アフリカにルーツをもつ人々に対する レイシャルプロファイリング

The racial profiling of people with African roots

『アフリカNOW』 No.122(2023年3月31日発行)掲載

*PDF版はこちら

東京弁護士会が「外国にルーツをもつ人に対する職務質問(レイシャルプロファイリング)に関するアンケート調査」を2022年1〜2月に行い、「最終報告書」が2022年9月に公表されました※。アフリカにルーツをもつ人にとっても長年の問題であり、職務質問にあった経験のある人は多く、特に中学生、高校生で職務質問にあう経験は、恐れや不安、怒りなど、大きな見えない傷となります。今回は、アフリカと日本のミックスルーツの20代の2人の経験や想いを聞きながら、弁護士でAJF 監事の林純子さんにも参加していただき、座談会を行いました。
https://www.toben.or.jp/know/iinkai/foreigner/202209houkoku.pdf

レイシャルプロファイリングなどについての座談会中尾 英鈴/ Nakao Abel
柏倉 キーサ カリル/ Kashiwakura Kissa Kalilou
林 純子/ Hayashi Junko
司会:津山 直子/ Tsuyama Naoko
(発言順)


自己紹介

津山 直子(以下、津山) 今日はお集まりくださり、ありがとうございます。まず自己紹介をお願いします。

中尾 英鈴(以下、エイベル) 1995年生まれで27歳。父がナイジェリア人、母が日本人の3人家族で、高校まで横浜で日本の公立学校に通いました。中高の部活はサッカー部でした。大学で米国に留学し、そこでの経験が自分の人生を180度変えたかな、っていうぐらい、凝縮された何にも変えられない経験ができました。そこで多様性とか、ファッションに興味をもつようになって、卒業後はモデルとして仕事をしています。やりがいがありますし、いろんな国に住んで、仕事ができるのも魅力です。昨年はイタリア、イギリスに住み、今年はドイツに行く予定です。

津山 アフリカンユースで、モデルを仕事にしたい人、すでにしている人も多く、エイベルさんはロールモデルでもありますね。具体的にはどんな仕事や日常生活ですか?

エイベル ファッションブランドのショーや広告などの仕事が多いです。日本で何年か世界的なブランドの仕事をした経験から、自然と海外での仕事へと開け、今はカナダに代理人がいて、仕事をとってきたり窓口になったりしています。9割が地味な努力で、派手な瞬間は撮影やステージに立つときだけという感じ。食べることも、食べるものや量、時間も決めているし、お酒も飲まないです。

柏倉 キーサ カリル(以下、カリル) 僕は父がマリ出身、母は日本人です。1998年生まれで24歳。年子の妹がいます。順当にいけば大学を卒業している年齢ですが、まだ大学生です。僕も中学まではサッカー、高校ではダンス、今はボディビルをやっています。大学ではフィットネスサークルも立ち上げ、学園祭では「東工大トップオブマッスル」というイベントで優勝しました。

津山 大学ではどんな勉強をしているのですか?

カリル 東京工業大学で地球惑星科学を専攻しています。今は需要を考えると、I T とかコンピューターサイエンスを学んだ方が良かったと思いますが、宇宙に興味があったので、この分野を選びました。精神的にダウンした時期があって、勉強もできなくて休学したのですが、徐々に回復しています。特にマイクロアグレッションは僕にとってセンシティブなトピックでした。そのような背景もあり、マイクロアグレッションに関する発信も行ってきました。

林 純子(以下、林) 弁護士で、東京弁護士会の「外国人の権利に関する委員会」の副委員長もしています。レイシャルプロフアイリングのアンケート調査にも関わりました。大学生の時に1年、米国に留学し、その時にイスラム教を信仰するようになり、ムスリムになりました。大学卒業後は会社員として働いていましたが、ムスリムの方で法律的なサポートがあれば解決するだろうということがいくつかあって、ムスリムの弁護士はいなかったので、私がやろうかなと思い、ロースクール(法科大学院)に入りました。2015年に弁護士になり、いわゆる町弁なので、民事、刑事、家事などのすべての事件を担当してきましたが、外国人や子どもの事件、入管が絡んでくる事件などが多いです。ムスリムのアフリカ系アメリカ人の男性と結婚して、3歳の男の子がいます。

津山 アフリカンキッズクラブにもムスリムの子どもやユースもいるので、交流したり、宗教や文化についてのイベントなどもやっていきたいですね。弁護士会の「外国人の権利に関する委員会」では他にどのようなテーマに取り組んでいますか?

