Is the mechanism of rising food prices clear?
『アフリカNOW』No.81(2008年6月30日発行)特集記事
執筆:AJF食料安全保障研究会
世界は食料価格高騰に衝撃を受けたのか
今年4月、ハイチ、エジプトはじめ世界各地で死傷者が出る食料暴動が起き、食料価格高騰が世界的な緊急課題として広く知られるようになりました。4月初め、東京で開かれたG8開発大臣会合後の議長総括で、議題になかった食料価格高騰問題が取り上げられ、同時期に米国で開かれた世界銀行と国際通貨基金(IMF)の合同開発会議でも食料価格高騰問題への緊急の取り組みが必要と世界に向けてアピールしました。
こうしたアピールを受けて、米国が緊急に2億ドルの食料援助のための資金拠出を発表、日本政府も今年7月のG8サミット前に1億ドルを緊急に拠出するとプレッジしました。また、福田首相は潘基文国連事務総長らに書簡を送り、G8サミットで食料価格高騰問題を議題とすることを表明しています。5月末に横浜で開かれた第4回アフリカ開発会議(TICADⅣ)でも食料価格高騰問題が大きく取り上げられ、6月初めにローマで開かれた食料サミットには福田首相、フランス・サルコジ大統領、ブラジル・ルーラ大統領らも参加して、食料価格高騰の背景と対応策が論議されたことも、周知のことと思います。
食料価格高騰問題に対して、G8サミット、食料サミット、TICADⅣなどさまざまなレベルで重要な決定がなされ、取り組みが急速に進められていますが、これらの決定の根拠となる食料価格高騰のメカニズムが解明され、中長期的な展望に立った解決策が示されたとは言えません。貧困者を始めとする社会的弱者を対象とした緊急の食料援助については広く合意が形成されていますが、バイオ燃料問題に関しては食料サミットで「注視が必要」にとどまり、一方、食料増産の必要が語られています。しかし、食料増産によって食料価格が中長期的に安定するのかどうかはさだかではありません。
TICADⅣでは、アフリカ21ヵ国で食料が不足していることに加えて、食料価格高騰の衝撃を受けていることから、社会不安が高まっていることが、各国首脳より口々に語られました。社会的な安定と適切な栄養給付を受けた労働力なくして経済成長はありえないことが強調されていました。アフリカは、食料価格高騰によって最も強い影響を被っている地域の一つなのです。
バイオ燃料がアフリカにおよぼす影響
昨年すでに、途上国の食料・エネルギー需要の拡大によって、食料・エネルギー・資源の価格上昇が続いており、この傾向は中長期的なものであることが語られ始めていました。国際食料政策研究所(IFPRI)は、2007年に2度、食料需給見通しの変更をおこない、食料価格上昇のスピードが増加していることを指摘していました。
食料価格上昇の要因として、現在、以下の点が語られています。
- 全世界の食料生産は年々伸びているが、人口増加率に追いついていない。
- 原油高騰により、輸送費用、生産費用が急増している。
- 食料作物のバイオ燃料への転用、食料生産地のバイオ燃料作物生産への転用などが急速に進んでいる。
- 気候変動の影響で食料生産が不安定になっている。
- 中国、インド、ロシアなどでの食料需要の変化により飼料作物、油脂作物の需要が急増している。
- 食料市場に多額の投機資金が流入している。
これらの要因が食料価格高騰のメカニズムの中でどのような役割を果たしているのか、どういった対応が必要なのかを明らかにすることは、食料価格の中長期的な安定や食料生産に関わる人々の将来展望を考え、有効な取り組みを行っていくために、きわめて重要です。
AJF食料安全保障研究会は、昨年12月に「アフリカにおけるバイオ燃料問題」、今年3月に「アフリカ農業とバイオ燃料問題」をテーマにした公開セミナーを開催し、原油価格高騰と先進諸国における温暖化対策としてのバイオ燃料推進政策に応じて、アフリカでバイオ燃料を生産する計画が多く打ち出されていることを明らかにしてきました。
12月のセミナーでは、アフリカ諸国の多くが先進国市場に向けてコーヒー、お茶、綿、花卉などを輸出する一方で、先進国の安価な余剰食料の輸入国であったことから、先進国で余剰食料がバイオ燃料に転用されることによって、大きな影響が出てくるとの見通しが明らかにされました。3月のセミナーでは、先進国市場向けの新しい作物としてバイオ燃料原料作物の大規模な生産計画がアフリカ諸国で打ち出されていることから、食料生産に使われている土地、水、投入財、労働力が奪われていくことが問題であるとの指摘がなされています(3月のセミナーでのプレゼンテーションをもとにした記事をアフリカNOW81号10~14ページに掲載しています)。
食料価格高騰問題への懸念を表明
4月以降、アフリカ諸国での食料暴動、食料を求める市民行動が広く伝えられ、一方で、先進諸国政府、国際機関、TICADプロセス、G8サミット・プロセスの中で緊急対応策と食料増産方針が検討されていることを受けて、5月15日、AJFとハンガー・フリー・ワールド(HFW)は、「飢餓・貧困をなくす取り組み、ミレニアム開発目標を達成する努力を無にしないために食料価格高騰問題への適切な対応が必要。NGOが見た現状と、支援における課題」を発表し、23日には両団体と日本国際ボランティアセンター(JVC)で共同記者会見を行いました。
記者会見では、HFWが活動を展開しているベナンでどのような食料が生産・消費されているのか、ベナン国内での食料加工はどうなっているのか、といった具体的な質問が出されました。
TICADⅣ2日目の5月29日、国連食糧農業機関(FAO)・世界食糧計画(WFP)・世界銀行・国際農業開発基金(IFDA)の共催で、食料価格高騰問題に関するハイレベル・パネルディスカッションを実施。その際に、福田首相が6月3-5日にローマで開催される食料サミットへの参加を表明したことに注目するとともに、食料価格高騰がミレニアム開発目標(MDGs)達成へ及ぼす影響を強調し、原油・食料価格高騰に先進国の金融市場の動向が大きく関わっているという先進国の責任をふまえた取り組みの必要を訴えるプレスリリースを発表しました。
今後、食料サミットに参加したHFWの冨田さんによる報告会開催を計画しており、7月3日には連続公開セミナー「食料価格高騰がアフリカ諸国におよぼす影響」の第1回目を開催します。また、G8サミットに向けた政策提言も追求していきます。