アフリカの日に寄せて

アフリカ日本協議会では、5月25日の「アフリカの日」にあわせて、環境問題に取り組む国際環境NGO350.org Japanとともに共同声明を発表しました。(全文下記 賛同者を含む共同声明はこちら

ウガンダからタンザニアにかけて進められている東アフリカ原油パイプライン計画(関連情報)についての情報を提供し、アフリカ諸国で気候変動の影響がより深刻に人々の生活に影響を与えていることを、改めて考える機会にすべく、補足情報として関連するウェブサイトを以下に掲載します。
また、この声明については会員からさまざまな意見が寄せられました。アフリカ日本協議会は、さまざまな立場、意見の人々が集うネットワーク団体です。こうした意見や具体的な情報提供があることは重要と考え、あわせてご紹介します。本ページを通して、みなさまと一緒に考えていく機会となれば幸いです。


アフリカの市民との連帯と気候正義の実現を求める共同声明

5月25日は「アフリカの日(Africa Day) 」で、1963年5月25日にアフリカ統一機構(OAU)が設立されたことを記念して定められた日です。OAUは2002年にアフリカ連合(AU) に移行し、55ヵ国が加盟しています。この日はアフリカ各国をはじめ世界中で祝われます。

現在、気候変動の危機は顕在化しており、アフリカにおいても最大の社会課題の1つになっています。アフリカ各地で山火事の頻発や干ばつ、サバクトビバッタの大発生が飢餓や栄養不足に深刻な影響を与えています。先月、南アフリカのダーバンで400人以上が亡くなった洪水など、深刻な気候災害は枚挙に暇がありません。気候変動の解決なくして、持続可能な開発目標(SDGs)の全面達成はなしえず、他のゴールと同様、行動強化が求められています。

現在進行している気候変動の大部分は、日本を含む先進国における化石燃料の大量消費によって引き起こされてきました。日本の1人あたりのCO2排出量は年間約8トンですが、アフリカでは約1トンです。とりわけ最も貧しく困難な状況に置かれている人々は、ほとんどCO2を排出していないにもかかわらず、最も深刻に気候変動の影響を受けています。植民地主義などによって歴史的に引き起こされてきた貧困や飢餓といった苦難を、近年の気候変動がさらに悪化させているのです。

この現実を踏まえ、私たちは、「アフリカの日」に、次のことを求めます。

アフリカにおいて気候変動に直面し、様々な工夫をこらしてその緩和や対応に取り組んできた人々や、再生可能エネルギーのさらなる導入を求め、化石燃料事業の中止を求めるアフリカの市民に連帯の意を表明すること。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新報告を受け、ガーナの気候活動家は再生可能エネルギーのさらなる導入を求めてマーチをしました。ウガンダの市民は化石燃料事業の中止を求めて声をあげました。パリ協定にも謳われている気候正義の実現のため、アフリカで草の根で行動する市民と日本から対話を続け、連帯します。
日本の官民は、気候変動や人権状況の悪化につながる、アフリカでの化石燃料開発プロジェクトや大規模農業開発計画への加担をやめること。世界最大の原油輸送パイプライン計画である「東アフリカ原油パイプライン(EACOP)」には日本の三井住友銀行も関与しており、アフリカ内外で強い批判の声があがっています。モザンビークにおける天然ガス開発事業には国際協力銀行(JBIC)や三井物産なども関与しています。これらの事業は気候変動の原因となり、広範囲に生態系を破壊します。さらに、国内の需要に応じるのではなく、国外に資源を輸出するものです。市民の民主的な参画と健全なガバナンスが確保された対話プロセスを通じて、かかる事業を見直すことが必要です。
先進国の責任として、アフリカにおける気候変動の適応策、クリーンエネルギーへの転換、気候災害の対応に関する支援を強化すること。人々の人権が脅かされたり、貴重な自然環境が破壊されたりすることはあってはなりません。アフリカにおける先進国企業の事業には巨額の公的支援や民間投資がなされる一方、脆弱な状況に置かれた人々への支援は不十分なままです。
アフリカにおける気候変動の被害と日本における温室効果ガス排出がつながっていることを認識し、日本における気候変動対策の強化を急ぐこと。パリ協定の1.5℃目標に整合するよう、温室効果ガス排出削減目標のさらなる引き上げや、省エネルギーを最優先で徹底するとともに、環境破壊的でない再生可能エネルギーへの公正な移行が必要です。そのためにも、日本の金融機関及び機関投資家は、化石燃料への資金の流れを止めなければなりません。

