How to save wild African Grey Parrots
『アフリカNOW』107号(2017年2月28日発行)掲載
執筆:西原 智昭
にしはら ともあき AJF 理事。1989年からコンゴ共和国やガボンなどアフリカ中央部熱帯林地域にて、野生生物の研究・調査、国立公園管理、熱帯林・生物多様性保全に従事。国際野生生物保全NGO であるWCS コンゴ共和国支部・自然環境保全技術顧問。京都大学理学部人類進化論研究室出身、理学博士。現在の最大の関心事は、人類の自然界利用と文化遺産維持とのバランスの方途や、先住民族の今後のあり方への模索。詳細は http://www.arsvi.com/w/nt10.htm を参照。
野生のヨウムに何が起こっているのか
ヨウム(African Grey Parrot; Psittacus erithacus erithacus )はスマホのカバーを噛かみ続けていた。一心不乱であった。騒ぎもせず、頭とくちばしを器用に動かし、カバーの端から端へと。30分の間に、ついに、カバーは使い物にならなくなるくらいになった。小さなケージに入っていた他のヨウムもそれを見て興味津々。狭い空間に押しとどめられた彼らには、ストレス発散の対象がない。日本のある「鳥カフェ」でのひとときである。
コンゴ共和国。夜明けの時間帯、熱帯林の頭上、空高く、グループで移動するヨウム。その声は高らかに、まさに「よーし、きょうも一日が始まった。みんなで出かけよう」と声を出し合い、集団から若干遅れた数羽のヨウムは、「待ってくれ〜」とばかりに声を張り上げて前方のヨウムを追っていく。夕暮れ時になれば、樹冠のはるか上を飛ぶヨウムの、同じような光景を見ることができる。
「鳥カフェ」にはきっと鳥マニアが集まるのだろう。3m四方の空間にいる数十羽のインコやオウム、そしてヨウムに囲まれて、どのお客さんも満足そうな顔をしている。主翼を除去されたこれらの鳥は、自由に飛ぶことはできず、人の肩や頭の上に乗って遊ぶ。カフェの店員も「ヨウムは人気があり、1羽25万円で売れていきます。ヨウムはフィリピンなどのブリーダーから入荷されてきます」と誇らしげに説明する。
世界自然保護連合(IUCN; International Union for Conservation of Nature)のレッドリストに登録されているほど、生存の危機に瀕しているにもかかわらず、2011年からコンゴ共和国北部では2,500羽以上のヨウムの違法捕獲が検挙されてきた。密猟者の格好の対象となり続けているのは、国境を接するコンゴ民主共和国とカメルーンがワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)下で附属書II に属し、一定数の捕獲輸出を許可(それぞれ年間5,000羽、3,000羽)されていたためである。その結果、ヨウムが比較的多いとされるコンゴ共和国に密猟者が不法に入り込み、違法捕獲を継続していたという経緯があった。当のコンゴ民主共和国とカメルーンでは、ヨウムの数は多くないからだ。
ヨウムは、世界各地でペットとして高い人気がある。かわいらしい風貌の上に、人間の言葉を真似るのが上手であるなどが理由だ。その知能は人間の4〜5歳の幼児並みであるらしい。しかし獣医の報告によると、ヨウムの人工繁殖の成功例は多くないという。このことはペットとして飼われているヨウムはほとんどが野生種であることを示唆している。この点、通常ペットとして売買が可能になっている他のオウムやインコとは大いに異なる。
私が活動している国際NGO の野生生物保全協会(WCS; Wildlife Conservation Society)のコンゴ共和国のある基地では唸り声のような音が聞こえてくる。パトロール隊の尽力で密猟者から押収されたヨウムの声である。1m立方もないような狭い檻に閉じ込められた数百羽が、まさに「ウー、もうイヤだー」と声を発しているような感じである。先日まで空高く舞い上がって飛行していた陽気なヨウムたちの声とは雲泥の差だ。
2016年5月12日の共同通信の配信記事「大型インコ国際取引禁止へ」によると、年間400〜500羽超の生きたヨウムが日本に輸入されている。ヨウムは、ペットとして買うことを「お迎えする」と表現するくらい、マニアに重宝されている。ペットショップでヨウムは「フィリピン産」と表示されているように、ほとんどの客はヨウムがアフリカの熱帯林に生息している野生種由来であることを知らない。さらにいえば、通常ヨウムは集団で生活し、一羽にされてペットとして飼われるのは尋常な状態でなく、ヨウムに高いストレスを与える要因になっているとは露も知らない。こうした点で、日本人も野生ヨウムの絶滅に拍車をかけている可能性があり、その責任は重い。
