連続セミナー:「第2回 アフリカ熱帯雨林地域での開発業と先住民」報告

2011年4月6日、「連続セミナー:アフリカの自然環境保全と日本人の伝統的自然観」第2回では、熱帯林で暮らす人々と環境と変化について報告を受けました。以下、その時の記録です。

講演:西原智昭さん
自然環境保全マネージメント技術顧問。コンゴ共和国北部Ndoki Landscapeで活動。WCSコンゴ所属。GCOE生存学創成拠点:西原智昭

アフリカ熱帯林での自然保護を考える

西原です。最初に簡単な自己紹介をします。

アフリカ中央部の熱帯林地域にある国の1つ、かつてフランスの植民地だったコンゴ共和国を中心に研究・調査そして国立公園管理、野生生物の保全、もうちょっと大きな意味での環境保全の業務に関わっています。アメリカに本部がある国際NGOのWCS(Wildlife Conservation Society)コンゴ支部に所属し、技術顧問という形でいろんな人にアドバイスしています。例えば、いろんな国から来る研究者にどの地域でどの動物種のどのような分野の研究ができるかとアドバイスする、あるいは、国立公園に勤務するスタッフに対して、アドバイスというよりはむしろ研修・トレーニングといったかたちで、彼らが自分たちの力で国立公園を管理できるようノウハウを伝えるということもあります。また、コンゴ政府があってこその国立公園ですので、コンゴ政府との関係もあります。国立公園の周囲で起こっていることもコンゴ政府の管理下のもとで行われていることが多くあります。そういったことに関連して、政府の方も現場経験が無かったりするので必要があればアドバイスします。

今日の話でも出てくる先住民あるいは地域住民とは、アドバイスというよりは、対話を通じて、今、先住民に何が起きていて、これから彼らがどうなるのかということについて、話をします。

アフリカ中央部で活動し始めて、今年で22年目を迎えます。今回、一時帰国中にセミナーができる回数が3回と確定できたので話を3回に分けました。一度に話すと話題があちこちに散って、話がまとまらなくなるという反省を踏まえての連続セミナーです。

前回は、熱帯林という環境の中でどのような動物が暮らしているのかという話をしました。普通、アフリカというと乾燥地帯があって、サバンナがあって、草原があって、そこにキリンとかライオンとかゾウなどがいる、そしてそこに住んでいる人々は飢餓の状態にあるとか、貧困であるという印象があると思います。そうしたイメージとは全く違う世界がアフリカの中央部に熱帯林地域としてあることを伝えました。日本にはアフリカの熱帯林に関する情報は、ほとんどありません。本もなければ、写真集も出ていません。僕も製作に関わったことがありますが、TV番組も限られていますし、また、TV番組は所詮一過性で、確固とした情報源とならない場合が多々あります。そのように情報が限られているので、熱帯林とは、どういう自然環境で、どのような野生生物が住んでいるかという紹介をしたのです。

今日は、その熱帯林に住む人びとのことを話します。

熱帯林にもいろんな方がいます。大昔からそこに住んでいる先住民、もう少し大きな町とか都市に住んでいる地域住民、また、我々のように調査・研究している人間、環境保全をする人、ツーリスト、そして、さまざまな開発業に関わっている人たちもいます。

熱帯林を伐採して熱帯材を供給する仕事は国家経済にとってどうしても必要であるという理由から、開発業があります。

このように、多様な分野の人が関わっている現場で、野生、自然環境、野生生物を守りましょう、あの動物はかわいいから守るべきだということだけでは通用しません。

一番ややこしくて一番理解しにくい動物である人間、そこに生活する地元の人たちと話をしながら、どういう状況であるか、これからどういう方向へ行くかを見極めながら、自然保護を進めていくことが肝要です。この文脈で、今日は、自然保護を進める上で前提となる、人間の活動、あり方、現状をお話します。

アフリカの地図を見ると赤道直下に緑の濃い部分があります。これが熱帯林です。かつてはかなりの広さだったのですが伐採で消えてしまったところが多く、森林が残っているのは地図の中央部のやや西寄りのところだけになっています。

熱帯林の広がる地域には何カ国かありますが、日本でもよく知られているのは、昔はザイールと呼ばれていたコンゴ民主共和国です。未だに内戦がおこっています。僕自身が20何年もかかわってきたのは、その隣のコンゴ共和国と大西洋に面しているガボン共和国です。僕は、コンゴ北部にあるンドキ国立公園とその周囲で主に仕事をしていますが、今日はガボンのロアンゴ国立公園の話も少しいたします。

今日は、最初に開発業で一番大きい熱帯樹の伐採業の現状と、自然環境やそこに住む野生生物への影響について話します。次いで、熱帯林に住んでいる先住民についての話です。開発業や野生生物に問題があった時、そこに何千年も住んできた先住民たちが昔から持っている伝統的な生活の仕方、生業とか、あるいは文化がどうなっているのかを話します。関連してエコツーリズムについても触れます。最後に、最近話題になっている中国人のアフリカ進出に関連する話をします。

伐採業拡大の影響

コンゴ、またガボンでも、人口がそんなに多くなく人口密度が低いことから、人びとが長年住んでいる土地では、その土地で代々続く村長が持っている土地があり、また村人それぞれの土地みたいのがありますが、国土の大部分は国が直接、管理しています。その国土を、国はいくつものブロックに分割して把握しており、その一部を分譲住宅のように開発業に提供するのです。

我々、国際NGOが調査して、ここには動物の生息数が多く、あるいは環境保全にとって重要なので国立公園にするのが望ましい提言すると、政府も諸状況をかんがみたうえ、国立公園法を作り、国立公園を設けます。しかしながら、その他の土地は分譲住宅や土地を売りだすような形で、伐採会社の要請に応じて、切った分の木材の量に応じて税金をかけることを条件に伐採許可を出しています。その税金が、重要な国家収入になっています。

コンゴ人による伐採会社、ガボン人による伐採会社といったものはそれぞれの国に数%しかなく、ほとんどが外資系です。コンゴでもガボンも旧フランス領なので、一番多いのはフランス系の伐採会社です。最近、増えているのは中東系、レバノン系の会社です。さらに最近になって、中国をはじめとするアジア系の会社が登場していますが、日本の伐採会社は現地ではありません。

熱帯林での伐採の場合、直径2~3mの大木をチェーンソーで切っています。こんな大木を切り倒すと周囲の木も倒れてしまいます。木材として利用する木を1本倒すと周囲の木もなぎ倒されて開けるというのが、熱帯林での基本的な伐採業です。

本来、熱帯林には、樹木が沢山あり、草本類も生えていて、車で乗りいれることはできず、歩くことしかできません。しかし、切りだした樹木を運び出さないと商売になりませんので、道を作ることになります。熱帯林の中で伐採を行っているところまで、ブルドーザーを使い、何万本、何十万本という樹木を切って、道を作っているのです。切り開いたままですと、雨が降るとひどいぬかるみとなり、樹木や木材を運ぶ大型トラックなど通れない状態になりますので、きちんと整地してラテライトという土壌で表面を舗装します。そうすると路面が固まり、時速80kmぐらいで車を走らせても問題の無いよい道になるのです。道を作り、何十台もの大型木材搬出用のトラックを入れ、切って幾つかのパーツに分けた木を、何100kmも離れた積出港まで運び出す、それが熱帯林の場合の伐採業の仕組みです。

