コンゴ民主共和国東部を中心に緊急事態続く
アフリカ中央部のコンゴ民主共和国を中心に2024年に急拡大し、8月13日にアフリカ疾病管理センター(アフリカCDC)が、14日に世界保健機関(WHO)がそれぞれ「公衆衛生上の緊急事態」を宣言したエムポックス(MPOX)。日本で1976年に開発された天然痘ワクチン「LC16」300万本が近くコンゴ民主共和国に送付されることになるなど、対策が進捗しつつあるように思われるが、現在の感染状況はどうなっているのか、また、アフリカにおける対策はどのように進んでいるのかを確認する必要がある。
引き続き深刻な状況が続くエムポックス感染
アフリカにおけるエムポックスの感染状況についての報告は、アフリカCDCとWHOの合同報告書が11月3日まで、WHOの「グローバル・トレンド」が12月15日までをカバーしている。より新しい状況を反映しているWHOの「グローバル・トレンド」をみると、以下のことがわかる。
現在、エムポックスのうち、アフリカで流行し緊急事態を構成しているのは主に、感染力が強く症状が重いとされるクレイド1型であり、2022年からナイジェリアやガーナなどで拡大し、欧米でも広まったクレイド2型の感染は、リベリアなどで若干増えているものの小康状態といえる。2024年に始まった今回の感染拡大では、アフリカ20か国で合計13,769件の感染と60人の死者が確認されている。もっとも多くの感染が確認されている国はコンゴ民主共和国(9,513件)、次に同国の東部に隣接するブルンディ(2,650件)、北東部に隣接するウガンダ(1,027件)である。
コンゴ民主共和国では、6月以降、毎月300件を超えるレベルの感染が確認されていたが、10月半ば以降、報告件数が減少した。残念なことに、11月17日以降、同国のエムポックス報告件数はアップデートされていない。一方、ブルンディとウガンダでは感染が高原状態となっており、1週間に100件程度の感染事例が報告されている。
コンゴ民主共和国内では、最大の感染地域となっているのが、ブルンディ及びルワンダに接する南キヴ州で、過去6週間でも5002件の感染が確認されている。過去6週間で見ると、次が北西部の内陸に位置するツアパ州で2664件、その次がその南にあるサンクル州で1603件となる。南キヴ州では「クレイド1b型」が急速に拡大した状況にあり、感染数も圧倒的に多く、これらがブルンディやウガンダといった他国に流出していることを考えても、同州は最大のエピセンターと言える。一方、ツアパ州やサンクル州などで拡大しているのは「クレイド1a型」であり、こちらの感染拡大もまだ終わっていないことがわかる。「クレイド1b型」は主に同国東部、特に南キヴ州で拡大しているのに対し、「クレイド1a型」は同国の中部・西部で拡大している。なお、中南部のカサイ州や首都のキンシャサでは、「クレイド1b型」が40-60%を占めており、これらの地域では、同型が拡大する東部と一定の人的交流があることがわかる。
南キヴ州は北キヴ州と共に、以前から各種の武装勢力による紛争が継続しており、南キヴ州は国内避難民の人口がコンゴで最大となっている。2024年も、同地域の武装勢力の一つである「3月23日運動」(M23)と政府の対立が再燃し、紛争が生じている。こうした地域ではエムポックスの状況を把握したり、感染した人のケアや治療、エムポックスに脆弱性を持つ人々へのワクチン接種などを展開するのはなかなか困難であると言える。
エムポックスに対するアフリカの対応計画
緊急事態宣言以降もかなりの拡大状況が続いているエムポックスについて、WHOやアフリカCDCはどの様に対応しようとしているのか。実施においては困難な課題がたくさんあるものと思われるが、アフリカCDCとWHOはこの9月に、9月から2025年2月までの7か月間の「エムポックスへの大陸レベルの備え・対応計画」(Mpox Continental preparedness and Response Plan for Africa)を打ち出した。この計画では、アフリカ大陸を以下の4つのカテゴリーに分けた上で対応を進めることとしている。
1.持続的に対人感染が起きている国(コンゴ民主共和国等6か国)
2.2022年以降散発的に対人感染が続いている地域や、人獣共通感染症として存在している国(ルワンダ等15か国)
3.カテゴリー1国と隣接しているなどして準備が必要な国(アンゴラ等8か国)
4.それ以外の国(26か国)
そのうえで、「国中心のアプローチ」「科学に基づいた戦略」「平等と連帯」「統合的アプローチ」「一つの協力メカニズム」「持続可能性」の6つの原則を設定したうえ、以下の10の取り組みの柱をセットしている。
1.調整とリーダーシップ
2.リスク・コミュニケーションとコミュニティ参画
3.サーベイランス
4.検査の能力向上
5.ケース・マネジメント
6.感染予防と管理
7.ワクチン
8.調査と革新
9.ロジスティックスと資金
10.必須保健サービスの継続
このうち、特にワクチンに係る資金については、同期間に必要な金額を5億9915万3498ドルと見積もっている。同プランでは、このうち45%は支援国の拠出約束がなされていると述べたうえで、緊急対応のニーズ、能力のギャップの解消、大陸全体でのエムポックスの持続的な管理のためには、上記金額は必須であると表明している。