2024年 7月号(アフリカニュース発掘部)

アフリカニュース発掘部2024年7月号です。
参考:アフリカニュース発掘部とは?

■ 目次

1.小規模農家が直面する二重の悲劇(ジンバブエ 社会 環境)
2.移民が直面する外国人差別(南アフリカ 社会 移民)
3.反対勢力を制限する選挙法(タンザニア 選挙)
4.インフォーマル・セトルメントの強制退去の実情(社会 都市)
5.浮体式ソーラーパネルがアフリカにおけるエネルギーの多くを供給する可能性(エネルギー)
6.環境保護プロジェクトとジェンダー(社会 環境 ジェンダー)
7.選挙予定:2024年後半
8.1994年のジェノサイドから30年を迎えるルワンダ(3)(ルワンダ

1. 小規模農家が直面する二重の悲劇

ジンバブエ 社会 環境

● 概説 ジンバブエ南部グワンダ(Gwanda)の農家が、気候変動と小規模違法採掘による二重の被害に直面している。長年、グワンダの人々は、水不足による農作物の不作に苦しめられてきた。それに加え、違法の小規模金鉱採掘による環境破壊、土壌劣化、水質汚染の被害を受けている。ジンバブエでは、ライセンスを取得し税金を払えば、定められた土地内での採掘が可能である。しかし、違法採掘者は、許可なしで金が採掘できそうなあらゆる場所で採掘をしてしまう。ジンバブエにはそのような違法採掘者が約40万人いると概算されている。
著者は、グワンダに40年以上居住している80の農家を調査し、小規模農家が直面する気候変動と違法採掘による二重の被害を明らかにした。グワンダでは、雨季は小規模農業、乾季は出稼ぎ労働が主な収入源である。また、芋虫やヤギを飼育したり、乾燥に耐性のある作物を栽培しながら生計を維持してきた。しかし、そのような生計維持の機会は違法採掘によって妨げられている。インタビューをした農家の一人は、毎朝、自分の畑に新しい採掘跡が作られているのを発見すると語る。違法採掘者は、警察の取り締まりを避けるために夜に採掘をする。家畜や人が採掘の穴に落ちたり、畑を荒らされ農業が続けられなくなったり、芋虫を飼育していた木を切り倒されるなど被害が深刻である。また、違法採掘者による道路での採掘も問題だ。ある主要な道路は、公共交通機関が通れなくなるほど荒らされてしまい、人びとは、他地域への移動にこれまでの3倍以上の交通費を払う必要がある。このような採掘は、与党ZANU-PFが関与する一握りの農家の利益にしかならない。また、調査では、女性の直面する二重の被害も明らかにされた。地域の男性が近隣国へ出稼ぎに行くことで村に取り残された女性たちは、違法採掘のために農業を継続できず、代替の現金収入として自ら違法採掘を行う者もいる。しかし実際のところ、彼女らはグワンダ外の違法採掘者により受け入れられず、その結果、違法採掘市場の周縁で、採掘者の服を洗ったり、セックスワーカーとなったり、食べ物を売ることで生計を立てる選択肢しかない。グワンダ行政による違法採掘の取り締まりの強化、気候変動による農業被害の緩和政策をグワンダ地域の小規模農家や伝統的首長とともに整備していく必要がある。

● 詳細記事 Moyo, Vuyisile. 2024. “Double tragedy: the Zimbabwe farmers affected by illegal mining and climate change.” The Conversation. 10 July.

● 感想 毎朝、自分の畑が荒らされていないか心配しないといけない状況を想像すると、事態の深刻さが感じられる。しかし、貧困により違法採掘に手を出さざるを得なかった人びとのことを考えると、取り締まりを強化するだけでは不十分である。違法採掘以外の現金収入の選択肢が必要だ。しかし、違法採掘の利益が与党に回っていることから、政府による取り締まり強化や政策の実現には期待できないのが現状である(インターン:青木)。

● もっと知りたい!
(1) 著者による論文(Moyo, Vuysile. 2024 “Rural farmers’ adaptive and transformative capacity un response to climate change and artisanal small-scale mining in rural Gwanda, Zimbabwe, 1980 to 2021.” Stellenbosch University.)
(2) 日本語で読める南アフリカの違法採掘に関する記事:平野光芳. 2021.「コロナ禍のゴールドラッシュ 違法採掘マフィアのボスに聞いた」 毎日新聞. 6月13日.