僕が関わっているコンゴ共和国北部のヌアバレ・ンドキ国立公園が制定されたのが1993年です。この国立公園は東京都の約2倍、山梨県と同じぐらいの面積です。その時点で伐採会社があったのは、国立公園の南側の地域だけでした。東側は、ほんとに小さな村がいくつかあるだけの完全な熱帯林で、人がほとんど入れないような場所だったのです。

2000年ごろまでは、国立公園の南側で小規模に行われていた伐採業が、この10年で国立公園の東側、北側でも始まり、国立公園の周辺が全て伐採区となりました(西側は中央アフリカ共和国との国境)。伐採区を全部あわせると、ンドキ国立公園の約3倍の面積があります。それだけの広さの熱帯林が伐採区に変容してきたわけです。

南側と東側はヨーロッパ系の伐採会社です。北側には、中国人系、レバノン人系、また別のところにフランス人系と、さまざまな国籍の伐採会社が入っています。

かつては、大きな沼地があって、それこそ底なし沼のようなところがあって車で通ることができなかったところにも、伐採会社が協力して、大きい丸太をボン、ボン、ボンと何十本、何百本と置いて、その上に土を固めて大きい道を作り、それぞれの伐採区内の道路をつなげました。

伐採会社が道を繋げてくれたので、コンゴの国としてもこれはよい機会と考え、首都ブラザビルから北部に向かって900km位の道を改良して国道として整備しました。首都から国道を丸1日かけて走り、さらにそのあと伐採会社の道を通って行けば、隣の中央アフリカ共和国まで行ける道路が整備されたのです。そして、道ができて、木材が運び出され、人間の移動が楽になるだけでなく、狩猟した野生生物をトラックに積んであっという間に運び出すこともできるようになりました。そういう大きな変化がここ10年位で起こっています。

その結果、伐採区では、6年前と比較して軒並みゾウの密度が減っています。伐採区ができたことで人も入って来るし、ゾウを撃つ大型銃も容易に入って来ています。また象牙を運び出すことも簡単になりました。そのようにゾウの違法取引が容易になる中、生き場所を失ったゾウが国立公園に入ってきているので、国立公園内のゾウの密度は上がっています。このように、明らかに動物の密度の変化もおこっています。

この木材搬出道路が、野生生物への直接の影響を考える上で、もっとも考えなければならないことです。昨年、6ヶ月で地元のパトロール隊が摘発した銃、発見したゾウの死体やゾウの肉、あるいは逮捕した密猟者の数が、以前と比べると圧倒的に増えています。東京都の6倍位の面積の伐採区を、たかだか数10人のパトロール隊でカバーできるはずが無いので、摘発されたのはごく氷山の一角と言えます。

地元の人たちが食べている野生動物の肉のことをブッシュミートと言います。地元の人が野生動物をとって食べる分に関してはコンゴの国内法は認めていますし、合法的な範囲内であれば、野生生物への影響も大きくはないはずですが、道路ができたことによって、大量に野生動物をとって、その肉を町へ運んで売るようになりました。つまり、伐採道路によって、ブッシュミートの交易が楽になり、ビジネス化してしまったのです。このようにして、密輸とか違法行為が増加しています。

携帯電話と違法行為

携帯電話の普及も影響を及ぼしています。今やあちこちに電話のアンテナ塔あるので、場所によっては森の中でも電話ができるようになりました。そうすると、たとえば、何日か前に獲ったゾウの象牙あるから、お前取りに来い、というような連絡が簡単にできるので、取引が容易になってきています。携帯電話だと簡単に連絡がつくし、また人にも漏れません。以前は、携帯電話どころか手紙だって簡単にだせませんでした。20年前、最初に森の中でキャンプを張って調査・研究した時、何か重要な連絡がある時は、雇っていた現地のアシスタントに手紙を持たせて、30km歩いてもらって最寄りの村に届けてもらいました。日本へ送る手紙があったら、村長か誰かへの依頼状を書いて少しお金も入れて、渡してもらうのです。その村長が何かの機会に町へ行った時に、町の郵便局に持って行ってくれるという仕組みでした。そんな仕組みだったので、僕が帰国した後に手紙が着いたなんてこともありました。

でも通信手段が無かったから静かで、今から考えると良かったかなあとも思います。今は森に居ても携帯電話がかかってきますから、たまりませんね。インターネットも最近使えるようになったので、その分、仕事も増えました。余談となりましたが、以上のようにさまざまな面で熱帯林へのアクセスが簡単になったことで、ゾウの密猟も増えてきているというわけです。

マルミミゾウの密猟と象牙の密輸

熱帯林にはマルミミゾウというゾウが住んでいて、密猟の対象になっています。象牙は、歯から進化したものなので、ゾウが倒れたからといってヒョイと採集できるものではありません。なので、密猟者はゾウを殺した後、まずは首を切って頭の方から象牙の根のところまで切り裂いて、象牙を抜きます。それだけの作業が必要なので、ゾウが死んでいなければ象牙を取れません。うかつに象牙を抜こうとしてゾウが暴れだしたら手に負えないのは明らかですから。密猟者はそのことを知っているので、まずゾウを殺します。麻酔銃を使って象牙だけ取ればと思う人もいるかもしれませんが、麻酔を買うだけのお金があったら、密猟など危険を冒して象牙を売買することはしないでしょう。武器が簡単に、しかも安い値段で手に入るようになり、しかも伐採用の道路ができたおかげで簡単に運べるようになった、それが一層密猟に拍車をかけているのです。

ゾウを撃つのに使われている自動小銃(カラシニコフ)が出回っている原因は、内戦の後始末のがきちんとなされていないこととも関連しています。コンゴ共和国では2度、内戦がありました。お隣のコンゴ民主共和国、旧ザイールでは、未だに内戦が続いています。そこには、武器売買のビジネスをやっている人もいて、安い値段で入手できるようになっているのです。道路のアクセスがよくなったので、大量の銃弾も安価に簡単に入ってくるようになりました。

先ほど紹介したようにパトロール隊が密猟者や密漁活動の取締を行なっています。運が良ければ、密取引される前に象牙を摘発して没収することができますが、それは氷山の一角にすぎません。また、パトロール隊は伐採道路に何ヵ所か検問を作っていて、そこを通る車を全部チェックしています。象牙など違法な物を発見すれば、直ちに逮捕あるいは没収をします。24時間体制でチェックしていますし、車の通行止め用の棒もありますので、夜でも車は簡単に通過できません。パトロール隊員は、車の音がすれば、寝ている最中でも起き出します。そうした事情を知っている人たちの中には、自転車を使う人もいます。夜に、検問所の棒の横を自転車で突っ切るのです。自転車だと音もしないし簡単にすり抜けることができます。ただ、自転車で大きな象牙は運ぶのはたいへんなので、用意した糸鋸であらかじめ象牙を切ってから自転車の荷台にくくり運ぶのです。大きい象牙には飾りものとしての価値があり高く売れると思うのですが、一本の象牙をいくつかに切り分けたカットピースでも相当の値段で売れることを、彼等は知っているからです。それが何処に行くか、どう売れるかは彼等の関心ではないですけれども、切られた状態でも高価な値段で売れるというそういう外からの需要があるという事を知っているから、切って運び易い状態にするために糸鋸をあらかじめ準備しており、しかも自転車も準備して運ぼうとするわけです。