以上


■参考リンク

関連するニュース記事や研究、市民団体のウェブサイトをご紹介します。

気候変動とアフリカに関連する情報など

・国連ニュース:World ‘at a crossroads’ as droughts increase nearly a third in a generation (2022/5/12) 
気候変動と水資源をめぐる国際政治のネクサス(学術研究)
21世紀に入って「気候変動政治 (Climate Change Politics)」への関心が高まり、国際政治学・国際関係論においても研究が求められる時代を迎えた。本研究は、グローバル・サウスの事例を取り上げながら、気候変動と水資源をめぐる国際政治のネクサスを以下の3段階で検討する。(東京大学未来ビジョン研究センター本研究HPより)
再エネと日本人一考――根底にある“強者の論理”と“不安”(2022/1/11) 
・特定非営利活動法人 RITA-Congoの公式ウェブサイト
電気自動車に使われるコバルト採掘の現地への影響などについて学べます。(RITA-Congoはコンゴ民主共和国における紛争下の性暴力と、紛争鉱物およびグローバル経済との関係性に関する認識を広め、問題解決策を考える団体です。(同団体HPより))

東アフリカ原油パイプライン関連のリンク

・東アフリカ原油パイプライン計画(EACOP)に関する記事:「東アフリカのウガンダ、トタルの投資で産油国へ転換」(2022/2/3日経
・東アフリカ原油パイプラインホームページ(英語):East Africa Crude Oil Pipeline

東アフリカ原油パイプラインで輸送する原油を採掘する「ティレンガ・プロジェクト」について問題視する記事等
Oil drilling in Murchison delta and the blurred future of wild ife and tourism (MONITOR/2021.5.5/英語)
Murchison Falls National Park: An Oil Project in a Protected Natural Area, High Risks of Environmental Violations(SAVE VIRUNGA/2020.1.20/英語)
Tilenga project could extinguish native Bagungu (New Vision/2018.11.21/英語)

市民社会や地域コミュニティから上がっている声などが伝えられている記事やウェブサイト
#StopEACOP ウェブサイト(STOP EACOP/英語)
東アフリカ原油パイプライン融資にNo!(350.org Japan/日本語)
Opposition to Uganda Pipeline (The Independent/2022.4.14/英語)
TANZANIA: ‘The government is trying to silence those who are against the pipeline(CIVICUS/2022.4.22/英語)
Ugandan activist Vanessa Nakate: ‘Not all climate action is climate justice’(France24/2022.3.22/英語)
Farmers, civil rights groups oppose Uganda’s oil project(Mail and Guardian/2021/5/1/英語)


