アフリカにおけるバイオ燃料問題

食料安全保障研究会公開セミナー報告

2007年12月5日(水)18:30-21:00、表参道にある環境パートナーシップオフィス EPO会議室で公開セミナー「アフリカにおけるバイオ燃料問題」を開催しました。講師に、佐久間 智子さん(女子栄養大学非常勤講師、明治学院大学平和研究所研究員)をお迎えし、スタッフを含め45人が参加しました。以下、講演の記録です。

あいさつ

食料安全保障研究会・座長/吉田昌夫

今日はアフリカで問題になっているバイオ燃料について話しをしていただきます。先日、ザンビアに行った時、ザンビアの会社が買い取った広大な土地でのヤトロファ(ナンヨウアブラギリ。タネから油がとれる)のプランテーションの開発がわかり、すごいスピードでバイオ燃料に関する動きがあるということを痛感しました。
今日、発表してくださるのは、佐久間智子さんです。食料安全保障とバイオ燃料の問題について研究してきている方です。今回のテーマはまさにホットなテーマです。バイオ燃料が、アフリカ農業にどういった影響を与えているか、将来どんな影響を与えるのかを考えていきたいと思います。

はじめに

食料安全保障研究会から/AJF事務局:松村

今回のセミナーで、佐久間さんにはバイオ燃料と食料安全保障という全体的な枠組みでお話をしていただきます。私は自分なりに調べたアフリカにおけるバイオ燃料の問題点を挙げたいと思います。

まず、アフリカではバイオ燃料の輸出が開発、経済、そして環境良い影響をもたらすと考えられています。アフリカ諸国の政府はバイオ燃料イニシアティブを通してヨーロッパが欲している燃料を提供することによって自らの国を貧困から救い上げることができると期待しています。また同時にアフリカ自身のエネルギー安全保障を改善することができると考えています。それで、政府がたくさん投資家達を支援して、バイオ燃料の政策を進めています。

今、バイオ燃料がなぜ問題なのか、特にABN(African Biodiversity Network)の資料をもとにして、いくつかの問題点を挙げることができます。アフリカでバイオ燃料に関する関心が高くなっていますが、政府や投資家たちが推奨している良い影響ばかりでなく、悪い影響も起こっています。すでにバイオ燃料生産の盛んなブラジルや、アジアなどでも発生している、熱帯雨林の破壊やエタノール効果による穀物価格の上昇、遺伝子組換え食品導入の問題があります。このバイオ燃料によりエコロジカルに消費される実際のエネルギーと、二酸化炭素削減に関していくつもの問題があって、研究によるとバイオ燃料生産には化石燃料製品よりも多くのエネルギーが使われていることが指摘されています。別の研究によると、バイオ燃料プランテーションのための森林伐採によってバイオディーゼルは同量の化石燃料よりも数倍もの二酸化炭素を発生してしまい、環境によくないとの声もあります。また長期的にはコストが高すぎるため、結果として貧困をさらに広げてしまう可能性が高く、短期的には農民が土地を追われていて、貴重な土地が輸出向けのバイオ燃料のために明け渡されています。

実際に、多くの投資家や企業がアフリカに入っています。全ての例は挙げられませんが、一例をあげると、スウェーデンの会社がタンザニアで40万ヘクタールのさとうきびプランテーションへの転作認定を予定しています。これまでに決定された土地はインド洋に注ぎ込むワミ川の大きな流れが作るデルタエリアです。このエリアは水へのアクセスがあって、現在は数千人の農家によって稲作が行われているが、これらの稲作地帯をつぶして、バイオ燃料のための農場を作ろうという計画なのです。投資家を魅了するために、タンザニア政府は主力な地区を分析、紹介しています。それらの地域は、水へのアクセスが便利なところで、たいていは、すでに農民が食料を育てている場所なのです。その農民たちを追い出してまで、バイオ燃料生産を進めようとしているのです。

他に、生物多様性に関する問題もあります。2006年に行われた調査によると、ウガンダのマビラ森林もバイオ燃料生産のために使用されると、貴重な猿や、鳥類が絶滅の危機にさらされることになります。世界銀行もナイル川上流やビクトリア湖での水位の低下は農業の現地生産に多大な影響を与えると警告しています。土地の権利に関する問題もあります。例えば、ザンビアにおいては1995年の土地法によって、慣習的土地保有が借地権へと転移され、多くの投資家がすでに、この権利を利用して投資目的のために土地を自分のものとしています。ザンビア政府は市場指向土地政策の導入を考えており、新しい土地政策法案もこの戦略の方向性にあわせて進められています。この法律により、もともと慣習による保有地にいる農民は、バイオ燃料生産に転換するために土地の私有化を進める投資家の活動によって土地を追いだされる可能性があります。ザンビア・バイオ燃料協会によると、目標設定のための予測では2015年までにバイオ燃料に当てられている土地が約184,420ヘクタールに上るとされています。多くの土地がバイオ燃料のために収奪されています。

最近の石油価格の上昇で、バイオ燃料は物凄く良いものなのではと世界中が注目していますが、それにはよくない点があるということは、皆さんがよくご存知だと思います。特に今まではブラジルが中心にバイオ燃料生産を行っていて、ブラジルで走っている車はエタノールを85%使っている燃料に対応したエンジンを積んでいたりします。今後アフリカを中心に投資していく流れがあるのではと考えらられており、アフリカにおけるバイオ燃料に関する問題に興味を持ちました。これから最もホットな問題になると思うので、興味を持った方に理解を深めてもらい、次回の講演につなげていきたいと思います。

講演

講師/佐久間 智子さん(女子栄養大学非常勤講師、明治学院大学平和研究所研究員)

バイオ燃料:生産規模の問題

今回引き受けたのは、日本の中で、特に食料問題との競合について、去年の後半の段階で調べている人が見つからなくて、私は元々食料貿易について過去何年か勉強してきたので、今年に入ってからバイオ燃料を勉強するようになったという経験からです。経済については、若干知っていることはありますが、エネルギーに関してはかなりの初心者です。その中でバイオ燃料について調べ始めたわけですが、日本国内でこの問題を批判的に見ている人が余りにも少なかったために、いくつかの講演をすることもあったという感じです。食料との競合問題を中心にアフリカについて特化した話しはできませんが、世界全体でどんなことが起きているのかということからアフリカについてどう考えたらよいかという形で、情報提供ができればよいと思っています。

