2007年度 食料安全保障研究会公開セミナー 報告
日時:2007年9月29日(土)14:00-17:00
講師:稲泉博己さん(東京農業大学国際食料情報学部国際バイオビジネス学科人的資源開発学研究室)
会場:丸幸ビル2F・オックスファム会議室(AJF事務局隣のスペースです)
9月29日、食料安全保障研究会公開セミナーを開催し、講師・スタッフを含め12人が参加しました。
以下、講演内容と質疑に関するメモです。文責は、研究会事務局にあります。
報告と提起
先日アフリカから帰国しました。昨年末と今回、二回の調査を基に発表します。オバサンジョ前大統領の行ったキャッサバ・イニシアティブが中心テーマです。配布資料に、JAICAFの「アフリカのイモ類」に私が執筆した部分をいれてもらいました。今年5月のアフリカ学会で話したことがもとになっています。
前大統領は、いろいろなコモディティを対象にしたイニシアティブを立ち上げました。キャッサバ・イニシアティブの中心は、キャッサバ加工業を振興するために、パン粉へキャッサバ粉を10%混入するという政策でした。食料の確保とコースターチ等の輸入を減らすことを目的に、生産・加工・輸出まで含めて振興しようとしたのでした。
昨年12月と今年8-9月に調査を行ないました。調査地は、南西部、南南部、北中部であるイバダン、クワラ、エドなどです。調査地は、大統領イニシアティブの対象地域であることを選定基準に選びました。このイニシアティブは、キャッサバ・モザイク病の抑制、キャッサバ加工企業の育成も目的として、11州が参加しています。キャッサバ加工工場とNGOを調査対象としましたが、メインは、持続的発展につながる可能性のある民間の企業です。
【スライド参照】民間の工場の写真:
写真:バケツの中でキャッサバを三日間入れ、発酵させる。
写真:女性や子どもが地べたでキャッサバの皮をむく。
写真:一番小さな加工場の風景。プロジェクトが入っているので木造施設が整備されている。衛生面に配備されている。
本日の発表では、ガリについて知って欲しいと考えています。
Q:ガリという呼び方は、仏語圏でも使われているのですか?
A:ナイジェリア、ガーナでの呼称です。
キャッサバ農場の写真:
- 一年半で収穫する。この地域では一年半以内で収穫しない。
- 収穫量はわからない。生産者は、ピックアップ・トラック一台分で1.5トンと測る。
- トラックで運ぶ場合もあるが、女性が担いで運ぶこともある。
- 作業工程は、皮むき、機械ですり下ろしてマッシュ状にし、袋に入れて踏みつぶす。脱水機に入れて水分を絞り出す。その後、篩(ふるい)にかけて粉状にする。
- この粉状のものをガリと呼ぶ。
Q:ガリの色は着色によるのですか?
A:今日持ってきたものは、パームオイルを混ぜているため、黄色です。白いガリと黄色いガリが市場で売られています。黄色いガリは2キロ袋で約400ナイラ(約400円)と、通常の白いガリの10倍の価格で、ブランド品として扱われています。ブランド化も大統領イニシアティブの狙いです。
以下、大統領イニシアティブによる標準化の結果:
写真:皮むき機
- 一番技術的に遅れている。
- 原理は、鉄の棒に木の丸太を入れ、下ろし金をつけ回転させながらキャッサバの皮をむく。
- 皮むき機は、加工工程の中で木くずや鉄のサビが入ったりするため、最新のものはステンレスを使う。
写真:袋詰めにしたマッシュ状のものを、車のジャッキーを使って、圧力をかけ脱水している。
- さらに進化して、電動で動く機械を作った。
写真:ふるい
- 一般的には網を使っていたが、標準化の中で網の目を規定する。
写真:炒る
- 煙突をつけ、ステンレスの土台。
- 火を使っているところでは、シャワーキャップをつける。
- これも標準化の一環。
写真:ガリのパッケージ
- いくつかのパッケージに入れ、アブジャやラゴスのスーパーで売られる。
- 食べ方は、ガリを水に入れてそのまま飲む。ナイジェリア式ファーストフードである。
- お湯にといて餅状にして食べるのが一般的である。
- バケツに入れて発酵させ、ペースト状にしたものがフーフー。
- チップスもある。チップスは飼料にもなる。
キャッサバは、さまざまな名称で呼ばれています。タピオカと呼ぶのは、フィリピン、タイなどの東南アジア地域です。
Q:タピオカは英語ですか?
