A half year with Chinese oil company in Loango National Park
アフリカNOW No.93(2012年1月31日発行)掲載
執筆:西原智昭
にしはら ともあき:1989年から20年以上にわたり、コンゴ共和国やガボンなどアフリカ中央部熱帯林地域にて野生生物の研究・調査、国立公園管理、生物多様性保全の仕事に従事。現在の所属先と役職はWCS(Wildlife Conservation Society)コンゴ支部、コンゴ共和国北部Ndokiランドスケープ・自然環境保全技術顧問。
中国企業のアフリカ進出をめぐる論議
現在、アフリカのいろんな国に中国企業が進出し、主として開発業に携わっている。熱帯林地方にも進出して開発あるいはインフラ整備に従事しており、コンゴ共和国でも、インフラをサポートする形で中国企業が入り、橋作りや道路整備などを行っている。その限りでは、途上国と中国企業の利害関係が一致していると言えるだろう。すなわち、途上国にとってインフラ整備は技術的に課題があって他の国の企業に委託しなければならない現状の中で、日本や欧米諸国の企業に委託すると高くつくのに対し、中国企業はそれほど高くなく、しかもそれなりの技術を持っているからだ。その結果、途上国は中国に人材育成や道路整備を要請し、その一方で中国は必要としている自然資源(石油、木材、魚など)を得て、自国の膨大な人口の生活をまかなおうとしている。
また、中国ではたくさんの人が仕事を求めている。近年の経済発展によって仕事を得て生活を向上させているのは、中国の巨大な人口の一部にすぎず、農村部で暮らす多くの人々は、働く土地を失ったり、探しても職がなかったりしている。中国は、そういった人を海外へ送り出している。熱帯林の中の伐採基地に家族そろってやってくるアフリカの人々と同じように、中国の人々もみんな、家族や頼ってくる親族を引き連れて、アフリカに来ている。中国政府にとってアフリカ進出は、雇用創出と人口増加圧力を減少するためのいい機会にもなっているわけだ。
アフリカ諸国には、中国のアフリカ進出に関して、インフラ整備に寄与しているという肯定的な見解もあれば、環境に配慮しないで自然資源を開発するという否定的な見解もある。中国企業の進出に伴って中国人が大挙してやってくることが否定的に語られることもある。大勢の中国人が、食料供給が十分にないところで野生生物を食べるケースが多々あって、野生生物の食用需要がさらに高まっているという。
中国人は衛生上、環境上の配慮が不十分という人たちもいる。教育・文化の問題も関係しているのだろうが、ゴミのポイ捨てやあたりかまわずツバを吐くといったことから、開発上の問題まで配慮が足りない点があると言うのだ。
中国人が大量に進出した地域では、中国人を対象に商売をする人々が中国から来ることも問題にされている。アフリカ中部では、これまで西アフリカ系統の人々が商業を握っていた。彼らはイスラム教徒が多く、中東のイスラム系のビジネスマンと連携して中東から物資を輸入して商売をやってきた。そうした中で、中国人も商売を始め、しかも中国人の扱う物は安いというので、商売が拡大している。中国人の薬屋さんとか雑貨屋さんがどんどん増えている。このような商業形態の変貌や中国人商業者の増加に対して、アフリカの人々の中でも否定的なイメージを持つ人々がいる。加えて、中国人のプロジェクトでは地元民を雇用しない、ドライバーやコックからガードマンまですべて中国人がやっていて、地域に貢献していないというイメージもある。
旧宗主国のフランス語を公用語とするコンゴ共和国では、フランス語を喋る中国人がほとんどいないため、コンゴ人は、中国人はフランス語をしゃべれないとバカにしているようなところがある。食事の際に食器の音をたて口を開いて食べていることや、町中で上半身裸になって歩いているという振る舞いに対する否定的なイメージもある。
中国人労働者が現地通貨を持っていないため、コンゴ人が運転するタクシーは中国人を拾わないという状況もある。中国人労働者の給料は大半が中国に残してきた家族に行っているので、彼らは企業が保障してくれる食住には困らないけれど現金を持っていない。そのためタクシーにも乗れないというのを見て、コンゴ人が否定的なイメージを持っている面もある。