まず、バイオ燃料についてですが、最近アグロ燃料と言った方がより正確なのではないかということでかなり広まってきています。特に批判的な立場の人達からすれば、食べ物との競合があるので、農産物であるということを強調するアグロ燃料という言い方のほうが適切だという指摘も出てきていますが、今日私の方ではバイオ燃料という言い方に統一させていただきます。

このバイオ燃料、この半年の間、さまざまな報道、メディアでも、かなり取り上げられてきていますが、1年前に比べるとかなり多くの方が知識をお持ちだと思います。簡単に説明しますと、バイオ燃料には大きく分けて2種類あります。1つがエタノールになるもので、エネルギー作物といわれる植物からエタノールを作るもの。それからもう一つはいわゆる植物油からつくるディーゼルです。

アルコールの方はお酒の原料になるようなものであれば大体はアルコールがつくれます。98%~99%まで蒸留度をあげていたものが自動車燃料になるエタノール。ですが若干水分が残っています。エタノール中の水分を全部蒸発させても、輸送中とかに水を吸収してしまう性質を持っています。水分が含まれているということで、これまでは自動車メーカーとかが嫌がってきたので、あまり各国で使われてこなかったという経緯があります。

バイオディーゼルの原料となる植物油は、もともと軽油と同じようにさらさらではなく、ちょっとドロッとしています。それをさらさらにして、ディーゼルエンジンでそのまま使えるようにするという、便利な物です。

今日私は、かなり批判的な考察、最近のバイオ燃料ブームの愚かさを中心に話しをしていきますが、まず最初に断わっておきたいのは、バイオ燃料そのものが決して悪いものではないということなんです。例えば日本の各地でも10年くらい前から、菜の花プロジェクトという形で各地の休耕田を活用して、菜の花を植えて取れた菜種油を各家庭や商店で天ぷら油などとして使い、その廃油を精製してディーゼルエンジンで使えるようにキレイにして、そして地元のガソリンスタンドから地元の自動車に供給して使うとうプロジェクトがあります。また商店街のお店が、自分たちでお金を出し合って、使った天ぷら油をディーゼルオイルに変えるているという取り組みもあります。廃油をディーゼルオイルに変える装置は、安いものだと500万円くらいから作れるという話しですが、まあ1千万円くらいのものが多いそうです。それを商店街で買って、自分達の油をそこで精製して、自分達が使っている営業用トラックなどにその油を使っているのです。このようなことが各地で取り組まれてきています。日本全国、そういったプロジェクトがない県が1つか2つしかないと言われてるくらい、ほとんどの県でそういったプロジェクトが存在しています。もっとも、皆さんの住んでいる場所に必ずあるということではなくて、県の中に1つか2つ小さな取り組みがあるということです。これはアフリカなんかにおいてもほとんど同じようなもので、例えば今問題視されている、急速にブームになってきているヤトロファという植物の実から絞った油によってディーゼルでエンジンを動かすという話しがありますが、ヤトロファにしても小さなNGOの地域の開発プログラムという形で地域で取り組まれています。小規模のプロジェクトは、南の国々にけっこうたくさんあるそうです。

そういった意味ではそういったものを逐一だめであるとかそういう話しをしたいのではなくて、一番問題にしたいのは、規模の問題です。急激に2002年あたりからバイオ燃料の生産、とくにエタノールが急増しています。で、ディーゼルに関しても、エタノールに比べると10分の1の規模なんですが、それでもやはり伸びてきています。これは原因としてご存知の通り、原油価格の高騰が一番大きいわけです。その結果として、世界中がバイオブームに沸くということになっています。その背景にはアメリカやヨーロッパにおける巨額な補助金制度がバイオブームを後押ししているという流れもあります。そういった中で、南の国でもすごく大規模な、先ほども出たイギリスの石油会社BPといったような大きなところが、どんどん南の国々に進出していって、あらたなプランテーション栽培、第三の植民地主義ということがすごい勢いで始まっています。このことに問題があると発言してきている人々が増えてきています。私もその一人です。ですから菜の花プロジェクトなんかをずっとやってきている人、わたしも個人的に知り合いも何人もいますし、私もそういったプロジェクトをサポートしていっています。しかし、そういった草の根の取り組みがある一方で、全くそれとは関係のないところで大企業の思惑で物凄く巨額のお金が動き、巨大な土地が買収され、支配されるというかたちで世の中が動いてきているということなんです。だからバイオ燃料全てがいけないという話しではないということをわかっていただいた上でお話しを聞いていただければと思います。

バイオエタノールはガソリンにとって代われるのか?

バイオ燃料はエタノールがすごく多いんですけど、エタノールは大体アメリカとブラジルの2ヵ国で70%以上占めている状況になっています。アメリカの場合はとうもろこしから作っています。それからブラジルではさとうきびで作っています。それ以外の地域でも実はここ1年2年の間に、大量に色々なところでエタノールとかディーゼルが作られるようになってきていますが、今でも圧倒的に量が多いのがこの2カ国になっています。

しかし、一体どのくらい多いのでしょうか? 例えば世界全体で2006年に作られたエタノールの量は大体5000万トンくらいです。バイオ燃料というのはたいていの場合、特に大きな事業で生産されたものは、自動車燃料として使われています。では、自動車燃料として考えた時、この2006年の世界全体での生産量5000万トンがどのくらいの量かというと、日本の国内で使われた自動車燃料の8割くらいです。1年間に日本全体で6000万トンの自動車燃料が使われていると言われています。ですから5000万トンはそれをちょっと下回って8割くらいです。世界全体で物凄いブームになっていて、ものすごい農地がこのバイオ燃料を作るために利用されているわけですが、世界全体でその程度です。それでも世界全体でかなりの問題が起きているというのが現実です。

