TICADⅣの「成果」を検証する

Evaluation of the “product” of TICAD4

『アフリカNOW』82号(2008年10月31日発行)掲載

高木晶弘さんと冨田沓子さんに聞く 聞き手:小島美佐

たかぎ あきひろ:TNnet運営委員。オルタモンド事務局、モザンビークでの研究およびNGO活動の後、2007年4月、ほっとけない世界のまずしさの政策担当に着任。2008年G8サミットNGOフォーラムの貧困・開発ユニット事務局を担いつつ、国際協力NGOセンター(JANIC)に出向し、同フォーラム全体の事務局も担当。現在、CSOネットワーク・リサーチフェロー。

とみた とうこ:TNnet運営委員。ハンガー・フリー・ワールド(HFW)開発事業部職員。米国タフツ大学を卒業後3年半の間、デリーに本部を置く国際NGOグローバルマーチで児童労働撲滅キャンペーンに取り組む。2004年にトーゴに渡り、現地NGOで家事児童労働のプロジェクトの責任者を務める。2005年4月から現職。2008年G8サミットNGOフォーラムでも活動。

こじま みさ:AJF副代表理事。アフリカ雑貨店African Forestを経営。


- AJF副代表理事の小島美佐です。まずは冨田さんと高木さんがTICADⅣにどのように関わられたのかについて簡単に紹介をしてください。

 

冨田: 私が所属するハンガー・フリー・ワールド(HFW)は、2007年3月にTICADⅣ・NGOネットワーク(TNnet)が発足したときから参加していますが、2007年7月にTNnetの運営委員会が立ち上がったときに、高木さんと一緒に運営委員の一人になりました。TICAD Ⅳに向けて、2007年11月にはチュニジア・チュニスでTICADⅣ準備会合が、今年3月にはガボン・リーブルビルでTICAD Ⅳ閣僚級準備会議(以下、ガボン閣僚会議)が開催されましたが、私がアフリカのNGOで働いていたという経験があり、いずれの国も私が働いていたトーゴと同じくフランス語圏なので、両方の会合にTNnetの代表として参加しました。私自身はTNnetへの参加を通じて、アフリカと日本の市民社会をつなぐ役割を担おうと考えていました。

高木: 私は、TNnetの運営委員も務めていましたが、主要には2008年G8サミットNGOフォーラム(以下、NGO フォーラム)事務局の仕事を担っていたので、G8サミットに向けたNGOの動きとTICADⅣに向けたNGOの動きを調和させていくということを、私自身の主要なテーマにしていました。TICADⅣ本会合の前の4月7?8日にかけて、東京で第10回アフリカ・パートナーシップ・フォーラム(APF: Africa Partnership Forum)が開催されました。これは毎年春と秋に、G8サミット・プロセスの一環として行われているものなので、今年4月に東京でAPFが開催されたときには、私がNGO間の調整役を担当しました。またTICADⅣの終了後には、TICADⅣで提起されたさまざまな文章や宣言に対する評価・検証の作業も担っています。

 

- TICADⅣはかなり大規模な国際会議でしたが、準備プロセスから本会合にかけてどのような印象をもたれましたか。

冨田: 私も高木さんも、TICADに関わる活動は今回が初めてだったので、当初はどのくらいの規模の国際会議なのか、見当が付きませんでした。当初はTICAD Ⅳの参加者は1,000人くらいだと聞いていたのが、いつのまにか3,000人になり、最終的には、家族などの分も含めて5,000人くらいになったと聞いています。
私は以前トーゴでNGOの仕事に就いていたときから、児童労働などをテーマにした国際会議には参加してきましたが、TICADⅣはこれまで私が関わってきた国際会議とは、その空気や準備プロセス、やり方などが大きく違っていました。アフリカ開発の重要性を議論する場としてTICADⅣに意義があっても、日本政府がTICADⅣを通じていったい何をしたいのだろうかというつかみどころのなさは、一貫して感じていました。
その一方で、アフリカの市民社会の能力の高さや、アフリカの政府関係者が雄弁であることも印象的でしたね。TICADⅣの本会合も形式的なお祭り騒ぎで終わってしまったのかもしれませんが、その中でも市民社会、特にアフリカの市民社会の人たちと一緒に活動できたということは、とてもよかったと実感しています。