■声明に対してAJF会員から寄せられたご意見

●一個人(会員)として思うところは以下です。
・まず、本件は私の専門とは異なることもあり、これを契機に何か学び合う機会等できればと思います。
・次に、気候危機に対して懐疑的な立場をとることは、勉強不足ながらも、おかしいと思っています。むしろ、アフリカを含め世界中で気候危機を問題にする人々(特に若者)の声と、その危機の現場にいる人々の声と、その現状を、しっかり見聞きしたいと思います。そこで人々が感じる不安と、起こるかもしれない危機を考え想像したいと考えています。
・アフリカにおける気候危機は、その言葉の新しさがゆえに難しい問題をはらむと思います。例えば私が少し調べているナイジェリアの例を3つ。
(1)ナイジェリアはアフリカで石油が一番とれますが、その恩恵は適切に一般の人びとに行き渡っていません。石油による国家収入をどのように各州・石油産出地域に配分するかをめぐる長い議論があります。石油産出地域の住民が貧しい生活を強いられ、地域の環境が破壊され、漁業・農業を営むことができなくなり、治安は極めて悪化しています。
(2)ナイジェリアの農耕民と牧畜民間の紛争について、環境問題の観点から検討されることがあります。牧畜を営む方々が、草を得ることができにくくなり、これまでよりもより南部に移動した結果、農耕民と衝突する、というもので、武器が流入し治安は極めて悪くなっています。
(3)ナイジェリア、チャド、ニジェール、カメルーンの4ヵ国にまたがっているチャド湖は、海につながっていない湖で、したがって環境の変化の影響を受けます。過去数十年で、灌漑や砂漠化やいろいろな要因で急速に縮小しています。そもそも半砂漠~砂漠のエリアであり、ナイジェリアの中でもとりわけ貧困等が深刻な場所で、ボコハラム等が住民を厳しい状況に追い込んできました。
・こういうことは、おそらく開発、気候危機、公衆衛生、牧畜民、移民、企業、紛争等、さまざまな視点から問題提起できます。今日のようなかたちで気候危機に関する議論が本格化したのが、他のイシューよりも比較的新しめではあると思われます。だからこそアフリカでは、気候危機の観点から問題が問題になるよりもずっと前から、問題の根っこがあるということも考えねばなりません。。
・ではどうやって問題をとらえるか。単純と言われようとも、やはりアフリカの人々の声を聴くところから始めるということなんだと思います。例えばパイプラインが敷かれるところに住んでいる人たちが何を考えどのような声をあげているのかをちゃんと聞いて、その声はなぜ生まれてくるのかを考えて、ということが大事だと思います。気候危機といった大きな大きな言葉は、その過程や結果として選ばれ使われるのではと考えています。

●私はアフリカ日本協議会の会員ですが、2022年5月25日にアフリカ日本協議会と国際環境NGO350.orgによって発表された「アフリカの市民との連帯と気候正義の実現を求める共同声明」に反対です。
理由はいくつかありますが、まず、この声明の前提とせつめいなる気候変動の原因をCO2の排出増によるものだと断定していることです。これはあくまで推論であり科学的に立証された事実ではありません。

「地球温暖化」といわれる現象については国際政治の場ではCO2の排出が原因だという意見が多いことから事実として扱われていますが、科学者の間では意見が大きく割れており、とりわけ地球物理学者の間では強い反対があります。気候変動についても原因をCO2の排出増はだけで説明することは慎重さを欠いていると思います。CO2濃度は一つの原因である可能性はあるにしても他にも原因があるかもしれません。急激な開発による環境の破壊とか地球の気候の循環によるものとか、いろいろな視点から考え対策を考えていかなければなりません。化石燃料を使わないことでCO2を排出することが気候正義であるという考えはあまりにも単純ではないかと思います。この声明では「パリ協定にも謳われている気候正義の実現のため、アフリカで草の根で行動する市民と日本から対話を続け、連帯します。 」と書かれていますが、「アフリカで草の根で行動する市民」はアフリカの人々のごく一部の人たちであり、総意とはいいがたいと思います。ガーナでデモがあったとのことですが、デモがあれば多くのアフリカの人たちの考えだというのは説得力がありません。むしろ「先進国は化石燃料によって発展したんだから、途上国については当面は投資も認めろ」という意見が多いのではと想像します。
たしかに問題のある開発プロジェクトもあるとは思いますが、問題点は個々のプロジェクトごとに詳しく見て、問題を指摘したり内容の改善を提案していくべきだと思います。まったく説明なしに十把一からげに、「気候変動や人権状況の悪化につながる」ときめつけ化石燃料開発プロジェクトや大規模農業開発計画のすべてを全否定する姿勢はアフリカでも日本でも一般市民の理解は得られないと思います。人権状況と気候変動は別の問題です。大規模農業開発を気候変動の観点から反対するのであれば、詳しい説明が必要だと思いますが、一切書かれておらず、声明を読んだ人も理解できないでしょう。化石燃料関係でなくたとえクリーンエネルギーを創出するプロジェクトであっても人権状況や環境破壊に問題があれば、個々に問題提起をしていくべきなのです。