食料、飼料だったトウモロコシがバイオ燃料へ

ちなみにアメリカでは、自動車燃料は年間これの10倍以上、5億トン以上使われています。アメリカはトウモロコシをエタノール生産に振り替えるようになってきています。またトウモロコシ生産そのものも増えてきています。これまでは大豆とトウモロコシと小麦、あるいは大豆とトウモロコシを輪作してきました。つまり、去年大豆を植えたら、今年はトウモロコシ、その次は小麦といった、あるいはトウモロコシ、大豆、トウモロコシといったように作ってきたところがほとんどなんです。大豆を間に入れることによって、大豆というのは豆科ですから窒素を地面に固定する、つまり次の年に生産するトウモロコシの栄養になるので、化学肥料の投入を減らすことができるので、どこの国でも大豆をサイクルに入れる輪作が多くなされてきています。その大豆との輪作がなくなり、毎年とにかくトウモロコシだけを植え付けるというようなことで、トウモロコシの増産ということも取り組まれていますし、これまで別の作物を作っていた土地、例えば小麦が中心だった土地でトウモロコシを作るとか。夏はトウモロコシを作っていたところもありますが、水が少ない、年間500mmくらいしか雨の降らないところでは、冬のあいだ小麦をつくって夏は休ませると事もあったのに、そこで夏にトウモロコシを生産してしまう。あるいは休閑地プログラムといって、農地保全のためにそのプログラムに登録して、作物を作りませんと約束すると、補助金がもらえるというプログラムに登録していた土地で、プログラムの契約を途中で破ってトウモロコシを植えてしまったり、あるいは森林が安全に残されていてそこも保全プログラムの一環だったりするんですが、そういったものがなくなってトウモロコシが植えられてきている、というように、とにかくすごい勢いでトウモロコシの作付け自体が増えてきています。

しかし、それを上回る形で、トウモロコシに占めるエタノールの使用割合が増えてきています。レスター・ブラウンが、今やっている研究所の予測では、2006年段階で全米で作られるトウモロコシの約2割がエタノール生産にまわされていましたが、2008年には48.5%、つまり米国産の半分がエタノールのために使われてしまうだろうと言われています。これが、どういう問題なのかを理解するには、トウモロコシ生産において、アメリカが占めているシェアを考える必要があります。世界のトウモロコシ生産、世界で6億トン以上トウモロコシが作られているんですが、そのうちの2億トン近く、三分の一をアメリカが作っているのです。国際貿易の対象となるトウモロコシの量はもっと少なくなります。というのは、穀物は、大体自国内で食べるために作られているものがほとんどなのです。貿易される穀物は、割合少ないのです。すごくたくさん貿易されている小麦でも、20%を上回るくらいです。米だと7%くらいにしかなりません。トウモロコシは、12%くらいです。ですからいくら6億トン以上作られているといっても、その中で貿易されるものは一部です。その貿易の大半はアメリカが占めています。世界で国際取引されるトウモロコシの66%がアメリカ産のものです。アメリカ産のトウモロコシの国内で生産される半分が、2008年にエタノールになってしまうとすると、輸出に向けられる量が激減される恐れがあるわけです。

バイオ燃料ブームと食料価格の上昇

そうなったときに、日本もアメリカからトウモロコシを大量に輸入しているので大きな影響を受けます。日本は、トウモロコシのほとんどを輸入していますが、そのうち95%以上をアメリカから輸入しているのです。最近、新聞に、養鶏場が大変だ、何十件という単位でバタバタつぶれていってるといった記事が出るようになっています。なぜかというと、食肉の自給率というのは、牛肉なら5割くらいなんですけど、その肥料っていうのがほとんど輸入だからなのです。牛だったら少しは草を食べていますが、それで自給率は20%を超えますが、鶏とか豚の飼料自給率はほんの数%しかありません。大麦も小麦もトウモロコシも、鶏や豚のえさに入っているもののほとんどが輸入品です。実は、私達が国産牛と思って食べているものも、ほとんど輸入のえさで育っているのです。ということで、カロリーベースでは、日本の食肉自給率はものすごく低くなっています。それは他の各国についても言えることなんですね。ですからアメリカの輸出が止まってしまうことは、日本にとっても重大な問題なのです。

実は日本は典型的な先進国ではありません。穀物に関していえば、先進国が輸出国、途上国が輸入国なのですが、日本は典型的な最貧国経済と同じ程度の自給率で穀物ほかの食料の輸入国なのです。もちろん日本はキャッシュを持っていますから、海外の食料を買えてしまいますが、日本で食料が大変だと思う時は、途上国ではもっと大変なことになっています。現在、トウモロコシの価格が上がっています。先ほど説明したように大豆が作られなくなったために高くなっていますし、それ以外のものももっと高くなってきています。トウモロコシでいえば、2006年には2ドル30セント台だったのが、2007年2月には4ドル20セント台と1.8倍になっています。その後も、ストップ高を更新し続けてきました。2007年半ばになって落ち着いてきましたが、それでも3ドル半ばなのです。一年前の値段の1.5倍以上のところで止まってしまっています。大豆はもっと酷くて、今でも1.8倍くらいの値段が続いています。菜種油も1.5倍になっています。バイオディーゼルに使われているからです。あと、バイオ燃料に直接は関係ありませんが、小麦も世界的に上がっています。というのは、アメリカで全体として不作、オーストラリアでは前年比6割減という大干ばつが続いているからです。というようにトウモロコシの値段が上がり、小麦も別な理由で値上がりして、食べ物の価格が世界全体で1年間に21%上がっていると言われています。在庫量のほうも底をつきはじめていて、過去にないくらいの量に減っているという状態になっているんです。

