2024年 5月号(アフリカニュース発掘部)

アフリカニュース発掘部2024年5月号です。
参考:アフリカニュース発掘部とは?

■目次

1. 新通貨ジンバブエ・ゴールド(ZiG)の導入はさらなるカオスへの突入か(ジンバブエ 経済)
2. 徒歩で、ボートで、バイクで運ばれるワクチン(シエラレオネ 社会 保健医療)
3. 労働者を保護しない「最低賃金」の実態(ナイジェリア 社会 貧困)
4. 死刑制度廃止か(ジンバブエ 社会)
5. 農業ができない小規模農家の現状(南アフリカ 環境 社会)
6. レーザー技術による象牙とマンモス牙の識別(野生動物)
7. サイバー犯罪対応をめぐるポリティクス(ナイジェリア 政治)
8. COVID-19と野生生物の違法取引(感染症 野生生物)
9. 1994年のジェノサイドから30年を迎えるルワンダ(1)(ルワンダ)

1. 新通貨ジンバブエ・ゴールド(ZiG)の導入はさらなるカオスへの突入か

ジンバブエ 経済

● 概説 2024年4月8日、ジンバブエで新通貨ジンバブエ・ゴールド(ZiG)の運用が開始された。これまで使用されていた通貨ジンバブエドル(RTGS)はハイパーインフレーションを起こし、今年に入ってその価値の4分の3を失っていた。一方で、国内取引の85%は米ドルが占めており、スーパーや商店、公共交通機関では米ドルが用いられてきた。新通貨導入後も、引き続き多くの場所で米ドルが主として使用されるであろう。しかし、米ドル「硬貨」がほとんど流通していないため、米ドルの最低単位が実質1ドルとなっており、スーパーなどでの釣り銭がキャンディで代用されているような状況である。そのため、米ドルに手が届かない人々にとって、ローカル通貨は生活に欠かすことができず、これまでもローカル通貨のレートに振り回された生活を余儀なくされてきた。今回の新通貨をめぐっても、新通貨に関する発表は切り替え開始の数日前であり、21日間の切り替え猶予期間が設定されたものの、新紙幣は印刷中であり使用することができない状況が続いていた。そのような状況においても、ローカル通貨を使用せざるを得ない人々は多く、その生活は混乱を極めている。

● 詳細記事 
Sevenzo, Farai 2024. “Is Zimbabwe zigzagging into further currency chaos?.” BBC. 5 May.

● 感想 ジンバブエ中央銀行総裁の「私たちを責めることは、世界銀行を責めることと同義である」という発言は衝撃的である(金裏付けの新通貨の導入は世銀の勧告があったためという文脈での発言)。人々の生活が左右される一大事にもかかわらず、通告が数日前、猶予期間も3週間のみなのに紙幣の印刷が完了していないなど、準備不足感がすごいし、それに振り回される人々がとにかくかわいそうに思う。ZiGは、人々から揶揄されている通りに「“Zimbabwe i gehena”(ショナ語で「ジンバブエは地獄」の意味)」を体現した通貨でしかないのか、今後も注視していきたい(インターン:青木)。

● もっと知りたい!
①AFP. 2024. 「新通貨ジンバブエ・ゴールド、波乱のスタート 旧通貨は無価値に」AFPBB. 10 April.
②Nyoka, Shingai 2024. “Zimbabwe launches new gold-backed curreny- ZiG.” BBC. 6 April.

2. 徒歩で、ボートで、バイクで運ばれるワクチン

シエラレオネ 社会 保健医療

● 概説 シエラレオネでは、人口の59%が農村地域に住んでいるが、そのうち多くの人々が、道路状況や移動にかかるコストのために、近代医療へのアクセスが限られている状態にある。そのため、新型コロナウイルスのパンデミック時には、ワクチン接種率の低さが課題となっていた。2022年、シエラレオネ保健衛生省と国際人道支援機関であるConcern World Wideにより、移動式のワクチンクリニック事業が進められると、ある地域のワクチン接種率が3日間で3倍になるなど、劇的な効果を示した。移動式ワクチン事業ではまず、対象地域のリーダー(村長や宗教的リーダーなど)へのブリーフィングを行い、ワクチン接種への理解が得られた後に、ワクチン接種が実施された。この方法では、1人あたりUSD33 でワクチン接種をすることができ、他のワクチンキャンペーンと比べても費用対効果が格段に高い。今後、コロナワクチンでの移動型クリニックの経験が、マラリアワクチンやHPVワクチン、母子保健の取り組みに応用されていくことが期待されている。

● 詳細記事 
Meriggi, Niccolo 2024. “How to get vaccines to remote areas? In Sierra Leone they’re delivered by foot, boat or motorbike.” The Conversation. 18 April.

