アフリカ2008キャンペーンを通じて

Thinking about the Africa 2008 campaign

 

『アフリカNOW』82号(2008年10月31日発行)掲載

執筆:長島美紀
ながしま みき:政治学修士。2004年よりアフリカの草の根の人々の声を政策に反映させることを目指すシンクタンク系NGOのTICAD市民社会フォーラム(TCSF)の発足時の事務局員として参加。事務局長職を経て2007年度より理事としてアフリカ2008キャンペーンを担当した。現在は株式会社リズメディアに所属、コミュニケーション・プランナーとしてアーティストMISIAが設立した”CHILD AFRICA”の企画運営を担当。


アフリカ2008キャンペーン設立へ

「どうしてキャンペーンを?」とはアフリカ2008キャンペーンを担当していた間、しばしば聞かれた。特に、私が所属するTICAD市民社会フォーラム(TCSF)は、調査研究・政策提言を中心に活動をしている団体であるため、「なぜ?」というのはTCSFの理事からすらも聞かれた質問だった。
私たちにとって、このキャンペーンを行うきっかけになったのは、2005年にイギリスから始まった世界規模の貧困撲滅のためのキャンペーン”Global Call Action against Poverty (GCAP)”の展開と日本での「ほっとけない 世界のまずしさ」キャンペーンの存在だった。日本の著名人を巻き込んで販売した1本300円のホワイトバンドは約460万本売れ、貧困問題、さらには貧困状況が最も厳しいアフリカへの関心を生み出すことに成功した。TCSFは、このホワイトバンドブームをきっかけに何かアクションしようとした人々に向けて、イベントの開催を通じて、アフリカ支援への支持と理解が形成されることを目指して、本キャンペーンの開催を決定、2007年3月に活動をスタートさせた。キャンペーンでは特に、2008年5月に開催されるTICADⅣに向けて元気なアフリカを応援することに主眼が置かれた。  キャンペーン事務局はTCSF内に置かれたが、実行委員は大学の研究者や企業関係者、在京アフリカ大使、NGO関係者やジャーナリスト、国会議員など、多様な肩書きの方々で構成される賛同人にお願いして、半分TCSFから飛び出た形での運営形式を採用した。このことによって、一NGOにとどまらない幅広い展開を目指すことになった。

がんばるアフリカへのエール

アフリカ2008キャンペーンの設立にあたり、何度も確認されたのは「かわいそうなアフリカ」の救済を目的にしないことだった。アフリカの人々にしばしば言われたのは、「どうして日本のメディアは紛争や貧困など、アフリカのネガティブな面だけ紹介するのか」という言葉だった。誰だって「かわいそう」と言われたくはない。アフリカの伝統と誇りを力に、貧困や不正、紛争と戦い、未来を切り開くアフリカ民衆・市民の姿を紹介し、支援の輪を広げることをキャンペーンの目的しなければならない、と何度も繰り返し確認しあった。
この姿勢は、キャッチコピーの選定でも活かされた。「アフリカ主体のキャンペーン」をどのように表現するのか、このキャンペーンを通じて何を言いたいのか。「要するにアフリカの人の声を聞け、ということだよな」。その言葉通りのキャッチコピーが応募作品から採用され、言葉の力強さを表したロゴが作成された。

