紛争激化・米国の援助停止で危機が続くアフリカのエムポックス対策

一方、検査とワクチンでは大きな前進も

未だ緊急事態が継続するエムポックス

コンゴ民主共和国のエムポックスのタイプ別分布状況(青:クレイド1b、赤:クレイド1a、紫:両方)

アフリカでのエムポックス(MPOX)の流行は、本年1月の米国トランプ政権の成立により、国際的な注目度が各段に低下している。しかし、世界保健機関(WHO)が「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」(PHEIC)を、アフリカ疾病管理センター(アフリカCDC)が「大陸の安全保障に関する公衆衛生上の緊急事態」(PHECS)を宣言した状態は変わっておらず、流行自体も徐々に変化しながら続いている。実際、国際情勢はより懸念すべき状況へと変わっており、危機は継続していると言ってよい。

WHOは4月27日時点で、過去12か月の感染状況について、24か国で27610件の感染例、107件の死亡例があり、その多くがコンゴ民主共和国(16725件)、ウガンダ(5386件)、ブルンディ(3835件)に集中していると述べている。同国では北キブ州・南キブ州、カタンガ州など東部・南東部でクレイド1b型、西部・北部・南部などでクレイド1a型、首都のあるキンシャサ州やカサイ州などで両方が流行する状況にある。

アフリカCDCは4月25日に出した情報記事で、ブルンディや中央アフリカ共和国、ルワンダなどいくつかの国では改善の兆候が見られるとし、5月17日に同機関の緊急事態諮問グループ(ECG)を開催して、PHECSの継続の如何を決定するとしている。しかし、同機関も中央アフリカ地域、特にコンゴ民主共和国のエムポックスを取り巻く厳しい状況については強い懸念を捨てていない。

エムポックス対応への二つの脅威:紛争激化と米国の援助停止

同国のエムポックス対応は二つの大きな脅威に直面している。一つは、同国のエムポックス流行の中心となっている東部の北キブ州および南キブ州において、武装勢力「3月23日運動」(M23)が、昨年末以降、これまでとは異なる規模で軍事活動を開始し、1月には北キブ州の州都ゴマを、2月には南キブ州の州都ブカブをそれぞれ陥落させ、この地域の覇権を握ったことである。その結果、これまでの紛争とあわせて数百万人が国内避難民(IDPs)となった。エムポックスに関しては、アフリカCDCの発表によれば、この紛争により、500人以上のエムポックス患者が同地の治療センターから退去して行方不明となっている。同地はルワンダやブルンディとの国境が近く、国境を越えた感染拡大のリスクも存在している。

もう一つの脅威は、1月20日に発足した米国トランプ政権がただちに対外援助を停止したことである。もともと、米国のバイデン前政権は同国における人道援助の7割を負担、エムポックスに関しても5億ドルの拠出とワクチンの寄付を約束し、エムポックスの検体の輸送費用なども負担していた。米国国務省は、対外援助の停止について、エムポックス関連の援助については、「命を救う人道援助」として停止を保留する(=支援を継続する)対象としてはいるが、USAIDの廃止などで停止を保留する措置を行う米国政府のスタッフがいないため、実質上停止されたままとなっている。また、同国に提供されたワクチンのうち、米国が提供したものについては、同国内の倉庫におかれたまま、米国政府の判断を待っている状況であるという。

一方でワクチン接種と検査拡大に関して大きな前進も

このような厳しい状況ではあるが、一方で大きな進展も見られる。アフリカCDCは、米国の検体輸送支援が停止され、コンゴ民主共和国内での検体輸送が困難になることを見越して、検体を分析する施設(Laboratory)を各地に増設する取組を行い、昨年7月から今年の2月までに、施設は2つから21にまで増えた。検査される検体の割合も、紛争激化のあおりを受けて一時的に減少していたが、施設の増設で徐々に回復しているようである。今後、さらに施設数を56にまで増やす必要があるという。また、電力のない地域でも活用でき、15分で診断できる迅速診断検査の開発も進められており、アフリカCDCは5月の第2週目にも、その開発状況に関するアップデート情報を得られるという。

一方、首都キンシャサでは、当局がワクチン摂取の対象者を拡大したことにより、30万人以上がワクチンを接種し、同地域における目標の半分を達成したという。流行地域へのワクチンの供給については、昨年来、WHOとアフリカCDC、CEPI(感染症対策イノベーション連合)、GAVIなど関連する国際機関が連携して「アクセスと配分メカニズム」(Access and Allocation Mechanism)が設置されており、現在までに、日本から提供されたKMバイオロジスティクス社の「LC16」ワクチン300万本と、欧州から提供されたバーヴァリアン・ノルディック社の「MVA-BN」ワクチン62万本が活用されている。おり、これらは段階的に周辺諸国へも提供されることになっている。一方、米国はエマージェント・バイオソリューションズ社の天然痘ワクチン「ACAM2000」を提供している。