レビューの上、「米国の外交政策」に沿う形で「再編成」
米国の対外援助の殆どを最短90日停止する命令
1月20日に米国大統領に就任したドナルド・トランプ氏は、その日のうちに40以上の大統領令に署名した。そのうちの一つが、米国の対外援助に関するものとなった。トランプ大統領は、「米国の対外援助の再評価と再編成」(Reevaluating and Realigning United States Foreign Aid)と題された大統領令で、米国の対外援助を90日間差し止め、精査した上、米国のすべての対外援助を「米国の外交政策」に完全に沿うものにする、と布告した。
同大統領令は、米国の援助業界と官僚制によって担われてきた米国の援助の多くが、米国の価値観にそぐわないものとなっており、世界平和と調和を乱している、と決めつける。そのうえで、米国行政管理予算局(OMB)の権限で全ての援助を90日間停止し、各援助プログラムを国務長官が業整理管理局長との相談の上で示すガイドラインに沿って精査し、90日以内に継続、変更、停止を決定するとする。なお、国務長官は特定の援助プログラムについては、停止を保留することができるとする。
ルビオ国務長官のメモ:180日以内に援助を再編成
この大統領令による援助停止は直ちに実行に移された。1月24日、トランプ政権によって米国国際開発庁(USAID)の要職に起用されたピーター・マロッコ氏(Peter Marocco)が起草し、マルコ・ルビオ国務長官が承認した「メモ」が米国のすべての在外公館・領事館に送付された。このメモでは、米国の全ての在外公館は、USAIDの資金による全ての新たな拠出を止め、また、プロポーザル等の募集や審査も停止する。一方、1月24日から85日以内に、全ての援助案件に関するレビューを終了し、国務長官が大統領に提言を行うための報告書が作成される。そして、その報告書を踏まえて、180日以内に、全ての米国の対外援助が国務長官の指示のもとに再編成されることになる。これは、場合によっては、米国の対外援助の資金拠出が90日ではなく、180日にわたって停止される可能性があることを意味する。
なお、このメモでは、大統領令によって示された「停止の保留」について、ルビオ国務長官は、エジプト及びイスラエルに対する軍事援助の拠出およびそれに必要な給与等の行政支出、および緊急食料援助、その他の一部の行政支出等については、停止を保留し支出を継続することを承認した、と記載されている。
このメモを踏まえ、USAIDの各国の担当官は1月25日、各国で契約を結んでいるNGOを含む事業者等に対して、拠出停止期間中に発生する支出を最大限押さえるよう命ずる通知を行なった。また、USAIDは同じ通知で、事業者に対して、バイデン前政権下でUSAIDの資金で行なわれていた「多様性・平等性・包摂性・アクセス」(DEIA)に関わる活動を全て中止し、中止したことの証明書を送付せよ、という命令も行っている。
米国第一主義の観点からの援助見直し
これらの命令は、1月26日に国務省が発表した報道発表「米国対外援助の再評価・再編成に関する米国大統領令の実施」によって公表された。この報道発表では、この大統領令がトランプ政権の「米国第一主義政策」に基づくことを高らかに宣言した上、「米国国民によって課せられた責務は明らかである:我々は米国の国家利益に立ち戻らなければならない」とし、ルビオ国務長官の次のようなコメントを紹介している。「我々が支出する全てのドル、我々が資金を出すプログラム、我々が追求するすべての政策は、次の3つの問いに応えられるものでなければならない:すなわち、それはアメリカをより安全にするか?それはアメリカをより強くするか?それはアメリカをより繁栄させられるか?」
米国の援助でHIV治療薬にアクセスしている年間2060万人が危機に
米国の援助は、多国間・二国間共に、国際保健において死活的な役割を果たしている。例えば、大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)は2003年にブッシュ大統領(当時)によって開始されてから、対象となっている55か国において、多くの人々のHIV治療を支えてきた。PEPFARの「最新世界実績・予測ファクトシート」によると、PEPFARは2024会計年度全体で2060万人にHIV治療薬を供給し、660万人の遺児や脆弱な子どもたち、そのケア提供者に必要なケア・支援を供給している。大統領令に基づく援助停止措置は、PEPFARなど、人々の生命に直接かかわる援助も対象としており、ルビオ国務長官は、緊急食料援助については停止措置を保留しているものの、PEPFARなどについては保留せず、停止の対象に含めている。これが意味することは、PEPFARは少なくとも90日、長ければ180日、新規資金を停止され、さらにこれが「米国の外交政策」に沿わないと判断されれば廃止される可能性もあるということである。
市民社会は援助の再開を要求
これについて、米国のHIV/AIDSに関わる援助についての政策提言や直接行動などに取り組んできた市民社会団体ヘルス・ギャップ(保健への地球規模アクセス・プロジェクト)の事務局長、アジア・ラッセル氏(Asia Russell)は「これは残虐であり、直ちに覆されないのであれば、世界のエイズへの取り組みにとって破壊的に作用する」と述べ、ルビオ国務長官に対して、業務停止命令を直ちに取り消すよう要求した。一方、米国の国際保健に関わる市民社会団体のネットワークとして政策提言活動を行なっている「国際保健評議会」(Global Health Council)も緊急声明を出し、現在実施されている援助プログラムの殆どを停止する今回の措置は、人々の命を危険にさらすとともに、米国をより強く、より安全で繁栄した国家にするための取り組みを台無しにする者である、と警告を発した。同評議会は、レビュー自体は必要であるとしても、既存のプログラムを実施しながら行うことは可能であるとし、ルビオ国務長官に対して、業務停止命令を撤回し、保健および人道援助を再開することを要求している。