=COVID-19ワクチンのグローバルな配分に向けて=
(本記事は、8月31日に欧州連合がCOVAX参加を表明し、4億ユーロ(4.8億米ドル)の拠出を表明したことを踏まえてタイトル・内容を改訂しました)
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の収束をもたらしうる「ゲーム・チェンジャー」として当初から注目を集めているのがCOVID-19ワクチンである。3月11日のWHOのパンデミック宣言から6か月のうちに、相当数のワクチンの開発が試みられている。一方、ワクチンが開発された場合の供給については、米国をはじめ、資金力のある大国が、ワクチンを開発する製薬企業との直接取引で相当数を確保する状況となっている。世界保健機関(WHO)は、資金力にものを言わせた富裕国の「ワクチン国家主義」(Vaccine Nationalism)が、グローバルにみたときのワクチンの効果的かつ平等な配分を阻み、結果としてCOVID-19の収束を遅らせることになる、と強く警告している。
ワクチンを含め、予防、治療、検査にかかわる研究開発と世界全体への平等なアクセスを一体で手掛け、効率的かつ平等な配分を実現するために、WHOと欧州連合などの主導で設立された国際協調の枠組みが「ACTアクセラレーター」(COVID-19関連技術アクセス促進枠組み)である。ACTアクセラレーターの内部に設けられた開発・供給の3つのパートナーシップのうち、ワクチン・パートナーシップは「COVAX」と名付けられ、開発をCEPI(感染症流行対策イノベーション連合)、供給をGAVIワクチンアライアンス(旧・ワクチンと予防接種のための世界連盟)、全体調整をWHOが担う形で進められている。COVAXは、ODAを財源に、資金の不足している途上国(低所得国・下位中所得国、一部の島しょ国など92か国)にワクチンを供給する「COVAX-AMC」(COVAX事前購入誓約)と、ワクチンを自費で購入する先進国や一定の資金力のある国(高所得国・上位中所得国)が活用できるCOVAX-Facility(COVAXファシリティ)の二つがあり、この仕組みを通じて、より安全で確実なワクチンを製薬企業から共同購入することで、世界全体にワクチンを安定的に供給することを意図している。
各国はCOVAXへの関心表明を8月31日までに行い、法的拘束力のある形での参加確約が9月18日、COVAXを通じたワクチン購入のための第1回支払期限が10月9日となっている。これに関して、米国は、脱退を表明したWHOが主導する枠組みということで無視を決め込んでいる。一方、日本、カナダ、オーストラリア・英国など、米国・欧州連合以外の先進国(高所得国)は、基本的には、参加の意向を示してきた。最大の問題とされてきたのは、欧州連合の参加についてである。欧州連合はもともと、ACTアクセラレーターの設立を主導し、さらに5月4日、6月27日の2回にわたって資金誓約会議を開催してACTアクセラレーターに合計190億米ドルの資金を確保してきた。ところが、この数か月、EUは、23億米ドルの資金を活用して、製薬企業と二者間の取引でワクチン確保に努め、年内に必要なワクチンを確保することを目指してきた。これにより締結される契約に排他条項が含まれうることから、EUは加盟国に対し、COVAXに協力することは妨げないものの、COVAXファシリティを通じて自国のワクチンを購入しないように求めた。さらにロイター通信の報道によると、欧州連合の担当者は「COVAXを使えば、相対的に高価格となり、供給は遅くなる」と述べた。
ACTアクセラレーターの「ワクチン・治療・検査」の3つのパートナーシップの中で最も注目されているのは「ワクチン」であり、ワクチンのパートナーシップであるCOVAXが機能しなくなれば、ACTアクセラレーター、ひいては、COVID-19との闘いに関する国際協調は影が薄くなる。各国との調整にあたっていたWHOは、これまでの参加オプションに加え、すでに製薬企業と特定のワクチンについて調達契約を結んでいる場合には、そのワクチンを除いたうえでCOVAXに参加できるという、より柔軟な新たなオプションを示した。これを踏まえ、欧州連合は関心表明の締め切り日であった8月31日にCOVAXへの参加表明を行うとともに、4億ユーロ(約4.8億米ドル)の拠出を表明した。欧州委員会委員長のウルスラ・フォン・デア・レイエン氏はこの表明にあたり、「世界規模での協力はパンデミックを克服する唯一の方法です。欧州連合はCOVAXに4億ユーロを拠出することで、将来開発されるワクチンの利益を、低所得国・中所得国に供給するための重要な役割を果たします。この貢献により、『ともにウイルスを打ち倒す』という我々の目標に近づくと信じています」と述べた。
多国間主義が退潮し、各国が自国の利権を優先する傾向が強まっている中で生じたCOVID-19パンデミックにおいて、米国は参加していないものの、ACTアクセラレーターのような「平等なアクセス」を主要課題に据えた国際協調枠組みが、パンデミック宣言から1か月強で形成されたことは、COVID-19というグローバルな脅威にグローバルに対抗するという観点から、高く評価できるものである。前日まで判断を保留していた欧州連合が、最終的に、COVAXへの関心表明を行い、国際協調の立場に立ち戻ったことは、「ワクチン国家主義」への世界的傾向を押しとどめる意味でも評価できる。今こそ、「グローバルな危機には、グローバルな対応を」という観点から、国際協調・国際連帯の基本に立ち戻ることが、欧州連合をはじめとする富裕国に求められている。
※本記事の執筆のために、以下の記事を参考としました。
◎欧州連合
Coronavirus Global Response: Commission joins the COVID-19 Vaccine Global Access Facility (COVAX)
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_20_1540
◎ロイター配信
Exclusive: WHO sweetens terms to join struggling global COVAX vaccine facility – documents (2020年8月28日)
https://jp.reuters.com/article/us-health-coronavirus-who-offer-exclusiv/exclusive-who-sweetens-terms-to-join-struggling-global-covax-vaccine-facility-documents-idINKBN25O1L5
Exclusive: EU eyes COVID-19 vaccines at less than $40, shuns WHO-led alliance – sources
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_20_1540