2. 移民が直面する外国人差別

南アフリカ 社会 移民

● 概説 南アフリカでは、低所得層の移民が外国人差別(xenophobia)に直面しており、安定した雇用、ヘルスケアへのアクセス、社会参加が制限されている。南アフリカの近代史は、植民地支配、アパルトヘイトの歴史である。旧宗主国のオランダとイギリスによる法整備は、黒人を構造的に差別してきた。1961年の南アフリカ共和国成立以降、白人政府はアフリカ諸国からの移民を制限する一方で、白人の入植を進めてきた。アパルトヘイト終焉後、移民政策は大きく緩和され、南アフリカへの移民は急増した。現在では、アフリカ諸国から240万人以上の外国人が南アフリカに移住している。多くの移民が、故国よりも南アフリカのほうが安定、安全であると信じ、移住先での差別被害を受けながらもそれに耐えている。例えば、隣国ジンバブエでは、ロバート・ムガベ前大統領による長期間の独裁政権が引き起こした政情不安、経済状況の悪化により、多くの国民が南アフリカへと移住した。政権交代後もその政治構造は変わらず、国の状況は安定していない。ガーナでは、貧困や失業、教育と雇用機会のミスマッチが、南アフリカへの移民を創出している。コンゴ民主共和国では、深刻な人権侵害、武力紛争、資源の搾取により、国民は移民となることを余儀なくされている。他国と比較すると、南アフリカは経済的に安定しており、国も繁栄しているため、移民は故国へ戻らず(戻ることができず)南アフリカで生活し続けている。
現在の南アフリカにおいて、外国人差別は様々な場面で表出している。まず、ヘイトスピーチや脅迫など、個人的な敵意による外国人差別がある。また、集団的外国人差別も深刻だ。国民と移民を区別し、移民がより劣っているという思想がエスカレートし、暴力事件も発生している。政策にも構造的差別が存在し、自国民優先で移民は「外国人」であり国内の問題として考慮されない。政府機関による外国人に対する敵意や侮蔑的な扱いなどの制度的外国人差別も見られる。実際に制度化されているわけではないが、行政機関職員による外国人差別が、移民の権利を侵害している状況がある。例えば、医療機関の職員による外国人差別により、憲法で保障されている公共医療施設へのアクセスが妨げられている。南アフリカでの外国人差別は、植民地支配において外国人が周縁化されてきた歴史に端を発している。移民政策の緩和と国境管理の不備により、移民人口が急増したことが、この問題をさらに悪化させてしまった。外国人差別の蔓延は、南アフリカにとっても移民にとっても不利益しかもたらさない。

● 詳細記事 van Rensburg, Shandré Kim Jansen. 2024. “Foreign nationals are facing multifaced xenophobia in South Africa.” Africa at LSE. 27 June.

● 感想 南アフリカでの移民に対する暴力事件を聞くと悲しくなる。特に警官や医療従事者による外国人差別の事例は深刻だ。南アフリカでの経済格差や政治への不満が、移民へ向けられている。いかなる差別も容認できないと強く思うが、南アフリカの外国人差別に関しては、差別している側をただ批判することに意味はないと思う。まずは、上からの構造的・制度的な差別の是正が急務である(インターン:青木)。

● もっと知りたい!
(1)「南アフリカ選挙と移民排斥強化への動き」(Hill, Jenny. 2024. “South Africa election 2024: ‘You see skeletons’ -the deadly migrant crossing.” BBC. 4 April.)
(2)「南アフリカのジンバブエ人居住資格特別権(ZEP)をめぐる動き」
・Orderson, Crystal. 2023. “Why is South Africa not renewing 160,000 Zimbabwean work permits?.” Aljazeera. April 10.
・Mhaka, Tafi. 2023. “Zimbabwean migrants are part of South Africa’s fabric.” Aljazeera. 14 April.
・Muleya, Thupeyo. 2023. “Zimbabweans welcome another ZEP permit’s lifeline.” The Herald. December 2.