林 委員会では、ヘイトスピーチや入管の問題にも取り組んでいます。外国ルーツの子どもの権利についても目を向けて、学校で髪型についてどのような規則があり、どのような運用がされているか、子どもたちが大変だと感じていることはどんなことかを調査したいと、アンケートを作っているところです。学校はある意味、外から見えなくて、子どもが一人で戦わなくてはならないことが多いので、そこに手助けができるようにしたいと思っています。

津山 今日は進行を務めますが、南アフリカと日本のミックスルーツの20代の子どもが2人いて、娘はエイベルさんと同じ27歳、息子はカリルさんと同じ24歳。反アパルトヘイト運動に関わり、その後現地で活動し、南アフリカに15年ほど住んでいました。日本に戻ってきて、アパルトヘイトとはある意味で対照的ですが、可視化されない偏見やステレオタイプがまだまだあると感じました。AJF の理事になり、在日アフリカンの方たちと協力しての活動、アフリカンキッズクラブの運営などに関わってきました。

アフリカと日本、2つのルーツ

津山 始めに、アフリカと日本の両方にルーツをもつ自分や家族の経験で、良かったことや反対に良くなかったこと、心配なことなどについて話しましょうか。

カリル 父と母で文化がまったく違い、その文化が共存しているのが当たり前という環境で育ちました。父の言語がわからない、わからない言語があるのが日常なので、別の文化や言語に対してオープンになれたことは良かった。良くなかったことは、この見た目で日本で生活してきて、メンタル的に結構ハードな時期がありましたし、現在も多少は問題を抱えています。日本生まれ日本育ちで、自分は日本人だと思ってきたけど、周りから見て、自分は日本人なのか、日本人として受け入れられる存在なのか、同じように扱われるのかなど考え込むうちに、この見た目で日本人としてアイデンティティをもつことが、自分を苦しめていると感じ、アイデンティティクライシスに陥りました。そういう苦悩は親も理解が及ばないところがあって、もっと親身に話を聞いてほしかったという思いもあります。

エイベル 僕は、ルーツが2つあると、双方の理解を得たり、自分も理解できるのは素晴らしいと思います。昨年イギリスに住んで、イギリスでは知らない人同士が声をかけ合うなどあまりないですが、アフリカ系同士では、声をかけられたり、あいさつしたり、ナイジェリアにルーツがあることも喜んでもらえます。アジア系もイギリスではマイノリティで、他のアジア人と理解や共感し合えることも多い。日本では、覚えてもらうのに苦労はないところかな。いやでも覚えてもらえる。子どもの頃は、バスケ好きの年上のお兄ちゃんたちや先生にかわいがってもらえた。漢字を間違えても先生が優しくて、親身になって心配してくれて。自分の努力不足だけだったので、次はちゃんと点数を取って心配させないようにと思いました。

津山 家庭での言語はどうですか?

カリル 父は、フランス語、バンバラ語、アラビア語、英語、日本語が話せます。家族同士のコミュニケーションでは日本語を使っています。バンバラ語で親戚などと電話で話しているときはすごく声が大きくて、うるさいです。

エイベル 僕も電話のことは自分の父親だけだと思ってたけど、あるあるですね。なんであんなに大きな声で長電話できるのか、ずっと電話している。うちは、父とは高校までは日本語、自分が習得してからは英語で話しています。父と母は、最初は英語だったけど、父が日本語ができるようになってからは日本語です。

林 うちも、私と夫は日本語と英語の両方を使っていて、子どもはパパとは英語、私とは日本語で話しています。アフリカにルーツをもつ人たちと家族になって良かったと思っていることはたくさんありますが、最近よく思うのはとにかく子どもが可愛いことです。もちろん、子どもはどの子も可愛いし、自分の子どもだから可愛く感じるのだとは思いますが、見ていて可愛い、いるだけで可愛い、特にクリクリの髪の毛がめちゃくちゃ可愛くて。硬くてクリッとしているのですが、パパは柔らかいので、硬さは私からかな。

カリル そうですね。日本人の剛毛とカールが完全に融合しています。これがかなり扱いづらくて、僕はずっと短髪でした。髪の毛のことをいろいろ手入れするようになったのはようやく最近で、Instagram などで海外の髪の手入れの仕方などを参考にしています。