主要食料を輸入し、嗜好品を輸出する途上国

では穀物が輸入できなくて困るのはどういう国なのでしょうか。先進国は貿易の対象となる穀物の多くを握っています。もちろん中国やパキスタンでつくられたお米がアフリカなどに行っているということもあるんですが、小麦、トウモロコシに関しては、アメリカの輸出量は相当大きいです。一方、小麦、トウモロコシを輸入に依存している国としては、ナイジェリアが世界で一番トウモロコシを輸入していますし、エジプトが9位です。モロッコ、南アフリカ、チュニジアなどもトウモロコシ輸入ランキングの上の方です。アフリカに多い小さい規模の国、たとえばスワジランドとか、そういった国は、このランキングには当然入ってきません。人口が少ないですから、輸入量ランキングの上位にはなりませんが、依存率が物凄く高かったりするという現実があります。だからアフリカ、カリブの小さな国を考えると、そういった国々のほうがさらに深刻な状態にあるんですけども、ランキング表には出てきません。

途上国の多くは、嗜好品といわれるコーヒー、紅茶、あるいはマンゴー、バナナといったような果物を輸出して外貨を稼いでいます。すごく限られた農産物に頼っているわけです。それに対して、先進国は、生命維持にもっとも重要な主要な食物を握っているという事実があります。どうしてこうなったのかと言うと、アメリカやヨーロッパが、過去何十年かをかけて、システマティックにそういった状況を創り出してきたと言えるのです。つまり、アメリカやヨーロッパの国々の農業補助金などの問題です。アメリカは、ずっと自国の農作物に輸出補助金というものをつけてきています。人件費も土地も安い途上国で作った方が安いのに、何でアメリカ産のトウモロコシが売れるのかという、その理由がこの補助金です。補助金をアメリカの政府がつけることによって、アフリカにおける生産コストを下まわる形で、アメリカの農作物を途上国で売ることができるのです。補助金によるダンピング率をみると、2000年や2002年の綿花は、ほんとにすごくて7割の補助金が付いています。トウモロコシに関しても、2000年が一番多く30%を確実に越えています。

途上国の食料生産を成り立たなくさせた食料援助と先進国の農業補助金

こうしたダンピングがしょっちゅう行われていると、どういうことが起きるのでしょうか?途上国では、主食作物生産が破産するのです。安い価格でアメリカから補助金がついた農作物がどんどん収穫時期に市場に出回ると、農家が作った食べ物は売れないわけです。そうやって、アフリカの農家は主食が作れなくなりました。主食生産をできなくなった農家が借金漬けになって土地を追われたケースもあるでしょう。また、農業補助金以前に、食料援助というかたちで同様のことをアメリカは戦略的にやってきてるんです。食料援助の場合はタダ同然で途上国の市場に、途上国で作られた主食が出回る時期と同時にどんと放出するってやり方をしてきたんです。

これはあえてやってきたのか、偶然そうなってしまったのか結構見極めが難しい所があります。なぜかというと、これまでの歴史をみてくると、先進国で物凄く豊作で作物が余っている時に途上国も豊作、両方が豊作ってことが結構多いんですね。ですから途上国で必要がない時期に先進国からあまった農作物が援助として流れ込んでくるということが、1970年代にずっと起きてきたわけです。その間に途上国の農家がほんとに疲弊しました。その結果、途上国は食料を自給できなくなりました。それが物凄く批判を浴びてますけども、それでも未だに食料援助はゼロにはなってはいません。ほんとに必要なところにいっている場合も最近はありますけども。逆にそれに代わるように1970年代から農業補助金が出てきて、この補助金が今にいたるまでにずっと続いているのが現実なわけです。これはWTO交渉で農業交渉が全然前に進まない理由になっています。そのこととバイオ燃料の問題が関わってると、私はちょっとにらんでいます。

食料価格の高騰で大騒ぎが起こっている

バイオブームの結果として食料価格が世界的にすごく上がっていて、世界平均で21%上がっています。つまり世界中の人達が、前よりも2割たくさん食料にお金を割かなくてはいけないというのが現状です。貧しい人であればあるほど、食料にあてなければならない金額が、生活費の中の大部分なんです。非常に豊かな国だと、生活費の中の食費の割合は10数%ですから、たとえば10%だった割合が12%になっただけで、そんなにいたくはありません。けれども、生活費の8割、9割が食費の人達は、食料価格が2割上がってしまったら買えなくなります。自分の食費の予算を上回ってしまうわけです。メキシコでは2007年前半に、主食であるトリティーヤが足りなくなって、多くの人々が買えなくなってしまい、大きな騒ぎになりました。これもアメリカとのNAFTAというカナダ、アメリカ、メキシコ三カ国の協定が1990年代に発効して、そのせいでメキシコ国内のトウモロコシ生産が完全に壊滅状態に陥ってしまったせいなんです。

メキシコはトウモロコシの原産国です。メキシコ産のトウモロコシには物凄い種類があります。メキシコの人達はたくさんの種類のトウモロコシを作り、非常に美味しいホワイトコーンという上質のものを砕いて主食にしていたのです。しかし、いまではアメリカからダンピング輸入されてくるイエローコーンという、メキシコ人からすればあまり美味しくないトウモロコシに取って代わられています。イエローコーンでつくったトリティーヤを食べざるをえなくなった上に、さらにイエローコーンまで入ってこなくなっている、それで食べられなくなっているという現実があるのです。

食料価格の高騰によって、例えば西アフリカのモロッコとか多くの国で、食べ物を略奪するようなことが起きたり、政府の官庁や路上で抗議行動が起きたりしています。インドネシアでも起きているそうです。ロシアでは2008年1月までパンとか卵とか乳製品、砂糖、植物油など基礎的な食料の価格を凍結するってことを、2007年の秋ぐらいにやって、しばらく凍結政策を実施しています。それからこれは日本の新聞にも出ていましたけど、中国では油をたくさん使っていて、その食料油が高騰してるがゆえに、人々が食料油を買うためにスーパーに殺到して、結果お客さんが3人なくなるといったようなかなりすごい騒ぎになったわけです。

バイオ燃料でエネルギー問題は解決するのか?