高木: 4回目になる今回のTICADⅣは、TICADの成果は何なのか、TICADの存在意義は何なのかということが具体的に問われていたと思います。TICADⅣで意味のあることがなされないのであれば、もうTICADという枠組み自体が誰からも見捨てられてしまうことになってしまう。そしてそのことは、日本政府にとってはともかく、市民社会としてアフリカの開発を考えたときに望ましいことではないでしょう。TICADⅣで少しでもよい成果が出されるようにするために、NGOとして何ができるのかということを考えて活動してきました。

- TICADⅣでは「元気なアフリカ」(Vibrant Africa)と銘打って、経済成長ということがひとつのキーワードになっていました。経済成長は開発・発展の可能性の一方で、経済格差や環境破壊をもたらすなどの弊害についてもよく指摘されていますが、TICADⅣではアフリカの経済成長に関して具体的にどのような議論がなされていたのでしょうか。

高木: 日本政府が「元気なアフリカ」というとき、それは「経済成長をしているアフリカ」を意味していたと思います。実際にアフリカの経済成長というテーマはTICADⅣの最重要議題でしたし、アフリカの経済成長のためにはODAや円借款だけでなく、民間の直接投資を増やすことがカギになるということが強調され、「横浜行動計画」(1)では、2008年から2012年までにアフリカへの民間の直接投資を倍増させるということも述べられています。また、TICADⅣのサイドイベントでも、日本にはビジネスの話をするために来たという雰囲気の人が多いという印象を受け、NGOの立場からすると居心地の悪さを感じましたね。
一方で私たちは、経済成長がアフリカの人々の開発につながるものでなくてはならないと、主張してきました。インフラを整備するといっても誰のためのインフラなのか、農村部から市場までのアクセスを容易にするためのインフラ整備のように、人々のためになるものであることが求められます。さらに、大規模なインフラ整備のために円借款が増額されることに対して、それが債務の増額をもたらすのではないかという懸念が、アフリカと日本のNGOでも共有されていました。また、ガバナンスの問題を抱える国家にビジネスベースでインフラ整備のために巨額の資金が流入されるということは、ガバナンスの問題をさらに悪化させることにもなりかねないという問題もあります。

冨田: 「元気なアフリカ」といったときに、一体誰が「元気」になるのかという点は、最後まで明らかになりませんでした。まだ民主化の進んでいない国家が「元気」になるといったときに、一体誰が「元気」になるのでしょうか。経済成長で得た果実を誰に届けるべきなのかという点については、ほとんど明らかにされていません。私たちは、誰のための、何のための経済成長なのかという目的を明確にしたうえで指針を出すべきだと主張してきたのですが、TICADⅣにおいては、経済成長の実現と国連ミレニアム開発目標(MDGs)の達成ということはかみ合って提起されませんでした。

- TICAD Ⅳでは、「横浜行動計画」や「横浜宣言」などいくつかの成果文書が公表されていますが、これらの成果文章についてはどのように評価されますか。

冨田: 私はガボン閣僚会議に参加しましたが、そののときに始めて「横浜行動計画」の骨子が発表されました。このとき日本政府は、『横浜行動計画』はこれから具体化していくものであると説明していましたが、それにしてもこの概要は「行動計画」と呼べるだけの内容をそなえたものではありませんでした。MDGsに関する新しいコミットメントは出されていない上に、国際公約という点からすると後退ではないかと思われるような表現もありました。誰が、いつ、どのようにして、何のために資金を出すのかということがまったく明らかにされていなかったのです。
ガボン閣僚会議のすぐ後に「TICADⅣ(第4回アフリカ開発会議)『横浜宣言』及び『行動計画』に対する市民社会からの緊急要望」(2)を提出しました。『横浜行動計画』の「パートナーシップの拡大」という項目で「市民社会との協調の強化」という一文は入っていますが、それ以外の箇所で『横浜宣言』や『横浜行動計画」にこの「緊急要望」がどのように反映されたのかははっきりしていません。

高木: 「横浜行動計画」と「横浜行動計画 別表」は、国際的な目標とされているものに対してそれをどうやって達成するのか、そのために日本がどのように貢献するのかということを明記した「行動計画」になっていない。日本政府として何をするのかということが国際的な目標とは別個に「独自路線」として書かれているだけでしかありません。