コンゴ共和国北部の事例では、密猟者から確保されたヨウムは、主翼を切断され寸分もの移動を許されない空間に押し込められていたため、その致死率は高く、60%以上は数週間内で死んでしまう。極度のストレスと寄生虫などによる感染症のためである。獣医がその後に医療チェックや抗生物質の投与、主翼復活のための手立てを施しても、生き残った半分はやがて死亡する。主翼が戻る6ヵ月後になんとか野生復帰できるのはごくわずかでしかない。仮に合法的にヨウムがそのまま海外に輸出されたにしても、長時間の輸送中にほとんど死に絶えることを想像するのは難くない。なんとか目的地にたどり着いた数少ないヨウムの背景には、幾羽にものぼる野生ヨウムの死があるのだ。
ワシントン条約決議とヨウム保全教育の実践
2016年9月24日から10月5日まで南アフリカで実施されたワシントン条約締約国会議では、ペット需要のために急激にその数を減らしている野生ヨウムの輸出入を一切禁止する提案が提出され、それが圧倒的多数で可決された。したがって、ヨウムはワシントン条約附属書I に掲載されたことになる。これは、野生のヨウムの生息数はわからなくても、従来のように附属書II のままで限定条件付きであれ輸出入が許可され続けても、その管理が不徹底であったという経緯があっただけでなく、ヨウム一羽確保の背景には、その何倍にも上るヨウムの死があることが、これまでのデータで明らかになったからである。これまでの統計などを考慮すると、確保された1羽の生きたヨウムの裏には、約20羽に及ぶヨウムの死が推測されている。
決議に反対を唱えた国もあった。たとえば、ヨウムの人工繁殖を試みてきた南アフリカである。しかしヨウムは、イヌやネコのように長い年月に渡って歴史的に人工繁殖が確立されてきたペット種ではなく、その人工繁殖には野生種の移入が不可欠なのである。ヨウムの輸出入管理が不十分である現状では、さらなる輸出入は回避すべきなのは明らかである。ヨウムの生息数が不明であるとの観点から、日本政府も反対に回った。しかし、上記に記したような禁止の理由が明らかになる中では、その立場は国際的コンセンサスに反するものであったといえる。
問題はこれからである。附属書I に格上げされたことで、コンゴ共和国などアフリカ現地でのヨウムの違法捕獲や輸出に対して検挙は容易になった。だからといって、違法行為がすぐに終焉するものでもない。むしろ、そのため捕獲や輸出が困難になったがゆえ、ヨウムの希少価値が上がり、違法捕獲と密輸がさらに助長される懸念もある。それはひとえに、日本を始めヨウムへの需要が継続しているためである。実際、コンゴ共和国では、2016年11月以来数ヵ月の間に短期間に連続して、大きなヨウムへの違法行為が検挙されている。合計で600羽以上のヨウムが押収されたのである。現地の末端価格はヨウム1羽あたり数ヵ月前より4〜5倍に高騰していた(1羽約2,000 円から約10,000円へ)のもその理由のひとつであろう。需要のあるものに対する希少価値への反映と言える。現在、400羽を超えたヨウムは所定のケージに収納され、獣医の手当てを受けながら野生復帰への日を待つしかない。ただ、押収数がさらに増加していくのであれば、現在のケージでは手狭となり、ケージのさらなる拡張工事が危急の課題となってくる。
こうした事態を避けるために、ヨウム生息国での違法行為に対する監視体制の強化を図ることは言うまでもない。しかし、それ以上に大事なことは、ワシントン条約決議でヨウムの国際取引が一切禁止となったいま、ヨウムの需要がありその売買が実施されている国々における各国内でのヨウムの管理システムを構築することである。
日本の場合も、国外から日本国内への新たなヨウムの移入は完全な違法行為となるのは当然であるが、ペットで飼われている、動物園で飼育されている、ペットショップで売られている、ペット業者が保管しているなど、現時点で国内に存在するヨウム個体の管理(たとえば、1羽ずつの個体識別に基づいた登録制度によるすべてのヨウムのリスト作成と、売買や譲渡など国内取引における厳格な管理システムなど)が必要不可欠になってくる。これは、新たな移入される違法ヨウムとの混在を回避するための方途である。残念ながら、象牙管理制度などを見ていても、日本の省庁における管理システムは透明性に欠け、厳格でなく、違法物移入の可能性を多く残しているのが現状であるため、こうした管理制度を厳格に構築し、ヨウムの移入を防止する手立てが肝要となってくる。
