トランプ政権、USAIDの解体・国務省統合の方針を議会に通知

訴訟の影響を恐れてUSAIDをスピード解体 懸念される現場への悪影響

1月20日に発足した米国トランプ政権が発足当日に出した「米国の対外援助の再評価と再編成」大統領令は、大統領傘下の行政機構内部、また、司法との間で矛盾を抱えつつ、米国の援助メカニズムの急速な解体という形で執行されている。

政府効率化省による性急なUSAID閉鎖:国務省の方針との矛盾

DOGEにより閉鎖されたUSAID本部(AP)

もともと大統領令は、90日間(4月20日前後まで)援助を停止し、各案件をレビューして、廃止・変更・継続を決定し、再開する、というものであった。これについて、1月24日、国務長官は全ての在外公館に向けて新たな指示を出した。これには、180日以内(7月20日前後まで)に、国務長官の下で、全ての援助案件を再編する、との記載が付け加えられた。さらに1月26日、国務長官は援助案件のレビューの観点を示したが、それは、レビュー対象となる援助案件が「米国をより安全に、より強く、より繁栄した国に」することに貢献するかどうか、というものであった。さらに1月29日、国務長官は、援助停止を保留する(=すなわち、継続する)案件として、緊急食料援助とイスラエル・エジプトへの軍事援助に加え、「命を救う人道援助」を対象とすると布告し、この「命を救う人道援助」について、命を救う医薬品や医療サービスの供給など、詳細を提示した。国務長官の指示に従えば、例えば「大統領エイズ救済緊急計画」(PEPFAR)での治療薬や予防薬の購入や配布といった事業は「援助停止」を保留され、事業を再開できることになるはずであった。

一方、米国国際開発庁(USAID)の職員は、大統領令等の発布から時間を置かずに業務中止命令や、契約業者との連絡禁止命令、待機命令を受け、業務を行うことができない状況に陥った。さらに2月1日には大統領顧問のイーロン・マスク氏に率いられた「政府効率化省」(DOGE)がUSAIDのウェブサイトを閲覧不可能な状態に置き、さらにワシントンDCにあるUSAID本部の警備担当責任者を物理的に排除した上、本部を占拠、職員のデータなどを含むセキュリティ・クリアランスされた情報にアクセスした上、本部を力づくで閉鎖してしまった。その結果、国務長官が援助停止を保留したはずの案件の多くが、援助を再開する手続きを行なう当局者が不在のため、援助停止のまま推移するという状況となっている。

司法による援助停止措置への違憲判断:紆余曲折

一方、大統領令は既に契約によって実施されている案件に関する資金の拠出を含めて90日間停止するというものであり、当然、契約の安定性を損なう他、憲法や関係法に抵触する内容となっている。USAIDの案件の実施を多く請け負ってきた米国の実施系NGOなどが多く加盟する「国際保健評議会」(Global Health Council)や、「保健のための管理科学」(Manaement Sciences for Health: MSH)、民主主義インターナショナル、米国法律家協会(American Bar Association)などは連合して米国政府を提訴。一方、エイズ・ワクチン提言者連合(AVAC)、また、消費者運動をけん引する「パブリック・シチズン」なども相次いで米国政府を訴えた。その内容は、基本、現在契約途中にある案件の廃止、停止や担当職員の業務停止命令などを憲法違反として訴えるものであった。これについて、ワシントン連邦地方裁判所のアミール・アリ裁判官は、2月13日、米国政府に対して、援助の停止や職員への待機命令などの措置を一時的に停止する「一時停止命令」を出した。原告側の主張が全て採用されたわけではないが、裁判所は政府の反論を退け、食料や医薬品へのアクセスを絶たれて苦しむ人々の苦難に鑑みて、政府の援助停止措置を一時的に停止する(=すなわち、援助を再開する)との判断になった。

ところが、政府は裁判所の命令を2週間にわたって無視した。そのため、裁判所は25日、一時停止命令を再度発布し、26日までの履行を命じた。政府はこの命令を不服として控訴した。連邦最高裁のジョン・ロバーツ長官は27日、地裁のアリ裁判官の命令を停止したが、3月5日、最高裁は政府の申し立てを棄却し、判断を地裁に差し戻した。3月10日、地裁のアリ裁判官は、政府による海外援助停止を憲法違反として退ける判決を下した。また、別の訴訟で、3月19日、メリーランドの連邦裁判所は、USAIDの閉鎖を憲法違反とし、すべての職員へのコンピューターや電子メールアクセスを復旧するように命令する判決を出した。

国務省、「レビュー」の結果を下院に通知:「継続案件」の内容はっきりせず

3月10日のアリ裁判官の判決は、大統領令による90日間の援助停止措置を違憲とするものであるが、ルビオ国務長官は、アリ裁判官による判決の数時間前に、これらの援助案件について、レビューの結果、USAIDの援助案件の83%を廃止することとした、と表明、3月20日には、USAIDの事業の86%を廃止することを明記した資料が、国務省から下院に送付された。この段階で、事態は「90日間の援助停止」から、停止されレビューに付された案件について、レビューに基づく処分の段階に移行することとなった。廃止された案件の中には、GAVIワクチン・アライアンスへの拠出や、米国の資金で世銀が実施する「教育のためのグローバル・パートナーシップ」事業、ポリオの根絶に関する事業などが含まれた。一方、残された事業も存在するが、実際のところ、この資料は、維持されることになった案件に関してどの様な実施が行われるのか、意味するところが不明瞭なままである。

USAIDの解体と一部機能の国務省への統合も下院に通知

3月28日、リッチモンド連邦控訴裁判所は、連邦地方裁判所の判決を取り消し、政府効率化省によるUSAID解体を合憲とする判断を行なった。一方、同日、ルビオ国務長官は、USAIDを解体しその一部機能を国務省に統合する方針を連邦下院に通知し、この措置を7月までに完了することを明確にした。ルビオ国務長官は「必要とされる『命を救うプログラム』は継続する」と述べているが、援助停止措置による悪影響は、各地での医療機関や人道援助に関わる各種サービスの相次ぐ閉鎖などで如実に表れており、また、USAID解体によって担当者が不在となったことで、継続案件についても援助再開の手続きがなされないといった問題が引き続き生じている。今後、特にHIV・結核・マラリア等の治療薬の供給停止により、米国の援助資金でこれらの医薬品にアクセスできていた多くの人々の健康状態の悪化などが強く懸念されている。