3. 反対勢力を制限する選挙法

タンザニア 選挙

● 概説 タンザニアは2024年に地方選挙、2025年に国政選挙を控えている。この一連の選挙は、一党支配から多党制への移行を目指す2023年の変革後初めて行われる。この変革の背景には野党の活動に対する制限の歴史がある。 1965年に単一政党制が導入され、1977年にはタンガニーカ・アフリカ民族同盟(Tanganyika African National Union)とザンジバルのアフロ・シラジ党(The Afro-Shirazi Party)が合併し、革命党(CCM(Chama Cha Mapinduzi)・現与党)が成立した。その後1992年に多党制が認められたが、憲法はほとんど改正されなかった。2016年にはジョン・マグフリ(John Pombe Joseph Magufuli)大統領が野党活動を制限し、2019年には新しい政党法が成立し、政党の登録解除や党員の停止などが可能となった。 マグフリが2021年に亡くなると、サミア・スルフ・ハッサン(Samia Suluhu Hassan)が大統領に就任した。彼女は民主的空間の拡大を表明し、野党指導者と対話を持ち、憲法改革や独立した選挙委員会の設立を求めた。2023年には野党主導の公開集会禁止令が解除され、2024年には新たな選挙法改正が行われた。
しかし著者の見解では、ハッサンの改革は実質的な変化をもたらしていない。選挙委員会のメンバーや地区レベルの選挙管理員は依然として大統領任命であり、政党の登録役人も強力な権限を維持し、政党の活動に干渉できる。タンザニアでは、多党制が導入されて以来、野党の持続性が疑問視されている。1995年以降、野党政党の得票率は不規則で、主要な野党は時期によって異なる。2020年の大統領選挙では、民主開発党(野党)が13%を獲得し、議会では与党の議員が99%を占めた。2021年にハッサンが政権を握って以降も大きな変化は見られない。新しい政党の登録も困難であり、現在19ある登録済みの政党のうち強力なものは少数である。そもそも、タンザニアにおける新しい政党の需要は高くない。その理由として、野党に対する不公平な政治的環境、新しい政党を登録するための官僚政治的な過程、政治的無関心などが挙げられる。 著者は、本当の改革の要求と実行は、国民の多数が新しい選挙法と憲法改革の要求を支持する場合にのみ効果を発揮するのであり、市民が変革を求める市民権を信じるよう、体系的かつ積極的な市民教育が必要だと考えている。

● 詳細記事 Kwayu, Aikande Clement. 2024. “Tanzania’s election laws make it hard to build political opposition – what needs to change”, The Conversation, 14 July.

● 感想 結びに示されている著者の意見はタンザニアに限らず、先進国を含む多くの国にも適用できる考えである。政治に対する不信がある場合、市民が取るべき行動は諦めることではなく、変革を求める市民権を信じることだ。政治が安定しているときにも疑いの目を向け続けることが求められている。ロックやルソーによって説かれた自然権思想には政府に対する抵抗権の保障が含まれるが、その意識を忘れないようにしたい(インターン:中野)。

● もっと知りたい!
「無法で支配されているタンザニア」(Kwayu, Aikande Clement. 2023. “Tanzania is ruled with impunity – four key issues behind calls for constitutional reform”, The Conversation, 16 February.)