● 感想 実際に良い結果も出ているし、他のことにも応用しやすい良い取り組みだと思った。以前、ルワンダのドローン事業のニュースを読んだが、ドローンは導入時のみでなく、管理や維持にお金がかかったり、操縦の技術が必要だったりと、他国への応用には難しそうな印象を受けた。目新しくはないものの、移動型クリニックの普及と整備が、多くのアフリカの国で今必要な支援に思えるし、日本でも積極的に応用できる地域がある(すでに実施されているところも多い)という印象をもった(インターン:青木)。

● もっと知りたい!
シエラレオネの移動型クリニック事業には中国や複数の国際機関が支援をしているようであり、コロナウイルスワクチンの接種率は70%を超える(接種率が70%を超えているのは、アフリカでは4か国のみ)など、その結果への評価も高い。下記は、中国における報道の一つ。
「シエラレオネ:移動型クリニックが保健医療のギャップを埋める」(科技日報)(Yilian, Liang 2023. “Mobile Clinics Bridge Healthcare Gaps in Sierra Leone.” Science and Technology daily. 2 November. )

3. ナイジェリア:労働者を保護しない「最低賃金」の実態

ナイジェリア 社会 貧困

● 概説  近年の物価上昇により、ナイジェリアでの労働者にとって、最低賃金の引き上げは最重要事項の一つとなっている。本記事では、2019年に設定された最低賃金30,000N/月(約24USD)が、果たして労働者保護の役目を果たしているのか、経済学者のOnyeiwu氏が解説している。1981年、ナイジェリアで初めて最低賃金が法律に明記された。対象者は、従業員50人以下の企業の労働者及び季節労働者を除いた正規労働者であり、最低賃金は125N/月、これは当時のレートで約204USDと、現在の最低賃金の約8倍であった。しかし、その後の複数回における最低賃金の改正は、物価の上昇スピードと対応しておらず、現在の最低賃金は都市での生活に十分な金額とは言えない。一方で、最低賃金の改正の影響を受けるのは主に公務員であり、ほとんどの人が影響されてない。なぜなら、ナイジェリアの労働人口のうち、92.3%がインフォーマルセクターに従事しており、最低賃金が保護しているのは、わずか8%の労働人口(約1600万人)であるためだ。また、大企業に勤めている人々の賃金は、もともと最低賃金より高いため、その改訂にはほとんど影響されることがない。一方で、最低賃金を規定する法の強制力も弱く、中小企業で働く多くの労働者は、最低賃金またはそれ以下の賃金で暮らしている。2021年の調査によると、47.3%のナイジェリア人が貧困状態(多次元的貧困:賃金上は貧困ではなくても、多面的に、医療や教育、ライフラインへのアクセスを考慮したときに、貧困とされる状態)にある。物価上昇、燃料補助金の廃止を考えると、このままの最低賃金ではさらに貧困状態は悪化するだろう。また、最低賃金が低いことは経済にも悪影響である。収入を増やすために副業をすることで、本業での生産性が低下してしまう。この状況を打破するためには、ITやデザインなど、グローバルエコノミーで必要とされるスキルの取得を促すことが鍵となる。

● 詳細記事
Onyeiwu, Stephen. 2024. “Nigeria’s minimum wage has never protected workers from poverty: here’s why.” The Conversation. 5 May.

