G7イタリアサミット首脳宣言、SDGsゴール3やエイズ・結核・マラリアの終息にコミット

パンデミック対策資金についても一定踏み込んだ記述、「公平な医薬品アクセス」については踏み込み不十分

グローバルファンドへの支援は明記

G7に向けた市民社会のコミュニケ

2024年6月12日~15日、イタリア南東部に位置するプーリア州のリゾート施設、ボルゴ・エグナツィアでG7首脳会議が開催された。昨年(2023年)のG7広島サミットでは、パンデミック対策やユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成に向けて保健が主要議題となったが、今回のイタリア・サミットでは、保健は重要とされたものの、地政学的課題や気候変動・エネルギー転換、また、イタリアが重要課題とした食料安全保障や移民等の問題に押されて、十分には焦点化されなかった。

保健には、36ページある首脳コミュニケの中で、31ページから2ページ弱の分量が割かれている。コミュニケでは、まず持続可能な開発目標(SDGs)のゴール3「あらゆる世代のすべての人の健康な生活と福祉を確保する」の達成に向けた努力を誓約したうえで、エイズ・結核・マラリアおよび「顧みられない熱帯病」(NTDs)、ポリオの2030年までの終息を誓約し、グローバルファンド(世界エイズ・結核・マラリア対策基金)への支援を明確に表明している。また、気候変動と保健、特にコレラやデング熱などの感染症について言及している。

なお、首脳コミュニケは、「保健」に続く「ジェンダー平等」の章については、広島サミットでは言及のあったLGBTQIA+の社会参画への支持や「安全で合法的な中絶へのアクセス」についての記述が脱落している。一方で、SRHRにかかる保健サービスへの普遍的アクセスの記述に限定されてはいるものの、これらが掲載されている広島首脳コミュニケにおける誓約を再確認するとの記述もあり、中絶に関する保健サービスに限定すれば、ここで担保されているという主張も成立しないわけではないが、LGBTQIA+については、世界的に強まる反動的な動きへの警戒感を表明するに終わっている。これについては、極右勢力を出自とするメローに首相を首班とするイタリアの現政権の問題点がメディアなどでも指摘されている。

地域レベルでの医薬品製造能力確保についても支援

そのうえで、国際保健アーキテクチャーとパンデミック対策については、2022年のG20で設立された「パンデミック基金」に対する最低20億ドルの新規資金確保、およびワクチンを含む医薬品の地域レベルでの製造能力の拡大や多様化へのG7の支援拡大を表明している。また、COVID-19が最も深刻だった2021年に、パンデミック時における資金流動性の確保のために行われたIMFの6500億ドルの「特別引き出し権」(SDR)の配分について、これを途上国に再配分する役割を負っているIMFの「強靭性・持続可能性トラスト」(RST)の「パンデミックへの備え」に関する役割の確定と早急な実施開始を求めている。加えて、パンデミック時における医薬品関連での急激な資金需要に対応する「サージ・ファイナンス」に関して、国際金融機関や開発金融機関の協力体制の確立についても言及されている。GAVIやグローバルファンド、WHOの増資については、「持続可能な増資に期待する」(We look forward to the sustainable replenishments of…)との表現がなされている。

UHCやこれにかかる保健医療従事者の確保、保健システム強化等については、言及はされているものの、それほど新味のある内容とはなっていない。一方、人工知能(AI)を含む新規科学技術の活用については、引き続き積極的に促進するとの立場を表明している。最後に、本年9月の国連総会時にハイレベル会合が予定されている「薬剤耐性(AMR)」問題については、ワン・ヘルスの強化による予防と、研究開発の促進による新たな薬剤の開発の促進などに努力するとの書きぶりとなっている。

市民社会の提言と比べて目立つ踏み込み不足:市民側も「資金」についてはさらなる認識向上が必要

このG7サミットに向けて、市民社会は、恒例の「エンゲージメント・グループ」による提言の一環として、イタリアの市民社会の主導のもと、「市民7」(C7)の枠組みを作り、提言をまとめ、5月13-14日、ローマの国連食料・農業機関(FAO)で「C7サミット」を開催し、イタリア首相府に提言を提出した。国際保健については、「国際保健イタリア・ネットワーク」(Global Health Italy Network)のステファニア・ブルボ氏(Stefania Burbo)とカナダで同様の取り組みをしているロビン・モンゴメリー氏(Robin Montgomery)を共同議長に「C7国際保健作業部会」(C7GHWG)が組織され、先進国・途上国それぞれから多くの団体が参加して提言が形成された。

この提言とG7首脳コミュニケを比較すると、G7首脳コミュニケは、SDGsゴール3、特にエイズ・結核・マラリアやNTDs、ポリオ等の終息、また、「持続可能な増資への期待」という形ではあってもグローバルファンドやGAVI、WHOの増資へのコミットメントを明示しているところは評価できるといえよう。また、G7首脳コミュニケは、地域レベルでの医薬品の製造能力強化には一定のコミットメントを見せており、これについても、一定の評価は可能であろう。一方で、市民社会が継続的に求めてきた、「公正な医薬品アクセス」に向けたグローバルなルールの改革、特にパンデミック時の知的財産権の緩和や、「病原体情報へのアクセスと利益配分」といった課題については全く言及はなく、こうした方向への構造的な改革については、G7の立場は市民社会とは対極にある。また、肥満や非感染性疾患の拡大などについて、G7コミュニケには予防や栄養教育といった記述は見受けられるが、市民社会の提言に比べると踏み込みは甘く、具体性のないものにとどまっている。一方、市民社会の提言は、パンデミック対策における「サージ・ファイナンス」に関する資金の確保や、UHCの実現に向けた国際保健資金の確保に関して、必ずしも具体的なアイデアを出しておらず、この点について、開発資金や気候変動資金、債務問題などに取り組む市民社会と、国際保健に関わる市民社会との、より積極的な連携の強化が求められるところである。