4. インフォーマル・セトルメントの強制退去の実情

社会 都市

● 概説 サハラ以南アフリカの都市のインフォーマル・セトルメントに住居や仕事、社会的サービスを頼る人びとは、常に強制退去への恐怖と隣り合わせの生活を強いられてきた。地方行政や政府は、スラムや路上で暮らす人びとに対して脅迫や強制退去の実施を繰り返す。このような動きは、大規模な社会的、個人的貧困につながっている。2005年、ジンバブエ政府は「Operation Murambatsvina(汚物の掃除)」と題したキャンペーンを首都ハラレのスラム地区で実施し、約70万世帯がホームレスとなった。2022年1月、ナイジェリアでは、軍、警察、治安維持機関(NSCDC)が合同で、ポート・ハーコートのインフォーマル・セトルメントにて1万5000世帯を強制退去させた。
このような強制退去による甚大な被害にもかかわらず、一部の研究や報道において、強制退去がアフリカの大衆から大きな支持を得ていると報告され、継続して強制退去を実行する役人はそのリーダシップを称賛されることさえある。ガーナの首都アクラの中心部にほど近いオールド・ファダマ地区は、1980年代にガーナ北部での紛争から逃げてきた人びとが形成したインフォーマル・セトルメントであり、約10万人が暮らしている。これまで、政府はこの地区を一掃するために国民を扇動する様々な作戦を展開してきた。例えば、強制退去が公衆衛生に不可欠という立場をとる「専門家」を集めメディアキャンペーンを実施し、都市の下水問題の要因がこの地区にあるとしたり、旧約聖書に登場する退廃の地「ソドム」と「ゴモラ」に喩え、この地区がいかに居住に適さないかをアピールしたりした。また、都市開発の妨げになっている、犯罪組織の温床であり治安維持の脅威となり得る、洪水や火事などの「ハイリスクゾーン」であるなどとアピールして、強制退去を正当化し地区外の国民の支持を得てきた。著者はこのような強制退去の正当化を認めるべきではなく、それを問いただし異議を唱える必要があると指摘する。例えば、インフォーマル・セトルメントが治安を脅かすという言説は、この地区の社会経済的、環境的貢献を無視しているし、低中所得者を不安定な生活環境に押しやる歴史的、構造的な社会的不正義を考慮していない。インフォーマル・セトルメントの人びとを包摂した政策立案が求められている。もし、退去が最善で合理的な選択であるならば、退去対象者が商業的、文化的生活を維持することができる代替の居住地が用意されなければならない。強制退去とは、人々の生活の破壊である。暴力的にコミュニティを破壊するのではなく、貧困層に有利な再開発プロジェクトが実施されるべきである。

● 詳細記事 Azunre, Gideon., Boateng, Festival. and Amponsah, Owusu. 2024. “Africa’s informal settlement evictions are popular but damaging.” Africa at LSE. May 29.

● 感想 インフォーマル・セトルメントで生活する人々を排除しようとする動きは、世界中で行われていることであり、日本も例外ではない。記事ではインフォーマル・セトルメントの社会的、環境的貢献が指摘されているが、社会に貢献しているかどうかは関係なく人々の暮らしは守られるべきであることが大前提とされるべきだと思った。(インターン:青木)

● もっと知りたい!
①「政策立案に関してスラム居住者から学ぶべきこと」(Okyere, Seth., Abunyewah, Matthew. and Kwasie, Michael. 2018. “Policymakers have a lot to learn from slum dwellers: an Accra case study.” The Conversation May 31.
②オールド・ファダマ地区の強制退去に関するアムネスティ・インターナショナル作成の報告書(Amnesty International. 2011. “Ghana: ‘When we sleep. we don’t sleep’: Living under the threat of forced eviction in Ghana.” May 28.)

5. 浮体式ソーラーパネルによるエネルギー供給の可能性

エネルギー

● 概説 湖に浮かべたソーラーパネルによる発電が、いくつかの国のエネルギー需要を満たせることが明らかになった。著者らは世界の100万ある水域のうち、その10%にソーラーパネルを浮かべることで、どれだけエネルギーが生産できるか計算した。その結果、エチオピアとルワンダでは、浮体式エネルギーシステムのみで、現在の国家が必要とするエネルギー量を上回るエネルギーを生産できることがわかった。ソーラーパネルは、湖や貯水池などの水域に浮かぶいかだなどに取り付けられる。安定性の確保のため、アンカーなどで固定される。水上に置かれたソーラーパネルは陸上と比較して過熱しにくく、従って発電量が多く、寿命も長い。
著者らは、日照や気温に関するデータやソーラーパネルに関する具体的な情報を集め、水域の衛星データを用いた。その上で、干上がる水域、年間6か月以上凍結する水域、保護区内にある水域、人口集中地区から10km以上離れている水域は除外し、また環境的、技術的な制約を考慮し、浮体式ソーラーシステムのサイズも限定した。その結果、アフリカ全土には、1977か所ものパネルを浮かべることのできる水域があることが分かった。これは陸上においてソーラーパネルを設置するのに必要な土地を節約出来ることも意味している。また浮体式ソーラーパネルは水域における水の蒸発を抑え、また影を作ることで、有害な藻類の水面での繁殖による水質や水生生物に対する影響を減らし、結果的に水域の健全性の向上、水処理コストの削減が可能である。このシステムを活用するためには、1. 送電網の整備、2. 規制と政策による支援、3. 環境への配慮、4. 社会的配慮が必要とされる。