熱帯林の中に町が誕生する

伐採会社が森の中に入るということは、伐採会社の基地が森の中にできるということです。切った樹木をとりあえず集め、さらにその樹木から木材製造をする基地には、作業にあたる現地の労働者も住みます。今まで、誰も住んでなかった森のに何百人、何千人という労働者とその家族が新しく住む基地ができるのです。アフリカでは、労働者が住むところには、彼らの妻、子どもはもちろん親戚から従兄弟からまでやってきます。労働者が1人来ると10人、20人が一緒にやってきて一緒に暮らし、もっとも容易に手に入れやすいタンパク源はブッシュミートとなります。そもそも人が住んでいなかったので家畜はいません。電気が無く冷蔵庫も使えないので保存することもできません。基地の周辺にいる小さい動物を罠猟で捉えて自分の家族を養うのです。日持ちさせるために燻製にした黒い色のブッシュミートが、基地の中で売られていることもあります。道路があるので伐採会社のトラックで、小さい動物だと何十匹、何百匹も運ぶことができます。これも伐採業の影響といえます。

伐採会社の近くにある村の人口を見ると、1990年代初めは200人、300人程度でした。その後もほとんど変化なかったのですが、あちこちに伐採会社が入ってきたものですから、村に住む人もあっという間に増えてしまいました。かつて200人だった村の人口が今では600人、3倍位になっています。こういったことが実際に起きています。

サバンナのウォーキング・サファリ、マサイのショー

ここまでは、伐採業が年代とともにどのように変化してきて、それが野生生物と自然環境にどういった影響を与えているのかという話でした。ここから先住民の話をします。外部の者が入って来て何かを始めると、何千年も昔からそこに住んでいる先住民の生活がどう変わっていくのかという話です。結論から言いますと、先住民の文化は変貌し、しかも、失われようとしているというが現状です。

アフリカ東部、ケニアの草原にはマサイという先住民がいます。背が高くて、ジャンプすると凄く高くまで飛び上がる、赤っぽい服を着ていて牧畜で生計を立てているという先住民です。何千年も草原で暮らしてきた人びとが今、どういう風に変わっているかを考えてみます。

マサイの人びとが家畜を放牧してきた土地が、国立公園や保護区になってしまうと、彼らは居住することができなくなります。それでも放牧は許可される、伝統的な生業自体は一応継続しても良いことになっています。一方で、ライオンを殺すことでマサイの戦士として一人前の資格を貰うという彼等の伝統的な文化が、ライオンを保護しなければならない、獲ってはいけないという野生生物保全との兼ね合いが問題になっています。

また、草原に住んできたなかで培われた自然に対する知識、例えばサバンナの薬用植物や動物に関する知識を、若者たちはだんだんと失ってきています。放牧している牛の糞を固めて作っていた住居の壁を、最近は、ビニールシートでカバーしたりすることもあるそうです。形は昔のままですが、このように素材が違っているという家屋も出てきているのです。

かつてはあんまり町とかには出なかったので、教育も受けていませんでした。近年、高等教育を受けるマサイの若者も出てきて、そういった人たちが、伝統文化と野生生物保全との折り合いを考える先進的な考えを持ち始めています。 ツーリズムとの兼ね合いでお話を続けます。

ケニアには数多くの国立公園があり、日本からもたくさんの観光客が訪れています。こうした観光客を対象に、マサイの人びとはショーとして伝統的なスタイルのダンスを披露しています。もちろん伝統的な意味でのダンスも継続しているとは思います。でも、何月何日に夜7時からディナーパーティにあわせてダンスをしますといったパッケージにしてビジネスにしているのです。ツーリズムのロッジもマサイを雇うと観光客へのアピールになるというので、赤い服を着たマサイをホテルのボーイとして立たせているのです。それを見て、ツーリストたちは、「すごいなあ!」と喜んだりするのです。

最近、はやっているウォーキング・サファリ、サバンナを歩くツアーのガイドとても、マサイは最も有能な人たちです。自然の知識を持っているので、ウォーキング・サファリのガイドとして働いて現金収入を得ている人もいます。

土産物売りをしているマサイも多いです。彼ら自身が伝統的なやり方で作った品物を商品として売っているケースもあるのですが、実際にはマサイでは作られていないと明らかにわかる品物を売っているケースもあります。マサイが作ったモノでないのに、マサイが売っていればマサイの伝統的なモノだと思って、お土産に買う観光客がいます。特に、日本人はいいお得意さんだと言われています。

熱帯林で暮らす人々にとっての開発

アフリカ熱帯林の先住民は狩猟採集民です。かつては「ピグミー」、「ピグミー族」と呼ばれていたのですが、今ではそれは蔑称だというので、○○地域に住んでいる△△族といった族名で呼ぶのが普通なのですが、今日のお話では「ピグミーさん」といいます。ピグミーさんはもともとから熱帯林に住んでいて、狩猟と採集をしながら、原始的な自然に、熱帯林に依存しながら生きてきた人たちです。背丈が小さい小柄な人たちとしても知られています。

マサイで分析したようなことを、ピグミーさんに関しても考えてみるとどうなるでしょうか?

熱帯林地域は伐採で縮小しているので、彼等が伝統的な生活を送ることのできる場所が少なくなってきています。すでに熱帯林からあぶれ出しているのが現状です。また、町の人がブッシュミートを大量に獲ってしまうので、基本的に野生生物が少なくなっています。狩りや罠猟でかつて獲っていた動物すら獲れなくなっています。伝統的な動物のいる場所に行って動物を獲りながら移動していく、ある社会単位で移動しながら生活するための熱帯林が残っていない状況になってしまい、定住化が進んでいます。定住化して、狩猟という彼らのアイデンティティーを発揮することができない、通常の農耕民とたぐわない状況となっています。

また、コンゴでは政策として、「ピグミーさんもう森から出て来なさい」と呼びかけています。定住してくれないと人口調査がうまくできないし、例えば、大統領選挙の時にピグミーさんにも正式に投票してほしいということです。多くのピグミーさんたちは未だ身分証明書なんて持っていませんが、かつての先住民が一般市民化していく方向になってきています。ガボンの場合でもピグミーさんたちがいるのですけど、政府は、かつて森の中に住んでいた民族はもう我々の国にいないと言いたいようです。だから政策として、森の中に住んでいる人たちはさっさと森の中から出てきなさい、言っているわけです。

ピグミーさんたちは「ジェンギ」という名前の古典的な歌と踊りがあります。いつに何某のお父さんが亡くなって何日か目に当たると言うと、その日に歌とか踊りをするという習慣は健在です。しかし最近は町との接触が多くなり町の音楽がどんどん入って来るので、ピグミーさんもそっちの音楽の方に流れていく傾向もないわけではありません。この傾向が続くと、何十年後かにはもともとの歌や踊りよりもディスコへ行った方が楽しいということになり、伝統的な歌も踊りもすっかり忘れてしまうでしょう。その可能性は十分にあります。

マサイもそうですけれど、植物の薬用性、この植物は食べられるか、このきのこは毒キノコである、この蛇は毒蛇である、この獣道を通るとどこに通じるのかなどなど、ピグミーさんの熱帯林に関する知識は目を見張るものがあります。彼等はコンパスも持っていないし何にも持っていなくても自由に森の中を歩けるという能力をもっています。僕だと一発で迷うような所でも、必ず迷わずに同じ場所に戻ってきます。体の中にアンテナみたいな物が入っているという感じです。森の生活から離れると、そういう能力とか知識も衰退していく傾向にあるようです。