じゃあ実際各地でそういった問題を引き起こしていますが、バイオ燃料ってその問題を引き起こしてまで本当に進めなくてはいけないものなのでしょうか?推し進められている最大の根拠は。原油価格の高騰と、中東地域が不安定なので中東にエネルギー源である化石燃料が依存しているということに対する不安定感から脱却したいというものです。各国がエネルギー自給率をあげたい。エネルギー調達を多様化したい、と考えていることが、根底にある一番大きい理由です。もう一つの理由はバイオ燃料の方が環境にいいという仮説です。カーボンニュートラルというような言われ方をしますけども、エネルギー作物を使ってバイオ燃料を作るわけですが、そのエネルギー作物というのは、生育する段階で大気中のCO2を吸収し固定しているわけです、ですから最終的にエタノールになり、ディーゼルになって燃やされたとしても大気から吸収した分のCO2しか出さないので大気中の二酸化炭素は変化しない、というのです。二酸化炭素濃度上げないということが主張されたわけです。それによってバイオ燃料は地球温暖化を防止する環境に優しい燃料であると言われたわけです。

実際にはバイオ燃料の温室効果ガス、削減効果っていうのは非常に怪しいといわれています。なぜかというと、ちょっと考えればわかることなんですが、エネルギー作物を作る時には、かなり広大な土地でやらないと採算が合わないんです。ですから農業機械を大量に使いますし、とてもじゃないけど有機農業的な肥料なんて使っていられませんから、窒素や石炭から作った窒素肥料を大量に使います。ですからそういったもののインプットがまず農園の段階であるわけです。農機具を動かすためのガソリンとかディーゼルとか、あるいは、そこから先の工場でアルコールを作る際には蒸留していくわけですから熱をかけます、その熱をかけるために、電気や石油だとか、いろいろなものを使います。その段階でまた、かなりのエネルギーがかかってくるわけです。

実は最終的な輸送段階まで考えたら、輸送段階まで考えないでエタノールができるまでのことを考えたとしても、エネルギー作物は結局エタノールになるまでかなりの量の化石燃料のインプットが必要なのです。その化石燃料のインプットを考えると、トウモロコシから作られたエタノールの温室効果は、ガソリンの温室効果の0.9~1.5倍なのです。つまり若干良い場合もあるけども悪い場合もある。それから菜種油ディーゼルオイルの温室効果も1~1.7倍と言われています。これはパウル・クルッツェンというノーベル化学賞受賞者が最近発表したことです。エネルギー効率自体も問題です。

アメリカのバイオエタノールの国家的な推進計画に批判的な○○大学のヒメンテル教授が、かなり前から何度も何度も前から色んな試算をやってきています。どれだけ化石燃料などの外部のインプット、エタノールを作る時、あるいはエタノール用のトウモロコシを作る時、どれだけの外部からのエネルギーインプットがあるか、それに対してエタノールが発揮するアウトプットはどのくらいかっていうのを比較しているんです。そうすると、アメリカのエネルギー省なんかの試算と、ヒメンテル教授の試算にはすごくギャップが出てきます。当然ながらアメリカのエネルギー省は自分達にとっては少しプラス、エネルギー効率はエタノールにした方が良いんだという試算を出してきます。大体1.3倍とか1.5倍とか。つまりインプットした化石燃料が1だったら、エタノールから得られるエネルギーはそれの1.3倍~1.5倍という試算をエネルギー省は題だして来てるわけですけども、ヒメンテル教授は同等くらいではないかとかつては言っていました。今回非常に厳密な計算をやった結果として、なんとトウモロコシのエタノールは1のアウトプットを得るのに1.29のインプットが必要である。つまりインプットする化石燃料の方が多いということを言っているわけです。

新しいバイオ燃料原料、新しい技術の可能性は?

それから将来性が有望だといわれているスイッチグラス。これもスイッチグラスから作られるディーゼルについても、それが作られるプロセスでインプットされる化石燃料の方が45%多いのです。

さらに次世代のバイオ燃料源と言われれているセルロース。まだ実用段階にならないが、なぜなら廃材なんかで日本は環境省が大阪でエタノール生産始めてますけども、これ自体は当然のことながら効率が悪いのです。セルロースっていう植物の細胞が非常に固いために、そこを分解してそれが糖に変化するのに大変なプロセスがいる。ということで採算が悪い。まだ採算が合っていないものなんだけども、57%も多くなるんですね。

大豆の場合は化石燃料127にたいして100しかエネルギーが取れない。ひまわりに関しても218%ですから2倍以上化石燃料のインプットがあってはじめて100取れるという計算になっています。

ヒメンテル教授とパーテックさんの2人が最近出した数字です。それによってこういったことも言われている。だったら何でこんなことをするのか?ただしここではトウモロコシとかでてないですけど、今のところブラジルで作られているさとうきびで作られているエタノールに関しては効率が良いと。もちろんブラジル国内で使った場合ですが。さとうきびの作られたすぐ近くの工場で、すべてエネルギーとしてそこで燃やして使って、最も効率のよいやり方をしているということもあって、ブラジルは1の化石燃料のインプットに対して8倍以上のエネルギーが取れるという計算が出ています。これはものによりますけども、少なくとも今言われた大豆、スイッチグラス、トウモロコシに関してはほとんどエネルギー削減効果もゼロ以下。バイオエタノール政策をやってわざわざ農地を大量につかってトウモロコシを使って、農地を疲弊させてやっているわけですけども、その結果同じエネルギーを得るのに、今まで以上に、化石エネルギーを使っている状況なんです。

農業補助金からエネルギー補助金へ?

