新型コロナ医薬品開発と平等なアクセスのための多国間枠組みに拠出誓約1兆円以上

=多国間枠組み形成は欧州とWHOが主導=

COVID-19で大きな被害を受けている欧米の多くの国々が、5月に入って、COVID-19への緊急対策フェーズから、緩和フェーズへの移行の道筋を探っています。緩和フェーズ、そしてCOVID-19の克服フェーズへの移行のカギを握るのが、COVID-19の重症化を防ぎ、致死性を低める治療薬、簡便かつ正確性の高い診断検査や、免疫の有無を調べる抗体検査のためのキット、および感染を予防するワクチンの開発です。

日本では、治療薬として、日本のフラッグシップであるファビピラビル(商品名アビガン)や、米国のギリアド・サイエンシズ社が開発したレムデシビルなどが先行しているとの報道が多いです。一方、COVID-19は欧米や中国のみならず、5月31日現在、188ヶ国・地域でCOVID-19の存在が公式に認められるに至った地球規模感染症(パンデミック)であり、全ての国でCOVID-19が克服されなければ、世界はCOVID-19への取り組みを終わらせることはできません。この点に鑑みれば、COVID-19の治療薬や診断キット、ワクチンは、開発国や企業が利益を独占するのではなく、必要とする人々に入手可能な方法と値段で供給されるようにならなければなりません。そのために、開発のための多国間機構としてCEPI(医薬品開発イノベーション連合)やGAVIアライアンス(旧・ワクチンと予防接種のための世界同盟)が設置されているわけです。

医薬品開発と平等なアクセスのための「ACT Accelerator」発足

こうした医薬品開発と普及、アクセスの確保を実現するための多国間の枠組み構築については、WHOおよび関連する保健関係の国際機関、およびこれらと連携する欧州連合や欧州諸国、およびアフリカが先行しています。

4月24日、WHOとビル&メリンダ・ゲイツ財団、CEPI、GAVI、グローバルファンド(世界エイズ・結核・マラリア対策基金)、ユニットエイド(フランスの航空券連帯税などを原資とし、三大感染症に関わる医薬品の価格低下や安定供給などに取り組んでいる国際機関)、ウェルカム・トラスト(英国の民間財団)、そしてWHOが、COVID-19の診断、治療、ワクチンの開発、製造と平等なアクセスを促進するための地球規模のプラットフォームとして、「COVID-19関連製品へのアクセス促進枠組み」(Access to COVID-19 Tools (ACT) Accelerator)を設立しました。この設立会合は欧州とWHOが主導するものでしたが、4月24日の設立イベントでスピーチしたのは、欧州の大統領や首相のみならず、グテーレス国連事務総長、シリル・ラマポーザ・南ア大統領、ポール・カガメ・ルワンダ大統領、ムーサ・ファキ・マハメット・アフリカ連合委員長などでした。この会議で、保健関係の多くの国際機関や各国政府、民間企業などが協力して医薬品開発に取り組む方向性が確立されました。

ACT Accelerator に関する解説(WHO、英語)
https://www.who.int/who-documents-detail/access-to-covid-19-tools-(act)-accelerator

1兆円以上の資金誓約:日本も世界に模範示す

さらに、24日の設立イベントで行われた資金確保の要請にこたえて、欧州連合とG20議長国のサウジアラビア、WHOが呼び掛ける形で、5月4日に、目標金額として75億ユーロ(約9000億円)を設定して、「世界資金誓約マラソン」が開催されることになりました。この「マラソン」は、5月4日を使って、世界各国の政府、企業、資産家、一般市民などに呼びかけ、とにかく資金を集める、というものです。会議自体は中欧時間午後3時~5時の2時間開催され、欧州連合首脳、グテーレス国連事務総長、テドロスWHO事務局長が歓迎の意を表明した上、マクロン仏大統領、メルケル独首相、安倍総理、ソルバーグ・ノルウェー首相、トルドー・カナダ首相、コンテ・イタリア首相、サンチェス・スペイン首相、タウフィーク・ビン=ファウザン・アル=ラビア・サウジアラビア保健省が資金誓約を行いました。また、ヨルダンの国王アブドゥッラー2世、南アフリカ共和国のシリル・ラマポーザ大統領(アフリカ連合議長)が特別ゲストとして発言をしました。さらに、ゲイツ財団共同議長のメリンダ・ゲイツ氏をはじめ、各国の首脳から誓約のスピーチが続きました。この誓約会議を契機に、世界各国政府、民間企業、資産家、市民からの拠出表明が相次ぎ、5月31日現在、誓約額は98億ユーロ(1兆1708億円)に達しています。

誓約会合に関するウェブサイト(欧州連合、英語)
https://europa.eu/global-response/

残念ながら、アメリカ合衆国、インド、ロシア、ブラジルの首脳の参加はありませんでした。日本はこの会議の共催者となり、安倍総理が、ワクチンの開発を共同で進める国際機関である「感染症対策イノベーション連合」(CEPI)やワクチンの途上国への供給を促進する「GAVIワクチンアライアンス」(GAVI)などへの拠出を表明。日本が表明した誓約額は7.6億ユーロ(約910億円)で、フランスに次ぐ第2位の誓約額となります。

誓約会合での各国の誓約額(欧州連合、英語)
https://global-response.europa.eu/pledge_en

誓約額は目標を越え、98億ユーロに

COVID-19はグローバルな危機であり、一国単位で解決することはできず、国際連帯に基づく解決が極めて重要になります。日本は、首脳が誓約会議に出席し、第2位の誓約額を示すことによって、「グローバルな危機へのグローバルな対応」で世界に範を示したといえます。

「真に平等なアクセス実現」市民社会は積極的に政策提言

世界の市民社会は、この動きに連帯を示しつつも、ACT-Acceleratorが「必要な人に入手可能な価格でCOVID-19に関する予防・治療・診断を届ける」具体的なビジョンについて注視しています。グローバルファンド(世界エイズ・結核・マラリア対策基金)への資金拠出拡大に取り組んでいるGFAN(グローバルファンド活動者ネットワーク)や、先進国に有利、途上国に不利に作られている現代の貿易ルールや債務問題に取り組んできたアクティヴィストのネットワークがつくる「COVID-19-Access」などが提言に取り組んでおり、最初の提言書は、医薬品開発とアクセスに関して欧州各国に政策提言をしてきた「責任ある研究開発と入手可能な医薬品のための欧州同盟」(European Alliance for Reponsible R&D and Affordable Medicines)が中心になって取りまとめました。

(提言書)世界の誓約がすべての人のアクセスにつながるには、具体的な行動が必要 (英語)
https://medicinesalliance.eu/statement-pledging-conference/

この要望書では、COVID-19などのパンデミックへの研究開発とアクセス確保には、多国間のしっかりしたガバナンスの枠組みが必要であること、また、野心的な計画であればあるほど、世界全体への入手可能な価格でのアクセスの強化について、詳細な計画が必要であることを訴えています。アフリカ日本協議会も、この声明に賛同しました。