(PS契約)、開発の完了、輸出のタイミングに関わる3つの問題を抱えていること、また石油価格の不確実性、最適投資戦略、石油価格ショックのコスト伝達という3つの不確実性に対処する必要があると主張する。

● 詳細記事 
  Micar Lucy Abigaba, 2023, “Uganda will soon be exporting oil: an energy economist outlines 3 keys to success,” The Conversation, 10 December.

● 補足(玉井)
2023年12月の記事です。ウガンダの石油開発計画及びそのパイプライン建設計画についてはAJFにおいても度々議論がありましたが、依然として開発は前向きに進んでいるようです。政治経済的な問題に加えて、環境破壊(水質汚染、生態系の破壊等)への懸念、パイプライン建設に伴う住民への影響(強制収用や土地収奪、土壌汚染等)等々について多くの問題が指摘されています。「発掘部」の方で見つけた記事で取り急ぎのご紹介ですが、今後の動きも注視し報告してきます。

6. 2024セネガル大統領選挙(2):選挙後の状況

セネガル 選挙

3月末に行われたセネガル大統領選挙について、発掘部3〜4月号に分けてお送りします。記事作成はAJF会員の村田はるせさんがしてくださいました。ありがとうございます!3月号はこちらからご覧いただけます。4月号では、選挙後の状況について、jeune afriqueをもとにお伝えします。なお選挙は、野党PASTEF候補のバシル・ジョマイ・ファイ氏が、243万4,751票(得票率54.28%)を獲得し勝利しました。

■ 3月25日:アマドゥ・バがバシルー・ジョマイ・ファイに敗北したと認める
2024年3月25日、セネガル大統領選で連立与党ベノ・ボク・ヤカール(Benno Bokk Yakaar)から立候補していた前首相アマドゥ・バは、投票翌日の25日、「セネガル仕事・倫理・友愛のためのアフリカ愛国者(PASTEF)」の候補バシルー・ジョマイ・ファイに敗北したことを認めた。公式な投票結果がまだ出ていない時点での発表で、バは「セネガルの民主主義の勝利」だとして、ファイを祝福した。

● 詳細記事:Boko, Mawunyo Hermann. 2024 “Présidentielle au Sénégal : Amadou Ba reconnaît sa défaite face à Bassirou Diomaye Faye – Jeune Afrique, ”  jeune afrique, 25 mars.

■ 3月26日:ダカールの教訓(マルワン・ベン・ヤーメド出版ディレクターの論評記事)
Jeune Afrique誌の出版ディレクターのマルワン・ベン・ヤーメドはその評論記事で、今回のセネガル大統領選挙は民主主義に懐疑的な人々に再考を促すだろうとして、次のように書く。セネガル人が投票によって示したのは、民主主義がうまく機能しないのはその原則がないがしろにされているからであって、アフリカ諸国での政治危機あるいはクーデターの原因は民主主義ではないし、民主主義をアフリカに押しつける欧米諸国のせいでもない、ということである。セネガルでは憲法評議会も、マキ・サール現大統領が政治的な理由から大統領選投票日を延期したことに断固として否を突き付け、役割を果たした。「ここでは大統領であるとは、必然的に正しい人間であるとか、誰に対しても説明する責任はないという意味ではない」のである。[PASTEF党首で、2024年1月に憲法評議会によって大統領選立候補を拒否された]ウスマン・ソンコと、彼に代わって立候補したバシルー・ジョマイ・ファイたちの政治手腕の可能性は未知数だが、セネガル人はそれでも大きな変化[ファイが選挙運動中繰り返した言葉]に賭けたのだった。もし新政権が国民を落胆させたら、国民は次に何をしたらいいかわかっているのだ。

● 詳細記事:Yahmed, Marwane Ben. 2024 “Présidentielle au Sénégal : la leçon de Dakar, par Marwane Ben Yahmed – Jeune Afrique, ” jeune afrique, 26 mars. 