A:英語でもキャッサバと呼びます。カッサバと発音します。1960年代後半からキャッサバと呼ぶようになりました。以前はマニオカと呼ばれていました。マニオクという呼び方は原産地のアマゾンの呼び方です。黄色人種である原住民の中にマニという白人の子が生まれ、その子が死んだ時に埋めたところからでてきたのがマニオクであるという伝説があります。
標準化の過程で、機材が鉄からステンレスに進化しています。粉を作る場合に必要な乾燥機も作られています。一つ目は、Batch dryerという温風が出る機械です。モデルは、西ドイツ製のもので、ナイジェリア人が開発しました。Cabinet dryerというマレーシア製のものも使われています。Flash dryerがブームとなっています。日本語では気流乾燥機と呼ばれる機械で、熱交換を行いながら下から吹き上げ、落ちてきた乾燥した粉を集めるものです。日本でも使われています。高温ガスを吹き込むための熱量が必要になるため、高度な技術を要します。IITA(国際熱帯農学研究所)のデモンストレーション・センターでは、ナイジェリアでの普及は困難と話していました。
ガリを煎るためのヘラも様々です。Paddle/Spatulaは、ブラジル製の電動式のものです。ステンレス製でないため、改良の必要性があるとのことです。
二回の調査の間にも、進化した機械が導入され、工場が新設されていました。一方で、工場の転売・休止・撤退も起こっています。州立のガリ加工場は、転売先を探していました。また、他の食料(ヤムイモ、トウモロコシなど)の収穫期には、ガリ製造を休止しています。パック詰めにしても安価な旬の食料には勝てないのです。販売戦略を立てる必要があります。
大統領イニシアティブ対象地域内外の格差もあれば、対象地域内にも格差があります。いっせいに浸透しているわけではありません。大統領イニシアティブが始まった2002年以前とでは加工品の種類が異なってきています。薬品や糊の工場も作られ始めました。
ガリは、伝統的に天日乾燥したものの方が安価で販売されています。乾燥して天気のいい地域ではこちらが品質が良く、味も良いのです。機械でパッキングしたものはコストがかかり、売れ行きものびていません。大統領イニシアティブによる標準化は、輸出が目的だったのかなと考えます。
終わりに
ナイジェリアは世界一のキャッサバ生産国です。再び加工利用に焦点をあてています。現在の消費者に対して、大統領イニシアティブの目指す加工品が妥当なのかどうか検討する必要があるのかもしれません。また、政権交代による動向に注視する必要があります。
オバサンジョ前大統領によるイニシアティブの結果
キャッサバ粉のパン粉への混入政策の動向
当初、2005年1月を期限に10%混入を目標としていたが、2006年7月に延期、2007年1月に再延期、混入幅を5%に圧縮した。2007年4月に再々延期、10%混入に戻した。結局、現在に至るまで法的規制はなされていない。
混入政策の障害として、非発酵・無毒のキャッサバ粉精製は不可能であると製粉業者は述べる。しかし、技術的には可能である。ブラジルでは精製している。ナイジェリアの場合は、乾燥機の技術的問題である。二点目の障害は、日糧1000トンの需要を満たせない。三点目に高価格であることである。2005年段階での小麦輸入価格は176ドル/トンである。2006年6月時点の仮合意では592ドル/トンと3.7倍である。高価格の原因は、流通、加工の問題である。本来、ガリとして食していなかったため興業としては困難を要する。
まとめると、1.資金・技術の不備、2.チェーンの未整備(2回目の調査対象)、3.乱立気味の業界団体の利権争いが多いことである。多数のアソシエーションと競合しなければならない。
新たな展開
世界的に小麦粉が高騰しており、9月現在、2007年当初に比べ2倍になっている。砂糖、ミルクも同時に高騰している。また、世界的なバイオ燃料の需要増加により、小麦のみならずコーン・スターチ等他の穀物由来の工業原料も値上がりが必至だろう。これに対して、シェルやUSAIDが資金協力している。なぜなら、キャッサバの生産地は原油生産地でもあるからである。バイオ燃料も考えられている。
