各党の政見公約と政策集からみた「国際保健」
新形コロナウイルス感染症(COVID-19)は世界的にも小康状態となっており、多くの国々が入国規制などの解除や緩和に踏み切っている。そうした中、日本では、第26回参議院議員選挙が7月10日投開票ということで6月22日に公示された。
今回の選挙は、ロシアによるウクライナ侵略やいわゆる「地政学的危機」、日本の国力低下、さらにはSNSの発展などに伴う各種政治思想・政治潮流のヴァーチャルな流通の拡大などに伴い、既存の政党に加え、多くの新たな「政党」が出現、当選の可能性に関わらず、多くの候補者が出馬しているところに特徴がある。
2020年以降、COVID-19が日本社会を含め世界を席巻し、感染症と保健が主要な政治課題となってから2年を経過する中で、各政党は今回の参議院選挙において、「国際保健」についてどのような公約や政策を掲げているのか、(特活)アフリカ日本協議会が調査した。結果は以下のとおりである(ダウンロード可能)。
保健系国際機関への拠出とUHCを政策に掲げた与党
日本政府はCOVID-19以降、国際的にはACTアクセラレーター(COVID-19関連製品アクセス促進枠組み)のワクチン・イニシアティブであるCOVAXへの拠出や、CEPI(感染症対策イノベーション連合)などへの積極的な資金提供、日本でライセンス生産されたアストラゼネカ社のウイルスベクター・ワクチンなどの各国への供給などに積極的に取り組んできた。自由民主党(公約・政策はこちら)では、参議院議員選挙に向けて、国際保健戦略推進特別委員会や国際協力調査会が国際保健の推進を含む提言等をまとめたほか、公明党も「国際保健推進委員会」を設置して国際保健への取り組みの積極化に関する提言をまとめていた。これらの動きを反映し、両党はコロナ対策を含め、国際保健に関して、グローバルファンドやGAVIをはじめとする多国間の資金メカニズムへの拠出の拡大や、UHCへの取り組みを政策集の中で掲げている。また、公明党は「保健分野のODA倍増」を明確にうたっている。また、両党とも、委員会や調査会提言等では「日本製品の売り込み」「日本企業の海外展開促進」といった自国の経済的利益追求を強く打ち出しているが、政策集の中では、これらのトーンは一定抑制されたものとなっている。
公平な医薬品アクセスを掲げた日本共産党、SDRの途上国への分配を打ち出した国民民主党、COVAXへの拠出拡大をうたう立憲民主党
日本共産党も、国際保健に関して一定充実した政策を打ち出している。特に、途上国におけるCOVID-19ワクチン・医薬品アクセスの巨大な格差を招く一因となった、先進国のメガ・ファーマの知的財産権の独占について、TRIPS協定(知的財産権の貿易の側面に関する協定)の一時・一部免除の発動を明示した他、パンデミック対策における資金不足の課題について、「国際連帯税の新設」とODAのGNI比0.7%という国際公約の実現を打ち出している。
一方、国民民主党は、COVID-19で大きく傷んだ途上国をはじめとする世界各国の財政の安定を図るため、G20の決定の下、IMFが配分した6500億ドルの「特別引出権」(SDR)について、G20トップレベルの割合で融通する、という政策を掲げた。「SDRの分配拡大」は、知的財産権の課題と並んで、世界の市民社会が求めていた課題であり、国民民主党がこれを打ち出したのは画期的といえる。
立憲民主党は、世界的なワクチンの迅速で公平な投与体制に資源を投入するとした。また、「人間の安全保障」への貢献としてCOVAXへの拠出拡大を公約した。一方、これらの体制構築を「先進各国と協調」してつくる等としている点には疑問が残る。実際には、新興国・途上国におけるワクチン・アクセスのかなりの部分が、インドや中国が製造したワクチンに依存している。また、効果の高いワクチンの途上国でのアクセスは、知的財産権保護を最優先する先進国、特に一部欧州諸国によって阻害されてきた。これに鑑みれば、こうした体制は「先進諸国」のみならず、新興国・途上国を含めた世界全体の協調によって構築される必要があるからである。
日本維新の会、れいわ新選組、社会民主党は「国際保健」に関する公約・政策なし
一方、残念ながら、日本維新の会、れいわ新選組、社会民主党の3党は、公約、政策集のいずれにおいても、国際保健についての記述がみられなかった。日本維新の会はSDGsについては政策集で一定の記述をしており、次回の国政選挙において、国際保健についても何らかの記述を公約・政策に含める可能性はもちろんある。また、れいわ新選組や社会民主党についても、今後の国政選挙については、市民社会の働きかけによっては、国際保健の課題を公約や政策集で取り上げる可能性はもちろんあるといえる。
一方、今回の参院選に向けて一定の存在感を見せている「参政党」は、「パンデミック条約反対」を掲げた。この主張は、世界各国で陰謀論者によって展開されている「パンデミック条約は感染症対策に関する主権国家の権限の制限を意図している」とする主張と共通した内容である。「パンデミック条約」は、実際のところ、2024年の制定に向けて交渉が開始されたところであり、「主権制限」どころか、中身は全く決まっていない。実際のところ、日本政府など数か国が副議長を務めている「多国間交渉主体」(INB)を軸に、市民社会を含む多くのステークホルダーを対象とした公聴会なども開催されており、少なくとも、現在の段階では、「パンデミック条約=主権制限=反対」という主張は根拠がない。パンデミック条約交渉に関心を持つ市民が本来行うべきことは、同条約に根拠のないレッテルを貼ることではなく、国際的に公開された形で行われているパンデミック対策・対応のためのルール・メイキングのためのプロセスに、自らの意見をもって積極的に参画し、対話していくことであるはずである。