-セネガルの合同農村調査から見えてきたこと-
食料安全保障研究会 第2回 公開講座 報告
日時:2001年11月28日(水)18時30分-21時
会場:富士見区民館(東京)
講師:楠田一千代さん(AJF会員)
題目:「食料の保障:三つの不安-セネガルの合同農村調査から見えてきたこと」
出席者:AJF会員を中心に10名。
背景:同研究会は、11月21日に打ち合わせを行った。その場で、AJFがアフリカのNGOと行った合同農村調査について、今一度「復習」する必要があるという点が確認された。それを受け、今回は、1997年の「食と環境」に関する調査(セネガルのENDA-Grafとの合同調査)に参加した楠田一千代さん(AJF会員)を講師に迎え、話を伺うことから始まった。
内容
河内が司会を担当した。はじめに、以下の内容に関し、講師の方から解説を頂き、その後、質疑応答/討議へと進んだ。
- Enda-Graf/AJFの共同調査概要
- セネガル概況:地図、位置、機構、降水量、地形、農業関連データ
- 外的要因
- 二次的影響
- 村人(農民)の持つ不安の多面性(生産者/消費者/家長)
[講師による解説]
1)Enda-Graf/AJFの共同調査概要
・背景:ここは、『「食と環境」報告書』(1998)より抜粋
「アフリカ日本協議会は過去の活動を通じて、気候変動の大きいサヘル地帯などの半乾燥地域を中心として食料供給が不安定であり、その課題の克服のためには、農村においては農業を取り巻く環境の保全が重要であり、それは地域住民の自主性に基づいた活動として、かつ包括的なアプローチによって取り組まなければならないという観点を持つに至った。実態調査では、この観点に基づき、地域レベルにおける食料需給の実態(食料安全保障)および環境劣化と農業生産の実状、食料確保および環境回復のための地域住民の活動、を調べることとした。実態調査は、エティオピアとセネガルにおいてアフリカに本協議会が現地NGOと協力して実施した。調査終了後、現地のNGOスタッフを日本に招聘して『食と環境』をテーマとしたセミナーを開催し実態調査の報告を行った。これと平行して、農業資源環境と食料生産に関する勉強会を開き、当該テーマに関する知見を深めた。」
・対象国:セネガル
・現地のNGO:ENDA-Graf
・活動:
-1996年8月-10月現地調査実施
-日本国内にて、11月「食と環境」シンポジウム開催、地方での報告会・農家訪問の実施
-報告書作成.同発行(1998年1月)
2)セネガル国概況
・地図、位置、気候、降水量、地形等。
・農業関連データ:
-主要作物(種類とそれぞれの割合、輸入額、輸出額)→ 落花生栽培への集中
-農業従事人口 他
-食料の輸入
3)外的要因:農村の食料安全保障に関し、外部から影響を与えるもの
- 政府の介入(買い上げ公社、生産物価格の決定)
- 外部者(NGO、援助機関など)の介入
- 政府の作ったシステム内での落花生栽培(改良種、化学肥料使用必須)
- 国際市場による生産物価格決定
- 農業政策の変化(落花生モノカルチャー → 自給農業奨励、工業化促進による都市部への農民の移動)
4)二次的影響
上記3)の外的要因の結果、引き起こされたと考えられる影響として、以下の6点が指摘された。
- 環境破壊(有用植物の消失→健康面の不安増大、保健医療に関わる金銭的負担拡大、保水力低下、栽培可能作物の限定化、等々)
- 貧困深刻化
- 地力低下→より広い土地耕作の必要性→肉体的負担増大→健康を害することが増える→薬売り(輸入もの)がはやる→文字が読めないことがネックになり高価な役立たずの薬を売りつけられる→家計への負担増大
- 地力低下→より広い土地耕作の必要性→人口増加と相まっての土地不足→若者の都市への移動
- 地力低下→より広い土地耕作の必要性→人口増加と相まっての土地不足→生産量の不足→現金収入の減少→購入できる穀物量の減少→不十分な食料しか確保できない
- モノカルチャー奨励→牧畜民の定住化→生来の生業でないための不適応→家畜売却→財産の消失→貧困状態の深刻化
