講演会:アフリカでの日本の援助を考えましょう
Listening to Vicente Adriano about ProSAVANA in Mozambique
【富山でのアフリカに関わる取り組み その1】
『アフリカNOW』105号(2016年6月30日発行)掲載
執筆:村田 はるせ
むらた はるせ 保育士として勤務の後、青年海外協力隊に参加(ニジェール・保育士)。東京外国語大学地域文化研究科博士後期課程終了(博士(学術))。専門はアフリカ文学。富山県で一般向けアフリカ講座、アフリカを知るための読書会(クスクス読書会)を主宰。
私は2015年12月8日に富山県富山市で、モザンビーク最大の農民組織、全国農民連合(UNAC) の政策担当・国際連携担当のヴィセンテ・アドリアーノ(Vicent Adriano)さんを招き、日本政府がODA の一環として進めているプロサバンナ事業について話ししてもらった。開催のきっかけは、私が主宰するクスクス読書会でこの事業について取り上げたことだった。この読書会活動について説明し、手作りの講演会開催体験と参加者の感想を報告したい。
クスクス読書会の試み
私はアフリカ文学を専攻し、作品を読み解くためにアフリカの文化、歴史、政治、経済についてあれこれと勉強してきた。勉強するほどに、「これは知らなかった!」と思うことがたくさんあり、それらを誰かと共有するために、2012年5月に富山市でクスクス読書会を立ち上げ、月一回の例会を続けてきた。使う資料は一般向けの書籍、新聞記事などの出版物、映画などだ。AJF の会報『アフリカNOW』は大いに活用させてもらっている。毎回の参加人数は4〜5人だ。以前は、資料にあらかじめ目を通して参加してもらうようにしていたが、今では文字資料は当日輪読している。多忙で資料を読めずに来る人もいるし、そのほうが発言が活発になるからだ。
40回以上続いている会ではさまざまなテーマを取り上げてきた。初回で、映画「ホテル・ルワンダ」を取り上げたときは、「こんなに悲惨なことが起きるなんて、どうしたらいいのかわからない」という感想に対して、「どうしたらいいか考え続けることが大事では」という発言があった。『エイズとの闘い〜世界を変えた人々の声』(林達雄、岩波ブックレット、2005年)を取り上げたときは、「エイズの発症を抑える薬があるのに、特許のせいで価格が高く、薬を使えない人がいるなんて……」という悲痛な感想が出た。読書会の目的は答えや問題解決法を見出すことではない。アフリカに対して世界の企業や政府が行おうとしていることは、私たちに無関係ではありえないし、アフリカで起きていることを知り、想像することで私たち自身の問題もよく見えるようになると思う。会での発言はとても活発というわけではないが、年齢(30〜50 代)、職業がばらばらの人たちが集まって話ができる場は貴重だと言ってくれた人もいた。
モザンビークのプロサバンナ事業を取り上げたのは2014年11 月で、2013年10月発行の『アフリカNOW』No. 99 掲載の「特集:現地調査からプロサバンナ事業を問い直す」をみんなで読んだ。しかし内容はとても複雑で、私自身の勉強不足もあり、消化不良で終わってしまった。
講演会の準備
こうしたなか、2015年12月に日本を訪れたヴィセンテさんを一日だけ富山に招待し、講演してもらうことになった。準備を始めたのは10月頃からだった。費用を最小限に抑えるため、当日は私の家に宿泊してもらうことにした。日程上、私が富山市で開いているアフリカ出版の絵本を紹介する文化講座と重なってしまったので、講座の拡大版という形式し、一般参加を募ることにした。
問題は参加者をどう集めるかだった。まずはチラシを作り、知人・友人に声をかけることにした。チラシにはまず、「最大の問題点:住民に十分説明されず、協議もしていない」と書き、現地の農民が心配しているのは、(1)規模が大きく、影響がはかりしれない、(2)農業の大転換を引き起こす、(3)環境にマイナスの影響があるかも、という点だというふうにまとめた。このチラシを、ミニ・シアターに勤務する友人はお客さん一人ひとりに渡してくれた。
11月にはクスクス読書会で事前学習会も開いた。モザンビークの歴史、プロサバンナ事業の内容、問題点、事業実施地のナカラ回廊の経済開発との関係、現地での調査の結果、農民たちの声などを簡単に紹介・解説した。参考にした資料は、AJF などによる「プロサバンナ事業考察 概要と変遷、そしてNGO からの提言」(2014年)、『ProSAVANA 市民社会報告 現地調査に基づく提言』(2014年)、舩田クラーセンさやか「モザンビークにおける紛争解決の現状と教訓」(『紛争解決 アフリカの経験と展望』2010年)などだ。この資料は手直しをして講演会当日に会場でも配布した。
講演会と感想
講演会の内容について、私はヴィセンテさんにこのようにお願いしておいた。「富山県は農家が多いので、農業の話から始めると参加者にはわかりやすいです。そうしてからプロサバンナ事業のことを説明し、あなた方が懸念していることを話してください」。
2015年12月8日、ヴィセンテさんはついに富山に来てくれた。彼はスライド資料を用意してくれたので、あらかじめ資料の英文をすべて翻訳しておいた。ヴィセンテさんは地図を使ってモザンビークの位置と、事業が行われる北部のナカラ回廊の位置をわかりやすく示した後、写真でモザンビークの農法を紹介した。現地での肥料は、天然の材料をつき砕いて作ったものだった。森の樹木から採取した物質をプラスチックの小さな板に塗り、作物の間に立てて駆虫する方法もとられていた。モザンビークでは土地を疲弊させない持続可能な方法によって国内の食料が供給され、雇用も創出されているのだ。こうした内容に参加者は引きつけられていた。しかしUNAC が分析したところによると、プロサバンナ事業はこれとは相いれない農業を推進しようとしているという。しかし農民たちは十分な情報を与えられていないうえ、すでに土地を奪われたり、移住させられたりしている。またプロサバンナ事業に反対する人々に対する人権侵害も起きているという。
講演後に出た質問には、「土地から追い出された農民はどこにいくのですか、政府は農民に補償をしているのですか」というものがあった。答えは、当然農民は農業に適さない土地に行かされるのであり、政府は彼らを助けてはくれない、国内ではプロサバンナに批判的な講演をすること自体が危険なことだ、というものだった。この答えをモザンビーク人自身から聞いたことは、参加者にとって大きな衝撃だったろう。私も、相手国政府に非民主的な振る舞いをさせるような援助をする日本とは、民主的な国なのだろうかと思う。
講演には貴重な感想が多く寄せられた。まずは「日本の援助のあり方を考えさせられる時間」だったというものがあった。問題を身近に引きつけ、「結局は私たちが何を食べるか、何を消費するかという問題にたどりつく」と書いた人や、自身も農業をしていて、モザンビーク固有の農法に共感を寄せた人がいた。世界的に起きている同様の問題への対処のために「私たちは、どのようにつながっていくとよいのか?」と自問した人、「こういう風に草の根で思いを伝えることが、回り道のようでいて確実な方法かもしれない」と書いた人がいた。講演会に「関心がある人がいることに心強く思いました」というものもあった。参加者は25名だった。地元の新聞も後日記事を書いてくれた。大きなことはできないけれど、知ること、考えることはいま最も大切なことではと実感した体験だった。
最後にヴィセンテさんと、講演のためにさまざまな支援と協力をしてくださった方々に心から感謝を申し上げます。