ピグミーさんたちは、森の中に住んでいたころ、木の葉や草を屋根と壁代わりにして、ドーム状のテント型の家に住んでいたのですけれど、最近は村に定住して、ビニールシートを使ってドーム状の小屋を作っている人もいれば、ふつうに土壌や木材を使って家を作っている人もいます。

教育についてもマサイと同じで、かつては学校教育を受ける機会はほとんどありませんでした。最近は若干ですが教会に通う人もいます。キリスト教の教会です。外からやってきた宣教師や神父さんが布教活動を行っています。ピグミーさんの中には、言われたとおりに入信してしまいます。いまや、文字を読めるピグミーさんは聖書を読んでいます。それを見ると愕然とするのが正直な感想です。

熱帯林地域では、ツーリズム自体がほとんどありません。頻繁ではないのですが、罠猟の物真似みたいなものを見せる、あるいは、歌と踊りをショーとして見せて、小銭を稼ぐみたいなことはあります。一方、ツーリズムにとって、ピグミーさんは森を歩くガイド、動物を探すとして重要で、また伐採業者もピグミーさんを雇います。森の中をくまなく自由自在に歩けますし、特定の有用材探しにきわめて有用だからです。研究・調査する人も、森を知る有能な助手として雇います。そのように雇用されるチャンスがあるので現金収入があるわけですが、ピグミーさんの場合、お金が手に入るとほとんどお酒に消えてしまうのが通常です。貯蓄する、自分で稼いだお金を妻に渡すといったことは一切考えていません。そもそもピグミーさんは10年ぐらい前まで服を着ていませんでした。ちょっと大きい葉っぱで大事な所を隠す程度のかっこうでした。女の人も同じです。今は、みんな服を着ていますが、お金の使い方になじんだとは言えないと思います。

次に、ピグミーさんとマサイを比較してみます。

マサイ居住地は国立公園から締め出されてはいますが、放牧自体は国立公園内でもできます。そういう意味では従来通りの生活基盤があると言えます。ピグミーさんの場合、熱帯林そのものが無くなりつつあるので、その生活の基盤さえ危ういのが現状です。

マサイの場合、高等教育を受ける人が出てきて、野生生物や自然環境保全は大事、でも我々の文化も大事なので何とか維持していきたいといった先進的な考えを持っている若者も出てきています。一方、ピグミーさんはこうした自己主張をしません。なぜしないのかよくわからないのですが、そういう人たちです。なので、状況に流されている感じがします。お金が入ってくればお金に、伐採業者が入ってくれば伐採業者の思惑に、国家の政策が出されれば政策に流されているのです。自分達の文化を継承する意志が本当はあるかもしれないですが、自分達から発言しないので、そういった意志がないように見られています。ここはマサイと違います。

特に問題となるのは、若い人たちが森の中を歩く能力をだんだんと失っていくという現実です。そのことに関わって、国立公園に対する見方が、一部では180度変わってしまうということも起きています。1993年に、我々の働きかけでンドキ国立公園ができた頃、ピグミーさんが伝統的な生活をすることを擁護する人権団体が、国立公園など作ったらピグミーさんが締め出されてしまうと、批判したのです。それから20年近く経って、伐採業で森が残ってないような状況になる中で、ピグミーさんの生活基盤さえ残ってない現状を見て、かつては国立公園設置を批判した人権団体も、もう何も言わなくなりました。むしろ国立公園があることでこそ自然環境保全と伝統文化とが可能、国立公園があってまだ動物も残っていて、そして動物たちが国立公園の外にもやってくるおかげで、何とかピグミーさんの狩猟・採集が可能になるというのが現状です。国立公園が無くなれば、本当に何も無くなってしまう、ピグミーさんの伝統どころではないということです。

熱帯林地域でのエコツーリズム

熱帯林地域の我々が関わっている国立公園でも、またその近くでもエコツーリズムの試みがあります。しかし、熱帯林は見通しが悪いので、音や痕跡などで動物がいることはわかっても、動物を実際に見るのはなかなか容易でないという状態です。バイ(湿地性草原)のように開けた場所であれば、観察台のようなものを作り、そこで動物を観察することも可能ですが、ごく小規模にしかできません。

アフリカの熱帯林地域まで来るようなツーリストは、アフリカでもすでにさまざまな所を回ってきた場合が多いようです。たとえば、サバンナ地域でキリンやゾウをすでに見ていて、サバンナでは見ることのできないニシローランドゴリラなどを目当てにやってくるのです。ゴリラでも、ウガンダ・ルワンダ・コンゴ民主共和国東部の山岳地帯にすむマウンテンゴリラを見るツアーも人気だそうですが、マウンテンゴリラを観た人はいてもローランドゴリラを観た人はあまりいないというのが現状で、それゆえツーリストは熱帯林の奧までやってくるわけです。

多くの人は、自然環境とか野生生物を守り、しかも経済的効果があるからエコツーリズムはいいことだと考えていると思います。ゾウを密猟したり、象牙を売ったり、そういう違法行為が起こるのは経済的に貧困だからだ、現金収入が欲しい地元の人がいるからであって、エコツーリズムによって彼等を雇用すれば経済的貧困には陥らないだろう、という発想でしょう。

整理すると、メリットの第一は、エコツーリズムによって雇用創出ができる。今まで収入のなかった地元の人が定期的な収入を得ることができ、経済的支援になることです。第二は、熱帯林における生物保全も自動的にできてしまう、しかも、先住民がもともと住んでいる熱帯林の自然保全も同時にできることです。先住民が昔ながらの狩猟採集を安心してできる場所が確保できるということです。

しかし、現場で実際にツーリズムを実施してみるといくつも課題が出てきます。まず貨幣経済の浸透という問題です。そして政府の政策の影響です。ケニア、タンザニア、南アフリカと言った国々はツーリズムによってかなりの国家収入を得ています。これらの国々にとって、ツーリズムは国家的な事業と言えます。ところが熱帯林の場合、サバンナ地方と違って、大規模なツーリズムを行うことができません。熱帯林の中にたくさんの人も運べませんし、またたくさんの人が来ても熱帯林の中はうっそうとしていて見通しがききません。ですので、ケニアやタンザニアのサバンナ地域と同じやり方ではツーリズムは発展しません。ではどうするかという時、先住民を利用したツーリズムをやることになります。「利用」というのはいいことばではありませんが、要するに、先住民の伝統的な歌とかダンスをショーとして見せるということになります。そのようにして雇用されて先住民が得たお金は、貯蓄や家族のために使われるわけではなく、ほとんどがお酒になっているのが現状です。あるいは、謝礼を村で活用してくださいと村長に渡し、村民会議を開いてもらっても、結果を見ると村長のポケットに全部入っていて、村長の私物になってしまっています。というように、収入機会の創出が地域貢献になっていません。

そうなってしまう理由は、ツーリズムの概念がケニアやタンザニアのように高い段階に至っていないからだと思います。収入機会の創出が人びとの生活や地域の改善につながるには、もっと時間のかかることかもしれません。

現状では、先住民に一人一人が得たお金は欲望充足、例えば酒が飲みたいとか、そういう方向で使われています。一方で、国立公園の入場料が森林省に収まった後、それが一体、どこに行って何に使われているのかわかりません。国立公園の入園料から、維持費やスタッフの経費が支出されるはずなのですが、そのためのシステムは、まだ何もありません。

西原:今迄の話に関連して質問があればお願いします。

参加者:フランス系の企業が伐採業に進出してきているとのことでしたが、1つの企業がいくつもの伐採区で伐採をしているのですか?それとも、いくつかの企業がやって来て住み分けているのですか?