また、ヨウム保全へ向けた教育普及活動の継続はいうまでもない。いまペットとして、あるいは動物園などで飼われている、またはペット業者に保有されているヨウムの野生復帰は不可能であるので、まずはそれらのヨウムに関しては適切な飼育を要請するしかない。ただ、これ以上ヨウムを新たに購入しないなど、需要を逓減させるような教育普及活動は不可欠である。
教育普及活動の手法として、新規で参加型の「フォトブック」(イベントの履歴を残せる博物館体験のパスポートPCALi [Passport of Communication & Action for Literacy] プログラムに登録されている)を積極的に使用していきたい。これまでの保全教育のあり方は、動物園であれば来園者へのガイド中の説明であり、あるいは講演会のような場がほとんどであった。これらは、基本的に「一対多」の型であり、「参加者を選べない」ばかりか、質疑応答なども盛んに行われず、その後の「理解度の評価」も容易でないという欠点がある。
保全教育ツールとしてフォトブックが従来のものと異なる特徴は、まずテーマに関心のある「特定の参加者」を期待できる上、単に一対多の講義を聞くだけでなく、自ら「参加」して独自の「ストーリー展開」で「メッセージをクリア」にしながらフォトブックを作成していくところにある。そしてそれは参加者同士で「協議」しつつ「修正」が可能であり、「より正確な情報」を満載した写真付きの「ビジュアル」版であるゆえ、小学生でも、あるいは専門分野でない人にも「わかりやすい」保全の教材が完成される。そして、各参加者ができあがったそれぞれのフォトブック最終版をもとに、さらに家族・知人・友人など身近なところから「メッセージを広げていく」ことが可能になる。その輪の広がりから、保全内容に関する「普及効果」への「評価」もしやすくなる。フォトブックには、これまでになかったこうした画期的な教育ツールとしての利点がある。
2016年にフォトブックを提案し、ヨウムの保全教育に協力を得た帯広動物園では、2回ほどこのテーマで、フォトブックのイベントが実施された。この試みは、3日に分けてイベントが行われた。初日は、専門員からの講義とそれに関する質問。2日目は、その講義をもとにして各参加者自らが与えられた写真を自由に選択し、保全に関するストーリーを作りながらフォトブックを作成。そして3日目に、それぞれできあがったフォトブックを、専門家からのコメントなども取り入れながら参加者全員で協議・修正し、最終版を完成させた。
野生ヨウムはアフリカ熱帯林にのみ生息する鳥である、集団で生活する社会性鳥類である、人工繁殖が容易でない、ペットにされた1羽のヨウムの背後には数多くのヨウムの犠牲があることなど、正確な情報が流布されていないのが現状である。筆者は2015年から、
こうした情報を広めるために、ヨウムに関する日本人向けリーフレット(1) を作成し、AJF の協力を得て、動物園、ペットショップ、学生などに配布してきた。今後もこの改訂版を作成・配布したい。まずは、事実そして正確な事情を知ってもらうためだ。
保全教育を謳っている動物園には、このリーフレットなどを通じた実りのある教育普及活動を進めていただきたい。ヨウムを飼育している動物園では、敷地の限界などから、野生のように複数羽では飼えない、大きなケージで飼えないなどの限界があるであろう。しかも、ヨウムが賢いことを利用して、客寄せのための手段としてショーなどエンターテインメントに利用されているかもしれない。しかしそうした限定された条件であっても、何かできるはずであると確信する。むしろ、エンターテインメントを通じて、来園者の関心を引きつつ、その中に野生ヨウムの事情やその他の正確な情報を伝えることは不可能ではないので、そうした工夫がより一層、強く求められる。
毎年6月15日は、日本動物園水族館協会の奨励で「オウム・インコの日」が指定されており、オウム・インコ類を飼育する園館に、その保全教育活動を実施するよう通達している。ヨウムを保有していない動物園でも、ヨウムの仲間であるインコは飼育されている園は多く、インコとの関連でヨウムの保全教育をしてほしい。
さらに、鳥に関わる日本のNGO などとも連携し、こうした情報の流布をさらに強力に展開していかないとならない。すべては、野生ヨウムの地球上からの消滅を防ぐためである。
(1)http://www.ajf.gr.jp/lang_ja/forest-elephant/leaflet2015.pdf
※本稿は、広島市安佐動物公園の機関誌『すづくり』第45巻 第3号(pp.10-112016年7月1日)に掲載された記事「野生のヨウムは救われるのか」より転載し、執筆者が一部加筆・修正したものです。