私は、なんでそうなっているのかの理由は農業補助金のことなんじゃないかと思います。つまりアメリカは農業補助金を削減するっていって初めて今年約束したんです。たしか9月だったんですけど、過去15年間の交渉の中で嘘ばっかりついてきて、前も何度か削減するって約束してるんですけどもその削減が嘘で、例えば自分のとこだけ削減するって約束した時、ただし翌々年度の補助金から削減するよと言っておいて、交渉の最中に翌年度の補助金額をバーンと高くしてしまうんです。そうすることによって実態としては増やせる。基準年を翌年度にしてしまうので、基準年に大量に補助金を出せば基準が高くなるのでそっから結局その高さから削減していくという、いくらでも増やすというトリックを散々やってきたわけです。で、一度もまじめに補助金を減らしたことがありません。ですから途上国が怒って、自国の市場に補助金付きの穀物が大量に流れ込んできたのに、さらに関税なんか引き下げたら、悲惨なことになりますから、関税引き下げには応じないことを途上国も言ってきたわけです。

それに対して、農業交渉だけならまだ良いんですが、アメリカは他のサービス分野とか投資の分野とか全く違う分野でもさっさと自由化させたいんですね。ところが農業補助金っていうのがネックになっていて、にっちもさっちもいかなくなってきているのが今のWTOの現実なんです。それを見越して100億ドル程度の農業補助金の削減を約束したんです。しかしよく見てみると、農業補助金を削減しても同じような会社、同じような農家かバイオ燃料の補助金としてエネルギー省のほうから70億ドル以上、いろんな細かい補助金とかも計算すれば100億ドルもらっている計算になっているんです。

だから、これはまだ私一人が言っていることなんですが、これは同じ大規模農家、同じ大規模な穀物メジャー、例えばカーギルとか、全部いまバイオ産業に参入していますから、そういったところに同じような額の別の名目の補助金をあげれば、農業補助金でなければWTO交渉で文句言われないという策略だと思うのです。農業補助金からエネルギー補助金に付け替えるためにこのような大きなからくりが動いているのではと私は思っています。アメリカのトウモロコシの2割がエタノール向けに使われているにも関わらず、アメリカの中でのエネルギー全体のなかでは、ほんとに微々たるもので、まだ数%しか代替えできていないんです。

ヨーロッパ発の途上国でのバイオ燃料生産ブーム

ヨーロッパに関しても同じで、ヨーロッパでもアメリカでも自分達のもっている農地を全部エネルギー作物に転換したとしても、それぞれの地域で使われているガソリンやディーゼルの4分の1から5分の1しか代替え出来ないだろうと言われています。農地全てを使ってもです。これは机上の空論であっても代替えできる量はすごく少ないわけですね。そうすると、実際には自分達のところで作るには頭打ちがある。どこか他に目を向けないといけない。特にオランダは国土がとても小さい国ですけども、なんとバイオ燃料に代替えする目標も補助金も出してしまっているんですね。こういった所で何が起きているかというと、パーム油とかを大量に輸入するというわけです。

実際北で生産されるよりも、南で生産される砂糖大根(ビート)は生産面積に対するバイオ燃料の生産が一番高くなっています。とても効率が良いわけです。ビート以外は、例えばさとうきび。それからパーム。キャッサバ、スイートソルガム。つまりずっと見ても南でしか作れないものばかりなのです。生産面積に対してバイオ燃料生産の効率の良いものは。そういう意味ではさとうきびとパーム、キャッサバ当たりが物凄く注目をあびています。そのあたりが北の国にとってすごくおいしいのです。

しかも南の国は人件費も安いです。それから、インドネシア、マレーシア、アフリカの多くの国でそうですが、土地の権利関係も曖昧で、先住民の慣習的な土地の権利が認められると思えば、それは絶対的なものではなくて、ある日突然追い出されても誰も文句も言えない。これまでも都合の良い方に権力が農地を広げていったわけです。それと同じようにさらにパームとかさとうきびに関しても農地を南のほうで拡大していけば良いではないかと、その方が北の農地を無理して買収していくより、よっぽど効率的に多くバイオ燃料が得られるではないかということです。

これは北の国にとってエネルギー自給の目標達成にはつながらないけども、その代わり中東に依存するといったようなことからは脱却できるわけです。多様な国から少しずつエネルギーを調達することにつながります。こうなることは各地で明らかで、実際パームヤシの農地が物凄く広がっています。マレーシア、インドネシアは80年代からずっとパーム油の農園が拡大してきましたけども、2000年になってから拡大の勢いが増しています。これはパーム油自体が世界で最も多く使われる油になっているんですね。日本ではまだ2位か3位で、菜種を一番使っていますが。だから食用でも物凄く需要があるのでそれを止めるわけにはいかない。その上でさらにバイオディーゼルの需要を満たしたい。カリマンタン島で森林が切り開かれ、どんどんパーム農園ができてしまっている。

一時、90年代の終わりに、ヨーロッパのスーパーなんかが持続可能でないパーム油から作った商品は買わないといったこともスイスやイギリスで始めたり、いろいろなプレッシャーがあって、ヨーロッパの中ではパームヤシ問題というのは社会問題化して、逆に、良いパームしかヨーロッパでは買わないようにしようという運動が広がりつつあったんですけども、パームをめぐる円卓会議ということで先住民とかNGO、企業を含めた動きなんかも出てきてたんです。でも全然有効でなくなってきてしまった。現実には持続可能性なんか全く関係ないような農地開拓が進んでしまっています。さすがにこれは一度社会問題化していますからかなり問題視されていてエタノールもディーゼルも認証制度、より良い原材料のものしか入れないようにしたらどうかという話しも出てきていますが、どのくらい現実性があるのかはまだ未知数です。

砂糖とバイオ燃料

さとうきびに関してもあれだけ効率が良いということもあって、かなり各地で増産されています。ブラジルもできる限りの土地で広げていますし、そのうち10%くらいがエタノール向けになっています。砂糖価格も上がっています。日本もです。それからキャッサバ。そんなに効率が良いわけではないんですが、キャッサバといえばタイ、あるいはナイジェリア。これらの場所でキャッサバ生産が増大する可能性があるということです。これは憶測ですが可能性はあります。それから南アはトウモロコシを作っていて、日本もアメリカから買えない時は南アから買っています。