西原:フランス系の伐採業は幾つも来ています。それぞれの会社が1つの伐採区で伐採業を行なっています。一方、一つの会社がいくつもの伐採区を確保するケースもあります。

参加者:政府同士の話し合いではなくて?

西原:伐採区については、コンゴ政府と外国系企業との話し合いで決まります。

中国人のアフリカ進出について

西原:みなさんご存知のように、アフリカ諸国に中国人が進出して、主として開発業に携わっています。熱帯林地方にも進出しており、開発業あるいはインフラ整備に従事しています。日本では、アフリカに進出した中国人イメージはあまりよくない、アフリカへ行って開発して無茶苦茶やっているというイメージがあるかと思います。

コンゴ共和国でも、インフラをサポートする形で中国は入っていて、橋作り、道路整備などをやっています。途上国と中国の利害関係が一致していると言えると思います。すなわち、途上国にとってインフラ整備は技術的にちょっと難しいから他の国に委託しなければならないが、日本や欧米諸国に委託して良いものができるとしても高い、それに対して中国はそんなに高くなく、しかもそれなりの技術を持っているということです。それで、途上国は中国に、人材育成や道路整備を要請し、その一方で中国は必要としている自然資源(石油、木材、魚etc)を得て、自国の巨大人口の生活を賄おうとしています。

また、中国では、たくさんの人たちが仕事を求めています。経済的に発展したと言われていますが、それによって仕事を得て生活を向上させている人たちは、中国の人口の一部にすぎません。田舎に住んでいる多くの人たちは、働いていた土地を失ったり、捜しても職が無い状況だと聞いております。そうした人たちを海外へ送り出しているのです。熱帯林の中の伐採基地に家族そろってやってくるアフリカの人びとと同じように、中国の人たちもみんな、家族や頼ってくる親族をみんな、引き連れて来ています。中国政府にとっては雇用創出と人口圧減少のいい機会になるというように、利害関係が一致しているのです。

コンゴ共和国で中国人が作ったホテルを見るとけっこう綺麗です。よく見ると内装などに十全でないところが見受けられますが、技術力はそれなりに持っています。中国のアフリカ進出に関して肯定的な見解として、途上国のインフラ整備に寄与しているというのがあります。同時に、中国人にとっても雇用創出でチャンスになっていることを肯定的に捉える見解です。

否定的見解としては、一つに中国人は大挙してやってきて環境に配慮しないで自然資源を開発するということが言われています。熱帯材、石油、水産資源などが対象となっています。また、中国人の労働者の場合、家族や親族そろって来るのに食料は無いということで、野生生物を食べるケースが多々あります。中国人が来ることによって、野生生物の食用需要がさらに高まっているといえるかもしれません。さらに、中国人は衛生上、環境上の配慮が不十分だという人たちもいます。これは教育的な問題、文化的な問題も関係していると思われますが、たとえば、ゴミを無造作に捨てるとか、あるいはあたりかまわずツバキをはいているといった小さなことから、開発上の自然環境全体への配慮が足りない点があると言われております。

中国人が数多く来ると、その中国人たちを対象に商売をする人が中国から来るというのも問題にされています。アフリカ中部では、これまで西アフリカ人系統の人が商業を握っていました。彼らの中にはイスラム教の人達が多く、中東のイスラム系のビジネスマンと連携して、中東から物資をアフリカに輸入して商売を実施していたのです。そうした中で、中国人も商売を始めて、さらに中国人の扱う物は安いというので、ますます拡大しているのです。中国人の薬屋さんとか雑貨屋さんとか急激に増えています。そのように商業形態が変貌していて、しかも中国人が増えているというので、アフリカ人の中でも否定的なイメージがあるのです。さらには、中国人のプロジェクトでは地元民の雇用はない、ドライバー、コックから、ガードマンまで全部を中国人が占めていて、地域に貢献していないというイメージもあるのです。

ことばの問題もあります。コンゴでは旧宗主国のフランス語は公用語なのですが、フランス語を喋る中国人がほとんどいません。コンゴ人も、中国人はフランス語を喋れないとバカにした感じでいます。カチャカチャと食器の音を立て、口を開いてグチャグチャ食べているという食事のマナー、町中で上半身裸になって歩いているという立ち居振る舞いに対する否定的なイメージもあります。

中国人労働者が小銭(現地通貨)を持っていないので、コンゴ人のタクシーの運転手も中国人を拾わなという状況もあります。中国人労働者の給料は中国に残してきた家族に支払われているようなので、アフリカで働いている中国人労働者は、企業が保障してくれる食住には困らないが、現金をほとんど持っていません。だからタクシーにも乗れないというのを見て、コンゴ人が否定的なイメージを持っている面もあります。

中国企業の環境配慮に関するモニタリングを実施して

僕は半年ぐらい中国人と一緒に仕事をしたことがあります。ガボンのロアンゴ国立公園内で、中国の企業がガボン政府の許可を受けて石油の探索活動を行った際の環境配慮に関するモニタリングの仕事です。その時の経験を紹介します。

国立公園の中で、石油探索を実施するというのは国際基準から見ると言語道断ですが、ガボン政府が許可してしまったので、自然環境に配慮しながら探索作業を進めるべきだと提言しました。ならば提言した団体にモニタリングを委託したいと、ガボン政府が言ってきたのです。それで、中国人と一緒に国立公園内で寝起きしながら、環境アセスメントに携わったわけです。

大西洋に面しているガボン共和国には13の国立公園があります。ロアンゴ国立公園は大西洋岸に面しています。人はほとんど住んでおらず、海岸部も全くリゾート地として開発されたことのない完全な野生の砂浜です。その国立公園の中での石油探索を、ガボン政府が許可したのです。当時のガボン大統領が、国立公園であっても石油あるいは鉱物資源がある場合には、開発業も認めると声明を出しました。それで、シノペックという中国で2番目に大きい国営石油会社が、2006年、2007年と2年にわたって国立公園の中で石油探索調査を実施しました。

シノペックが行なった探索は、非常に素朴な手法でした。まず、熱帯林の中を一直線に切り開いて人が通れるぐらいの道を、何本も作ります。次にこの道に沿って一定の距離ごとに手動で深さ30mぐらいの穴を掘り、その中にダイナマイトを仕掛けます。そして、ダイナマイトを一斉に爆発させて、その振動を記録することにより、地中にどのような資源があるのかを探索するのです。

1年目、2006年の調査の時は、ガボンにも環境省があるのですが、環境に対する配慮について、適切な指示をしなかったため、シノペックは国立公園の中で、ほとんど無法状態という感じでした。先に話したように中国人はブッシュミートを食べますから、国立公園内の中国人労働者のキャンプ地には、野生動物を獲ってきて食べた跡、また、川から大量に魚を獲ってきて塩干し魚にした痕跡がありました。何百人もの労働者に十分な食料が用意されていなかったので、労働者たちが許可なしで国立公園内で動物や魚を獲って食べていたというわけです。

石油探索のため、作る森の中の道は人1人通れるぐらいの幅であればいいのですが、最初の年、かなり大きな木を切り倒したりして、両手を広げても届かないぐらい大きな人道を作っていたのです。また、持ってきたラーメンの袋等ゴミをその辺に捨てたままというように国立公園であるにもかかわらず、全く環境に対する配慮がなされていませんでした。しかも、シノペック自体は2006年の事業が終わってから1度引き上げたのですけれど、探索のために切り開いた自動車道をそのままにして帰ったため、国立公園周辺の人たちが容易に車で公園内に入れるようになり、たくさんの野生動物を獲ったというブッシュミート問題も起きました。