入口は広く、きっかけづくりを

アフリカ2008キャンペーンは、その目的が「アフリカを応援する」と漠然としたものであるように、特定のイシューや国・地域、個別事業を支援するものとして想定されていなかった。このキャンペーンの一番の目的はさまざまな人が自分にできる形で参加する、「入口」を提供することだったと思う。
これまでアフリカに関するイベントやキャンペーンは数多く展開されたが、どうしても特定の活動や地域を支援するものになったり、既にアフリカに関心がある人を対象にした専門的な企画になりやすい傾向があった。そこで、あえて専門的な用語や課題を提示せずに、駐日アフリカ大使とのコーヒーアワーや、写真展、小中学生・一般を対象にしたアフリカ・エッセイコンテスト、男子マラソン世界記録にリレー形式で挑戦するRun for Africaなどを開催、書くことや走るなど、普通の人も気軽に参加しやすいイベントを提案した。
まずは考えるきっかけを。あくまでも入口作りを心がけたおかげで、多くの人に参加してもらうことができたように思う。エッセイコンテストの小学生部門で最優秀賞を取った1年生の女の子は、コンテストへの応募をきっかけに、新聞のアフリカ関連の記事をスクラップするようになったそうだ。また、Run for Africaでも、これまでアフリカに関わったことがないさまざまな業種の方と一緒にイベントを作り上げることで、より幅広い層の方に関心を持ってもらうための仕組みを提供することができたと思う。
また、何かしたい、という人のためにはNGOアリーナの協力でキャンペーンへの寄付としてアフリカ支援に取り組む日本のNGOへ寄付される仕組みを提供するなど、具体的な受け皿を示すことで、よりわかりやすいキャンペーンを提唱できた。

今後の課題

アフリカ2008キャンペーンは、TICADⅣも終了し、残務処理も終わった今年7月に事業を終了させ、最終報告書を出した。事業を終わらせて振り返ると、課題も残っている。私自身にとって一番の課題は、より多くの人に参加してもらう入口作りに努めたとはいえ、より広く伝える、という点での限界を実感したことだった。初めてキャンペーン業務を企画・運営したために、団体や私自身にもノウハウがなかったこと、またイベント開催のための広告費の限界、より広く企業を巻き込んでイベントを展開するには至らなかったことも、キャンペーンの展開を制限することとなった。
とはいえ、TICADⅣをきっかけに、メディアでのアフリカの露出が増えたことや、企業のソーシャル・アクションとしてアフリカ支援の可能性が探られるようになったという、さらなる発展の萌芽が見えているのも確かだ。2005年のホワイトバンドキャンペーンで参加した著名人が再びアクションを起こす試みもある。私が現在所属している会社でも、所属するアーティストMISIAがアフリカ支援を組織的・継続的に行うために”CHILD AFRICA”を立ち上げた(mudef – Music Design Foundation –)。アフリカへの関心を高め、より多くの人にアクションをしてもらうために、今後も引き続き考えてみたいと思う。


アフリカ2008キャンペーン・イベント紹介

アフリカ・エッセイコンテスト 2008年1月より英国国際開発省(DFID)と英国大使館の助成と後援を受けて開催。後援は外務省、文部科学省、横浜市、横浜市教育委員会、国連開発計画(UNDP)、ほっとけない世界のまずしさ、など。最終的に応募総数は小学生部門356 件、中学生部門309件、高校生以上一般部門310 件で合計975件、19作品が受賞した。一般部門受賞者のうち、最優秀賞受賞者と英国大使賞受賞者には、エチオピア旅行がプレゼントされ、協力団体であるアフリカ理解プロジェクトと現地旅行代理店の協力でプログラムを立て、派遣した。
コンテスト詳細 http://www.africa2008.jp/essay.html
受賞作品 http://africaessay.blog.shinobi.jp/Entry/2/

Run for Africa スポーツを通じてアフリカに関心を持ってもらうために、TCSF主催、ほっとけない世界のまずしさと日刊スポーツ新聞社の共催で開催。2007 年のベルリン・マラソン大会で世界新を出したエチオピアのグレートランナー、ハイレ・ゲブラセラシエさんの協力のもと、彼のサイン入りTシャツの販売と彼が持つ世界記録2時間4分26秒に挑戦するイベントが開催された。イベントには小学生部門と一般部門合わせて総勢895名が参加。国際陸上連盟より1988年のソウルオリンピック銀メダリストで、日本での滞在経験もあるダグラス・ワキウリさんが派遣されたほか、在日アフリカ人のマラソン選手や国連人口基金(UNFPA)親善大使の有森裕子さん、ベナン出身のタレント、アドゴニー・ロロさんの参加もあった。
関連情報  www.africa2008.jp/runforafrica.html


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