「国際保健規則」改定は妥結に向けて一歩前進との報道
国際保健規則:結論は5月16-17日の延長交渉へ
5月27日から6月1日のほぼ1週間、ジュネーブで開催される第77回世界保健総会(世界保健機関(WHO)の総会)に向けて、パンデミック条約の策定と国際保健規則の改定に向けた多国間の協議が大詰めを迎えている。双方とも、パンデミックに関する医薬品や保健医療への公平なアクセスの議題を中心に、先進国とグローバルサウス諸国(新興国・途上国)の溝は埋まっていないが、交渉自体が期限に近づく中で、合意に達するための努力が続けられている。
国際保健規則(IHR)の改定については、予定されている中では最後の交渉となる第8回国際保健規則改定作業部会(WGIHR)の会合が4月22日から26日にかけて行われた。会合前の4月17日には、会合で議論の対象となる国際保健規則の改定案が公開された。結局、いくつかの論点で合意にたどり着かず、また、パンデミック条約策定に関する交渉の経過を踏まえるというアフリカ・グループなどの立場などもあり、最終合意にはならなかったが、専門メディアなどの報道によれば、パンデミック条約交渉に比べて、合意到達に向けて幾分楽観的な様子も見られたという。今後、パンデミック条約策定交渉の最終協議(4月29日~5月10日)のあとの5月16-17日に、WGIHRの最終会合が開かれる。ここで合意が形成できるかがIHRに関するカギとなる。
IHRにおける対立点は、保健緊急事態に関する技術移転、IHRの実施能力の強化などに関する資金的支援、および、IHR実施に関する委員会のガバナンス等である。これについて、一部報道によれば、今回の交渉で、IHRの効果的な実施を支援する資金的な枠組みについては合意が形成されたという。また、第13章「保健製品へのアクセスを含む公衆衛生対応」において、政府が拠出する研究開発およびそれによって開発された製品に関する透明性について一定前進した表現が盛り込まれたことについて、いくつかの市民社会団体は歓迎の意を表明している。IHRについては、パンデミック条約と異なり、最大の対立点となっている「病原体情報へのアクセスと利益配分」(PABS)に関する条項がないことなどから、パンデミック条約よりも合意に至りやすいとみられている。
パンデミック条約の最新案もWHOウェブサイトに公開
パンデミック条約についても、交渉に当たる多国間交渉主体(INB)の第9回延長交渉の4月29日の開幕に向けて、4月16日に加盟国と「適格なステークホルダー」に対して、INB第9回交渉を踏まえた草案と、これについての世界保健総会決定の文案が配布され、草案については4月22日にWHOのINBウェブサイトに公開された。前の草案との最大の違いは、最大の問題点であった「病原体情報へのアクセスと利益配分」(PABS)について、制度の概要は盛り込みつつ、制度の在り方や運営などについては、2026年5月31日までに決定する、として、詳細に関する決定を条約の制定後の議論に委ねたことである。一方、技術移転と知的財産権については、これまで残っていた「知的財産権の貿易の側面に関する協定」(TRIPS)の免除についての記述が削除されており、また、技術移転等に関する条項についても、「相互の合意に基づく」(mutually agreed)といった条件付けが増えている。一方、世界医師会(World Medical Association)は、最終草案において、保健医療従事者の労働条件や、精神保健・福祉への対応などについての記述が削除されていることについて、4月23日付で要請書を発出している。
「枠組み条約」の形で「パンデミック協定」として採択?
また、一部報道によると、同条約に関する決定文のドラフトによれば、同条約はWHO憲章第19条の規定に基づいて「パンデミック協定」(Pandemic Agreement)として策定され、総会で3分の2以上の加盟国の賛成により発効し、各国は各国法の規定によりこれを受諾するかどうかを決定することとなる。同決定文がINB第9回延長交渉で合意され、WHAで3分の2以上の賛成で採択されれば、今後、パンデミック対策に関して、気候変動枠組み条約と似たような形で「締約国会議」(COP)が開催され、PABSをはじめとする積み残し課題がそこで議論されることとなる。
いずれにせよ、IHR交渉では妥結に向けた希望は見出されつつあるものの、4月29日から開始されたINB交渉が合意という形で決着を見るかどうかは予断を許さない。本格的なパンデミック時代に突入した世界が、困難な課題を乗り越え、より効果的で誰も取り残さないパンデミック対策の枠組みを構築できるかどうかが問われている。