=新型コロナの影響を受ける市民社会・コミュニティの活動=
グローバルファンドへの参画を資金的に保障するイニシアティブ
途上国の三大感染症対策に資金を供給する国際機関、グローバルファンド(世界エイズ・結核・マラリア対策基金)は、設立当時から市民社会や三大感染症の影響を受けたコミュニティを含む様々な社会セクターとのパートナーシップを重視してきた。全体の意思決定を行う理事会では、投票権ある理事20議席のうち3議席がNGOと当事者コミュニティにあてられ、国家政府と同じ権限で意思決定に参加している。また、各国でグローバルファンドへの資金申請や実施を統括する「国別調整メカニズム」(CCM)には、政府や援助機関だけでなく、NGOや当事者コミュニティの代表が議席を持っている。しかし、三大感染症への取り組みは、新たな技術や手法の開発によって日々変わるほか、資金拠出の方法などについても、グローバルファンドが取り組みを強めるほど、制度の改革・改変が多発し、現場のコミュニティ組織などは、こうした変化に取り残されるといった問題が生じていた。
三大感染症は、特に影響を受ける脆弱なコミュニティの排除や人権侵害、ジェンダーや性的指向・性自認に基づく差別といった社会的・経済的要因によって拡大する。コミュニティや市民社会が活躍できなければ、これらの問題が拡大し、三大感染症の終息はおぼつかない。そこで、グローバルファンドは2014年から、関係するあらゆるプロセスにおいてコミュニティ、人権、ジェンダーを主流化するための「コミュニティ・人権・ジェンダー(CRG)特別イニシアティブ」(CRG-SI)を開始した。これは2017年から「CRG戦略イニシアティブ」と名称を変え、取り組みを拡大している。
市民社会とグローバルファンドの新たな対等な関係を実現
CRG-SIは3つの要素から成り立つ。まず、グローバルファンドをよく知る市民社会の専門家団体に資金を拠出し、コミュニティ組織や市民社会に対して、グローバルファンドの仕組みや関わり方などについて短期的な技術協力を提供する。次に、地域・世界レベルの、三大感染症の影響を受けるコミュニティのネットワーク組織(男性と性行為をする男性(MSM)やセックスワーカー、薬物使用者のネットワーク、結核やマラリアに関する地域レベルの取り組みの調整を行うネットワーク等)に中長期的な資金を拠出し、グローバルファンドにかかわる能力向上を行う。最後に、三大感染症に取り組む地域レベルのネットワークを「地域プラットフォーム」として資金拠出し、このプラットフォームが各地の市民社会組織や当事者組織の三大感染症の取り組みに関して包括的な支援を行う、というものである。こうした形で、市民社会の中で能力強化や経験交流などを行うことで、グローバルファンドに対する市民社会の参画を主流化し、ジェンダーや人権への取り組みの全面化を図る、というものである。グローバルファンドは、多国間案件や、効果の高い案件への資金補充、戦略的な資金支援を行うための資金プールである「触媒的支援」枠(Catalytic Investment、3年間8億ドル)から、3年間で1500万ドルの資金をCRGイニシアティブに拠出している。「CRGができて、市民社会が本当の意味でグローバルファンドにしっかり関われるようになりました。他の国際機関に比較しても、信頼性のある柔軟な形で市民社会が受け入れられていると感じます」と、英語圏アフリカの地域プラットフォームを務める「東アフリカ国家エイズ・保健サービス組織ネットワーク連合」(EANNASO)のオリーブ・ムンバ事務局長は語る。
COVID-19が市民社会のグローバルファンドへの参画を阻害
=東・南アフリカでの調査から=
2019年コロナウイルス病(COVID-19、新型コロナウイルス感染症)は、三大感染症に取り組む市民社会にも大きな影響を与えている。EANNASOは、自らが管轄する東アフリカ・南部アフリカ地域で活動するNGOやコミュニティ組織に、グローバルファンドの案件にかかわるCOVID-19の影響についての大規模なアンケート調査を行った。それによると、三大感染症の予防、治療、ケアのサービスのいずれも、COVID-19の影響により活動量が低下している。HIVについては回答の96%、結核で86%、マラリアで77%の回答者が、サービスの低下を認めた。必要物資へのアクセスについても、HIVで回答の10%、結核で9%、マラリアで6%の回答者が、重大な不足が生じていると回答した。また、COVID-19に関して継続的で信頼のおける情報が得られているかどうかについては、3分の2が得られていると回答したが、一方で、情報流通がデジタルに偏っていたり、現地語に翻訳されていない、また、MSMやHIV陽性者など特定のコミュニティが必要とする情報が供給されない、といった問題を指摘する回答が多くみられた。
また、グローバルファンドは、COVID-19対策に使える資金として、新たに設置された「COVID-19対応メカニズム」(C19-RM)に5億ドル、また、拠出を承認された案件のプログラムの修正をして、まだ使われていない資金をCOVID-19対策に活用する「案件の柔軟性」(Grant Flexibilities)枠で5億ドル、あわせて10億ドルをCOVID-19緊急対策に当てる決定を行っているが、これを踏まえての国レベルでの案件修正などについては、「知らされていない」との回答が全体の3分の1あった。また、プログラムの修正プロセスに積極的にかかわっていないとの回答が53%、積極的にかかわったとの回答が3分の1で、その多くが「現場実施団体」(Sub-Recipient)としてかかわっている団体であった。
2020-22年の新たな案件形成に向けた資金需要の見積もり、要望形成プロセスについても、COVID-19の影響が生じているとの回答が多かった。国レベルの案件形成に問題なく資金要求を提出できたとする回答もあった。これらのプロセスは、ロックダウンや行動制限下では、これまでの対面での集会やワークショップを通常通り開催することが難しく、ITを使った間接的なものになっており、特に多くの貧困国ではインターネット・アクセスに問題が生じることで影響を受けていることが多い。一部の回答には、悲観的な見通しを示すものもあった。「COVID-19下で、対策の鍵となる脆弱なコミュニティなどが置き去りにされることがあってはならない」とEANNASOの調査は結んでいる。
<以下の情報もお読みください>
◎アフリカ日本協議会は、CRG-SIがいかにグローバルファンドへの市民社会参画を保障しているかについて、「グローバルファンドに学ぶ『市民社会とのパートナーシップ』」を刊行しました。ここからダウンロードできます。
◎この記事の後半は、グローバル・ファンド・オブザーバーの以下の記事を参考にしました。
COVID-19 Disrupts Implementation of Global Fund Grants and Development of Funding Requests」
https://www.aidspan.org/en/c/article/5272 (英語)
The Global Fund’s COVID-19 Emergency Funding is Running Out
https://www.aidspan.org/en/c/article/5287