対外援助の減額で資金不足に悩むグローバルファンド

第53回理事会、実施案件の減額・見直しについて討議

理事会で示された、援助資金不足のHIVへの極端な影響

途上国のエイズ・結核・マラリア対策や保健システムに資金を供給する国際機関グローバルファンド(世界エイズ・結核・マラリア対策基金)の第8次増資は180億ドルを目標に現在進行中であるが、ここで集められた資金は27-29年の3年間で行われる「第8次グラントサイクル」の事業に用いられる。現在、各国で展開されている事業の殆どは「第7次グラントサイクル」の事業で、その期間は2024-26年、資金は2022年に行われた「第7次増資」で誓約された資金が活用されている。しかし、米国トランプ政権による援助停止や、一部ドナー国の援助削減等の影響で、第7次増資で各国が行った誓約通りに資金が入って来ないことが明白になりつつある。この大規模な資金不足に対応するため、5月に開催された第53回理事会では、資金不足に対応した案件の減額と優先順位の見直しについて討議された。各国は、エイズ・結核・マラリア対策や保健システム強化において、予定していた事業規模を大幅に縮小されることを余儀なくされつつある。

第7次グラント・サイクルでの大幅な資金不足

2022年に行われたグローバルファンドの第7次増資では、目標の180億ドルには届かなかったものの、史上最高額の合計157億ドルが誓約された。これは、他の国際保健に関する資金拠出機関と比較しても史上最大の金額である。ところが、トランプ政権の発足とほぼ同時にほぼすべての対外援助を停止した米国を筆頭に、多くのドナー国が予定通りに資金拠出を行っておらず、5月現在、第7次増資で誓約された資金の中でグローバルファンドに支払われていない金額は全体の43%、68億ドルに上る。このうち41億ドルが米国の未払い額だが、それ以外に、カナダ4億ドル、フランス7.4億ドル、ドイツ2.8億ドル、英国1.7億ドル、日本1.4億ドルなど、米国のみならず、主要ドナー国が支払いを完了できていないことが資金不足の原因となっている。グローバルファンド事務局は、この資金不足のうち11億ドル分は資金の効率的な使用や倹約で抑制できるものの、57億ドル(全体の36%)もの資金不足が生じるとしている。

グローバルファンドは第7次グラントサイクルに関して、4月現在までに241案件を承認し、これらは事業実施の段階に入っている。割合で言えば、国に拠出する案件の95%、革新的な案件に拠出する「マッチングファンド」については94%が承認済み、一方、複数国を対象とする案件については、審査に時間がかかることもあり、74%しか承認されていない。金額的には、124.5億ドル分の資金供与が承認されたことになる。残念ながら、各国からグローバルファンドに拠出された金額は今のところ79億ドルにとどまっており、案件の減額と優先順位の再設定が必要とされている。

減額と優先順位の再設定:第53回理事会での討議

米国の援助停止などを踏まえ、グローバルファンドは5月の理事会より前の段階で、事業案件の主要資金受領団体(Principal Recipient)等に対して、設備投資、機材、研修や会議・出版、調査・研究、一部のプログラム管理、およびその他の不要不急の事項については資金を使わないように勧告する書簡を送り、説明会なども開催していた。5月の理事会では、各国の実施案件の資金減額と、減額に合わせた事業案件の整理における優先事項の見直しについての説明と討議が行われた。事務局から示された内容は凡そ次の通りであった。

<減額・見直しのスケジュール>
◎6月中旬までに、各国の国別調整メカニズム(CCM)と主要資金受領団体(PR)に対して、案件に関する新たな金額が提示される。
◎6月末までにCCMは金額をレビューし確認する。6月から9月までの間に、CCM、PR、グローバルファンドの三者で案件文書の改定について検討し、9月末までに案件の修正が完了する。

<案件見直しにおける優先事項>
◎案件見直しの優先順位は疾患によって異なるが、「命を守る」ことが最優先とされる。
◎HIVについては、すでに治療を受けているHIV陽性者の治療継続、HIV陽性者の結核治療や日和見感染症治療が優先される。次に、検査の実施およびHIV陽性と判明した人々の治療アクセス確保。その次に、コンドームやPEP、PrEP等による予防や、ハーム・リダクション・サービスの維持・継続が位置づけられる。結核については、診断と治療、感染者の発見と治療へのアクセス、次に予防、となる。マラリアについても、診断と治療、予防、サーベイランスの順となる。この順番に沿ってプログラムを再編し、優先的なものに資金を当てる形でプログラムを見直すことになる。

既に現れている影響:脆弱なコミュニティが最も割を食う?

資金不足の影響は現場ではすでに生じている。米国が「大統領エイズ救済緊急計画」(PEPFAR)の優先対象国としていた国々では、PEPFARとグローバルファンドの案件の連携・協調がもともと進んでおり、PEPFARの案件が停止されたことによって、グローバルファンドの案件も相当の悪影響を受けている。トランプ政権の「DEI(多様性・公平性・包摂性)」否定政策やセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ否定・「極端なジェンダーイデオロギー」拒否政策により、男性とセックスをする男性(MSM)、セックスワーカー、薬物使用者などHIVに脆弱性を持つコミュニティの案件は、トランプ政権が援助を再編・再開しても対象から排除されることは明らかであり、グローバルファンドも資金不足によって「命を救う治療」を最優先するのであれば、資金確保のめどは大きく損なわれる。現状の見直しの方向に関して、当事者コミュニティや市民社会の懸念は深まっている。