中国企業による石油探索活動を監査
ここで、半年ぐらい中国人たちと一緒に仕事をしたときの経験を紹介したい。ガボンのロアンゴ国立公園内で、中国企業が政府の許可を受けて石油の探索活動を行ったときの環境配慮に関するモニタリングを行った経験である。
国立公園の中での石油探索自体が大きな問題だが、ガボン政府が許可を出してしまったので、私の所属する団体が政府に自然環境に配慮しながら探索作業を進めるべきだと提言したところ、政府からモニタリングを委託された。それで、中国人たちと一緒に国立公園内で寝起きしながら、モニタリングをやることになった。
2002年に設置された、ガボンに13ある国立公園の一つロアンゴ国立公園は大西洋岸に面している。人はほとんど住んでおらず、海岸部もリゾート地として開発されたことのまったくない、完全な野生の砂浜だ。その国立公園の中で、シノペックという中国で2番目に大きい国営石油会社が、2006年と2007年の2年にわたって石油探索調査を行った。
シノペックがとった探索調査は、熱帯林の中を一直線に切り開いて、人が通れるぐらいの道を何本も作り、次にこの道に沿って一定の距離ごとに掘った深さ30mぐらいの穴の中に仕掛けたダイナマイトを一斉に爆発させ、その振動を記録することにより、地中にどんな資源があるのかを探索するというものだった。
1年目の2006年の調査のときは、ガボン政府が環境に対する配慮についてきちんとした指示をしなかったため、シノペックは国立公園内での探索にもかかわらず環境にまったく配慮しなかった。2006年の探索後、私たちは、国立公園内の中国人労働者のキャンプがあった場所から野生動物を獲ってきて食べた跡、また、川から大量に魚を獲ってきて塩干し魚にした痕跡を発見した。何百人もの労働者に十分な食料が用意されておらず、労働者たちは勝手に動物や魚を獲って食べたというわけだ。
探索のために作る森の中の道は人が1人通れるくらいの幅でいいのだが、最初の年には、かなり大きな木も切り倒して、両手を広げても届かないぐらいの大きな道を作っていた。中国から持ちこんだラーメンの袋をその辺に捨てたままというような状態でもあった。しかも、シノペックが2006年の探索終了時に、探索のために作った道をそのままにしていたため、その道路を使って国立公園周辺の人たちが車で公園内に乗り入れ、たくさんの野生動物を獲るというブッシュミート問題も起きた。
2007年に再度シノペックが探索をやることに対して、私たちや世界銀行などが問題にしたので、ガボン政府もさすがに環境基準を作ることになった。石油探索活動は継続するが、野生生物や環境にできる限り配慮してマイナスの影響がないようにやるということになったのだ。そして、シノペックがこの環境基準に従って探索を行っているかどうかを監査する仕事を私たちに委託してきたので、私がリーダーとして監査チームを作り、中国人探索チームと一緒に国立公園内でキャンプを設営した。
条件を課せられた探索チームの努力
キャンプ内では、シノペックの探索チームのリーダーと英語と漢字を使った筆談でやりとりした。彼らも課せられた条件を守って探索をやらなければならないことを理解し、毎朝6時の朝礼時に環境基準を確認するようにした。チームリーダーが環境基準を読み上げ、朝礼に参加した労働者が口をそろえて確認するという日々を送った。しかも、禁止事項と罰則が記された誓約書らしき紙に、全員が署名していた。
このときの監査項目には、大気汚染を防止する、車の移動を最小限にする、土壌浸食を最小限にする、木を伐らないといったことから、人間のふん尿によって動物が病気になる可能性があるので、トイレをちゃんと作り使用する、また国立公園内で作業する人は予防接種を受け、血液検査を受け、健康をチェックしてOKが出てから国立公園に入る、さらには、地元住民を雇用する、研究調査とかツーリズムのために国立公園に入っている人たちに迷惑をかけないといったことも明記されていた。
ダイナマイトの爆発で動物に被害が出ないよう、いつ、どこで、どんなふうにダイナマイトを使うのかをあらかじめ教えてもらい、使う場所の近辺に監査チームのスタッフを配置して、安全を確認しながらやっていくようにした。
