NGO ‘Ambato FY’ の活動に触れて
Support to a women’s cooperative in Central Madagascar- Field visit to a NGO Ambato FY
『アフリカNOW』110号(2018年3月31日発行)掲載
執筆:甲斐田きよみ
かいだ きよみ:名古屋大学大学院国際開発研究科博士後期課程満期退学。博士(国際開発学)。2016年4月より文京学院大学外国語学部助教。専門はジェンダーと開発。青年海外協力隊員(ニジェール)、国連ボランティア(レソト)、JICA 専門家(ナイジェリア)として、アフリカで女性の経済活動・エンパワーメント支援に取り組む。
首都から11時間の道のり
マダガスカルの首都アンタナナリボから、中央高地を縦断する国道を車で南に向かいました。舗装されているものの道幅は狭く、大きめの対向車が猛スピードで走ってくると怖く感じるほどでした。いくつかの町を抜けて、10時間ほど走るとフィアナランツアという町に着きます。アンタナナリボを朝に出発しても、フィアナランツアに到着する頃には夜になります。フィアナランツアに1泊し、翌日、未舗装の道を更に1 時間ほど走るとタインダンボ市Commune(Commune)があります。
山の斜面に棚田や3階建ての住居が点在しています。このあたりはベティレオと呼ばれる人々が稲作を生業として暮しています。二期作が可能な気候で、9月に田植えをして12月に収穫、1月に田植えをして4月に収穫できますが、2〜3月の台風の季節に収穫前のイネがダメージを受けるリスクがあるため、1年に1回だけ、11月から2月頃に稲作を行う人が多いようです。収穫したコメは1年間の自家消費用に保存するわけではなく、当面食べる分を残して、残りは売って現金に換えます。コメが市場に出回る時期に売るため安くしか売れず、自家消費用がなくなるころには市場のコメは高くて買えなくなるという悪循環になります。コメのほかに、野菜や果実の余剰があれば売ることもありますが、現金を得る機会は男女ともに限られています。
タインダンボ市の中心から更に進むとアンバラサルチャという集落があります。そこでは住民による生活改善活動が行われ、その活動を支援しようと2015年に現地NGO が設立されました。NGO の代表の家族は、昔このあたりを治めていた王族の末裔で、代表の両親は様々な形で周辺の住民を支援していました。例えば、集落の子どもたちが市の中心部の学校まで通えないため、小さな学校を建てて自分で教えたり、困っている村人に作物の種や家畜を与え、増やして半分返還するように促してきました。このような取り組みは、息子がNGO として引き継ぐようになりました。
このNGO の名前はAmbato FY で、櫻井文さんという日本人も関わっています。櫻井さんは、もともとNGO の代表と友人で、NGO の設立時からアドバイザーを務めています。櫻井さんは青年海外協力隊の看護師としてマダガスカルの北部で活動していましたが、協力隊の活動終了後もマダガスカルとの関わりを続けています。
女性組合「乾くことのない湧き水」
このような集落で、女性たちが自分たちの暮らしを良くしようと、女性組合が作られました。代表のシャンタルさんは郡(district) の栄養局職員で、副代表、会計2名、書記2名、アドバイザー4名を中心として、現在165名の女性会員がいます。女性組合の名前は「ルアラノ・ティリチャ」。マダガスカル語で「乾くことのない湧き水」という意味です。シャンタルさんは、「女性の権利を守る目的で女性組合を作りました。グループにすることで、家庭内の問題、例えば子どもをどうしつけるか、ドメスティック・バイオレンスにどう対応するかを、皆で話し合うことができます」と言います。女性組合では現在、お葬式の費用の相互扶助とクリニックの設立に向けた活動を行っています。
現在の最優先課題として、シャンタルさんはクリニック開設をあげました。シャンタルさんは、「この集落では市の中心部にある一番近いクリニックまで歩いて1時間半かかります。そのクリニックで診療できないような症状であれば、フィアナランツアの町までさらにタクシーで行かなければなりません。そのため助からないこともあります。クリニックがないことによる一番の被害者は、出産をする女性と子どもたちです。助かる命が助からなかったことがあるので、自分たちでクリニックを集落に作りたいのです」と言います。現地では生きている人間のタクシー料金と、遺体を運ぶ際のタクシー料金が異なるそうです。遺体をタクシーに乗せる際は高い料金を払わなければならないため、町の病院で治療していても、もう助からないと思うと治療を中断して、生きているうちにタクシーで集落まで戻り、家で看取るそうです。
女性組合員が増えたきっかけ