ここで実はトウモロコシもさとうきびも数年前まで余っていたそうです。何故かというとヨーロッパの補助金が砂糖にたくさんついてヨーロッパの農家を守ってきたわけです。北はビートで砂糖を作る。南でさとうきびからできる。結果として両方とも砂糖になるわけです。北と南で競合関係が生れてしまうわけです。これはビートとも競合してしまうので、さとうきびは結構高い関税率でヨーロッパ市場になかなか入れなくなっています。ヨーロッパ国内のさとうきび農家に大量に補助金がついている。これは割合で言ったらアメリカどころでありません。砂糖農家一件につき260万円年間にもらっていたという記録もあります。その結果として今南アでさとうきびが大量に取れるにも関わらず、ヨーロッパ市場で売れません。逆にヨーロッパの砂糖が攻めてくるわけです。南の国でも売れなくて大量に余っていた。このさとうきびやトウモロコシをバイオ燃料にしたらいいと南アはアグロ燃料政策を考案したわけですけど、実際にはアメリカのトウモロコシが上がってしまったせいで南アに商社が殺到しました。で、干ばつによって元々とれなくて計画が頓挫していて、あるいは新たに土地を切り開いてさとうきびやトウモロコシを作っていくかは定かではありませんが起こっています。

ヤトロファに追われる農民たち

それからヤトロファっていうのは中国の南部でも物凄く力を入れています。それからインド政府が巨大なヤトロファのプランテーションを企画していて、もうすでにベンガルあたりで土地を追われた農民が暴動を起こしていたりとか報道されています。このヤトロファに関しては表(配付資料)にはありませんがココナッツよりも低い、小麦なんかよりも低い。土地当たりの生産量は低いんです。そこでなんでヤトロファなのかというと、これは他の作物が育たないような場所でも(1ヘクタール当たり450ガロン生産量)ある程度生産できるからです。

実際に私の調べたところでは年間降雨量が400mmくらいの半乾燥地帯でも生えています。けれども、取れる量がきわめて少ない。やっぱり降雨量が1000mmくらいになって採算ペースに乗るんじゃないかと言われています。そういう意味では1000mmを越える場所っていうのは乾燥地とはいいません。降雨量400mmの地域と1000mmでの燃料生産量は5倍くらい違うそうです。だとしたら大規模に参入していく時、結構手間がかかる、そんなに収量があがらない乾燥地でやるとは思えません。

実際かなりのところ、アフリカでは優良農地のために住民が追い出されているなんて話しもあります。優良農地とブッキングしないというのは夢物語というか、絶対優良農地を使うことは間違いないと思います。だから語られていることと実態が物凄くずれている可能性が高いです。生えないわけではないが収量が違うので実際ビジネスやる時に、あえて少ないとこに植えるのはありえない。小規模な自発的な農家、NGOなどが一緒にやってきたヤトロファ・プロジェクトってありますけども、そういったものとは明らかに違うものが大量にプランテーションが優良農地を奪う形でヤトロファで行われつつあるのが現実だと思います。

アフリカなんかだと深刻なのは国民の40%が食料不足と言われているスワジランドですでにD1 Oil(石油メジャーBPの子会社)がキャッサバを生産するために数千ヘクタールを用いてしまって、国内の飢餓がますます深刻化しているという状況です。さらに食料の国際価格が上がっているので、多くの人々が食料を買えなくなってきています。なのでナイジェリアはバイオ燃料に自国の作物をまわさない、逆にバイオ燃料より食料を優先するという政策に変わったんです。

ですから、自分の国でバイオ燃料の原料を調達するのではなくて、外国から買うということで、南米など各地でその原料調達に走っています。中国が食べ物を輸入する側にまわってしまったというくらい、どんどん中国の農家が悪くなってきていて、食料を優先しないと水問題もありますし、とにかく国内の状況がわるいから、国内でバイオ燃料の原料なんて作っている場合ではないということになってしまったのです。

今は中国が台風の目みたいに、世界の貿易されている大豆の3割をすでに市場用に買っていますけども、それとバイオ燃料原料を世界中から買ってくることになっています。ウガンダとかタンザニアとかでもかなり大規模なバイオ燃料生産計画が進んでいます。エチオピアもかなり熱心に進めてますけども、国内の飢餓問題が解決できないまま、行われているので将来的にかなり危険な状態です。国土の中で新たな商品作物としてのバイオ燃料が農地を次々と奪っていく。国連食糧農業機関(FAO)も非伝統的農産物の驚異というようなレポートを出しています。非伝統的農産物が途上国で重要な役割を果たしており、それゆえに食料自給とバッティングが起きているとレポートがなされています。さらにそういった状況が悪化してしまう。ますます自給ができなくなるという懸念が表明されているのです。

途上国の食料自給、飢餓の解消にとって必要なこと

多くの途上国がこれまで食料を自給できなかった理由というのは、アメリカの農業補助金によるダンピング誘致だったりだとか、あるいはヨーロッパのダンピング誘致、ヨーロッパアメリカの高い関税でアフリカからのものを入れてこなかったとかある訳ですけども、それが解消されればもっと食物をつくれるはずなんです。今は、そういった自由市場経済とは全く逆な歪んだ先進国の保護主義、攻撃主義によって自給がまったくできなくなってしまっています。その結果として多くの農地が非伝統的農作物に転換されてしまったわけですけども、それがさらに途上国の自給率を引き下げ、途上国の食料安全保障が物凄く脆弱になっています。アフリカの多くの国口には食料輸入国になっており、アフリカは地域として最大の食料輸入地域になってしまっています。そんな中でこれから時間をかけて自給率を回復させていかないといけないと思います。

質疑応答

Q1

日中韓3国の食料安全保障のためにも、アフリカ諸国の食料輸入量を減らさなければならないというシナリオを考えた場合に、アフリカの食料増産のためにどのようなシナリオが考えられるか? バイオの問題を急いで良いのだろうか、食料増産が先決なのではないか。

A1

日本が輸入依存を続ける限りは最貧国との競合が続く。日本の安全保障のためにアフリカが自給をすすめるべきだとは考えない。どのような国であれ、主食に関しては自給を確立しなければ気候変動などの問題に対して安定的に食料を得続けることが難しいのではないか。日本は今のところ、外貨収入が多いので食料を購入することができる。食料価格が高騰する、国際市場の食料在庫が減少すると言った事態の中で、日本が国際市場から食料を買い占めることで、アフリカの国々で飢餓が生じるといった可能性もある。
日本政府はバイオに関して何百億もかけている。バイオ燃料として休耕田をどのように使えば効率が良いのか。日本国内での努力がアフリカに貢献するのではないだろうか。
そもそも食料生産ができない仕組みがアフリカで作られてきているので、それを逆転させる政策が必要になってくる。既にあるものを国内で適切に配分される仕組みも必要である。そして更に生産意欲を高める仕掛けが必要になってくる。