● 感想  1981年の最低賃金額(204米ドル)では、当時、どのような生活水準を保てていたのか気になる。記事では、主に公務員の給与が最低賃金に即しているとあった。公務員、特に教師の低賃金が問題になっているアフリカの国は他にもあるが、最低賃金の問題と結び付けて考えてこなかったので、他の国の状況にも興味が沸いた。国のために働いている人々に対し、十分ではない最低賃金しか払わないというのは、あたかも「われわれ政府は労働者を大事にするつもりはありません」と表明しているようだと思い、調べてみたら、日本の公務員は最低賃金の適用外ではあるものの、最賃割れが実際に起こっていることを知ってショックを受けている(インターン:青木)。

● もっと知りたい!
「ナイジェリア:労働者賃金の危機」(Adetayo, Ope 2024. “Nigerian workers’ wages diminish as inflation rises and gov’t revenue dips.” Al Jazeera. 21 November. )

4. 死刑制度廃止か

ジンバブエ 社会

● 概説  2024年2月の閣議決定により、ジンバブエにおいて死刑が廃止されることがほぼ確実となった。アフリカ諸国での死刑廃止の潮流を勢いづけるのみでなく、現在、死刑執行を待つ62人の死刑囚の命運にかかわる重要な決定ではあるが、驚くべきことではない。むしろ今日まで死刑制度の廃止が進められてこなかったことのほうが驚きである。現職のㇺナンガグワ大統領は、解放闘争時に死刑宣告された経験から、死刑制度廃止派として知られてきた。実際、ジンバブエにおける最後の死刑執行は2005年にまで遡る。一方で、この決定が世論を反映しているのかというと、そうではないかもしれない。2018年の調査によると、国民の61%が死刑制度存続を支持していたが、2020年の調査では、多くのジンバブエ人オピニオンリーダーが死刑制度の撤廃を支持していた。また、今回、内閣が実施したとする30地域での草の根協議の結果も公表がされておらず、世論をはっきりと掴むことは難しい。しかし、2018年の調査において、死刑存続派の80%が「政府が死刑を廃止する際はその決定に従う」と回答したことは重要である。このことには、「死刑制度は植民地時代に英国によってもたらされた制度であり、報復的ではなく修復的なアプローチをとるショナ社会の価値観とは相容れない」という歴史的背景があると考えられる。植民地政府は、死刑制度を抑圧と征服の手段として利用してきた。このような植民地時代の統治への疑問が2013年の憲法改正時に反映され、死刑制度は残ったものの、適用される犯罪が「大量殺人」に限定、21歳以下または70歳以上の場合と女性はその対象外とされた。今回、死刑を廃止するにあたり、再度、憲法改正の必要があるため、死刑廃止がいつ頃に実施されるかが注目されている。

● 詳細記事
Viljoen, Frans 2024. “Zimbabwe’s likely to abolish the death penalty: how it got here and what it means for the continent.” The Conversation. 7 May.

● 感想 ジンバブエの現行憲法において、死刑が男性のみに限定されていることに驚いた。実際に執行されてはいないものの、なぜ性別で死刑対象を制限しているのか、死刑制度導入前のショナ社会での刑罰のあり方と関連しているのだろうか。刑罰に限らず、植民地政府により持ち込まれた法や規範が現在も利用され続けているとしたら、その背景には何があるのか。また、人々の生活レベルでは、植民地時代以前からその社会で用いられていた法や規範と現行の法律がどのように使い分けられているのだろうか。本記事で「はっきりとはわからない」とされているジンバブエにおける死刑制度に関する「世論」をよりミクロなレベルで聞いてみたいと思った(インターン:青木)。

● もっと知りたい!
「ジンバブエで死刑制度が廃止されるべき理由」(Ndlovu, Mlondolozi 2024. “A case for the abolishment of the death penalty in Zimbabwe.” New Zimbabwe. 24 February.)