マダガスカルではお葬式を盛大に行い、参加者に料理を振る舞いますが、その費用は大きな負担となっています。この地域では人々の収入は年間で3万6千円くらいです。女性組合では、組合員の夫か子どもが亡くなった際に、30,000アリアリ( 約1,200円)とコメを100カップ、夫か子どもが病気になった時には10,000アリアリ(約400円) を組合員に与えています。組合員の誰かの夫や子どもが亡くなると、組合員が一人200アリアリとコメ1カップを持ち寄って、この金額とコメを集めますが、それだけあれば、お葬式ができる金額とコメになります。
このシステムが評判を呼び、組合員はどんどん増えたそうです。組合では、会費として1ヵ月200アリアリと1年間でコメを5カップ徴収しています。1年分の会費を先に払う人もいます。お葬式の費用が家計を圧迫するなら、お葬式の規模を小さくすればいいのではないかと思いますが、彼らにとっては、大切なお葬式の形式はそのままで、そのために必要な費用の捻出方法を考え出すことが大事なのかもしれません。
クリニックを開設したい
この会費を元手に、女性組合では、集落にクリニックを開設することを目指しています。組合費を貯めて、自分たちでレンガや必要な材料を買い、労賃を払って、ようやく建物が形になってきました。レンガの組み立ては自分たちで、他の部分は職人を雇って建てました。
タインダンボ市の市長がトタン屋根を寄贈してくれましたが、わらぶき屋根だった部分はサイクロンで吹き飛んでしまいました。また、完成したら議員が家具類を揃えてくれると約束しています。シャンタルさんは、「2月の台風の時期が来る前に、なんとかドアや外壁を仕上げたい。そして将来は、クリニックができあがって、この集落で研修を受けた保健ボランティアが活動し、保健局から薬を貰って配れるようになることを目指したい。そうすれば出産の途中で死んでしまう女性が減り、子どもの病気がよくなるから」と言います。
Ambato FY アドバイザーの櫻井さんは、「この集落の女性たちは、私たちがNGO を設立する以前から、自分たちで会議をして、クリニックを作ると決めてレンガを集めて作っていた。それを知って、積極的ですごい、自分も何か手伝おうと思った」と言います。この日は、クリニック開設に向けて、あと何の材料がどのくらい必要で、いくらになるのかについて、女性組合の中心メンバーたちが話し合いました。どの材料の単価がいくらで、必要な量はどれくらいで、合計いくらになるのか、何度も計算し直して見積書を完成させました。
女性たちのお財布事情
上手に見積書を作成し、計算も早い女性たちは、普段からお金の計算をすることが多いのでしょうか? 女性組合員にお財布事情を聞いてみました。彼女たちが現金を得られる機会として、自分たちが家族で育てたコメや野菜を売ること、お祭りの際にジュースや食べ物を作って売ること、Pengy という水草で編んだカゴを売ることが挙げられました。また、街に働きに出ている子どもがいれば、子どもからの送金もあります。
女性は自分で編んだカゴの売り上げは自分自身のお金として管理します。お金は子どもの教育費や子どもに必要なものなど、家族のために使います。自分自身のもの、例えば自分の口紅を買うときも、自身のお金で買いますが、その際は夫に「自分で口紅を買った」と言うそうです。女性が自身のお金を使うのですから、わざわざ言わなくても良いのではと思うのですが、夫が「誰に買ってもらったのか」と誤解するのを防ぐためだそうです。
Ambato FY について
Ambato FY では、クリニックの建設支援以外に、竹の植林と魚の養殖を行っています。植林は、町で買ってきた竹の苗をイベントの日を設けて植えました。2016年11月のイベントでは400本ほど植えています。NGO メンバーの女性が植林の研修を事前に受けており、集落の人々に植え方を教えました。将来は竹を使った工芸品や炭を作っていくそうです。養殖は集落にある田んぼに水を張って、ティラピアを育てています。ティラピアは大きいもので3kg になり、貴重なタンパク源になります。年に1回の魚祭りのイベントで養殖した魚を売ります。また養殖の方法を学んで、各自の家でも養殖しています。
櫻井さんは首都のアンタナナリボと北部のマジュンガ、このタインダンボと、広いマダガスカルの中を移動しながら活動しています。アンタナナリボからタインダンボまでは遠く、また道路状況も悪く、道幅の狭い山道を通るので、移動するのはかなり大変です。櫻井さんに活動を続けられるモチベーションを聞くと、「タインダンボの現地の人たちが自分たちの生活をよくしようというやる気が高く、それを見ていて、自分もできることをがんばりたい」という答えが返ってきました。今後の活動については、「ゆっくりと、とりあえずクリニックを完成させたい。日本人にマダガスカルの現状を伝えたり、他の地域での取り組み例をタインダンボで活用したり、自分が日本人として行き来していることで成果を出せたらいいと思う」と話してくれました。
少しでも良い生活になるようがんばる女性たちと、それを支援するAmbato FY の活動を遠くから応援し、またこの地を訪問したいと思いました。このNGO の活動に関心を持たれた方は、下記のFacebook をご覧ください。
NGO ‘Ambato FY’ 櫻井文 https://www.facebook.com/Ambatofy/