ガリ試食会
コップにガリを入れて白湯で練って試食した。しょうゆ、行者にんにく味噌で参加者が好みの味付けで楽しんでいた。
質疑応答
Q:ガリからパンを作るレシピはありますか。
A:脱水することででんぷんが流れ落ちているので、このガリでは作れません。繊維分がほとんどです。キャッサバ自体、デンプン以外の栄養分はありません。副食でタンパク質、ビタミンなどを補っています。葉っぱのスープなどにつけて食べるのです。
Q:キャッサバの毒をどうやって抜くのですか。
A:水溶性の毒なので、水につければ抜けます。気候条件によって一日で大丈夫だったり、三日かけなければならかたりしします。また、個体によって抜け方が違います。
Q:キャッサバにはスイート種とビター種があると聞きました。
A:スイート種は生食できます。ほとんどの人はビター種を作っています。なぜなら収量が多いからです。ヘクタールあたりの収量が10トンとも20トンとも言われています。ただ、イモなので水分が多く、加工に手間がかかります。
Q:ナイジェリアではヤムの方が好まれると書かれていたが、国内におけるキャッサバの位置づけはどのようなものですか。
A:西アフリカは主食が多様にあり、ヤムもキャッサバも食べています。ブラジル原産のキャッサバが持ち込まれ、100年近くかかって浸透しています。旱魃にも強いため栽培していますが、好んでキャッサバは食べるわけではありません。
Q:降雨量との関係はどうなっていますか。
A:キャッサバは雨量の多いところで作られます。南部の熱帯雨林で作られています。アマゾンの原種は木でした。根を食べるようになったのは、後になってからです。
Q:キャッサバ栽培に肥料を使っているのですか。
A:必要ありません。施肥をしても収量は増えません。また、生産工程に手間がかかるため、使いたがらないということもあります。
Q:味の素が旨味成分にキャッサバ加工品を利用しているため、インドネシアで生産しているそうですね。
A:ナイジェリアでは、流通の問題があります。生産地域で一次加工できればよいのですが、加工場は都市部に集中しがちです。また、ナイジェリア人の中には「見た目が一緒であれば中身がちがってもよい」という考えがあります。その結果、質が悪い商品を作り、業界にダメージを与えています。偽物でもいいから売るというビジネスを続けているのです。
Q:小麦の値上がりがあっても、キャッサバ粉の10%混入は難しいですか。
A:2008年の収穫期を迎えてからが問題です。私自身は、製粉してパッケージするより、ガリにして食べる方がよいと思います。
Q:ブラジルは、キャッサバのでんぷんをすべてバイオ燃料にする計画を持っていますが、ナイジェリアはどうですか。
A:ブラジルからキャッサバ加工技術をする人がナイジェリアに呼ばれましたが、一年でやめました。インフラの問題があるのです。大量生産をするシステムは考えられません。加工コストがかかりすぎるため、大量のバイオ燃料生産は現実的でないと思います。
Q:大統領イニシアティブは小規模な加工場にも影響していますか。
A:加工用の器具にステンレスを使用し始めています。ECOWAS(西アフリカ経済共同体)の域内流通計画が関係しています。
Q:近隣諸国への輸出は伸びているのですか。
A:ガーナ製の方が質は高いのですが、大量のパッキングだとナイジェリア製が優位です。中国やニジェールが輸入した記録はありますが、ナイジェリアから輸出した記録がないというのが現状です。統計そのものに問題があります。
C:日本政府のアフリカ支援策の一つとして、アフリカ諸国の税関職員の研修というのもあったようです。
C:人材育成もインフラ整備のひとつですね。
C:ECOWAS間の域内FTA(自由貿易協定)では。国は動かした量に関して税金をかけています。