冨田: 「横浜行動計画 別表」の「教育」の項目では、「小中学校1,000校を建設」ということが今後5年間の行動計画になっていますが、これはアフリカ各国で1年間に4校程度の小中学校を建設することにしかならず、国際公約としてはかなり貧弱なものでしかないと思います。さらに、教育におけるEFA/FTI(3)について『横浜行動計画 別表』では、世界銀行をリソース組織にして「EFA・FTI(中略)を通じて初等教育機会を拡大」と記載されていますが、日本政府としてEFA/FTI達成のためにどのように寄与するのかという記載は見受けられません。

- TICADⅣでは「人間の安全保障の確立」も議題になっていましたね。

高木: 日本政府の議題設定では「人間の安全保障の確立」という枠組みの中で、「MDGs達成?コミュニティー開発、保健、教育」と「平和の定着とグッドガバナンス?平和の定着・人道復興支援、紛争予防、ガバナンス・民主化支援」ということが取りあげられていました。
ただしTICADⅣでは、平和の定着や民主化について真正面からの議論はしなかったのではないでしょうか。今年に入ってからも、ケニアでの大統領選挙を契機とした暴動や南アフリカでのジンバブウェなどからの移民に対する大規模な暴力事件などが起きており、アフリカの中では経済的に発展しているといわれる国において、平和の定着や民主化という課題を軽視したままで経済成長が達成されても、社会的な混乱や不安は解消されないということがはっきりしてきたと思います。実際にTICADⅣに参加したアフリカのNGOからは、民主化を抜きにして開発を語ることはできないという発言がなされていました。それにもかかわらずTICADⅣでは、これらの課題について正面からの議論は行われませんでした。

冨田: 民主化についての議論がなされなかったということは、日本政府が主催者になっているTICADの限界を示していると思います。これらの課題について、アフリカの中でできれば取り組みたくないという政府がある以上、日本政府は「みんなが賛成できないことには取り組めない」という態度をとるでしょう。TICADのような会議でもこれらの課題についてもきちんと議論されるようになるためには、市民社会が参加してその発言に力があることが求められますが、こうした現状をもたらしたことは、TICADという枠組みのもろさを表しているとも言えるでしょう。

- TICADⅣにおける農業・農村開発や食料問題の議論については、どのように評価されますか。

冨田: TICADⅣだけでなく、その後6月3?5日にローマで開催された食料サミットでも、アフリカ各国の代表は、食料価格の高騰や食料危機についてかなりの危機意識をもって何度も繰り返してスピーチをしていました。しかし、TICADⅣはこうした危機意識に応えるものにはまったくなっていませんでした。「横浜行動計画 別表」で書かれている日本政府からの「2008年5月?7月に、1億ドル規模の緊急食糧援助(うち相当部分をアフリカ向け)を実施」という援助額は必要額にはほど遠く、農業支援についてはネリカ米の普及に偏っていて、アフリカ食文化や食料体系を考慮した包括的な支援策が提起されているとは言えません。

高木: アフリカの経済規模は、全世界のGDPの2%程度を占めるものでしかありませんが、食料価格や石油価格の高騰がアフリカにおよぼした影響を見ても、アフリカの経済が世界経済に組み込まれていることによって相当の打撃を受けていることは間違いありません。こうした現実にもかかわらず、TICADⅣでアフリカの経済成長が語られるときには、世界経済のリスクに対してどのように対処するのか、そのためにはどのような政策が必要なのかといった議論はまったく見受けられませんでした。最近の原油価格の高騰は、アメリカのサブプライム・ローンの破綻によって行き場を失った投機資金が大量に石油市場に流入したことが主要因になっていて、アフリカの人々には何の関係もないところで一方的に価格がつり上がって、危機を招いているにもかかわらず、先進国の側は誰も責任をとろうとしていないのです。

- TICAD Ⅳにおける気候変動の議論については、どのように評価されますか。

高木: アフリカの開発にとって気候変動対策が、いかにCO2排出量を削減するのかということに重点があるのではなく、気候変動による負の影響力をどのようにして最小限にするのかというものであることは明らかだと思います。ところがTICADⅣでは、そうした議論があまりなされませんでした。なぜそのようなことになったのかを考えると、日本政府にとって気候変動の議論は、開発の問題ではなく外交の手段であったからではないでしょうか。日本政府は、ポスト京都議定書の枠組みで、途上国もCO2排出量削減の義務を負っている、途上国も自国のCO2排出量削減に賛同しているということをTICADⅣの場で言わせたかったのです。そして、途上国がこうした日本政府の主張に賛同することと引き換えに資金援助をするということが、「横浜宣言」や「横浜行動計画」で言及されている「クールアース・パートナーシップ」ということではないでしょうか。

