特集:SDGs(持続可能な開発目標)と市民社会
SDGs (Sustainable Development Goals)and Civil Society Organizations in Japan
『アフリカNOW』108号(2017年5月31日発行)掲載
2016年4月に発足した「SDGs 市民社会ネットワーク(略称:SDGs ジャパン)」は、2017年2月に一般社団法人になった。2000〜2015年の開発目標である「ミレニアム開発目標」(MDGs)の啓発・政策提言に取り組んできた「動く→動かす」からSDGs ジャパンにバトンが渡された。AJF は「動く→動かす」の事務局を担い、アフリカのNGO と連携しながら、日本の市民社会ネットワークの中核を担ってきた。また、2013年には「ポスト2015NGOプラットフォーム」を発足させ、SDGs 採択までの国内外の協議に関わってきた。SDGs ジャパンは引き続きAJF 内に事務局を置き、AJF 国際保健ディレクターの稲場雅紀さんが代表理事を担う。SDGs は日本でも取り組むべき目標であり、SDGs ジャパンは、国内の貧困、環境、ジェンダー、人権などの課題に取り組んできた団体を含むより広いネットワークとなる。
今号の特集では、SDGs ジャパンとAJF の役割について4名から寄稿していただいた。6月3〜8日にはSDGsケニア・フォーラム事務局長のフローレンス・シェブオ(Florence Syevuo)さんを招聘する。アフリカと日本の市民社会が互いに協力・連携しながらSDGs に関わる活動に取り組んでいきたいと考えている。
SDGsの時代とAJF
AJF in the SDGs era
執筆:星野 智子
ほしのともこ AJF理事。2002年のジョハネスブルグサミット以降AJF と関わる。環境・開発に関する国際会議や「国連持続可能な開発のための教育(ESD)」の推進、生物多様性COP10やG7サミット、環境大臣会合における環境NGO活動をサポート。地球環境パートナーシッププラザ(GEOC)の運営を行う環境パートナーシップ会議(EPC) の副代表理事。
SDGs 時代の到来
「持続可能な開発目標」(Sustainable Development Goals;SDGs) は、「ミレニアム開発目標」(Millennium Development Goals;MDGs)に代わる新たな国連の開発目標として2012年の「リオ+ 20」で策定が合意された。その後、世界各地で実施された市民社会を含む広範な協議をふまえて、2015年9月に開催された国連サミットで採択された。2016年から2030年までの新目標で、17の目標と169 のターゲットで構成されている。先進国・途上国すべての国を対象とする普遍的なものであり、また企業、NGO など各ステークホルダーの参画が期待されている。
‘Transforming our world’(私たちの世界を変革する)というスローガンが付いた「持続可能な開発のための2030 アジェンダ」がSDGs の本体であり、前文に加えて、(1 )宣言、(2)持続可能な開発目標(SDGs)とターゲット、(3)実施手段とグローバル・パートナーシップ、(4)フォローアップとレビューの4つのセクションから構成されている。重要な要素として5つのP(People,Prosperity, Planet, Peace, Partnership)を掲げ、さらに重要なコンセプトとして’Leave no one behind’(誰ひとり取り残さない)ことを提唱している。
MDGs は主に発展途上国の貧困削減や保健衛生、教育普及が掲げられたが、国際社会では財政危機や極端な経済格差の是正、自然災害など、新たな課題やMDGs 達成後も残された課題に対応することが必要となった。そのため、SDGsでは持続可能性の観点を組み込み健全な地球環境が基盤であるという考えが入った点も特徴として挙げられる。
SDGs 策定までの道のりとAJF
持続可能性に関する国際的な動きとしては、1992年のリオデジャネイロでの国連環境開発会議(地球サミット)が周知のとおりだが、その後、国連における開発アジェンダは、1995年のコペンハーゲンでの世界社会開発サミットや国際人口開発会議(1994年、カイロ)、第4回世界女性会議(1995年、北京)、第2回国連人間居住会議(ハビタット2)(1996年、イスタンブール)などによって、地球規模の社会開発課題が明らかにされ、それに関わるNGOやステークホルダーの動きも活発化していった。アフリカ開発に関してはアフリカ開発会議(TICAD。第1回は1993年、東京)が開催され、これを契機にアフリカ日本協議会(AJF)が立ち上がった。