● 詳細記事 Woolway, Iestyn. and Armstrong, Alona. 2024. “Floating solar panels could provide much of Africa’s energy – new research.” The Conversation. June 18.

● 感想 ソーラーパネルを水上に配置するという考えは環境、エネルギー問題に対して有効だと考えるが、しかしソーラーパネルの耐用年数や廃棄の仕組み、ソーラーパネルを作る際の環境コストも考慮すべき事項であると思う。また、導入にはそれなりのコストが必要であると思うが、アフリカ諸国が資金を都合する、あるいは調達することが現実的に可能であるのか考慮することが課題かと思う。また、水域に対する影響にしても、水面の藻の繁殖を抑えるとしているが、水中あるいは水面で発生した藻による酸素の生成を考慮した場合、ソーラーパネルでの発電がどの程度環境に対するメリットがあるのかも疑問である(インターン:奥平)。

6. 環境保護プロジェクトとジェンダー

社会 環境 ジェンダー

● 概説 2007年、ナイジェリアを含めたアフリカ11か国が、気候変動によるサヘル地域の森林破壊に対処するため、アフリカ連合主導でグレート・グリーン・ウォール(GGW)プロジェクトを開始した。当初の計画は、セネガルからジブチまでの約7775㎞を15㎞幅の木々でつなぐことであった。しかし、計画を進めていくにつれ、その目的は貧困の削減や開発の促進などより多元的になっていった。現在、プロジェクトの中心的な関心は土地の回復のみならず、土地回復事業を利用した地域の生活水準の向上にある。また、包括的な住民参加型のアプローチを通したジェンダー格差の是正も着目されている。
著者はナイジェリア北東部バウチ州アザレで2019年から実施されているGGWプロジェクトを調査した。アザレでは、植林と並行して女性の自立支援のための生活基盤強化プログラムを実施している。本調査により、ジェンダー規範と社会的分断が、女性のプロジェクトへの参加や、そこから得られる利益を制限していることが明らかになった。例えば、植林プロジェクトが生み出した雇用のほとんどを男性が独占していた。それは、身体的に男性に適した仕事だったからという理由だけでなく、「女性は家庭に属する」「家の外で仕事をするべきではない」というジェンダー規範が、彼女たちの行動を制限していたことが大きい。また、女性が仕事に出ることで、家庭での家事育児を担う人がいなくなるという問題も、女性の行動を制限した一因となっていた。さらに、女性向けの生活基盤強化プログラムも、村から離れた町で開催されたため、長期間、家を空けることができない(許されない)女性たちは、プログラムに参加することができない。地域住民のニーズを反映させるように実践されているGGWプロジェクトであっても、ジェンダー格差が存在するのである。インタビューでは、プロジェクトに関する会議の場にて、女性の意見が男性の意見と対等に扱われていないと答える者もいた。教育を受けていない女性ほど、会議中は意見を発さず「自己主張が強すぎる」と思われることを恐れているようであった。また、インタビューした女性の多くが、家庭菜園をより効率的にする生活基盤強化プログラムを希望していたが、バウチ州にてGGWによる家庭菜園のプログラムは提供されていなかった。
アフリカ大陸の多くの地域で気候変動による砂漠化が進んでおり、GGWのようなプロジェクトが土地の回復や貧困問題に果たす役割に期待がされている。しかし、ただプロジェクトを実施するだけでは、女性などの周縁化された人びとにとっての利益とはならない。GGWのような大規模なプロジェクトがジェンダー格差に自覚的になることで、ジェンダー平等を促進する理想的な機会となり得る。

● 詳細記事 Alozie, Modesta. 2024 “He didn’t allow me”: Gender and the Great Green Wall.” African Arguments, July 2.