5. 農業ができない小規模農家の現状

南アフリカ 環境 社会

● 概説  南アフリカでは、農地の減少が問題となっている。記事の著者が2006年から2020年にかけて調査を行った村では、村を占める農地の割合は、2008年の50%から2019年には15%まで大幅に減少してしまっている。著者によると、その要因は、アパルトヘイト時代の強制移住政策と現代の農業技術支援にあるという。アパルトヘイト時代、政府は黒人の土地へのアクセスを大幅に制限した。その結果、農業のみで生計を立てていた多くの黒人は、鉱山や大規模農園で安価に労働するようになり、ある地区では過密が問題になる一方で、故郷の農地は荒廃していった。1957年に農地荒廃対策として、政府による農地管理がされるようになると、もともとの居住地は破壊され、人びとは移住を強いられることとなる。強制移住により社会的紐帯が弱まったことで、人びとが新たな環境で農業をするのが困難になってしまった。また、1970年代後半から80年代前半にかけて発生した干ばつにより、大量の牛が死んでしまったのと同時期に、経済不況と調査村が位置するトランスカイ(黒人自治区)の独立宣言が重なった。その結果、周辺地区外へ多くの人々が移住し職がなくなったため、新しい牛を飼うことができず、それまで牛に頼っていた耕作ができなくなってしまったのである。また、70年代に政府によって導入された動物除けのフェンスの老朽化により、野生の牛が農地を荒らす被害も頻発している。現在、政府は農業支援として、主に肥料と遺伝子組み換え(GM)または交雑種の種子への補助金事業を実施している。しかし、これらの種子は再植ができず、他人と共有することも法律で制限されているため、人びとは毎年、高価な種子を購入しなければならない。また、政府のプログラムでは、人びとが農業のみで生計を立てていることを前提としていることも問題とされている。調査村では、66.5%の村人が貧困ライン以下で生活しており、農業による食料の自給は依然として彼らの生活にとって非常に重要である。政府は、「耕作やフェンスの設置の無条件支援」「農業専門家の派遣」「低コストでの農業に関する専門家の育成」「現地で入手できる素材(種子や肥料)を利用した農業の支援」といった実効性のある農業支援政策を進めていくべきである。

● 詳細記事
Klara Fischer. 2024. “South Africans are abandoning smallholder farming- history and policy can help explain why.” The Conversation. 2 May.

● 感想 遺伝子組換えの種子や肥料の導入は、生産性をあげる有効な支援であると思っていたが、法整備の仕方によっては現地のニーズに合わなくなってしまう。しかし、種子の交換を法律で規制する意義も理解できるので、ニーズを満たすことと法整備の両立の難しさを感じた。また、農業支援の形として、生産性を上げるための技術に特化するだけでなく、現地で手に入る素材を利用して、現状に合わせて上手くやっていく方法を確立するための支援は、自給目的にはより適していると思った。現状では、人びとが種子を毎年購入しなければならないという問題があるとしていたが、補助金は購入の負担をどれほど減らしているのか気になった(インターン:青木)。

● もっと知りたい!
「南アフリカ:小規模野菜農家の経済状況」(Karissa Moothoo Padayachie. 2023. “South Africa’s smallholder vegetable farmers aren’t getting the finance they need: this is what it should look like.” The Conversation. 19 September.

6. レーザー技術による象牙とマンモス牙の識別

野生動物

● 概説 近年、象の保護のため、多くの国において象牙の取引が大幅な規制を受けているが、その代替品として、マンモス牙が流通している。マンモス牙は規制がされていない。しかし、税関や法執行機関において、マンモス牙と象牙を識別することは時間がかかり、そのためには牙を破壊しなければならない。マンモス牙はマンモスが眠るシベリアや北極圏の永久凍土層で発掘されている。マンモスの発掘による永久凍土層の破壊は、マンモス牙の取引による商業的意味だけでなく、保全されている生態系の破壊による環境負荷や、古生物学にとって大きな意味を持つ資源の採取を伴う懸念も大きい。そうしたなかで科学雑誌PLOS ONEに掲載された著者らによる研究では、牙を見分けるためにレーザー技術を用いる。ブリストル大学が、ランカスター大学、自然史博物館と共同でおこなった研究では、試料に光を照射し、反射した散乱光のうち入射光と波長(エネルギー)が違う光を調べるラマン分光法を用いて、牙が象由来かマンモス由来かを調べられるだけでなく、生きている違う種の象の牙の区別にも成功している。この方法は牙の破壊を伴わない上、研究で用いられた卓上型分光器はもちろんこと、より安価で携帯型のラマン分光計でも同等の結果が得られることが示唆されており、牙の識別を実際に行う税関や法執行機関において理想的なツールであるという。この技術はさらなるデータを取り込むことで、種の同定、生息環境条件等、より細かく区分できる可能性を秘めている。この技術が普及することで、象牙の違法取引の防止の一助となるとともに、世界的な保護活動の鍵になるかもしれないと著者は述べている。

● 詳細記事
Shepherd, Rebecca 2024, “Our laser technique can tell apart elephant and mammoth ivory – here’s how it may disrupt the ivory trade”, The Conversation, 24 April.