エイベル 日本では適切な情報やアクセスがなくて、買うのも海外のサイトからしかない。そこが日本に住むブラックミックスの子たちにとって難しいですね。

林 最近、本人が髪の毛がクリクリっとしているのをいやがって、切りたいと言ってきたんですよ。まだ3歳なのでどこまで本気かわからないのですが、もし周りからクリクリって言われて、僕はみんなと違うんだと思っていたらいやだなと思っています。子どもが大きくなるにつれて、みんなと違うということを気にするようになるのが心配。レイシャルプロファイリングもすごく心配です。自分が経験として持っていないので、どうサポートしたいいのか、私も悩んでいます。

職務質問とレイシャルプロファイリング

津山 警察官に職務質問(職質)をされたことはあるか、最初は何歳の時かなどについて、話していただけますか?

エイベル 中学3年で初めて職質をされて、そこからは数えきれないほど。20回、30回とか。初めての時は自転車に乗って、学校の制服を着ていました。自転車が盗難車かどうかチェックするみたいな感じで。他にもたくさんの人がいるのに自分だけ止められて、外国人登録証を見せろと言われた。その時は、あっ、ついにこういうことか、と思った。体が大きくなって、小さいときのように可愛いという風貌ではなくなったと自覚した頃です。

林 大人になったら職質を受けるかもしれない、という知識は持っていましたか?

エイベル 父と一緒に移動しているときに止められたり、車を運転している時も追いかけてきて、免許持っているかと聞かれたり。そういう経験があったので、覚悟はしていました。

カリル 僕は、ちゃんと職質をされたのは中学2年ですが、小学6年の時に塾から自転車で帰る途中に警察官に止められました。一緒にいた母が警察官とやりとりをしましたが、怒り口調だったのを覚えています。エイベルさんと同じで、当時、結構体が大きくなって、同級生より頭ひとつ分背が高かった。本格的な職質は中学2年の時、恵比寿駅です。通学途中の朝のラッシュ時でたくさん人のいるところで止められて、「身分証を見せてください」って言われて、学生証を見せました。中学から私立に通っていて制服がなく私服でした。同じ場所で職質にあうことが立て続けにあって。恵比寿駅のJR から地下鉄の日比谷線に乗り換えるエスカレーターと階段があるところ。大勢の人に見られてすごく恥ずかしかったし、中学2年生には重い経験だと思います。自分で言うのもなんですが、小学校までは、勉強もスポーツもできるいい子だと評判だったので、犯罪から最も遠い存在だと思っていたのが、自分が犯罪者予備軍にされた気持ちになりました。本当に態度が悪くて、あからさまに疑ったことを謝らない警察官もいて、それで警察がすごく嫌いになりました。

津山 それがずっと続いたのですか?

カリル それが、服装を変えたら、ピタリと止まりました。身だしなみをある程度しっかりして、派手すぎない服を着るようにしてから。あと、警察官の前でも堂々とするように気をつけたら減りました。

エイベル 僕もカジュアルなヒップホップ系の服を好んできていた時期があって、その時は集中的に職質が多かった。わかりやすいんですよね、警察は。

カリル 僕も派手なファッションをしたいタイプではなかったけど、ファッションで職質されるかどうかが決まるのも、変な話だと思います。

津山 中学で職質にあった経験は、すごくショックでいやだったと思うけど、家ではそのことを言いましたか?

エイベル 自分は大げさにするつもりはなくて、夕飯を食べている時に「職務質問されて面倒だった」って話したら、母がすごく怒って。どこでされたかと詳しく聞かれて、警察に電話をかけました。母親の立場になって考えたら、やっぱりそうですよね。母のリアクションを見て、これは普通じゃない、と気づいた。それ以降は、職質をされることに対して、すごく嫌悪感を抱くようになりました。

津山 でも、その後も何十回も職質にあったのですね。

エイベル 一番いやだったのは、新宿区に住んでいる時。普通に歩いているだけで止められて、しかも長い。長くて、手荷物検査と財布の中のにおいを嗅いでくる。髪型がドレッドヘアだから薬物をやっているんじゃないかって、髪型から薬物をやっていると思われる。

津山 カバンの中ってプライベートなもので、見られたくないですよね。手荷物検査までされるって、どう説明されるのですか?