● 感想 大規模なプロジェクトがジェンダー格差に自覚的であることは大切なことだと思う。莫大な資金だけでなく、長い時間をかけて継続しないと意味がなくなってしまうプロジェクトである。雇用を生み出すことはその地域の住民にとってメリットになり得ると思うが、実際にどの程度、植林に効果があるのだろうか(インターン:青木)。

● もっと知りたい!
朝日新聞連載記事「「緑の長城」アフリカの挑戦」
第1回:今泉奏. 2024. 「乾いた大地、サハラの熱風…温暖化が生んだ移民「救い見つからぬ」」. 朝日新聞. 2月3日。
第2回:今泉奏. 2024. 「木を植える遊牧民、支援する欧州 アフリカで「緑の長城」実現するか」. 朝日新聞. 2月4日.

7. 選挙予定:2024年後半

選挙

● 概説 
現段階で分かっている、2024年後半の選挙日程の予定です。詳細は最新情報を適宜ご確認ください。
7月 ルワンダ(大統領・議会)
9月 アルジェリア(大統領)
10月 モザンビーク(大統領・議会・地方)、チャド(議会・地方) 、ボツワナ(議会・地方)、チュニジア(大統領)
11月 ソマリランド(大統領)、ナミビア(大統領・議会)、モーリシャス
11-12月 ギニアビサウ(大統領)
12月 ガーナ(大統領・議会)、南スーダン(大統領・議会・地方)
?月 カーボベルデ(地方)、マリ(大統領)

● 詳細記事 African Argument. 2024. “Africa Elections 2024: All the upcoming votes,” African Argument. 1 July.

8. 1994年のジェノサイドから30年を迎えるルワンダ(3)

ルワンダ

シリーズ「1994年のジェノサイドから30周年を迎えるルワンダ」。AJF会員の村田はるせさんが第3弾を作ってくださいました。ありがとうございます!過去のものは以下からご覧ください。
「1994年のジェノサイドから30年を迎えるルワンダ」(1)こちら(2)こちら

● 概説 
■ 4月4日 ツチへのジェノサイドから4年後、「ルワンダ 記憶の義務によって書く」
ルワンダでのジェノサイドから4年後の1998年、文学プロジェクト「ルワンダ 記憶の義務によって書く」に参加したアフリカ人作家10人がルワンダで執筆滞在をした。作家たちはその後も何度かルワンダを訪れ、2000年にはその成果として10作を発表した。
この企画を考案したのは、チャド人の作家で「フェスタフリカ(Fest’Africa)」という、フランスでブラック・アフリカの文学・芸術を紹介する団体の創設者ノッキィ・ジェダヌンであった[フェスタフリカの共同創設者であるマリ出身のマイムナ・クリバリもこのプロジェクトを企画した]。この記事では、ジェダヌン自身がこのプロジェクトを振りかえっている。
ジェダヌンによると、このプロジェクトに参加した作家は10人だった。ブルキナファソ出身のモニク・イルブド、コートジヴォワールのヴェロニク・タジョ、ケニアのメジャ・ムワンギ、ギニアのティエルノ・モネネンボ、セネガルのブバカル・ボリス・ジョップ、ジブチのアブドウラマン・A・ワベリ、ルワンダのジャン=マリ・ヴィアネ・ルラングワ、チャドのクルシー・ラムコとノッキイ・ジェダヌン、そしてジェノサイドを生き延びたヴェニュスト・カイマエがルワンダで合流した。
プロジェクトの目的は、ルワンダの人々への精神的連帯を表明し、[その当時あった]ルワンダのジェノサイドに対する沈黙を破ることであった。
アフリカ文学の歴史の始まりにおいては、黒人世界の文化の価値を確立しようと、アフリカの作家、黒人ディアスポラの作家が連帯したネグリチュード運動があった。そしてサハラ以南アフリカ諸国の独立後も、アフリカ人作家たちは人々の困窮について、教育・保健分野の困難について、独裁体制について、内戦について書いてきた。しかしアフリカの一つの国での悲劇に作家集団が向き合い、作品を書こうとしたのはこれが初めてである。
執筆滞在に参加した作家たちはルワンダで、作家としての責任について、知識人として無力であったことについて、自問した。そして死去した人たちが忘れ去られないよう、死者の名において語ることをみずからに課したのだった。
プロジェクトに参加した作家たちの作品が発表された2000年には、ルワンダの人々とりわけ若者が作品に触れられるよう、参加作家とその他の知識人によるシンポジウムを開催した。参加作家の一人クルシー・ラムコは、書かれた10作をもとにした戯曲『身体と声、リゾームのことば』を書き、上演した。
シンポジウムでの議論の結論の一つは、「(フィクション作品、自伝、映画、戯曲、証言集など)記憶が取りうるあらゆる形態で、歴史家の仕事に役立つような素材を生産する」のを奨励しようというものであった。ほかにも[アパルトヘイト体制から被った]傷を乗り越えようとする南アフリカの経験を参照しようとか、ジェノサイドをフトゥ-トゥチといった二項対立を超えて考えようということが話し合われた。
ジェダヌンの夢は、ルワンダのジェノサイド30周年にあわせ、2024年末に自国チャドのンジャメナでフェスタフリカを開催することである。