冨田: 「横浜宣言」では「100億ドル規模の資金メカニズムを含む『クールアース・パートナーシップ』を立ち上げる」と銘打っていますが、一方、「横浜行動計画 別表」では「(外務省)がクールアース・パートナーシップの一環として9,210万ドルの資金を提供する」と書かれているだけです。すなわち、現時点で 実際にアフリカへの資金供与を約束したのは、100億ドルの1%にも満たない額でしかないということになります。

- TICADⅣでは、TICADフォローアップ・メカニズムについても成果文章が出されていますね。

高木: TICADフォローアップ・メカニズムについて説明した文章は、他の成果文章にくらべてもごく短いもので、市民社会については「TICAD相談窓口を設け、市民社会との対話も可能にする」と書かれているだけです。TICADⅣの大きな特徴にひとつとして、これまでのように5年に一度の大きな会議を打ち上げるだけでなく、TICADプロセス・モニタリング合同委員会とTICADフォローアップ会合を毎年開催することを原則にしています。また「横浜宣言」では、「参加者は、TICADプロセスにおけるアフリカ、日本及び国際的な市民社会の積極的な関与を確認し」と書かれているにもかかわらず、実際には市民社会はTICADフォローアップ・メカニズムの当事者として認められていません。
外務省は、NGOや市民社会組織(CSO)が『横浜行動計画』のステークホルダーになっていないという理由で、NGOやCSOはTICADフォローアップ・メカニズムの当事者に相当しないと主張しています。5年後のTICADⅤは、『横浜行動計画』がどこまで達成されたのかを評価する会議にもなるので、これから5年の間にNGOやCSOがTICADフォローアップ・メカニズムに関与できないということになると、市民社会はTICADという場から退場していくしかないということになってしまいかねません。

冨田: TICADⅣ終了後の6月27日に開催されたTICAD外務省・NGO定期協議会(以下、定期協議会)の場で外務省は、TICADへのNGOの参加について「後退していない」と言っていました。しかし、TICADフォローアップ・メカニズムの第三段階として(原則)毎年開催されるTICADフォローアップ会合においてTICADⅤが準備されていくことが決まっているにもかかわらず、この会合に最初から市民社会の参加を想定していないということは、これまでTICAD地域準備会合や閣僚級準備会議に市民社会が参加してきたという実績からしても、明らかに「後退」でしかない。それを「後退していない」と言われてしまうと、考えていることがまったく違っているとしか言いようがありません。
定期協議会の場では、TICADフォローアップ・メカニズムへの市民社会の参加についてかなり突っ込んで要求してきましたが、外務省からまともな回答はありませんでした。TICADフォローアップ・メカニズムに市民社会が参加することは、私たちが何度も繰り返して言ってきたからだけでなく、何よりもアフリカの市民社会がTICADフォローアップに関わっていく場を確保するためにも重要だと考えています。

- TICADⅣ本会合の直前に起きたNGO参加者へのパスの発行枚数をめぐる問題(4)もNGOや市民社会を軽視していることの現れでしょう。では次に、7月に日本で開催された今年の北海道洞爺湖G8サミット(以下、G8サミット)の関係についてお聞きします。日本政府は自ら「TICADⅣの成果を北海道・洞爺湖G8サミットへ」と公言していましたが、実際はどのようなものだったのでしょうか。

冨田: その点について、TICADⅣの後(G8サミットの前)の定期協議会でどうやって実現するのかを尋ねました。しかし、外務省からは具体性のある回答はまったく返ってきませんでした。また、TICADⅣが開催されたことでG8サミットにおいてアフリカ関連議題が今までよりも注目を集めたり、より強いコミットメントがなされたかというと、そうしたこともまったくありませんでした。2005年のグレンイーグルスG8サミットにおける『G8アフリカ行動計画』のように、アフリカ支援についてのロードマップが示されたり、食料・原油価格高騰という危機的な現状に対して、それに見合ったコミットメントがなされるといったこともありませんでした。むしろ、TICADⅣが開催されたことで、G8サミットにおけるアフリカ関連の議論が盛り上がらなかったとすら言えるかもしれません。