2007年もう1回石油探索を実施する前、我々がブーイングしましたし、世界銀行なども問題に取り上げたので、ガボン政府もさすがに反省して環境基準を作ることになりました。石油探索活動は中止にはしないが、野生生物や環境にできる限り配慮してマイナスの影響がないようにやりましょうということになりました。そして、この環境基準を、シノペックがきちんと守るよう監査する仕事を、我々に委託してきたので、僕はリーダーとして監査チームを作り、中国人探索チームと一緒に国立公園内でキャンプしたわけです。

探索チームのリーダーとは英語と漢字を使った筆談でやりとりしました。彼らも課せられた条件を守って探索をやらなければならないということを、非常に素直に理解してくれて、毎朝6時にやっている朝礼の際に、チームリーダーが環境基準を読み上げ、禁止事項を確認すると、労働者が口を揃えて、オッーと言って確認するという日々を送りました。しかも、すでに用紙が用意されていて、労働者みながサインするのです。その紙には、規約を破った場合の罰則事項が書かれていたようです。

この時の監査項目には、大気汚染を防止する、車の移動を最小限にする、土壌浸食を最小限にする、木をむやみに伐らないといったことから、人間の糞尿によって動物が病気になる可能性があるのでトイレをちゃんと作り使用する、また国立公園内で作業する人は予防接種を受け、血液検査を受け、健康をチェックして、医者の承諾が出てから国立公園に入る、さらには、地元住民を雇用する、研究調査やツーリズムのために国立公園に入っている人たちに迷惑をかけないということも明記されていました。

探索に使うダイナマイトで動物に被害が出ないよう、いつ、どこで、どんなふうにダイナマイトを使うのかを、あらかじめ教えてもらい、ダイナマイトを使う場所の近辺に監査チームのスタッフを配置して、野生動物への安全を確認しながら爆破させていくようにしました。

要するにガボン政府の決定なので、石油探索活動をストップさせることはできませんでしたが、中国人たちと、あるいは、地元の村長と話をしながら、環境保全にとって問題になりそうなことを1項目ごとに是非を確認し、アセスメントの基準と比較しながら、探索を進めさせたわけです。どうしても木を切る必要があるといった時には、監査チームのリーダーである僕に相談してもらい、その理由や必要性について協議の末に決定したのです。

探索活動の1年目、中国人たちは国立公園内のキャンプ地近くでブッシュミートを食べていました。2年目に上記のような取り組みをしたところ、中国人たちも国立公園で動物を見かけると、ひじょうに嬉しがっておりました。動物を背景に写真を撮ってくれとはしゃぐいでおりました。彼らは、労働者として与えられた仕事をこなし、中国で食べているようにガボンでも野生動物を獲って食べていただけだったといえます。実際彼らはガボン政府が許可を出した区域だったので、一年目はそこが国立公園だとは知らされていなかったそうです。

最初、中国人の野生生物や自然環境への配慮に不十分な点は確かにありましたが、正当な手続きを経て説明を受け、具体的な場面ごとに協議ながら取り組みを進めていけば、中国人は野生動物・自然環境を保全する取り組みにすんなりと入っていきました。頑固さはなく、本当に素直で、こういったら失礼だとは思いますが、子どもみたいな感じでした。実際にアセスメントの基準に違反するようなことについて、僕がアドバイスすると翌日から確実に止まりました。逆に、ヨーロッパ人や日本人であったら、こうはできないのではないかと思いました。

インフラ整備や、支援の見返りとしての石油探索あるいは自然資源の開発のために、中国人はアフリカに来ていますが、もっと適切な手続きを経て、他の国や我々NGOがきちんとアドバイスすれば、中国人たちは相応に対応するだろうと思いました。否定的なイメージがありましたが、素直で、説明すれば正しくできる人たちだと実感できる経験をしました。

中国のアフリカ進出に対して否定的な見解を持っている人が多いと思いますが、中国のお隣の日本はどうなのだということも考えないといけないと思います。中国が進出して主に開発業をやり自然資源を持って行くという事態に対抗する形で、最近はJICAやJICAを推進する日本大使館も、日本は中国とは違うと、若干誇大に強調して環境保全プロジェクトを立ち上げようとしたりしています。中国と競争、あるいは対抗するということが大事ではないと思います。日本政府として何をすべきかを、中国と比較するのではなく、日本のことを真摯に考えて政策決定した方が良いのではないかと個人的には思う時もあります。

○アフリカの熱帯材、象牙を通して見える、日本と中国、アフリカとの関係

ガボンの2006年、2007年ごろのデータでは、一番の輸出先は中国です。二番目はフランス、旧宗主国です。次いでポルトガルと続きますが、日本も意外と多いのです。このことを知っている日本人は、ほとんどいません。日本の伐採業者は現地には不在であるし、商社も来ていないのですが、どこかで買い付けているのです。それなのに、一部の日本人は中国を悪者にして熱帯林を破壊しながら熱帯材を買い付けていると非難しています。JICAが自然環境プロジェクトを立ち上げるのであれば、そうした事実を踏まえ中国人との比較ではなく、自国の問題として真摯に考えるべきだと僕は言いたいのです。

日本と中国は、象牙の問題でも共通の課題に直面しています。アフリカのサバンナそして熱帯林でゾウが殺され、その象牙がワシントン条約に違反して密かに取引されという事態が起きています。そして、その行先は、皆さんご存知の通り中国と日本です。現在、世界中で象牙の需要があるのは、中国と日本にほとんど限られているからです。日本での需要は印鑑や三味線の撥に向けたもの、中国では彫り物やアクセサリー向けの需要です。

彫り物やアクセサリーの素材には、サバンナに住んでいるゾウの象牙も熱帯林に住んでいるマルミミゾウの象牙も使われています。それに対し、印鑑の職人さんも三味線の撥を使っている人たちも、硬くて長持ちする、シャープでクリアな彫り上がりになるハード材であるマルミミゾウの象牙にこだわります。象牙は、1989年にワシントン条約の取引禁止リストに加えられ、それ以来、取引が完全に禁止されています。それでも、熱帯林ではマルミミゾウの密猟が行なわれ象牙が密輸されています。その行き先として最も可能性が高いのは、ハード材需要が世界で一番多い日本なのです。

マルミミゾウの象牙が、アフリカ中部の熱帯林からどのような経路で日本へ届くのかについて、2つのルートが考えられます。一つは、さきほど紹介したイスラム教徒の商業のネットワーク。詳しい方法やルートはさておき、日本の税関とか東南アジアの税関で象牙の密輸が判明した際に聞くのは、大体このルートです。日本が最終目的地と思われる象牙が、台湾、中国、シンガポールなどで摘発されてストップするケースがあります。日本での象牙流通について調査している中で、印鑑屋さんに聞いた話では、東南アジアを旅行した際にお土産として買ってきた印鑑の素材(印材)を持ってきて、印鑑を彫ってくれと依頼する日本人がけっこういるそうです。本人は気づいていないかもしれませんが、これも立派な密輸なのです。

アフリカ中部から南部を経由するルーツも考えられます。2002年と2007年に、南部アフリカ諸国の象牙在庫が例外的に国際取引を許可されたことがあります。南部アフリカに住んでいるゾウはサバンナゾウで、その象牙は柔らかいソフト材です。このソフト材の象牙のオークションに参加した日本の象牙組合の人が、ハード材を観たよ、と証言していました。マルミミゾウの象牙が南部アフリカにも流れて来ているわけです。

今日の話はこれで終わりです。次回、日本の伝統的自然観、あるいは自然を利用する方法を振り返りながら、日本とアフリカ熱帯林の関係について考えます。

質疑

質問:熱帯林の伐採や開発業が進み、森の木が伐採されたあと植林はされていないのですか?