● 感想 マンモスの牙が象牙の代わりに市場に流通しているのは知っていたが、まさか区別するために破壊しなければならないとは知らなかった。マンモスの牙は時間の経過でもちろん劣化しているので、物によっては売れないほどの質のものもあるのかもしれないが、せっかくなのでハンコを調べてみると象牙にも劣らないほど高価で、さらに質によってランク付けされていた。眺めているとただの牙だと思っていた物もなかなかきれいだなと思ったので世の中の人々が求める気持ちも少しわかった気がしたが、やはり象の密猟や永久凍土層の探索による環境資源や文化資源の喪失は問題だと考える(インターン:奥平)。

7. サイバー犯罪対応をめぐるポリティクス

ナイジェリア サイバー犯罪

● 概説 ナイジェリアは「世界サイバー犯罪インデックス(World Cybercrime Index)」に基づくサイバー犯罪の脅威レベルで世界第5位と評価されており、世界的なサイバー犯罪活動の拠点の1つとなっている(なお同インデックスによれば、1位はロシア、2位はウクライナ、3位は中国、4位はアメリカ)。 こうしたなかで2024年5月、ナイジェリアではサイバー犯罪(禁止、防止等)修正法が可決された。ヌフ・リバドゥ(Nuhu Ribadu)大統領国家安全保障顧問(NSA)は、同法に基づき、サイバーセキュリティ基金(National Cybersecurity Fund (NCF))の創設を指示した。同基金では、中央銀行が全国の金融機関に対し、事業者から原則すべての電子取引に対して0.5%を徴収することになる。しかし、多くの国民がこの課税を非難し、また国会議員も、同法案が性急に可決されたと批判するなどしたため、大統領は課税の実施を停止せざるを得なくなった。 なぜ批判が高まったのか。背景の1つには、国民が納税に極めて消極的ということがある。税収の大半が一部の政治家の私腹を肥やすために使われると言う認識は根強い。別の背景としては、現在ナイジェリア国民が直面している経済的苦境がある。同記事では「このタイミングで課税を指示するのは、ティヌブ政権が市民と接触していないか、市民への共感が欠けているかのどちらかである」と指摘する。ティヌブ政権以降のナイジェリアでは燃油補助金の停止によりガソリン価格が高騰し、またインフレ率は30%を超えている。 また、徴税を指示したNSAのリバドゥは警察官僚出身であり、これまで「反汚職」をリードしてきた人物である。軍事政権時代の長かったナイジェリアにおいて、軍部の圧力に抗してNSAとなっており、ティヌブ大統領の後継者となる可能性もある。同徴収が実現すれば、NSA管理のもとで数兆ナイラの資金が入り、NSAがティヌブ大統領に次ぎ強大な権力を持つことになるだろう。

● 詳細記事
Igwe, Uche 2024. “Nigeria can fight cybercrime without hurting citizens” LSE Blog, 14 May.

● 感想  ティヌブ政権になって以降、ナイジェリアではサイバー空間における様々な金融取引のコントロールと犯罪取り締まりを強化している。大統領に近く強い権力を持つNSAが潤沢な資金を以ってその対応にあたりたいとする政府の意向が見て取れる。是非はあるが方向性は決して間違っていないはずである。だが相変わらず国民の置かれている生活状況を考慮しているようにはとても思えない(玉井)。

● もっと知りたい!
①サイバー犯罪(禁止、防止等)修正法(Cybercrime (Prohibition, Prevention, etc.) Amendment Act 2024
②Ikumi, Terry 2024. “‘Withdraw Ambiguous Circular’, Reps To CBN On Cybersecurity Levy” Channels TV, 9 May.

8. COVID-19と野生生物の違法取引

感染症 野生生物

● 概説 全世界でCOVID-19が流行し、ロックダウン等が世界各地で実施されていた頃の出来事。野生生物の密売人は独自の対応を行っていた。これまで違法商品を航空貨物や民間の航空便で輸送していたが、それを徒歩や自転車、バイク、公用車による輸送に変えていた。COVID-19犠牲者の霊柩車や棺を利用し、葬儀という隠れ蓑を利用して、象牙やサイの角を輸送・流通させた例もある。また活動の拠点はオンラインに移行した。彼らは買い手との直接的なやり取りができるデジタル・マーケットプレイスを構築したことで、仲介業者を避けることが可能となった。COVID-19流行下において、彼らは驚異的な適応力を見せ、摘発を逃れるために、監視の目が行き届きにくいルートを開拓・構築したことで、より多くの人にリーチし、慎重な取引を行うことができるようになった。さらに、絶滅の危機に瀕している野生生物種である多肉植物の違法な収穫がパンデミック中に増加している。パンデミック時の密売人の適応方法は、法執行機関が野生生物の密売を阻止する上で直面する課題を浮き彫りにしている。