C:関税回避を取り締まるシステムがECOWASにはありません。
Q:ステンレス製機器の導入によって誰が利益を得て、誰が不利益を被ったのですか。
A:11州のプロジェクト対象地域内では導入していますが。導入された機器の圧倒的多数がプロジェクトの基準に達していないのです。またステンレス製機器を導入しても、製品の値段は変わりません。国内マーケットでは、ステンレス製加工機器によるキャッサバ加工にメリットがあるという認知がないのです。
Q:食品情報管理はどうなっていますか。
A:ガリに関しては遅れています。パッケージに食品情報が印刷されていますが、製造番号がありません。スパゲッティには適用されています。本来、山から買ってきて計り売りなので成分表もありません。
Q:ナイジェリアの食料自給状況はどうなっていますか。
A:米は不足しています。しかし、今年は輸入を制限しています。
Q:ネリカとは何ですか。
A:ジャポニカ米とアフリカ米をかけあわせて強い米を作るということで開発されたコメです。ウガンダが作っています。アフリカライスセンターが開発を行っています。しかし、アフリカ諸国では、もともと米の需要が低いので、大きなインパクトにはなっていません。
Q:ナイジェリアでの食料問題はどうですか。
A:切迫している状況ではないようです。
Q:北部にもキャッサバは普及するのでしょうか。ミレットのようになりますか。
A:ミレットのように広く栽培されるようにはなりません。ナイジェリアでは、ヤムもキャッサバも、植物として特性がわからないまま品種改良をしています。例えば、葉っぱを落としたものと落とさないものとでどちらが、デンプン含有量が多いかとか、収量が多いか、といった単純なことが明らかにされていないのです。植物としてのヤムやキャッサバの研究が遅れているのです。味や収量で選別してきたため、昔あった品種などがのこされていません。ヤムについては、ナイジェリアなどが研究したほうがいいですが、キャッサバについては原産地でたくさん作っているブラジルなどが研究したほうがよいでしょう。
Q:キャッサバのルーツは?
A:中南米ですが、まだ特定できていません。奴隷貿易時代にアフリカに持ち込まれました。東南アジアにキャッサバが渡ったのは1960年代です。
Q:学術的に多く分けられていますが、実際に地域ごとに違うのですか。
A:3000種あるといわれています。土壌が違うと品種も違います。同じところに違う品種は植えません。
Q:日本でも育ちますか。
A:可能です。日本では沖縄で作られていて、キャッサバ加工品が日系ブラジル人に売られています。
Q:徳之島では、キャッサバを収穫して食用にしているのですか。
A:戦後の食料がない時代には食べていましたが、好まれなかったため餅にしたりして残っています。一方、観葉植物として売られています。日本での呼称は「イモの木」です。
Q:植えるにはどうするのですか。
A:挿し木で増えていきます。
Q:アフリカにおけて、キャッサバの将来はどうなりますか。
A:フェイクでないものができることが重要です。一次加工が定着すれば、食用、エタノールなど、どんな方向にも使えます。農民の側がやる気になることも重要です。爆発的に増えるわけではありません。安定的に中身を延ばすしかないのです。大統領イニシアティブにより、やらされてる部分が大きかったので、今後は地道に続ける必要があります。最も必要なのは人材です。フェイクでないものを作る、もしくはフェイクであってもそれを利用して作っていく技術が重要なのです。
Q:フェイクとは具体的にはどんなものですか。
A:機械のフェイク。Flash dryerなど、精密技術が必要なのに、形だけまねた製品が売られています。キャッサバに関してだけ、生産者、加工業者、流通業者すべての能力向上を求めても無理があります。また、加工品の品質を高めても値段は同じというのも問題です。
Q:賃金はどうなっていますか。
A:農業労働者の最低賃金は決まっています。最低で月7000ナイラ(約7000円)です。