5)村人(農民)の持つ不安の多面性
今回の調査を受けた村人(世帯主)は、生産者/消費者/世帯主という三つの立場を持つ。それぞれの立場から感じる不安について、以下のような指摘・報告がなされた。
- 生産者として:肥料が高い、クレジットで買わされる(収穫後に要返済)、生産物の価格決定権がない、買い取り価格の低迷(外部への依存度の高さ)、土地の不足、地力の低下(環境劣化)、気候変動(降雨時期が不安定、雨量不足・地域的偏り)、代替作物の一様性(スイカばかり)、老朽化した農機具、現金化の為に手放した役畜たち(馬、牛など)、改良品種として売却するための賄賂使用
- 消費者として:現金収入が不足し、主食作物が十分確保できない、自給生産の難しさ(土地不足、天水農業)、収穫穀物の管理の難しさ(現金化の手段であるがゆえに、収穫直後に得らなければならない→商人に買い叩かれ、8-9月の端境期に高く売りつけられる)
- 世帯主として:生活のための現金確保の必要性とその難しさ、収穫穀物の貯蔵管理の難しさ(現金化の手段、家族メンバーによる無計画使用、虫害防止、盗難対策など)、家族内の労働力の管理(現金不足の場合には、出稼ぎのために町に送る)、教育・保健医療にお金を回せない
6)まとめ
内戦もなく治安の安定しているセネガルであるが、調査地域の村では、一様に環境の劣化、および貧困の深刻化が指摘された。それらの多くは外的要因として指摘される。多投入を続けない限り、あるいは続けても生産性の上がらない土地の状況は、多投入に伴うリスクと共に深刻な状況にある。農村における(食料)安全保障を考えるにあたっては、これらを充分に考慮する必要がある。
[質疑応答]
Q.輸入品の31%が食料というが、なぜか。
A.大部分は都市部の主食、すなわちコメである。落花生栽培のため、主食(コメ、雑穀等)に土地を割くことができない。また政府もそれを奨励してきた
Q.対象となった地域では、もう土地が無い。村レベルを越えた争いが始まっているのか。
A.そこまではいかない
Q.化学肥料は効果があったのか。
A.収量自体は上がった。ただ、改良品種だから効果があったと言える。長期的にはどうなのかわからない
Q.化学肥料の価格はどこが決まるのか。
A.政府が価格を決める
Q.政府の方針に変更があったというが、どう変わったのか。
A.1994年に、新農業政策(Responsibilization)が打ち出され、80年代の落花生栽培中心から、多様化推進に向けた動きになった
Q.アグロフォレストリーについて、もう少し具体的に。
A.(写真を見せて)アカシアアルビダという木が畑にある。現地の人々はそれを切らない。その根元にミレットが栽培されている。農作物と樹木が排他的にならず、共生している。村の人々はこういう状態を作り出してきた
Q.配布資料「食料安全保障の概念からヒューマンセキュリティの概念へ」について説明が欲しい。
A.Endaが行ったワークショップの際、参加者で作り上げたものである。「ヒューマンセキュリティ」とあるが、フランス語では「存在のためのセキュリティ」となり、それらは以下の8つの要素から構成されているということである。
-象徴的安全保障
-食料安全保障
-アイデンティティーの安全保障
-資源の安全保障
-社会関係の安全保障
-政治的安全保障
-貨幣の安全保障
-物理的安全保障と精神・身体の安全
[コメント]
- 降水量/年のデータが必要ではないか。他の地域あるいは他の時期との比較が可能になれば、より立体的な考察につながる。
- これまでになかったということから考えるなら、堆肥は新しい手法だが、化学肥料に比べた場合、雑草が増えてしまう。この部分と土地の劣化の兼ね合いは重要だ。
- 化学肥料は、たとえ効果があったとしても、導入に伴うリスクに配慮するべきだ。
[参考資料]
- 『「食と環境」セミナー資料集』(AJF編.1997年.無料)
- 『「食と環境」報告書』(AJF編.1998年.800円)