● 詳細記事
Hübschle, Annette and Meredith Gore 2024. “Wildlife traffickers carried on their illegal trade during COVID lockdown – what legal traders can learn from their resilience.” The Conversation. 13 May.

9. 1994年のジェノサイドから30年を迎えるルワンダ(1)

ルワンダ

こちらの記事作成は、AJF会員の村田はるせさんがしてくださいました。ありがとうございます!村田さんは3~4月号でセネガルの大統領選挙についてご紹介も頂きました(→こちら)。

● 概説 2024年5月21日 ジェノサイド被疑者を裁くこと 歴史のための30年の闘争
[註:ルワンダでは1994年にジェノサイドが起きた。同国では1990年に内戦が始まり、ジュヴェナル・ハビャリマナ大統領率いる多数派のフトゥが主体の政権と、少数派のトゥチが主体のルワンダ愛国戦線(RPF)がぶつかり合った。1993年には両者は包括的和平協定「アルーシャ協定」に合意した。しかしながらこの内戦はジェノサイドによって終わることになる。1994年4月6日にハビャリマナ大統領が搭乗した飛行機が何者かによって撃墜されると、翌日未明には虐殺が始まり、全国に拡大したのだった。ジェノサイドを当時主導したのは、ハビャリマナ政権死去を受けて成立した暫定政権であるが、ジェノサイドそのものは綿密に準備されたもので、住民が大規模に動員された。約100日間続いたジェノサイドの犠牲者は、トゥチの人々を中心に少なくとも50万人とも、100万人近くともされる。]

この記事は、1994年以来の30年間にジェノサイド被疑者がどこでどのように裁かれたかをまとめている。ジェノサイド後のルワンダの混乱、被疑者の多さ、指導的な役割を果たした被疑者が世界中に逃亡したことなどから、裁判は困難を極めたことがわかる。
記事によると、これまで行われた裁判は200万件以上。裁判は①ルワンダ国内で、②[国連安保理がタンザニアのアルーシャに設置した]ルワンダ国際刑事裁判所(1994年11月8日~2005年12月31日)で、③欧米の国々で行われた。

①ルワンダ国内での裁判については、動きはひじょうに緩慢だった。1994年7月以降にルワンダ愛国戦線[現在まで与党]が政権を掌握すると、裁判官や検事が殺害されたり、逃亡したりしたからだった。それでも1996年には、ジェノサイド時の犯罪の4つの分類が法で規定された。すなわち、ジェノサイドを計画した罪、殺人とその共犯、殺人には至らない襲撃、被害者財産の略奪である。
ルワンダで1996~2001年に特定された被疑者は約100万人だが、この間に国内裁判で裁かれたのは6000人だった。約20件[正確には22件]の公開処刑も行われた。刑務所に拘禁されて裁判を待つ被疑者は、1999年時点で12万人であった。そのためルワンダ政府は、[伝統的な裁判である]ガチャチャを採用することにした。こうして地域共同体の一般住民に裁きが委ねられたのである。
ルワンダ弁護士会のフォースタン・ムラングワはガチャチャについて、「住民間の緊張が緩和し、コミュニケーションを可能にした」と、和解の促進に貢献したとする。しかしガチャチャに批判的なNGOもあり、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、「公正な裁判(の原則)に対する大幅な違反」を指摘する。つまり「圧力を受け、犯していない罪を自白させられ、それによって不当に起訴された被疑者もいた」というのである。
ガチャチャ(2002年6月18日~2012年6月18日)は全国で12万回実施された。扱われたのは1,958,714件のケースで、1,003,277人が判決を受けた。元司法大臣のタルシス・カルガラマは、「[大多数の被疑者には]5~10年の禁固刑が下され、終身刑は全体の5~8%、無罪判決は20~30%だった」と語った。

