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Zoomセミナー報告: 南アフリカ共和国の新型コロナ対策の実像

2020年5月6日20:00-22:00 緊急Zoomセミナー  

「新型コロナ:南アフリカの皆さんの報告&報道問題を考える」を開催

1.新型コロナの現状とメディア報道のギャップ:南アフリカと日本を結ぶズームセミナー開催

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的な大流行)に伴い、アフリカでのCOVID-19の状況や対策に関する報道も増えています。しかし中には、アフリカのCOVID-19対策の現実を反映していないものもあります。とくに、4月30日のNHK BS1国際報道2020「南アフリカ・学校まで略奪〜新型コロナで社会崩壊寸前」の報道内容に対しては、南アフリカ共和国の日本語コミュニティの方たちから抗議の声が上がりました。

5月6日、日本と南アフリカ共和国をむすんで、緊急Zoomセミナー「新型コロナ:南アフリカの皆さんの報告&報道問題を考える」(主催:アフリカ日本協議会)が開催されました。このセミナーの趣旨は、南アフリカ共和国の日本人在住者や、同国をよく知る人の立場から、同国のCOVID-19の状況やその対策の実像を報告し、先入観に基づく報道によってつくられた誤解を解くとともに、こうした報道の在り方をただしていくための方策を考えるというものです。本セミナーでは、南アフリカに生活の拠点を置く4名のゲスト・スピーカーの方々に、南アフリカ政府の新型コロナ対策の内容や、それに対する現地の人びとの支持、そしてロックダウンで経済的に打撃を受けている人びとへの支援の輪が市民のあいだで自発的に広がっていることなどについてお話しいただきました。わずか2日前に決まった企画にもかかわらず、60名以上の方々にご参加いただきました。

2.先進的な南アフリカのCOVID-19対策:日本より多いPCR検査数

南アフリカでは新型コロナのPCR検査を5月6日現在で累計27万9379件(日本は同日現在26万0190件)、最近は1日1万件以上のペースで実施し、感染者の早期発見・早期隔離により、感染拡大のスピードを抑えようとしています。南アフリカで新型コロナ感染が判明している人の数はアフリカで最も多い7572人(5月5日現在)に上りますが、これは積極的に検査を実施していることの表れでもあります。ラマポーザ大統領は3月15日に国家災害宣言を出し、3月26日から当初予定では3週間(大勢の人が移動するイースター休暇の時期を含む)の全国ロックダウンに踏み切り、その後ロックダウン措置は4月末まで延長されました。

5月1日からは外出制限や経済活動の制限が一部緩和されましたが(「レベル5」から「レベル4」への引き下げ)、依然として国境封鎖は継続し(南アフリカ市民の帰国と外国人の出国のみ可能)、飲食店の営業はデリバリーのみ、酒類やたばこの販売は禁止されるなど、日本の「自粛」よりよほど厳しい措置が継続しています。ロックダウン開始後も南アフリカの新型コロナ感染者は増加していますが、増加スピードは抑制されており、欧米諸国などでみられた「オーバーシュート(感染の爆発的拡大)」は今のところ起きていません。

南アフリカのロックダウンは、国内初の感染者判明から1カ月未満、まだ死者が1人も出ていない段階で決定されました。その背景には、感染が急拡大すると貧困層が多く利用する公立医療機関での対応が困難になることが見込まれたため、治療体制を整備するための時間をかせぐ必要があるとの認識がありました。結果として、早期のロックダウン開始が感染拡大のスピードを抑えたことはWHO(世界保健機関)などからも高く評価されています。また、WhatsApp(世界で最も利用者数の多いメッセージアプリ。日本のLINEにあたる。南アでは多くの人々が日常的に使用)上で利用できる「ヘルスアラート」というシステムを用いて、市民への正確な情報提供にも力を入れています。南アフリカで開発された「ヘルスアラート」は、その後WHOの情報発信システム(WHO Health Alert)にも採用されました。

ゲスト・スピーカーは以下の4名の方々でした(聞き手は津山直子・アフリカ日本協議会代表理事が務めました)。

・吉村峰子(よしむら みねこ)さん
2003年に南ア・ダーバンに移住。専門は、語学教育、通訳・翻訳。2019年より日本食お弁当デリバリーサービスを展開中。

・高達潔(こうだて きよし)さん
2001年に旅行会社駐在員として南アに赴任。そのまま移住し、現在はフリーランスでの旅行業。ジョハネスバーグ在住。

・木村香子(きむら きょうこ)さん
1992年より南アに永住。ケープタウン在住。日本のNGOのコーディネーターを18年間務め、その後、Origami for Africaを創設。折り紙を通した文化交流と雇用創出などを目指している。