高木: 私たちは、日本政府がG8サミットの議長国として他のG8諸国に対して、アフリカ開発のためのリーダーシップをとることを主張していましたが、最終的に日本政府は、自らが行うことを公表しただけに終わってしまいましたね。他のG8諸国にしても、2005年のグレンイーグルスG8サミットにおける「G8諸国が2010年までにアフリカ支援額を250億ドル増やして2004年実績から倍増させるほか、ODA全体では500億ドル追加する」という国際公約すらも達成できるかどうかわからない、既存の約束を守るだけで精一杯という状態でした。  またTICADⅣ開会に向けた福田総理(当時)の演説(5)では、「日本のアフリカ向けODAを漸次増加し、5年後、2012年までに倍増する」ことが約束されました。さらにこの演説では、「無償援助・技術協力についても倍増する」「アフリカの債務問題に対して、国際社会と協調しつつ対応」することも述べられています。また、G8サミットでの議長会見記録の質疑応答(6)では、2005年G8サミットでの小泉元首相のODA倍増表明(7)に言及して「2007年までの3年間で、対アフリカODAを倍増する(中略)ことを発表している」と答えています。一方で小泉元首相の場合は、結局は債務帳消し分を無償資金供与分に繰り入れて、それをODA増額分にして、目標を達成したと言っていました。こうしたやり方について、国際的にも批判の声が強く、そのために今回わざわざアフリカの債務問題に言及したのでしょう。その一方で、アフリカの開発をどのように進めるのか、日本政府がODAを通じて何をしたいのかという議論がないままに、ともかく「アフリカのODAを倍増する」ことだけが語られていることにも不満を覚えています。また、いたずらに円借款が増えて債務が増大するようなことになるのではないかという心配もあります。

- TICADⅣでは野口英世アフリカ賞の贈呈やU2のボノの来日など、メディアに取り上げられる要素も多かったと思います。TICAD Ⅳについてのメディアの対応についてはどのように評価されますか。

冨田: 私自身は、2003年のTICADⅢには関わっていませんでしたが、そのときと比べてもTICADⅣについてのメディアの報道の量は驚くくらい増えているようですね。そのためか、TICADⅣに関わる市民社会の動きについてもよく報道されていたと思います。また、アフリカのNGOと日本のNGOが連携してアフリカのNGOの声を届けることを中心にして活動していたことも、メディアで注目されていました。アフリカから来日したNGOメンバーの取材が相次ぎ、コーディネータや通訳として私もさまざまな場所に同行しました。横浜で開催されたアフリカン・フェスタ2008でのTICADトークショーも、メディアで取り上げられていましたね。また、アフリカのメディアの来日取材もあり、アフリカン・フェスタ2008ではセネガルのテレビ局が各ブースを回って取材、私自身もインタビューされました。

高木: 日本の特にマスメディアは、横並びの報道をすることが多く、福田首相が述べた対アフリカODA倍増計画についても、同じような内容の記事ばかりでしたね。この政策がアフリカの開発にとってどのような意味をもつのかということをきちんと調べて書かれた記事は少なかったし、実際にそうすることもなかなか大変でしょう。そうしたときにNGOがメディアに対しても政策の背景や評価についてきちんと説明しないと、政府の役人が公表したものとほとんど同じ内容の記事しか出ないことになってしまう。その点が、NGOにとっては今後の課題になると思います。

- 最後に、TICADに向けた今後の取り組みなどについて、話してください。

高木: TNnetには、アドボカシー活動をしているNGOだけでなく、アフリカの現場で活動しているNGOも多く参加しているので、個別の政策を詳細に検証するという点では困難もありました。それでも、アフリカのNGOと一緒に、TICADⅣに向けた政策アドボカシーをしっかりとするところまで至ったことはとてもよかったと思います。TNnetの活動は、TICADプロセスを学習するということから始まりましたが、昨年まではTNnetの中でも、政策アドボカシーまで行うネットワークなのかどうかについて、合意がとれていませんでした。今後は、TNnetの活動を契機にして、日本のNGOがアフリカの開発にもっとコミットメントできるためのネットワークをつくることが求められていると考えています。