エイベル 最初は、「今、忙しいですか?」「何してるんですか?」とかから、「この時期物騒なので……」と話が進む。物騒じゃなくて、結局自分がターゲットで疑っているのがわかる。財布のにおいを嗅ぐとか、街にたくさん歩いている人がいるけど他の人にやってない。自分の時間が奪われるのがいやで、「もうやめてください」って言っても、「すぐ終わるんで、すぐ終わるんで」としつこくやる。最初はコートのポケット、スボン、カバン。「カバンの中もチェックしていいですか」と許可を求めるのではなくて、その流れで、「チェックさせていただきます」と一方的に言われるだけです。結局応じた方が楽だと思って応じて、応じる自分もいやですけど。いやすぎて逃げた経験もありましたが、ことをより大きくするんですよね。パトカーでサイレンつけて追っかけてきた。止められるのがいやで逃げたんですが、逃げるから怪しいと思われた。

カリル 断っても結局怪しまれて、時間がかかるので、見せた方がいいですね。

エイベル 自分の人生で一番無駄な時間だと思います。

津山 職務質問は、法律上は不審事由がある場合に、ですよね。

林 はい、不審事由というのは、犯罪をしたと思われる、あるいは、何か犯罪を犯そうとしていると思われる事情ということです。たとえば、留守の家をのぞき込みながらその周りを何度も歩いているとか、服に大量の血がついているとか、薬物だったら目が泳いでいるとかですね。でも警察官向けの本には、「理由はほとんどなくてもいい」というようなことが書かれていたりして、現場の警察官は、目をそらした、とか本当にささいなことで、職務質問をしてきます。実際はそらしてなくても、警察官がそう思ったというだけで不審事由があって法律の要件に当てはまるんだと言ってきます。外国人については、ほかに不審事由がなくても、在留カードを提示させるために停止させるということが多く行われているようです。私は、これは法律の要件を満たしていないので違法だと思います。それが、現場の警察官にはきちんと理解してもらえていないのではないかと思います。

エイベル 任意だというけど、任意じゃないですよね。

林 理論的には「令状を持ってくれば荷物を見せるが、令状がないなら見せない」と言うことはできます。ただ、令状をとれと言うほど粘っているのは何かあるだろうと思われたりして、結局長い時間拘束されることになるんですよね。

カリル 逃げてもだめだし。断ってもだめだし。

エイベル どうすればいいんですかね。

津山 東京弁護士会でアンケート調査をしたり、米国大使館の警告がメディアでも取り上げられたり、エイベルさんのように取材に答えたり、と問題が少しずつ可視化されてきていると思いますが、どうですか?

林 そういう問題があることが社会に知られないと変わらないので、知られてきたというのは大きな一歩だと思います。米国大使館の警告というのは、日本にいるアメリカ国民に向けて「レイシャルプロフィリングと思われる職務質問の報告を受けているから、身分証を携帯して、何かあったら大使館に連絡を」という内容のツイートですね。この後、警察庁が全国の都道府県警や公安委員会に、問題がないか調査しました。でも全国で問題があっとされたのはたった6件で、それも表面的な問題ばかりでした。犯罪予防という観点からしても、外国人だからと不審事由のない人を職質している間に、本当の犯罪者を見逃していることもあるのではないかと思ってしまいますよね。

カリル 外国人を狙うのはどういう理由があると思いますか?

林 オーバーステイでないかを確認したいというのはあると思います。在留カードを見せてくださいという形が取れるので、言い訳が立ちやすいとも言えますよね。それ以外にも、外国人に対して犯罪者予備軍と見るような偏見があるのかなとも、正直なところ思います。

津山 エイベルさんが他の国に住んだ時は、職務質問のようなものにあったことはありますか?

エイベル 海外に住んでいるときはまったくないです。住んでいたところって多様性にあふれている街なんだなと感じます。ロンドンでも外国から来た人たちも一緒に暮らしている感じで、いちいち違いに過剰反応しない。日本という国がもう少し多様性に慣れてくる、というのが一番の改善点だと思いますけど。

津山 当事者として話すのは、思い出して辛いことでもあると思いますが、エイベルさんは、取材でも話してきましたね(1)。

エイベル しっかり伝えて社会に理解してもらうのが一番大切だと思っているので。自分がブラックだからハーフだから自分たちを理解してくれ、というのではなくて、これはいろんなことに関連すると思っています。別の悩みであっても、悩みを抱えている人たちに対して共感したり、理解したりする、そういう意味合いが強いです。本質的なことは、日本の社会のあり方を変えたい、それを理解してもらいたいと思ったからです。