西原:熱帯林では、基本的に植林は不可能です。そういう事を試みている伐採業者もありますが、まだテスト段階です。不可能と言うのは、多種多様な野生生物や植物、そして何万、何千万種もの昆虫がいるという環境があって、その複雑な生態系の中にあって初めて樹木が育つからです。単一にその樹木を植えれば育つというような日本みたいにはいかないのです。なので、行き過ぎた伐採が進んでしまったら禿山になってしまい、多少は回復したとしても、元の原生林には戻りません。戻るとしても、多分、何百年という単位での長大な時間が必要です。
そうしたことがわかってきて、特にヨーロッパ系の伐採業者には多少とも環境に配慮しようという動きがあります。具体的には、環境配慮に関する基準を設けその基準をクリアすると認証マークを付けるという仕組みができています。ヨーロッパでは、環境配慮の見地から、認証マークがついている木材への需要があるからです。
同じ場所で伐採を継続していたら、あっという間に森が無くなってしまうので、樹木を切る場所、伐採する樹木の種類、そして大きさも限定し、また伐採樹木の間隔も配慮する、その地帯での伐採が終わったら、20~30年間は手を付けない、という方法をとっている伐採業者もあります。
熱帯林を復活させるには、昆虫や多種多様な植物、動物が全部セットで残っていなければならないので、伐採業の労働者が動物を大量に獲ったりしないように、違法行為を行わないように監視する体制も作られつつあります。伐採会社の一部は、そういった監視体制を実施するために、NGOに業務委託したり、資金を出してパトロールを実施しています。我々と協力する形で環境基準をクリアしようとする会社も出てきました。しかしながら残念なことに、ヨーロッパ系の企業以外では、まだまだ環境保全に関する考え自体が縁遠いのが現状です。

コメント:『アフリカの食料安全保障を考える』に「アフリカの土壌」を寄稿した小崎隆さんによれば、熱帯林地域では、土壌ではなくその上に積もった葉っぱの層が栄養循環の源です。木が切り倒されて葉っぱが積もらなくなると、木を育てることのできないやせた土壌が表に出てしまうのだそうです。シベリアのタイガも同じような栄養循環になっているそうです。

質問:ピグミーさんたちはお金に無頓着という話でしたが、ピグミーさんたちが病気や怪我で病院に行かなければならなくなったら、医療費はどうなって支払われることになるのですか?

西原:基本的には、給料を貰っていないピグミーさんは病院に行けません。開発業や研究者が雇用したピグミーさんは、保険に加入していますので病院代や入院費も出せますが、そうではない人たちは薬も買えません。
そもそも、ピグミーさんは森の中の薬用植物を熟知していて、何十年、何千年、何万年と生き続けてきた人々です。とはいえ、そういう基盤を失いつつあることを吟味して、今後どうすればよいのか検討すべき課題の一つです。

質問:お金を手にするとお酒に使ってしまう人がいるとのことですが、開発業が入ってきたから、お酒を飲むようになったのですか?

西原:もともと、椰子の樹液の中の発酵した甘いビールのような椰子酒があって、お酒の味を知っていたのです。しかし、椰子酒はたくさん作ることができず限界があります。でも、お金を持つといくらでも買えてしまうのです。町や村の人が買う蒸留酒を買って飲むようになると、そっちの方が簡単に酔えて楽しくなってしまうのです。

質問:マサイとかピグミーとかの伝統的文化が失われてきているとのことですが、外部からの影響、働きかけをどう思っているのですか?

西原:彼ら自身が自己主張するかどうかにかかっています。我々の方から何かを言う立場では無いと思います。彼らが自分達で民族の行く末を考えるべきだと思います。
すでに紹介したとおり、マサイの場合、高等教育を受けて自己主張をしようとする人たちも出ています。世界の情勢を考えて国立公園の存在自体は否定しない、だけど、制約があるとしても自分達の伝統的生業としての放牧を継続していくといったような、自己主張をできるようになれば良いのです。しかし、ピグミーさんたちは自己主張しないので何を考えているのかよく分からないのです。給料を受け取ったら、その足でその辺の屋台に行ってお酒を飲んでいるのです。給料が出た日の内に、給料はお酒に全部消えてしまう、という位に状況に流されているのです。

質問:ピグミーさん達もそれでいいと思っているのでしょうか?

西原:どう思っているかは分かりません。お金による欲望充足を実感しているのはたしかだと思います。我々がもっと反省しなければいけないのは、そうした現状を作ってるのは、研究だ、環境保全だ、ツーリズムだと、一見いいように見える活動を通して、彼等にお金を落とす事によって彼等を変えてしまったということです。

質問:密猟や密輸という違法行為をやっているのはピグミーさんではなく外から来た人達というイメージがあるのですが、どうでしょうか?また、あと、密猟しているのは、コンゴ人なのか、それとも他の国から来ている人たちなのですか?

西原:ピグミーさんが密猟しようとするわけではありません。ピグミーさんは、悪い言い方をすると使われているのです。森の中の事をよく知っているから、ゾウを撃って来いと銃を渡されて猟をしているのです。その猟の成果の象牙など価値の高い物はピグミーさんのものにはなりません。獲ってきた分の十分の一くらいがピグミーさんの分け前です。そういう意味では密猟にかかわっていますけれど、ピグミーさんが自分でゾウの密猟を組織するというものではありません。それを働きかけるのは外部の人、特に町の人です。
密猟をしかける人たちは経済的に貧困なのかと言えば必ずしもそうではありません。既に伐採業とかで働いている人の平均的な給料を考えた時、いい象牙を2本売ったら3か月分の給料になるのです。それを魅力的に感じる人が密猟を試みるのです。もちろん、低賃金も貧困の中に入れてもいいのかもしれません。賃金だけでは、自分の家族だけではなくて、頼ってやってきた10人、20人もの親戚や係累を養い、あるいは子供の養育費・学業費を捻出することができません。できないから他の収入源が必要だとなるわけです。そして、自分は伐採業で働いているから自分ではゾウを殺さないにしても、自ら持つ銃ピグミーさんに提供して密猟を頼んでいる、という仕組みです。
逮捕された時の事情調査書などによると、たいていの密猟者の言い分は、金に困っている、子どもを学校にやるお金も無い、子どもの文房具を買う金もない、なので違法とは判っていたが密猟に手を染めた、というものです。ですから、コンゴの国内法を変えて、低賃金を変えるというのも、密猟対策としては良い方策と言えるかもしれません。
一方、象牙がいまだに高い価値を持っている背景には国際的な需要の存在があります。国際的な需要が無ければ、象牙など獲っても何の意味も無いわけです。そうなれば、収入源にならなくなり自動的に密猟はストップするはずです。

質問:エコツーリズムをやっても、先住民の貧困の解消にはつながらないが、プールされたお金は地域の生活向上のために使われているのですか?