冨田: 私は、TNnetでアフリカのNGOや市民社会と一緒に活動できたことが最もよかったと思います。アフリカのNGOとは政策の議論を一緒に行っただけでなく、アフリカ市民委員会(C-CfA)議長のグスターブ・アサーさんが、TICADⅣ本会合の1ヶ月以上前から日本に滞在したことがとても有意義だったと実感しています。
TICADフォローアップ・メカニズムができたということは、TICADⅤが確実に開催されることを示しています。そのために日本の市民社会も、TICADフォローアップ・メカニズムをきちんと監視していくための体制を整えていく必要がありますね。
TNnetに最初に参加したときには、市民社会の参加を促すという点には賛同していても、その後ここまで政策の議論を行うことは予測していませんでした。TNnetの活動は第一期と第二期で分けられ、第一期の活動では主要に、TICADⅣへの市民社会の参加賛同を促すということを重点にしてきました。そのなかで例えばMDGsについても、自分たちで具体性をもって提言するということをしなくてはならないという議論になり、第二期への転換を果たしました。きちんとした政策議論がネットワーク組織のTNnetでもできたので、TNnetの参加団体も増えましたし、TNnetには参加していなくてもNGOフォーラムに参加している団体も一緒に活動するなど、柔軟に活動できたと考えています。

2008年8月6日
ハンガー・フリー・ワールド事務所にて

 

【注】 (1) TICAD Ⅳでは外務省から「横浜宣言」、「横浜行動計画」および「横浜行動計画 別表」、「TICADフォローアップ・メカニズム」、「TICADフォローアップ・メカニズム」、「TICAD支援策」といった成果文章が2008年5月30日付けで公表されている。これらの成果文章については、外務省のウェブサイトからダウンロードすることができる。
日本語 http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/ticad/index_tc4.html
英語・仏語 http://www.mofa.go.jp/region/africa/ticad/ticad4/doc/index.html

(2) http://www.ticad-csf.net/TNnet/press-release.html

(3) EFA(Education for All)は「万人のための教育」と訳され、現在ではMDGsに基づき、2015年までに世界中のすべての人たちが初等教育を受けられるための環境を整備しようとする取り組みを指す。2000年4月にセネガル・ダカールにおいて開催された世界教育フォーラムでは、討議結果が「ダカール行動枠組み(Dakar Framework for Action)」として採択され、6つの目標が掲げられている。
出典:文部科学省ウェブサイト http://www.mext.go.jp/unesco/004/003.htm

FTI(Fast Track Initiative)=ファスト・トラック・イニシアティブは、MDGsのひとつである「2015年までの初等教育の完全普及」の達成に向けた取り組みとして、2002年4月に世界銀行の主導で設立された。FTIの設立は、2001年のG8ジェノバ・サミットの後に結成されたG8教育タスク・フォースの提言を受けたものであり、またMDGs達成に向けた途上国側の政策整備などの改革努力に対して、ドナーも追加的支援で応えるとする2002年のモンテレー合意を具現化する取り組みとしても位置づけられている。
出展:外務省ウェブサイト http://www.mofa.go.jp/Mofaj/Gaiko/oda/bunya/education/initiative.html

(4) TICADⅣの参加者パスは、それまでのTICADと異なり、会場に入るためのIDパス(事前登録。名前・顔写真入り)と会場内のパス・ゲートを超えて会議場に入るためのアクセスパス(使い回し可能)の二本立てになった。TNnetが取りまとめたTICADⅣへのIDパス登録者数は、5月16日時点で合計84名(日本のNGO関係者=63名、アフリカのNGO関係者=15名、国際NGOの関係者=6名)であったが、同日に外務省からTNnetの事務局に電話で、この全員に対して、全体会議場へのアクセスパスは3枚、分科会へのアクセスバスは2枚x4分科会分しか発給できないという連絡があった。この通達に対して、TNnetでは5月20日に「① 日本のNGOについてはTICADⅢのときと同様のアクセスパス10枚の確保、② アフリカのNGOと国際NGOからの参加者については全員へのアクセスパスの発行」を求める緊急要望書を提出した。http://www.ticad-csf.net/TNnet/yobosho05.html

(5) http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/enzetsu/20/efuk_0528.html

(6) http://www.kantei.go.jp/jp/hukudaspeech/2008/07/09kaiken.html

(7) http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/africa/hyokei_0506msg.html


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