●詳細記事:Djedanoum, Nocky. 2024. Quatre ans apres le genocide des Tutsi, ≪ Rwanda : ecrire par devoir de memoire ≫Quatre ans apres le genocide des Tutsi, ≪ Rwanda : ecrire par devoir de memoire ≫, Jeune Afrique, 4 avril.

註1:「ルワンダ 記憶の義務によって書く」プロジェクトの成果として出版されたのは、小説 4 作、旅行記 2作、エッセイ 2作、詩集 1作であった。10人の作家のうちメジャ・ムワンギだけはGreat Sadnessという自作を出版していない。

註2:同プロジェクト参加作家の作品のうち、邦訳があるのはヴェロニク・タジョの『神(イマーナ)の影(L’ombre d’Imana)』。2023年、タジョ氏は来日し、この作品について講演している。その記録は以下から読める:「活動報告 | 環インド洋地域研究 東京大学拠点 (gsi-iags-tindows.com)」

註3:このプロジェクトとは無関係だが、ルワンダのジェノサイドに関連する小説で日本語で読めるものとして、スコラスティック・ムカソンガ『ナイルの聖母』(大西愛子訳、講談社、2024年)がある。また舞台は隣国ブルンジだが、ルワンダでのジェノサイドの文脈を教えてくれる小説としてガエル・ファイユ『小さな国で』(加藤かおり訳、紀伊国屋書店、2017年)がある。

■ 4月5日 ブバカル・ボリス・ジョップが語るルワンダでのジェノサイド:「作家の言葉は、忘却に抗するもっとも強力な武器でありつづけている」

ブバカル・ボリス・ジョップは文学プロジェクト「ルワンダ 記憶の義務によって書く」に参加したセネガルの作家。このプロジェクトをとおして小説『ムランビ 骸骨の書』を書き、他の作家と同じ2000年に発表した。2022年にノイシュタット国際文学賞(米国)を受賞。セネガルのウォロフ語でも小説を書き、自身でフランス語訳した版も発表している。
この記事でジョップは、「ルワンダ 記憶の義務によって書く」に参加した際のルワンダでの体験を書いている。以下はその要旨である。
 
