ソンドゥ・ミリウ水力発電所に行ってきた

『アフリカNOW 』No.76(2007年3月25日発行)掲載

執筆:大倉純子

WSF終了後、まさか行けるとは思っていなかったソンドゥ・ミリウ水力発電所の建設現場を訪問することができた。 このプロジェクトは日本の円借款(ODA)で進められている。 ソンドゥ川の水の大部分を導水トンネルに誘導し、約180mの高さから落として発電する流れ込み式と言われる発電方法である。 ケニアの電力不足を解消し、経済発展に大きく寄与すると期待される一方で、工事に伴う環境破壊、用地取得の補償をめぐる問題、反対派活動家への圧力といった人権問題や雇用面での汚職などで大きく揺れたプロジェクトである。 日本からの融資もしばらく止まっていたが、2004年2月に再開し、今年1月には追加発電所への融資契約が行われた。 この円借款もケニアの債務になる。だから、融資する側の責任は大きい…ハズなのだ。 訪問したのは日曜日だったが、取水堰では突貫工事の真っ最中という感じだった。 エンジニアが駐在するベースキャンプ近辺(導水トンネルの水を放水し、発電する施設もこの近くにある)、ならびに導水トンネルが敷設されている丘陵地に住む人々から話を聞いた。 そこではみなが一様に、雇用に対する不満と治安の悪化について述べていた。 現在、土木工事などで800人ほどが雇われているが、地元の人の雇用は30%以下だという(ケニアの新聞にも、その件に関する不満と、「現在必要なのは技術のある人なので仕方ない」というケニア電力公社(KENGEN)のコメントが載っていた)。 そして、その少ない仕事目当てにはるか遠隔地からも人々が集まってきて、地元の市場近辺に下宿している。仕事にあぶれる人も多い。 山間部の人は「知らない顔にしょっちゅう出会うようになり、泥棒や強盗が増えて最近は夜、外を歩けない」と言っていた。 それに伴う売春の増加、HIV/AIDSの激増。人々の暮らし方も変わった。特に学生が学業をやめてquick moneyを求めるようになった。 電力公社は「テストとカウンセリングのためのクリニック」を開いてくれたが、薬が必要な場合は県立(Provincial)病院まで行かなくてはならない。 以前、当地を訪問した人が、「エイズで一家が死に絶えた廃屋が点在している」と書いていたので、ベースキャンプ近辺の人に確認したところ、「本当だよ、ほら、この3軒もそうだよ」と目の前の家を指さした。 働き盛りの父母がエイズで死に、祖父母が死んだあと、子どもたちが残されても誰も面倒を見る人がいない、その後どうなったか誰も知らないという。 それでも、ベースキャンプ近辺で話を聞いた人々は、「いろいろ問題はあるけど、発展を実感する」という。 お金が回るようになって、子ども達にご飯を食べさせ、学校に行かせてあげられるようになった。 道路などがきれいになったところもある。 しかし、そう話してくれた13歳、6歳、乳児の3人の父であるWさん自身、以前は工事の仕事をしていたが、今は解雇され、再雇用を申し込み中ということだった。 一方、山間部で話を聞いた人は「このプロジェクトで良くなったことはひとつもない」と言う。導水トンネルができた途端、小川が涸れてしまった。 トンネル工事の時には、道路に沿って水パイプが設置されていたが、工事終了と共にはずされてしまった。 現在、朝3時に起きて水を汲みに行く。 村でお金を出し合って、コンクリートの貯水槽を作ろうとしているが、みな貧しくてなかなかお金が集まらない。 麓の学校はきれいにしてもらったが、ここの学校は放っておかれている、という話だった。 ちなみに、発電所ができてもその電気は地元には来ない。 このことは最近問題になり、ベースキャンプに一番近い地域だけには電気を送ると、KENGENは約束したそうである。 この事業の日本人担当者がかつて、この地域に必要なのは「水と仕事と現金」と言っていたが、それは確かにそうだと思った。 現地の人は食べていくため、子どもの教育のために喉から手が出るほどお金がほしい。だから工事は大歓迎なのだ。 でも、こういう仕事のあり方(与え方)でいいんだろうか。これでは工事が終われば仕事はない。 仕事を絶やさないためには永久に開発工事を続けるしかない。 現に元のソンドゥ川多目的開発計画では、カノー平野灌漑計画、マグワグワ多目的ダム建設と続くことになっている。 でも、これが本当に「持続可能」で「自立」を目指す援助になるのだろうか。 大規模開発になればなるほど、この地で見られる弊害が拡大して起こってくるのではないか。 そして、ソンドゥ・ミリウ水力発電所の電気の行き先が遠くの工業団地であるように、事業の受益者と影響を受ける人は別の人だ。 今回、一部の人に一度話を聞いただけなので、これだけですべてを断定できないが、これからもできる限りこの事業の推移を見ていきたいと思っている。


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