■ 3月27日:暫定結果によりバシルー・ジョマイ・ファイの勝利確定
2024年3月27日、セネガル大統領選の暫定結果が国家開票委員会から発表され、バシルー・ジョマイ・ファイ候補が54.28%の票を獲得して勝利が確定した。投票率は61.3%であった。2,434,751票を得たファイは、第1回目投票で当選したセネガル史上初の大統領であり、セネガル大統領としてはもっとも若い44歳である。ファイは[2023年4月、ウスマン・ソンコの裁判に関して司法当局を批判したとして逮捕され]11か月の公判前勾留ののち釈放され、約一週間の選挙運動をして勝利した。憲法評議会は結果を27日深夜に正式に宣言するので、国家開票委員会の発表に異議を唱えたい候補者はそれまでに申し出なければならない。ただし他の候補者はすでにファイの当選を認めている。大統領就任式は現職マキ・サール大統領の任期が終了する4月2日である。

● 詳細記事:Soumaré, Marième. 2024″Au Sénégal, les députés reportent l’élection présidentielle au 15 décembre 2024,” jeune afrique, 27 mars. 

■ 3月27日:ファイ氏が抱える今後の政策課題
バシルー・ジョマイ・ファイの勝利を導いたのは、彼がいうところの「左派のパン・アフリカ主義」に合致したシステム革命を目指すという主張である。彼の経済プランにあるのは、「外国の干渉によって弱まった」国家主権の回復、汚職との闘い、ガス・鉱山セクターでの外国企業との契約見直しなどである。またファイと彼が支えてきたウスマン・ソンコは、[西アフリカのおもに旧仏領諸国で使われている]共通通貨CFAを廃止して独自通貨を持つことや、主要都市を結ぶ高速道路や国道の建設、地方経済都市の鉄道駅・空港・港湾の整備なども構想している。しかし専門家は、これらの構想には「経済ビジョンが欠如している」と批判する。公式統計によると、セネガルの債務は「GDPの75%」に達しているのだ。この記事で記者は、中小企業開発管理庁(ADEPME)のイドリッサ・ジャビラ長官の未来のファイ政権へのアドバイスをまとめ、「より効果の高い手段を使いながら、予算管理を見直すことが重要」とする。

● 詳細記事: Rizk, Yara. 2024 “Franc CFA, préférence nationale… Les promesses de Bassirou Diomaye Faye sont-elles crédibles ? – Jeune Afrique,” jeune afrique, 27 mars.

■ 4月3日:首相任命=ウスマン・ソンコ氏
2024年4月2日にバシルー・ジョマイ・ファイ大統領の就任式が行われた数時間後、ウスマン・ソンコ(49歳)が首相に任命されたことが明らかになった。共和国大統領官邸事務局長が公共放送でこの決定を読み上げた。ソンコはまもなく組閣を行うと発表した。

●詳細記事: Jeune Afrique. 2024 “Bassirou Diomaye Faye nomme Ousmane Sonko Premier ministre – Jeune Afrique,” jeune afrique, 3 avril.

■ 4月6日:組閣
2024年4月5日にセネガル新内閣のメンバーが発表された。ここにはもちろん与党PASTEFの幹部が含まれている。軍や内務省のトップには中立的で政治色がないとされる将軍二人が就いた。選挙で協力関係にあった政治家たちもポストを得た。内閣は約30人から構成されるが、女性は4人しかいない。ファイ大統領は就任後初の演説で、政策の優先課題として若者と女性の雇用・起業支援、司法制度改革、生活費高騰への早急な対策を挙げた。また「汚職との容赦なき闘い、刑事処罰による脱税抑え込み、公金横領とマネーロンダリングへの対策を通して、適切な経済・金融ガバナンス政策を大胆に進めたい」とした。

●詳細記事: Boko, Mawunyo Hermann. 2024 “Au Sénégal, la composition du gouvernement de Sonko confirme la disparition des dinosaures politiques – Jeune Afrique,” jeune afrique, 6 avril.

 

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