②ジェノサイドを主導した人物たちを裁いたルワンダ国際刑事裁判所は、「アフリカで初めてジェノサイド罪を裁いた国際裁判所」として歴史的な意味をもつ。ただし「20年間でたったの93人」しか起訴せず、実際に裁かれたのは63人であった。費用も20億ユーロと膨大であった。さらに同裁判所は「ジェノサイドが準備された1990年からの時期を除外し、1994年初頭以降の犯罪だけを裁いた」点も批判された。
ルワンダ国際刑事裁判所で勤務した上述のムラングワ弁護士は、裁判官や検事たち自身、ジェノサイド罪についての知識が不十分だったうえ、「ルワンダの場所も、ルワンダの伝統や文化もほとんど知らなかった」と語った。
ルワンダ国際刑事裁判所で裁かれた重要人物には、テオネスト・バゴソラ(元ルワンダ軍大佐)もいた。バゴソラは、[ハビャリマナ政権中枢の急進派集団の]アカズに所属。ルワンダ国際刑事裁判所で裁かれた中では、ジェノサイドへの責任がもっとも高い人物。 1996年にカメルーンで逮捕された。「ジェノサイド計画への深い関与への裏付けは十分にあった」が、1994年4月6~9日の殺害に対する罪だけによって有罪となった。この殺害の犠牲者はおもに、当時の大臣たちと、PKO軍UNAMIRのベルギー人兵士10人であった。(2008年に終身刑、そのご35年刑に。マリのクリコロ刑務所に収監され、2021年に死亡。)
[註:UNAMIRはハビャリマナ政権とルワンダ愛国戦線の和平協定履行を監視するためにルワンダに1993年から展開していた。1994年4月6日にハビャリマナ大統領が死去すると、当時の閣僚や政治家のうち穏健な立場の人々がトゥチ・フトゥの別なく殺害された。ベルギー人兵士は殺害された一人ウィリンヂイマナ首相を警護していた。ベルギーは兵士殺害を受けて、ジェノサイドが拡大するなかで自国のPKO部隊を撤退させた。]
またハビャリマナ大統領死去後の暫定政権の首相だったジャン・カンバンダは、「1948年のジェノサイド犯罪の防止及び処罰に関する条約の採択以来、初めての有罪判決」を受けた。(終身刑。マリで服役中。)
ラジオ放送を通して「民族主義的イデオロギー」を拡散し、トゥチの人々の殺害を励ましたとされるミル・コリン自由ラジオ・テレビジョン(RTLM)の幹部たちも、2000年から裁かれ、有罪となった。記事は、ニュルンベルク裁判以来、「ジェノサイドにおけるメディアの責任」が初めて裁かれたケースとなったとしている。そのごRTLMの元DJたちも有罪判決を受けていった。

③普遍的管轄権のもと、欧米の11か国は自国内にいたジェノサイド被疑者の逮捕、裁判、ルワンダ国際刑事裁判所への引き渡しを行ってきた。ヨーロッパ諸国としてはベルギー、フランス、ドイツ、スイス、オランダ、スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、フィンランドが37件を扱った。米国は6件、カナダは4件であった。記事はヨーロッパで裁かれた32人について、氏名や刑を掲載している。彼らは大臣、情報機関の職員、医師、民兵のリーダー、聖職者、教師、知事、運転手などだった。
ヨーロッパ諸国の場合は、死刑の恐れがあるとして2007年まではルワンダへの被疑者の引き渡しを拒み、自国内で裁いていた。またフランスは、国内にいる被疑者を裁くことに消極的であると批判を受けてきた。
被疑者のなかには、ジェノサイドに重い責任があるとされながら、死亡とみなされた者、健康上の問題で裁判に付すことができない者もいる。現在も、フランスにある「ルワンダのための原告団(CPCR)」のような多様な団体がジェノサイドの被疑者を追いかけつづけている。
[註:普遍的管轄権について参照したのは、以下の論文のとくに序文。安藤貴世、2007年「普遍的管轄権の法的構造―1949年ジュネーブ諸条約の「重大な違反行為」規定をめぐって―」国際関係論研究26号、pp. 1-21。]

●詳細記事 Toulemonde, Marie. 2004. “Rwanda: Juger les genocidaires: 30 ans de bataille pour l’Histoire.” Jeune Afrique, 21 mai.

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