ウガンダ:反同性愛法の施行で人権侵害が多発 保健に関する調査研究にも支障

密告と重刑で同性愛を包括的に規制・禁止しようとする法律

ニューヨークで開催されたウガンダ反同性愛法反対のイベントに参加したバーバラ・リー下院議員

アフリカ東部の内陸国ウガンダでは、2023年5月26日、ヨウェリ・ムセヴェニ大統領が、国会が可決して大統領に付託されていた「反同性愛法案」(Anti-Homosexuality Bill)について、若干の修正のうえ署名し、同法案は反同性愛法」(Anti-Homosexuality Act)として発効した。

旧英領のウガンダはもともと、英国が植民地時代に持ち込んだ「反ソドミー法」で同性間性行為には長期の投獄が科されることとなっている。一方、2009年以降、議会内で、同性間性行為のみならず、同性愛に関わる各種の活動を刑罰を用いて包括的に規制する法律の制定が検討され、2014年には、特定の同性間性行為を行った人を終身刑とする「反同性愛法」がムセヴェニ大統領の署名で発効したことがあった。これについては、後に、国会での採決手続きが適切でなかったことを理由にウガンダ憲法裁判所がこれを違憲とし、法律が廃止された。今回発効した「反同性愛法」は、同性間性行為を終身刑とするほか、同性間性行為の相手が児童や障害者であったり、相手との上下関係を利用した場合などについて、これを「加重同性愛」とし、その最高刑を死刑とする、より厳しい内容を含んでいる。また、行為のみならず、例えば同性間の婚姻を仲介したり、同性愛を「助長する」(同性愛者と知りながら家を貸すなどした場合を含む)行為について、10年ないし20年の投獄とするほか、同性間性行為等を目撃したり、合理的な疑いがある場合には通報義務を課す、同性間性行為を行って投獄された人を「更生」させる(同性愛を「治療」することを含む)措置を定めるなど、極端な重罰を設定して、極めて包括的に同性間性行為を規制する内容となっている。

この法律は、現代の性的指向や性自認(gender identity)に関する科学的認識に基づいたものでなく、どちらかと言えば、英国が植民地支配下で持ち込んだ「反ソドミー条項」に類似したものとなっており、現代における法律として適合的なものとはいえない。また、死刑、終身刑といった常軌を逸した重罰も、同様に同性間性行為に極端な重罰を科した「反ソドミー条項」を引き継ぐものとなっている。さらに、同性婚や同性愛を「助長する」行為に対する刑罰規定は、表現や結社の自由を脅かし、当事者のみならず、多くの人々の人権を脅かすものとなっている。

国際機関や当事者団体が世界的に意識喚起、行動を呼びかけ

この法律の施行に対しては、国際社会や、ウガンダ内外の市民社会などから厳しい批判が出ている他、実際にこの法律によって様々な被害が生じ、HIVへの取り組みなども阻害されているという調査・研究もなされている。

国際的な反応としては、まず、施行後すぐの5月29日、国連合同エイズ計画(UNAIDS)、グローバルファンド(世界エイズ・結核・マラリア対策基金)および米国大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)が合同で、法律がウガンダにおけるHIVや保健分野の取り組みに著しい悪影響を与えかねないと警告する声明を発表した。

ウガンダのLGBTの当事者団体である「ウガンダの性的少数者たち」
(SMUG)や、HIVに関して脆弱性を持つ少数者をネットワークする「ウガンダ・キー・ポピュレーション・コンソーシャム」、ウガンダ国民の権利保障を定めるウガンダ憲法第4条から名前をとったウガンダの市民的権利保障のための市民社会組織「憲法第4条ウガンダ」(Chapter 4 Uganda)の三団体は連携して「平等への連携」(Convening for Equality:CFE)というネットワークを設置、海外の市民社会と協力して同法案の撤回に向けて声を上げ始めた。同ネットワークは、米国のHIV/AIDSに取り組むラディカルな市民運動プラットフォームである「ヘルスギャップ」(HealthGAP)とともに定期的なオンライン会議を開催、世界銀行に対して、ウガンダへの融資をを止めるべきとする共同声明を世界170以上の団体の連名で提出。世界銀行はこれに応え、新規の措置が取られるまで、ウガンダへの融資を停止する決定を行った。CoEはまた、同法律の違憲立法審査を憲法裁に求める申し立てを行っており、10月にはこれについての審問が行われる予定となっている。

すでにLGBTIQ+への人権侵害が多発、調査などにも影響

一方、ウガンダでは、この法律による影響は既に相当出ている。もともと2014年の反同性愛法制定以降、多くのLGBTIQ+のウガンダ人が政府の弾圧や民間暴力を恐れて周辺諸国に難民として流出しており、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)も、周辺諸国におけるLGBTIQ難民保護に取り組んでいるが、その保護のやり方には大きな問題がある。この法律が施行されてから、ウガンダでは同性愛に関わる摘発や民間暴力が増え、実際、ウガンダ中部のソロティでは、「加重同性愛」で起訴されたケースも存在している。ウガンダのLGBTIQ+の人権侵害に対応する市民団体「戦略的対応チーム」(Strategic Response Team)は、8月にLGBTIQ+の人権侵害に関する報告書を発表した。この報告書によると、調査の結果、家主等による住宅からの排除など、住居に関する問題について、この1月から8月まで180件、政府及び民間の主体による暴力行為や拷問等について176件、LGBTIQ+の精神保健上の問題が102件、確認されたという。また、医学誌「ランセット」は、この法律の制定により、同国で行われているLGBTIQ+や、男性と性行為をする男性(MSM)に関わる調査研究などについては、法律に定められている通報義務を恐れて、研究への参加者が半減しているとする記事を掲載している。