このプロジェクトがルワンダ政府に受け入れられるには時間がかかった。プロジェクトが実現したのは、フランスでジャーナリストをしていたテオジェーヌ・カラバインガの2年に渡る粘り強い交渉のおかげであった。ジェノサイドによって大きな被害を受けた国民を抱え、緊急の課題に向き合わねばならなかったルワンダ政府としては、アフリカ人だとはいえ外国の作家たちが来て、小説を書こうとしている、しかも[ジェノサイドを起こした前政権を最後まで支援したと非難されていた]フランス政府が設立した基金から部分的に資金提供されているなどと聞かされたら、このプロジェクトは無駄としか感じられなかったであろう。
だがようやくプロジェクトが実現しても、ジェノサイドから4年もたってルワンダを訪れたことで、ジョップたち作家はルワンダの中学生からさえ、いまごろになって来るとはと疑問を投げかけられてしまった。
プロジェクトに参加した作家たちは、キガリのニャミランボ地区の小さなホテルに滞在した。ホテルのレストランには、作家たちに興味をもったルワンダ人たちが話にやってきた。なかには、「ルワンダ人の苦悩、残念ながら現実のものでありすぎる苦悩が小説家たちの想像力によってどのように扱われるのかを知りたい」という思いからやってきた人もいたのだとジョップは考えている。そして遠慮がちに、「小説を書くのではなく、ただ真実だけを述べてほしい」と頼んできたのは、そうした人たちだったのだとジョップは想像している。
じつのところ、あまり知られていないことだが、このプロジェクトに参加しても、作品を提出することは義務ではなかった。それでも大多数の参加作家は作品を出版した。それらは、「作家の筆など、これほどの規模の悲劇を扱うことはできないし、まして生き延びた人たちの傷を癒すことなどできなかろう」と考えた人たちへの答えとなったのだった。
作家たちは、ンタラマ、ニャマタ、キガラマなどの虐殺が行われた場所を訪れ、数万人の遺体を目にし、生き延びた人たちの話を聞いた。のちに出版された作家たちの作品を読むと、いくつかの作品が、現場で耳にした同じ話から着想をえているのがわかる。たとえばニャマタの教会で凄惨な殺され方をした[作家たちのルワンダ訪問時には遺体が掘り出され、人目に晒されていた]ムカンドリという女性のことは、複数の作品が取りあげている。
当時について証言しようとする意思をもつ人たちに会い、それならジェノサイドをフィクションで書くことも正当化されるだろうと、ジョップは考えた。ジェノサイドに対して沈黙したり、否定したりする態度をまえに、「作家の言葉は、忘却に抗するもっとも強力な武器でありつづけている」とする。
ジョップは、「ルワンダ 記憶の義務によって書く」プロジェクトに参加して自分に起きた大きな変化も書いている。フランスの新植民地主義を厳しく批判した世代に属しているし、フランスはアフリカでの影響力を維持するために多くの犯罪をおかしてきたと知っていた。しかしフランスはジェノサイドを行う政権を最後まで支援したのだ。この国がアフリカでの勢力範囲をコントロールするときの「厳格なロジック」は「わたしの国にもわたし自身にもかかわる」と認識したという。
ジョップはまた、自身の内面にある「自分自身を貶める意識」にも気づいたという。じつはルワンダでジェノサイドが勃発したとき、「アフリカ人の先祖伝来の野蛮さが爆発したのだ」としか考えられなかった。しかしプロジェクトに参加して、自身を含むアフリカの知識人がもつアフロペシミズムが、起きたことへの理解を妨げていたとわかったという。
ジョップは、「いまではわたしは、一冊の小説が、その作者の世界観と人生哲学をこれほど変えたことはないと断言できる」と記事を結んでいる。

●詳細記事:Boubacar Boris Diop. 2024. Boubacar Boris Diop sur le genocide au Rwanda : ≪ Les mots de l’ecrivain restent l’arme la plus puissante contre l’oubli ≫, Jeune Afrique, 5 avril.

■ アフリカニュース発掘部とは?

AJFウェブサイト内「アフリカニュース発掘部」→ コチラ!
AJFではアフリカに関する国内外の報道や分析を、日本語で月1回程度、紹介・発信する活動「アフリカニュース発掘部」を行っています。日々膨大な数が配信されるアフリカに関するニュースを、担当者(玉井)、AJF会員・インターンの皆さんとで、昨今のアフリカの情勢、また各自の興味や関心に合わせつつ「発掘」しご紹介していきます。なお、ここで取り上げている記事の内容(意見や立場)は、AJFの見解を示したり賛同したりすることを意味していません。

■ 気になるニュース募集中!

AJFの皆さんに共有したい、でも何だかメーリスとかに投稿しにくい…そんなニュースがあれば、アフリカニュース発掘部までお寄せください!私たちの方で、会員の皆さんにニュースとその背景等、ご紹介するようにいたします。ご連絡はいつでもお気軽にどうぞ!(連絡先:tamachanyai[at]gmail.com)