Q2

バイオ燃料を作る際に、化石燃料を大量に使用する。バイオを使う理由に、中東への依存を和らげるという意味があるのに、そもそもの前提が成り立っていないのではないか。

A2

ブラジルに関しては化石燃料のインプットが少ないので、成り立っている。石油ショックの時にバイオは一時ブームとなったが、ブラジルは各国が諦める中ずっと今まで続けてきている。そしてエネルギーの自給体制を守ってきている。
アメリカは中東への依存がおそらく上がっているが、それはアメリカの本当の目的は中東への依存削減ではないからだろうとにらんでいる。菜種油などは、ある程度は化石燃料への依存は減るが、アメリカは補助金の付け替えが目的であるため依存度は上がる。

Q3

途上国にとって、発展の一つの指標として第1次産業から第2次、第3次産業への構造転換があるが、アフリカやアジアなどは飢餓状況にある中で、発展を望んでいる。第3次産業への従事者を減らしていくのはひどく矛盾しているのではないか。第2次産業に比重を移していくことは世界市場の中で自立して、他国と対抗していくことに矛盾が生じるのではないか。国内飢餓人口を減らすため、発展するためにどのようなバランスをとればよいのだろうか

A3

産業高度化することにより、全ての人が第3次産業に従事することはありうるのだろうか。全ての人が金融業に従事して外国でよい給料を得ることが、国のあり方として持続可能で持続していると言えるのだろうか。唯一持続可能なスタイルであるかどうかはわからない。
また1次から2次への移行は、途上国は 貿易ルールや特許などの制約を受けている。日本は特許がない時代に成長したが、途上国には今制約がある。資源が北側に搾取されていて、独立後の借金とオイルショック(石油のない国)、構造調整がついて、医療教育公共サービスなどが切れていき、個人の発展が望めない。代替政策をやろうにも壁に阻まれてできなかった。
発展形態を硬直に考えず、より持続可能で自立的、安定的な幸せな社会にするためにはどうすればよいのかを考える。そのとき一定程度の1次産業は必要である。職業としての選択しを持つことも大事である。

Q4

食料VS燃料(大規模農業)の講演であったが、タイなどで経験した結果、今の農業を壊さずに、休耕地やフェンスを利用していこうという働きにたどり着いた。農家の人々も休耕地にアルバイト感覚で働くことができる。また、よい種を模索した結果、一つのみから6個も栽培できるものまでもできる。農業を壊さずに、コミュニティーをたくさん創り、副収入としておこなう政策もある。
アフリカはバイオが多く、森林が非常に少ない。ヤトロファを使うことによりそれを防ぎ、長時間火を保つことができる。自家消費。
木を燃やすと喉の病気でアフリカ全体で200万人死亡しているが、それもなくなる。追加的な機能だけで、現行農業を壊さずに発展していこう。バイオ燃料を創ることにより農業がダメになるという発想を変えよう。食料問題にダメージを与える観点から、壊さないで今の農業レベルを落とさない方法を考えた場合、副収入による足し算にたどり着いた。
チェンマイで、1000リットルの油の再生を行っている。ディーゼルオイルが28バーツで、天ぷら油が25バーツだったのが、前者が32バーツ、天ぷら油が25バーツで、安いままに保たれている。
ディーゼルオイルには品質基準があり、それを満たさないと販売できない。私たちがヤトロファから作ったディーゼルオイルは、コミュニティーで自家消費しているので制約されない。コミュニティーベースでそのコミュニティーの幅を広げていけば良い。

A4

例えばマンゴーをプランテーションで作るとまずいが、アグロフォレストリーでやれば理想的に自然と調和した形で生産できる。組み合わせによる相乗効果で商品作物を作ると良い。油とは規模の世界であるため、ある程度の規模が必要で、大手が参入し、大手が買い取り価格など全て決定してしまう。そういう意味ではなくNPOが一定規模で商品を作れるのは非常に良いこと。

Q5

エタノールが今後日本の自動車業界が進めている電気自動車や燃料電池者と、ブッシュとのエタノール政策に掲げる2030年に、今のタイプのエンジンが存在するのだろうかとの疑問がある。今年の自動車のモーターショーで、プラジングカーが開発されるが、近い将来実用されるとエタノール車は不要になるのではないか。

A5

エネルギー効率は良くないのではないかと思っている。

Q6

オール電化の家はCO2を出している。風力を使えばよいのではないか。

A6

今の自動車の電源をまかなえるほどに、新たな電源をエコになるために作り出さなければならない。

Q7

水素を水から創れば問題ない。

おわりに

AJF食料安全保障研究会座長 吉田昌夫

ヤトロファ導入の方法に疑問がある。コミュニティーベースで自家用に利用する分には問題はない。現在アフリカに置いて大規模企業が広範囲に創り、国内消費ではなく輸出向けに使おうとしている。政府がその考えに飛びつき、FDIとして誘致したいと考えている。ヤトロファの入り方を規制し、歯止めする術が必要なのではないかと考えている。ヤトロファを小農が自分のために使えばいいのに、大企業が土地を買い占めて大量生産を行おうとしている。でも大量生産するにも労働力をどこから調達するのか?など問題は多い。

講師・佐久間智子さん

アフリカ国内で意思決定をする人と現場の人と違いがある。言われたことと後の結果が違うことが何度も繰り返されてきている。内部にアクセスのある人は政府に働きかけるべきであるし、ヨーロッパの市民も、消費者(ディーゼル車はヨーロッパが多い)が何らかのアクションを起こしてくれないかと考えている。市民社会、市民同士で食料安全保障を重視していく動きが必要。日本が農業ができない理由に、アメリカの補助金は多少なりとも関係している。