WHOは「COVID-19技術アクセス・プール」(C-TAP)の取り組みに指導力発揮を

市民社会、テドロスWHO事務局長に共同書簡を提出

WHOのテドロス事務局長(2017年東京:稲場雅紀撮影)

今年(2021年)は、HIV/AIDSが公衆衛生上の課題として初めて登場した1981年から40周年となる。世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は1月18日、WHO第148回執行理事会開会にあたって次のように述べた。「40年前、新しいウイルスが登場しパンデミックを引き起こした。命を救う治療薬が開発されたが、世界の貧しい人々にいきわたるのに10年を要した。12年前、また新しいウイルスが登場し、パンデミックを引き起こした。命を救うワクチンが開発されたが、世界の貧しい人々に届く前に、パンデミックは消滅した。そして1年前、さらに新しいウイルスが登場し、パンデミックを引き起こした。命を救うワクチンは開発された。次に何が起こるかは私たちにかかっている」。そのうえで、高所得国がワクチンを独占する「ワクチン国家主義」について、「高所得国の健康な若者が、貧困国の高齢者や医療従事者より前にワクチンを接種することは正しくない」と述べ、倫理的失敗(moral failure)について警告を行った。

この演説で、テドロス事務局長が触れなかったものが一つある。WHOとコスタリカが呼びかけ、ノルウェー・オランダなど一部高所得国を含む37ヶ国の賛成を得て5月に設置した「C-TAP」(COVID-19技術アクセス・プール」である。

医薬品・ワクチンのみならず、COVID-19に関わる様々な知的財産権をプールし、技術を共有し、世界全体で公正なアクセスを保障するために作られたC-TAPの取り組みは、現在までのところ、先進国の不支持や、国際製薬団体連合会(IFPMA)の公然たる拒絶などに遭い、頓挫した状況にある。

C-TAPは、2010年に設立され、エイズ、結核、C型肝炎、マラリアの治療薬の知的財産権の共有化と、異なる企業が開発した医薬品の多剤混合薬の開発および公正なアクセスに寄与している「医薬品特許プール」(MPP)と、COVID-19拡大以降、米国の研究機関や企業の間で、自らの製品の知的財産権を開放する「COVID-19開放誓約」(Open COVID Pledge)、さらに国連技術バンク(UN Technology Bank)とUNDP、国連貿易開発会議(UNCTAD)、WHOが協力して設置した「技術アクセスパートナーシップ」(TAP)と連携して、医薬品にとどまらず、予防・治療・診断やマネジメント等に活用する技術のアクセス促進の核になるはずであった。市民社会は、COVID-19の危機に際して、途上国を含む公正なアクセスを確保するために、C-TAPへの企業や政府の協力を呼び掛けてきた。しかし、現状は行き詰った状況にある。

これについて、1月21日、英国由来の国際NGOであるアムネスティ・インターナショナル、オックスファム、グローバル・ジャスティス・ナウの三団体でつくる「民衆のワクチン同盟」(People’s Vaccine Alliance)と、オランダをベースとする保健NGO「保健行動インターナショナル」(Health Action International)が、WHOのテドロス事務局長に対して、C-TAPに関わる戦略の開示と政治的指導力の発揮を求める共同公開書簡を提出した。

この書簡で3団体は、WHOに対して、C-TAPに関する戦略、誰が政治的意思を示しているか、また、生産に向けたノウハウや技術の移転に関する実際的な事項に関する技術的な指導力を提供しているのは誰かといったことについての情報の開示、C-TAPの進捗についての2週間に一回のブリーフィング会合の実施、C-TAPが関わる技術の共有化や移転の促進等に関するガイドラインや合意モデルの公開、C-TAPに関する資金的サポートの現状など、C-TAPによる取り組みを前進させるうえで必要な方針や戦略を開示するように求めている。

その上で、市民社会は政府や企業・研究機関等に対してC-TAPを支援し積極活用するよう求めてきたが、WHOがC-TAPについてより透明性を持ち、より積極的な形で指導力を発揮すべきとしている。

「民衆のワクチン同盟」と「保健行動インターナショナル」による共同書簡は以下からアクセスできる。
https://www.keionline.org/wp-content/uploads/HE-Dr-Tedros-Letter-from-Peoples-Vaccine-Alliance-and-Health-Action-International.pdf