TICAD9終わる:日本とアフリカは保健分野で「共創」できるか

一部の「テーマ別イベント」の重要性アップ、難しい「真の成果」の見極め

日本での数々の国際会議の舞台となってきたパシフィコ横浜

8月22日、横浜市の「パシフィコ横浜」で開催されていた第9回アフリカ開発会議(TICAD9)が閉幕した。この会議では、米国が保健を含めた援助の殆どを停止し、他の主要伝統ドナー国が相次いで援助の大幅な減額を決定する中で、国際保健政策の主導国の一つとみなされてきた日本が何を打ち出すかが問われていた。

今回のTICAD9とそのプロセスでの保健分野の展開については、いくつかの特徴がある。TICAD議長(内閣総理大臣)の開会演説および終了後の記者会見で日本の誓約の多くが発表・総括されたことはこれまで通りである。石破茂・内閣総理大臣が打ち出した日本政府の特定の誓約についての詳細な打ち出しは、今回、公式プログラムに位置づけられ、三日間でおよそ百以上の企画が開催された「テーマ別イベント」のうちの一部の企画において行われた。一方、本会議での保健に関する議論は例年以上に低調であった。また、会議の成果文書である「横浜宣言」における保健の記述には、日本政府の誓約は網羅されておらず、記述内容と日本政府の誓約の間には、相互補完性が欠如している。

保健最大の目玉は「アフリカ保健投資促進パッケージ」?

20日午後の開会セッションで石破総理が行った演説は、過去のTICADで歴代総理が行った演説に比べ、権威主義的な要素が少なく、アフリカと日本の水平的なパートナーシップと相互補完性を強調した点で画期的なものであった。一方、保健分野に費やした分量は少なく、そこで誓約されたのは、以下の3つであった。

(1)「アフリカ保健投資推進パッケージ」によるアフリカの保健分野への投資の呼び込み
(2)2025年に日本に設立する「UHCナレッジハブ」と3.5万人の保健医療人材の育成によるUHCへの貢献
(3)GAVIワクチン・アライアンスへの5年間で5.5億ドルの資金拠出

なお、総理は22日のTICAD9終了後の共同記者会見で、日本がアフリカとの連携で取り組みを加速する7分野を挙げたが、保健は「保健政策の強化」という表現で5番目に位置づけられている。

上記3つの誓約のうち、最初に挙げられた「アフリカ保健投資推進パッケージ」は、8月20日に開催されたテーマ別イベント「日・アフリカ共創で拓く健康と経済の未来」で発表された。城内実「健康・医療戦略」担当大臣はイベント冒頭のスピーチで、同パッケージ(英語名称:Investment Promotion Package for Sustainable Health in Africa=アフリカの持続可能な保健のための投資促進パッケージ)について発表した。同イベントでは、日本企業のアフリカでの展開の具体例が多く紹介された。同パッケージについての具体的な説明はまだ所轄官庁のウェブサイト等には上がっていないが、基本的には、日本の健康・医療産業のアフリカでの展開を促進するものと考えられる。

一方、8月21日に行われたテーマ別イベント「2030年のユニバーサル・ヘルス・カバレッジ達成に向けて、アフリカにおける予防接種の革新的解決策の共創」では、藤井比早之外務副大臣が、現下のアフリカの保健問題解決のためには、アフリカ自身の一貫した保健分野に対する投資を呼び込むことが重要で、日本はそのために同パッケージに基づく取り組みを行うと述べている。同イベントはGAVIとアフリカ連合委員会が共催したもので、COVID-19危機以降アフリカ連合が推進している医薬品の製造能力強化について、特にワクチンに関するGAVI戸の協力を焦点に紹介するものとなった。このイベントには、GAVIのサニア・ニシュタール最高経営責任者やアマ・トゥム=アモア・アフリカ連合保健・人道・社会開発局長が登壇した。このイベントは、「横浜宣言」におけるアフリカ連合委員会の保健イニシアティブに関する記述を下支えするものとなったと思われる。

アフリカ側から示される、アフリカの現状への厳しい認識

TICAD9全体を貫いた日本のアフリカ投資にかかわる多幸症的な空気は、会議に出席したアフリカ諸国首脳には必ずしも共有されていなかった。開会セッションにおけるジョアン・ロウレンソ・アンゴラ大統領(アフリカ連合議長)のスピーチは、援助の激減や債務問題の深刻化、紛争課題の深刻化について強く警告を発していた。22日の朝に開催されたTICAD9本会議の社会セッションでの討議は、予定よりも20分も早く終わる低調なものであったが、タンザニアのマフムード・タビット・コンボ外相(Mahmoud Thabit Kombo)はその中でも、保健分野を中心に取り上げ、エイズ・結核・マラリア対策の資金の低下を強く懸念するスピーチを行った。実際、TICAD9の成果文書として採択された「横浜宣言」の保健に関わる記述(段落3.2.1~3.2.2)は、「(アフリカの保健および教育分野に関する進歩は)新型コロナウイルス感染拡大以降は停滞し、以前として何百万人もの人々が取り残されていることに留意する。この問題は、最近の地政学的・戦略的な再編に起因する開発資金の変化に伴い、さらに悪化すると考えられる」と厳しい認識が示されている。

アフリカのイニシアティブと日本の「誓約」は噛み合うか?

「横浜宣言」では、保健を包含する「社会」のパートではなく、「経済」のパート(3.1.6)において、現在展開されている世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)の第8次増資が「強固かつ成功裡に」行われることを期待する、との記述がなされた。一方、同宣言の「社会」のパートでは、COVID-19禍によって明らかになったアフリカの医薬品製造能力の不足を克服するためのアフリカ連合現地製造イニシアティブ等についての記述や、2025年になって明らかになった保健援助の急激な低下に対応するためにアフリカCDCがこの4月に打ち出した「新時代におけるアフリカの保健財政戦略」(Africa’s health Fianancing for a New Era)についての言及がなされ、同時に、日本の「アフリカ健康構想」やUHCナレッジ・ハブなど以前から提唱されていた構想については明記されている。しかし、今回打ち出された上記の「アフリカ保健投資推進パッケージ」や、3.5万人の保健医療人材育成については記述されていない。また、アフリカ連合が求める保健上の課題や各種イニシアティブと、日本が誓約した各種パッケージがどう噛み合うのかについても、整合的な記述はない。将来的にこれらが噛み合うようにするためには、日本・アフリカ双方の主要なプレイヤーが、少なくとも、お互いの認識および発表されたイニシアティブの内容を把握することが必要だが、実際には、そこには巨大な「認識論的不一致」が存在するように見受けられる。