この声明ではいろいろな理由がちょこちょこと出てきますが、この声明の中心は、化石燃料開発プロジェクトはCO2を排出させ気候変動をもたらすのでやめるべきだという主張だと考えます。この理屈から考えると、石油パイプラインだけでなく精製所や化石燃料を燃やして製品を作るような工場もすべて、CO2排出につながるので、投資をやめろということになります。アフリカの経済を発展させることを考えた場合、このような主張はあまりにも非現実的で、アフリカ人の生活を脅かすことにつながります。短期的にみれば、多くの脆弱性を抱えているアフリカにおいては経済的なダメージは生存にかかわる問題です。この声明も気候や環境をテーマに活動するNGOの声明としてはある見方を示しているといえますが、説明が不足しているし、あまりにも断定的です。総合的にアフリカの人々の暮らしを考えていく立場にあるアフリカ日本協議会の総意として発せられる声明としては非常に問題があると思います。(牛尼恭史)

●化石燃料に代わる再エネや電動車開発のために、希少金属だけでなく銅などメジャー金属もいま加速度的に開発が進んでいます。結果的にアフリカだけでなく、東南アジア、南米など熱帯地域での地下資源開発が進行し、熱帯林破壊と先住民族への人権侵害が現存です。これを無視してまで、「気候変動緩和策=再エネ」はあり得ません。
IPCCなどの決議に応じて、欧米を中心に途上国への再エネ設置への投資が増えております。しかしながら、(日本と同様)自然界を壊しながら、あるいは先住民族の土地を侵害しながらの、大規模再エネ設置が進行中です。これをどう捉えるのでしょうか?

●私は会員として、この「アフリカの日」声明に賛成する立場です。この声明が、いま東アフリカで進む「東アフリカ原油パイプライン」の計画について、具体的な課題として取り上げているからです。日本の一部の民間金融資本も、この計画に関与しており、日本と無縁ではありません。私は、この声明が出るまで、この計画について全く知りませんでした。私としては、この声明のおかげで、この計画について知り、調べる機会ができたことに感謝しています。

私は、気候変動がアフリカに大きな影響を与えており、産業革命以来、大量に二酸化炭素を排出してきた先進国が率先して、二酸化炭素の排出削減を始め、社会・経済的な構造改革によるエネルギー使用量の削減、環境を破壊しない形でのエネルギー転換など、克服に向けて本気で取り組む必要があると考えています。一方で、「アフリカにおける取り組み」については、アフリカが様々な経済的・社会的・政治的な課題を抱えている以上、先進国の発想やセオリーで進めてしまうと、大きな問題が生じることもあります。アフリカの主権に基づき、全体を見据えた「公正な移行」が必要だろうと思います。

この「東アフリカ原油パイプライン」計画については、そもそも、油田のあるウガンダが、原油をそのままパイプラインでアフリカ域外に輸出するのでなく、自国に製油所を作り、自国や東アフリカ地域で使う計画を持っており、パイプライン計画には否定的だったという前提があります。また、油田の多くが「マーチソン・フォールズ国立公園」の中に位置し、開発と環境保護の矛盾があることから、石油自体は2006年に発見されたものの、開発は進んでいませんでした。残念ながら、国内の製油所建設というウガンダ政府の計画には国際資金はつかず、アフリカの資源をそのまま海外に輸出するという帝国主義を彷彿とさせる資源収奪の計画には国際資金がつくという矛盾が、今回も生じたわけです。この計画はその意味で、現地の環境系NGOや市民のみならず、政府や現地の民間資本にとっても問題であり、だからこそ、ウガンダの主要紙である「ニュービジョン」や「モニター」を始め、多くの現地メディアにも多くの記事が出ているわけです。

私は、アフリカ日本協議会が、この課題について、声明を出して日本の関係者に広く問題提起する、ということは、当会が本来行うべき非常に重要な活動の一つになるのではないかと思います。私としては、この声明が、もう少し「東アフリカ原油パイプライン」について、具体的に紹介し、問題提起するものになっていれば、なおよかったのではないかと思います。