津山  そういった理解を広げていきたいですね。また、今後も職務質問について話す場を作ったり、受けた時に警察官に見せるレイシャルプロファイリングへの注意喚起のカードを作る、職務質問に備えてのロールプレイなど、「職質トーク」のような感じで一緒に考えながら何かやっていければと思います。

マイクロアグレッションによる痛み

津山 レイシャルプロファイリングは、社会では見えにくい偏見や差別の面がありますが、マイクロアグレッションという「小さな攻撃性」、思い込みや偏見で相手に痛みを与えてしまうこともあります。そういったことを受けたことはありますか?

エイベル 日本語を話しているのに英語で応えられる。子どもの頃は不愉快で、今一周りして受け入れているところもあります。母の実家が九州なので、小学生の頃から飛行機に乗って一人で行っていましたが、窓際の席からトイレに行こうとしたら、隣の席の人に、「ノー、ノー、ノープリーズ」みたいに言われて。日本語で「トイレに行くんです」って言っても、「ノー、ノープリーズ」って、訳のわからないやりとりが続いて、とてもいやだったことを覚えています。最近もホテルの受付で、日本語で話しているのに、英語で返され続けるということがありました。

林 私の夫も、日本語で話せるのがわかっているのに英語で言われると、不愉快になることもあると言っています。

津山 外国人に見えたら英語で話さなくちゃ、というのは変えた方がいいですね。日本語が話せる人も、英語を話さない国からの出身者だって多いし。日本語で話して、相手の応答で日本語が話せないようなら、英語がいいか、やさしい日本語かいいかとか、聞けばいいですよね。バイト先で「外国人には英語のメニューを持っていく」のがマニュアル化されていて、持っていたら、「僕、日本語で大丈夫ですから」って言われて、おかしいことをしているのに気づいた、という大学生もいました。

カリル マイクロアグレッションは大きな問題で、電車で誰も横に座らないとか、嫌でも日々直面してしまいます。ただ自分自身でも過剰に反応しているといいますか、感覚的に普通じゃない気もするんです。自分の外と内側で何が起こっているのかを捉えるのが大変で。

津山 それはいくつものことが重なって、いつも気にするようになった、ということですか?

カリル そうですね。毎日すごく多くの人とすれ違う、その経験の蓄積のなかで、変だなと感じることがあります。自分の努力で他人の所作、行動を変えたいと思って、いろいろ変えてみた。服装もそうですし、エチケット、表情、態度とか、試行錯誤してました。

林 何を変えたいと思ったんですか?

カリル 周りのリアクションです。満員電車で、気づいたら周囲の全員が背を向けてたということがあったんです。最初汗から出るにおいが原因かと思いました。対策をしたら改善はされましたが、なくなりはしませんでした。これは一つの具体的な例ですが、こちらの努力ではどうしようもないこともあり、その場合徒労に終わるだけです。なので次第に「もうええわ」と思うようになりました。結局。他人のことに気持ちを巡らせすぎることは、かえって自分をむしばむような気がします。エイベルさんは、このような経験はありましたか?

エイベル 僕は中学生になって、男子はいいけど、クラスの女子から怖がられ始めた。すれ違うときにすごく距離をあけられた。容姿に関していろいろ悪く言われるようになったのも中学生ぐらい。職務質問に限らず、日常のいろいろな場面で起きていました。その後、いろんなことをしていく中で、自分の自信につながって、それから気にならなくなった。日本という限定されている場所で起こっていることと考えられるようになった。

カリル 僕も、昨年フランスにしばらく行ったけど、その時はまったく気にならなかった。

エイベル 海外での大学生活や仕事の中で、自分の人格形成が変わった。日本で育ったブラックの人は、少しネガティブだったり、自分にコンプレックスをもつことが多いけど、それは日本の環境にいたからそうなってしまっている。海外でも苦労はあるけど、自分に自信を持って、ルーツに誇りを持っている人が多くて、ルーツというのが素晴らしいものだと認識してから、日本にいてもまったく気にならなくなった。