・青木美由紀(あおき みゆき)さん
2005-07年リンポポ州でNGOシェア/JVCによるHIV/AIDSプロジェクトに従事。2017年より夫の赴任でジョハネスバーグに在住。会社命令で先日チャーター機で一時帰国した。

3.南アのCOVID-19の状況と対策の実像を伝える:南ア在住者からの証言

ロックダウン宣言の演説で国民の心を一つにまとめたラマポーサ大統領

各ゲスト・スピーカーからは以下のようなお話がありました。

吉村さん:4/30のNHK国際報道は、アフリカへの偏見に基づいたセンセーショナルで、きわめて無責任な内容で問題(より詳しくは、吉村さんがご自身のブログに書かれた抗議文 http://yoshimura-mineko.sorairoan.com/?eid=58 を参照)。実際には南アフリカ政府は新型コロナについて積極的に検査を行い(人口比で日本の約3倍)、しっかりと情報公開も行っており、ロックダウンについての大統領のスピーチは、人びとから強く支持されている。南アフリカの感染のピークはまだこれからと予測されているが、市井の人びとのあいだには、この危機を乗り切るための人種を越えた連帯が生まれているようにも思える。

高達さん:南アフリカの経済格差は世界一とも言われるし、若年層を中心に失業は深刻で、貧困層が多いのは事実。しかし、ロックダウンで酒類の販売が禁じられていることが背景にある酒屋の強盗の映像を、食べるものに困った人々が食料品店を襲ったかのように切り取り報じるのは問題。スーパーマーケットは開いていて、食料品は問題なく買うことができる。政府は子どもや高齢者、障害者への社会手当を半年間増額することを決め、今月から実施。それに加えて、これまで社会手当の対象外だった18-59歳の失業者への手当の導入を決め、フードパーセルの支給なども行っている。ただ、公的な支援が必要な人全員にいきわたらないので、そこはNGOやコミュニティの支援が補っている。

木村さん:西ケープ州は、富裕層が多く、観光客も多数訪れる土地柄で、南アフリカでいちばん新型コロナ感染者が多い地域。最近ではタウンシップでも感染者が出ているので心配。facebookのCape Town Togetherというページで、支援できる人と支援を必要とする人をつなぐ試みが行われており、各地でCommunity Action Network (CAN)という有志のネットワークが立ち上がっている。木村さんの息子が中心になって立ち上げた地元のCANも、木村さんが折り紙を教えている学校の所在するWesBank地区などで支援を行っている。庭師やお手伝いさんを雇っている人は、収入が途絶えないようにお給料を払いながら、仕事を休んで自宅で安全に過ごしてもらうようにしている人が多い。

青木さん:先日チャーター機で緊急帰国するまで滞在していたジョハネスバーグのサントン地区は、以前NGOのプロジェクトで滞在していたリンポポ州の村と違って、ふだんは近所づきあいがあまりないところ。しかし、ロックダウンになって、コミュニティの連帯を感じるようになった。もともと、犯罪発生、停電や断水の情報を共有するためのWhatsAppグループがストリートごと、エリアごとにあったが、それが独居の高齢者の買い物を助けるといった支援のために使われるようになった。大統領がまだ死者が一人も出ていない段階でロックダウンを決断したことは、人種をこえて支持されている。HIV/AIDS対策の経験が素早い対応に生かされていると思う。

4.現実を反映した情報を自ら伝えていこう

会の後半では、メディアでお仕事されている方も含めて、参加者のあいだで活発な意見交換が行われました。南アフリカのしっかりした新型コロナ対策から、日本が学べることもあるだろうということ、にもかかわらず、必ずしも現実の状況を踏まえない報道が散見される背景には、紛争や暴力といったアフリカのステレオタイプに沿った記事やストーリーのほうがデスクに受け入れられやすいというメディアの構造的な問題がある、といった意見が出されました。また、ケニアやジンバブウェの新型コロナ対策についても、両国在住の参加者からお話がありました。

アフリカのCOVID-19の状況や対策に関する先入観や偏見に基づいたネガティブな観点からの報道は、すでに日本の視聴者に誤解を与えています。海外では、COVID-19に対するアフリカの強みや、対策の成功を伝える報道も多くなされています(例:Financial Times:Africa’s Covid-19 response is a glimpse of how things could be different)セミナーでは、現地を知る立場から、現実に基づいた、バイアスの少ない情報を伝えていく努力をすると同時に、ネガティブな情報に偏ったり、特定の意図をもって情報を都合よく歪曲するような報道があった場合に、これをただしていくことが必要だということが確認されました。