国レベルなどでの周知・徹底が不可欠
15か国の共同提案で「社会的参画の促進」
世界保健機関(WHO)の「世界保健総会」(WHA)は例年、5月に開催されているが、今年(2024年)のWHAは国際保健規則の改定やパンデミック条約の策定の期限にあたるということで、例年にない注目を集めている。その他の課題は必ずしも注目されていないが、特にユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の文脈で、一つの決議が検討されている。「UHC、保健、福利のための社会的参画」(Social Participation for UHC, Health and Well-being)で、この決議はブラジル、コロンビア、クロアチア、エクアドル、フィンランド、フランス、グアテマラ、ノルウェー、カタール、スロヴァキア、スロヴェニア、スリランカ、タイ、チュニジアと米国から共同で文案が提案されている。
この「社会的参画」とは、WHOの定義では、保健に関わる意思決定プロセスに人々、コミュニティ、市民社会の参画を保障するということで、現代のUHCの理論や政策との関連では、プライマリー・ヘルスケアを高らかに打ち出した1978年の「アルマアタ宣言」40周年を記念して2018年にカザフスタンのアスタナで開催された「プライマリー・ヘルスケアに関する世界会議」の「アスタナ宣言」で「政策や計画の立案と実施への個人・家族・コミュニティ・市民社会の参画の促進」が打ち出されて以降、2019年、23年の国連UHCハイレベル会合での政治宣言等でも打ち出されてきた。特に2023年の国連ハイレベル会合の政治宣言では、「地域コミュニティ、保健医療・ケア従事者、ボランティア、市民社会組織、若者を含む全ての適切なステークホルダーの関与を促進し、意義のある全社会的アプローチ(whole-of-society approach)と社会参画を促進する」との記述が盛り込まれた。
また、そのための具体的な方策についても、2021年にWHOが刊行した「声・主体性・エンパワメント:UHCのための社会参画に関するハンドブック」(概要の日本語訳はこちら)などで、政府の政策担当者がどのように政策形成や決定における社会参画を実現するかについて、実例を交えた方法論の紹介や提案なども行ってきた。
加盟国とWHO事務局長に、より具体的な取り組みを要求
今回、世界保健総会への提出に向けて、WHO執行理事会に提出された提案は、こうしたこれまでの経過を踏まえて、加盟国には、恒常的で意義のある社会参画の実施・強化・継続を、また、WHO事務局長には、加盟国に対して社会参画の実施強化を働きかけるとともに、それを実現するための技術的なガイダンスやツールの作成、加盟国における実践の経験の共有の促進など、各国が社会参画の促進を現実的に可能にするような取り組みをすることを求めている。
この社会参画という課題の前進は、市民社会やコミュニティにとっては非常に重要であるが、このような世界レベルでの宣言や政策文書などでは強く謳われるものの、国・地方レベルでの前進はなかなか進まないのが現実である。その背景には、保健に関する社会参画の促進に関する国際舞台での決議等が、国レベルではほとんど知られていないという現状がある。そこで、UHC達成のための国際的な調整機関である「UHC2030」への市民社会の参画の為の仕組みである「市民社会参画メカニズム」(CSEM)と、社会参画を進めるための市民社会の枠組みである「保健への参画:関与・調査・エンパワメント」(SPHERE: Social Participation for Health: Engagement, Research and Empowerment)およびオーストラリアの保健に関する研究機関である「ジョージ国際保健研究所」(George Institute for Global Health)は、今回の決議文を支援するように市民社会から各国政府に働きかけるなど、積極的な提言活動を行うことを各国でUHCに取り組んでいる市民社会に促している。
UHCは、市民や脆弱なコミュニティを含む人々の積極的な参画と、モニタリングや評価、問題点の指摘などによって国レベルの制度の実施・運用を鍛えていくことによってしか実現しない。世界保健総会や国連ハイレベル会合など世界レベルの動きと、国レベルの動きを繋ぐ、CSEM等の動きは、実際に社会参画を実現する上でも、もっと重要になってくるだろう。