各課題の調査研究、実施、検証が各地で行われ、2000年の国連ミレニアムサミットにおいて、MDGsが発表されることになり、AJF もアフリカ地域の課題に関わっている立場から、それらについて掲げられているMDGs にも取り組んでいった。九州・沖縄サミットの開かれた同年には債務帳消しキャンペーン(ジュビリー2000)に賛同してコミットしたり、2002年のジョハネスブルグサミットには当時のAJF 代表理事が政府顧問団として参加、2005年にはホワイトバンド・キャンペーンに参加するなど、MDGs 達成に向けた動きに精力的に取り組んできた。2008年の洞爺湖サミットのときは開発・環境・平和/人権のNGO が連合体を作って政策提言を行った「2008年G8サミットNGOフォーラム」において開発分野をリードした。その後には貧困問題解決とMDGs の達成に向けて「動く→動かす」の事務局として、またその後の動きとして「ポスト2015 NGO プラットフォーム」を運営するなど、MDGs達成に向けた市民社会の動きをけん引してきた。2016年の伊勢志摩サミットにおいても、東海地域のNGO とも連携し、環境や福祉など、国際協力以外の分野のNGO ともコミュニケーションをとりながら、SDGs 時代の到来を市民社会に普及するカギとなる動きを作ってきた。
AJF はTICAD を契機にできた団体ではありながら、その周辺の関連会議・機関にまで影響を及ぼし、市民社会と国連・政府機関、日本と世界、他分野のNGOなど、さまざまなパートナーシップ構築をはかって、平和で持続可能な社会づくりに寄与してきた。SDGsはAJF が目指す社会を実現するための、集大成的な目標と言えるだろう。
SDGs 市民社会ネットワークへの期待
前述のような経緯、流れから、SDGs 市民社会ネットワーク発足にAJF が関わることは必然でもあり、市民社会のみならず、日本社会に必要な組織として機能することが期待されている。MDGs 時代とは違い、環境や福祉、災害、人権など他分野のNGO や、国内課題に向き合っているNPO、各地で草の根団体まで一緒に行動することが求められている中、これまでの実績とネットワークが存分に発揮できるだろう。
SDGs 市民社会ネットワークは、国内課題への対応への動きも合流して、幅広いNGO/NPO による市民社会ネットワークとして成長しつつあり、2017年2月には一般社団法人として新たなスタートを切った。政府との意見交換や国際会議などの機会にNGO/NPO の声を届けたり、企業、労働組合、地方公共団体、協同組合など日本国内の様々なセクターに働きかけてネットワークづくりに取り組んだり、SDGs をより多くの人々に知ってもらい、サポートを広げるための取り組みを行っている。世界に先駆けて少子高齢化や過疎化が進む日本には、世界各国、特に経済発展途上国がこれから経験する課題が山積している。「課題先進国」と言われる日本の取り組みを世界が注視しており、日本の経験は、国際協力にも活かしていける。SDGs は、このような課題を横断的にふかんできるチェックシートとしても活かし、地域の課題を発見・解決したり、仲間を発見したりするリストにもなるだろう。
市民の声が届けば暮らしやすい社会に
1992年の地球サミットから四半世紀が経った。NGO/NPO という言葉を知っている人も少なかった時代から考えると、今は行政や企業と協働するなど、だいぶ理解されるようになったと感じるが、他のセクターに比べれば、まだ活動の規模は小さく、ボランティアにせよ、寄付にせよ、関わったことはない人の方が多いのが現実だ。AJF がSDGs 市民社会ネットワークを通じて地球規模課題をわかりやすく伝え、政府や関連機関との対話をしながら課題解決に取り組んでいけるようになることを望みたい。アフリカに関心がある人も国内の課題に関心がある人もNGO/NPO の活動に参加し、その人口が増えることで、社会の多様な課題を解決して、持続可能な暮らしやすい世界をつくることができるだろう。