西原:我々がやっているツーリズムはビジネスというのではなく、かかった費用をカバーするお金をいただいているだけなのです。加えて、地域貢献費にあたるお金を徴収して、そのお金をプールして地元住民に落とすような仕組みを作ろうとしているのですが、村の中できちんと会議が行われていないため、お金を落としようがないのが問題です。会議での確認がないまま落としたら、村長のポケットに入ってしまいます。

質問:国立公園のパトロール隊の人達が賄賂を貰って密猟に加担するということはありませんか?

西原:非常に多くあります。彼らの給料と象牙による収入を比較したら象牙による収入の方が圧倒的に良いからです。彼らは、密猟者と銃撃戦になることもあるので、自己防衛のために自動小銃を持っています。その銃を使って自分でゾウを殺すことはなくても、誰かに銃を渡してゾウを撃ちに行かせることはあります。あるいは、象牙の密輸を発見しても手心を加えることがあります。手心を加えることで給料よりもいい収入を得られるので、結果的に加担してしまうのです。

質問:伐採業者が伐採区で自分達の食事に必要な分のブッシュミートを獲るのも、摘発の対象になるのですか?

西原:コンゴの法律もそれなりにややこしくて、日本と同じように、狩猟が許可されている季節、許可されていない季節、獲っていい動物、獲ってはならない動物、国立公園内での規定、伐採区であれば狩猟の許可される区域というのが規定されています。獲っていい場合も、量は限定されています。基本的に商売としてやってはいけない、規定内であれば自己消費分だけならばいいということです。
伐採区のマーケットで、大量のブッシュミートが売られているというのは、完全に違法行為があるということです。何にも無い所に何百人、何千人が活動することになる基地を作って入って来て、働き手の家族や親族も含めて何万人もが住む町になってしまったわけです。もし、伐採会社が真剣に環境配慮を考えるのであれば、できてしまった町に暮らす人々の食料をどうするかを考え、実行しなければなりません。家畜を導入するのは簡単ではなくまた問題もあります。また冷蔵施設もないなかで利用可能な食肉加工品や鶏肉などで需要を満たすようなシステムを作る必要があるのです。伐採区の町では、鶏肉の値段はブッシュミートの3倍位するという現状があります。

質問:話の中に、エコツーリズムとツーリズムが出てきますが、その違いがよくわからないのですが?

西原:非常に良いご指摘です。僕もよくわかっていません。
エコツーリズムということばが流行しているので使ってみたのですが、意識して使い分けているわけではありません。従来のツーリズムはビジネスで金儲け中心みたい印象が強いですが、エコがつくとちょっと自然環境に配慮しながら地域住民にも多少貢献するという印象があって、自分はエコツアーに参加して良かったという自己満足を得られるということばの使い方だろうと、僕は思っています。実際には、ほとんどのツーリストの方は見たい動物の写真撮ってそれで満足している、また、払えと言われたら「地域貢献費」あるいは「環境保全基金」といったお金を払うというだけではないでしょうか。旅行会社の方は、そう謳って考えて使い分けていると思います。

質問:政府は、どの程度エコツーリズムに期待しているのでしょうか?

西原:政府にしてみれば、うちの国には原生林があって、そこに動物がたくさんいて、ツーリズムに国を開放しているというのは、対外的ないいイメージです。しかもエコツーリズムといことばを使えば、もっといいイメージにはなります。しかし国家収入への寄与を考えると、伐採業と比べたら全く格が違うのです。これが石油であれば、単位のゼロが3つ位違ってきます。それだけ国家収入に違いがあるので、ンドキ国立公園はもう作ったから仕方がないが、あとはもう、開発業に回そうというのが、政府の現状です。

質問:ブラザビルとかの富裕層の人と森の中で自給しているような人とどれ位経済的格差があるのですか?また、コンゴの紫檀や黒檀も、伐採業みたいに日本に入ってきているのですか?

西原:2つ目の質問から答えます。紫檀、黒檀の木材が日本に入ってきているかどうかがわかるデータをまだ得ることができていません。ガボンから日本に入ってくる主な木材の種類はオクメというもので、家具にも家にも使われる一般的な木材です。何年か前に聞いたところでは、ある商社がある特定のウェンゲという特別な木材を買い付けに来ていたそうです。
最初の質問の都市の富裕層と地元の人との経済的格差に関しては、「給料いくらですか?」と聞いたことないのでわかりませんが、推測では、政府の役人の給料と地元の人給料とは10倍位は違います。富裕層の人達のお金の使い方は、大体、大きい家を買い、奥さんを2~3人もらい、トヨタの新車を2~3台買ってという感じでお金使っています。我々と比べると、貯金をしてどうしようっていうような将来設計を持たず、使えたらその場で使ってしまう、という話を聞きます。

質問:中国の企業は、今、石油が取れてもうかっているのですか?

西原:先ほどの報告で触れた中国人たちが石油を探しに行ったところは、幸か不幸か、石油が無いとわかり大々的な開発は行われないことになりました。しかし、シノペックはガボン政府と交渉して、国立公園ではない別の場所で同じように探索活動をやり、そこでは多少は石油があったと聞きました。その後、フォローしていないのでわかりません。
石油が出れば桁違いな国家収入になります。なので、ガボンでは大統領声明で、国立公園だろうが石油や鉱物資源があれば開発すると明言しています。開発する面積分、別の場所を国立公園にするという方針を持っています。
国としての体面、国の外面的イメージを良くするために、ガボンは13もの国立公園を一気に作りました。国土の10%、それだけの国土を保護区にした国は無いのです。ですので、大統領が国立公園設立を決断した時、他の国は大英断だと大絶賛したのです。ですが、石油が出るのだったら、石油収入の方が動物保護や自然環境保全よりも魅力的でいいなあ、という感じです。

質問:中国の人がアフリカで働いた後、中国に帰らないで、現地に住みつくということをよく聞くんですが、コンゴでもあることなんですか?

西原:そういう可能性は大きいです。家族親戚みんな連れてきて住みつき、商売を始めて、拠点を作ってしまうのです。最初は中国企業の事業現場で働き始めて、インフラ整備が終わってもそこに住んで、商店を始めてしまうケースがあります。イスラム教徒の商業ネットワークにとってかわるような形で中国人が商業の世界に入って来ているので、このままいけば中国人が商業を全て乗っ取ってしまい、コンゴなのに中国人の方が多くなるかもしれません。

質問:検問で没収した象牙は一体どうするんですか?また、石油探索の際にダイナマイト使うとのことでしたが、自然への影響は大丈夫なのですか?

西原:没収された象牙に関して、我々NGOは何をすることもできません。コンゴの国内法では国庫に入る、森林省の倉庫で補管することになっています。その後の処分がどうなっているのかは全くの暗闇です。ゾウを保有する国は、ワシントン条約の国際会議で、象牙のストックあります、何トンのストックがあるので、もし日本や中国で需要があれば売ります、と申請して認められたら、輸出することが可能になります。これまでの南ア諸国からの事例では、その輸出代金は国家収入に入れて、ゾウのために使われることになっています。
僕は専門家ではないので、ダイナマイトの影響について本当にわからないのですが、現場にいた時、ダイナマイトを使うと音が聞こえて、地響きがしていました。ダイナマイトの使用現場近くに動物がいても音がするので遠のくと思います。遠のけば動物の命にそれほど影響はないのかなと思います。

>>アフリカ熱帯林と日本の関係

>>「第3回 日本の伝統的自然観とアフリカの自然のあり方」報告

>>「第1回 アフリカ熱帯林地域での自然環境と野生生物」質疑応答