カリル だいぶ前に、日本に住む外国人やミックスルーツの人が、長く住むほどに精神的にダウンしやすいという話を聞いたことがあります。僕も外国人を多く診ているクリニックで1年ぐらいカウセンリングを受けて、薬を処方してもらった時期もありますが、筋トレという集中できるものに出会って、かなり前向きになれたと実感しています。

林 多様性って、マイノリティの人のためのものであって、マジョリティはマイノリティの人たちのために多様性を認めてあげようと捉えられることが多いと思うのですが、本当はそうではなくて、マジョリティにとっても、社会に多様性があることで住みやすくなるんですよね。均一性が高いと思われている社会でも、同調圧力などという言葉にもあらわれるように、みんな実は違っていて、みんなが違っていると認め合うことで、マジョリティと言われる人も生きやすくなるのだと思います。みんなが違うのが当然だとなっていくことでみんなが生きやすくなる、それが多様性なのだと思います。

津山 そうですね、それぞれが、マジョリティとマイノリティの両面を持っているということもありますね。経験や想いを率直に話してくれてありがとうございました。下の世代にどんなことを伝えたいですか?

カリル 性格によってもまったく違うし、一概に言うのは難しいけど、選択肢を持っておくのはすごく大事だと思っています。例えば、日本語しか話せなくてずっと日本にいる、このまま順当に行けば日本で暮らすというハーフの人もいるけど、両親から与えられる機会や教育だけじゃなくて、自分でも獲得していく必要があると思います。英語を話せれば、それだけで選択肢ができるし、今の環境からの逃げ道も作りやすいです。

エイベル 自分の子ども時代を考えると、ものすごく悩んでいた。今考えると、そんなに悩むべきことではなかったし、もったいなかったと思います。それは自分が選択肢を持てるようになったから言えるのであって、当時は選択肢がなかった。早くから選択肢があることに気づいていれば、それほど悩んだり考え込む必要がなかった。

カリル 僕は海外に住んだことないですけど、海外での長期生活を経験して、また戻ってくるような日本人が増えれば、この社会も変わってくるのかな。

エイベル 警察官がもし帰国子女や多様なルーツだったら、職務質問だって変わっていたでしょう(笑)。カリル そもそも公務員に少ないですよね。

これからの抱負

津山 最後にアフリカンキッズクラブ、アフリカンユースミートアップのような活動について、またこれからの抱負など聞かせてください。

カリル ワンオブゼム(one of them)になれる場所で、精神的にいつもと違った状態で、いろいろな発見があって、友だちもできるし、そういう環境が好きですね。非日常感もすごく好きで、日本の中でも得られるのは大きいです。また去年、早稲田大学の授業でマイクロアグレッションについて話す機会をもらい、それまでは考えないようにしていたけど、ずっと頭の隅にあったことを話して、学生の皆さんからもさまざまなフィードバックをもらえて、大変ありがたい機会でした。これからは、上の世代で集まる機会も作れるように、何か企画していきたいと思っています。

津山 上の世代って、自分はユースじゃない?

カリル 自分はもうユースじゃないと思ってました。ユースって何歳までだろう。とにかく上の世代も含めて、集まる機会を持っていきたいです。

林 何年も前からアフリカンキッズクラブはFacebookでフォローして、活動を追っていました。子どもが生まれて参加するようになって、本当に貴重な場だと思います。今日はエイベルさんとカリルさんとお会いできて、うちの子もこんな好青年になってほしいと思いながらお話を聞いていたのですが、お話からもたくさん得るものがありました。

エイベル コロナでオンラインでのイベントをするようになって、どこに住んでいていても参加できるようになったのも良かった。これからも新しいことを吸収していきたいと思っています。一定の年齢にいくと、人の意見を聞けなくなる人が出てきて……。自分は年齢を重ねていっても、もっともっと新しい意見や考え方を受け入れていきたい。受け入れて、自分のなかに落とし込んで、学んでいくと、人生の質も上がってくる。そういうことを意識するようになって、人生がいい方向に進んでいるという実感もあります。

津山 そうですね、これからも世代や立場を超えて話して、知り、気づき、学んだり理解し合うようにしていきたいです。今日はとてもいい話し合いの時間を持てました。ありがとうございました。

(1) ’HUFFPOST’ 2022年3月6日、「NHK WEB特集」2022年10月7日に掲載。
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_621eb9eee4b0250871a70e59
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221007/k10013847801000.html

2023年2月18日 東京都台東区・アフリカ日本協議会(AJF)


アフリカNOWリンクバナー