韓国・アフリカサミット 国際保健に関する協力関係の構築は特段深まらず

サイドイベントでの専門的な議論や市民社会の働きかけは活発に


東アジアの「アフリカ・サミット」ラッシュ

韓国アフリカサミットに向けた市民社会の提言書手交式

2024年6月4日~5日の二日間、韓国の首都ソウルから北西に30キロの展示場「キンテックス」(Kintex)で「韓国・アフリカサミット」が開催された。近年、多くの先進国や新興国がアフリカとの首脳会議や閣僚会議を開催しており、1月には、G7サミット開催国のイタリアが「イタリア・アフリカサミット」を開催して、50年代のイタリアの石油王の名を冠したアフリカとの経済や資源・エネルギー貿易関係の強化のイニシアティブ「エンリコ・マッテイ・プラン」Enrico Mattei Plan を示した。また、東アジアでは、この韓国・アフリカサミットを皮切りに、秋には中国とアフリカの経済協力について討議する「中国・アフリカ協力フォーラム」(FOCAC)、来年8月には、日本が主導するアフリカ開発のための多国間フォーラムである「アフリカ開発会議」(TICAD)の第9回目の首脳会議(TICAD9)が開催される。つまり、2024年6月から2025年8月までの1年強の間に、アフリカ諸国首脳や主要閣僚が何回も東アジアに足を運ぶことになる。

韓国・アフリカサミットにはアフリカ25か国の首脳を含む48か国の代表団とムーサ・ファキ・マハマト・アフリカ連合委員長が参加した。韓国とアフリカの経済関係の強化を主要議題とするこのサミットの開会式に登壇したユン・ソンニョル大統領は、韓国のアフリカ向けODAを2030年までに合計100億米ドル(1.6兆円)となるよう増大するほか、アフリカにおける韓国企業の貿易・投資活動支援のために、140億ドルの輸出金融を供与することを表明した。

保健に関しては一般論にとどまる

保健に関しては、必ずしも中心議題として扱われたわけではないが、6月5日に採択された「合同宣言」(Joint Declaration)では、「持続可能性」(Sustainability)と題する章において、一つの段落を使って、保健に関するコミットメントが示されている。具体的には、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックに対するアフリカと韓国の連携の教訓を踏まえ、ワクチン・予防接種と、母子保健(Maternal and Child Health)における協力の強化を表明している。加えて、保健危機への対応として、疾病に関するサーベイランス、プライマリ・ヘルスケアのためのインフラ整備、人的資源および必須医薬品の製造能力の強化、医薬品の安全性の促進と公衆衛生のための研究所の建設等に関する協力をうたっている。これ以外に、保健に関するデジタル技術の普及に向けた協力や、気候変動の被害を受ける女性や少女の健康の問題に取り組むといった記述もされている。ただし、記述は一般的なものにとどまり、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)や、マラリア・HIV・結核などの感染症、非感染性疾患への対応、また、アフリカが多くの国に対して協力を求めている、「アフリカ・ワクチン製造促進枠組み」(African Vaccine Manufacturing Accelerator)などのワクチン・医薬品の製造能力の強化といった個別・具体的な記述はなかった。

保健関連サイドイベント、市民社会と政府の対話は活発に

一方、サイドイベントでは、韓国のムン・ジェイン前政権が打ち出した、韓国をグローバルなワクチン製造のハブにするという構想をふまえ、アフリカ側とのパートナーシップを強化することを目的とした会合が開催されている。韓国にある非営利の国際的なワクチン開発支援機関である「国際ワクチン研究所」(韓国以外にスウェーデンとオーストリア、ケニアに事務所があるほか、ルワンダにアフリカ地域事務所を置いている。International Vaccine Institute: IVI)とアフリカ疾病管理・予防センター(アフリカCDC)、韓国疾病管理・予防庁(KDCA)が共催したサイドイベントでは、「2040年までに、アフリカでニーズのあるワクチンの60%をアフリカで生産する」というアフリカ連合の目標を達成するための、韓国とアフリカの官民連携パートナーシップの強化が討議された。

韓国で国際保健に取り組む市民社会も、世界の市民社会と連携してサミットに向けて取り組んだ。韓国でグローバルファンド(世界エイズ・結核・マラリア対策基金)やその他の保健系の多国間資金拠出機関への増資拡大などに向けた政策提言活動を行っている「韓国国際保健アドボカシー」(Korean Advocates for Global Health:KAGH)と日本のアフリカ日本協議会、およびグローバルファンド活動者ネットワーク・アジア太平洋(GFAN AP)は共同で、韓国の国際保健への国際協力の促進を呼びかける提言書を作成。5月17日には、韓国・アフリカサミットに関する市民社会の政策提言書を政府に手交する会合が開かれ、提言書はチョン・ビョンウォン韓国外交部次官に手渡された。この会合には、アフリカから韓国に留学しているアフリカ人留学生2名も招待され、留学生の置かれた状況について提起するなど、韓国とアフリカの市民レベルの交流の促進などを求める場ともなった。