ガボン政府の決定なので、石油探索活動そのものをストップさせることはできなかったが、中国人たちと、あるいは地元の村長と話をしながら、環境保全にとって問題になりそうなことを一個一個確認し、これはいい、これはよくない、これはアセスメントの基準と違うと点検して、探索を進めさせた。探索チームが木を切る必要があると考えたとき、監査チームのリーダーに相談して、その理由や必要性について協議・確認を受けるという手順もふんだ。
環境監査がなく行われた2006年の探索活動の際、中国人たちは国立公園内のキャンプ地近くのブッシュミートをたくさん食べていた。ゾウも食べたかもしれない。2007年にここで紹介したような取り組みをしたところ、彼らは国立公園で動物を見かけると、写真を撮ってくれと言うようになった。労働者として与えられた仕事をこなし、中国で食べているようにガボンでも野生動物を獲って食べていただけだった彼らも、珍しい動物との遭遇を楽しむようになったわけだ。
このように最初、中国企業の野生動物や自然環境への配慮は不十分だったが、ちゃんとした手続きを経て説明を受け、具体的な場面ごとに協議しながら取り組みを進めていったら、野生動物・自然環境を保全する取り組みにすんなりと入ってきた。インフラ整備、支援の見返りとしての石油探索や自然資源の開発のためにアフリカへ来ている中国企業をもっと適切に管理し、また、活動している国の政府・国際機関・NGOが適切なアドバイスを行えば、中国企業も野生動物・自然環境保全に配慮しながら活動するに違いない。
熱帯材、象牙を通して見える日本と中国、アフリカ熱帯林との関係
最近、アフリカに進出した中国が開発業を進め自然資源を持って行くという事態に対抗する形で、国際協力機構(JICA)やJICAをプッシュする日本大使館が、日本は中国とは違うと強調するかのように環境保全プロジェクトを立ち上げようとするケースもあると聞く。重要なのは、中国と競争あるいは対抗することではなく、日本が果たすべき役割を真摯に考えて政策決定することであろう。
ガボンの2006年、2007年ごろのデータでは、熱帯材の一番の輸出先は中国で、二番目は旧宗主国のフランスだ。ポルトガルがそれに続くが、日本もけっこう多い。そのことは日本人にほとんど知られていない。日本の伐採業者も商社もガボンに進出していないが、国際市場で買い付けが行われているのだ。なのに、中国は熱帯林を破壊しながら熱帯材を買い付けているという非難の声が日本では大きい。JICAが自然環境プロジェクトを立ち上げるのであれば、そうした事実をふまえ、中国との比較ではなく自国の問題として真摯に考えるべきだ。
日本と中国は、象牙の問題でも共通の課題に直面している。象牙は、1989年にワシントン条約の取引禁止リストに加えられ、それ以来、取引が完全に禁止されている。しかし現在でも、アフリカのサバンナそして熱帯林でゾウが殺され、その象牙が密かに取引されるという事態が起きている。現在、世界中で象牙の需要があるのは中国と日本に限られているから、その象牙の行先が中国と日本と考えられる。
日本では印鑑や三味線のバチの材料としての需要、中国では彫り物やアクセサリー向けの需要がある。中国の彫り物やアクセサリーの素材には、サバンナに住んでいるゾウの象牙も熱帯林に住んでいるマルミミゾウの象牙も使われている。それに対して日本の印鑑職人や三味線のバチを使っている人たちは、硬くて長持ちする、シャープでクリアーな彫り上がりになるハード材であるマルミミゾウの象牙にこだわっている。マルミミゾウの象牙の行き先として最も可能性が高いのは、ハード材需要が世界で一番多い日本なのだ。
マルミミゾウの象牙が、アフリカ中部の熱帯林からどうやって日本へ届くのかについて、2つのルートが考えられる。一つは、アフリカ中部と中東を結ぶイスラム教徒の商業のネットワークだ。日本や東南アジア諸国の税関で象牙の密輸が判明した際に聞くのは、だいたいこのルートだ。日本が最終目的地と思われる象牙が、台湾、中国、シンガポールなどで摘発されてストップするケースもある。
アフリカ中部から南部を経由するルートも可能性がある。2002年と2007年に、南部アフリカ諸国の象牙在庫が例外的に国際取引を許可された。南部アフリカのサバンナにいるゾウの象牙は、日本ではソフト材と呼ばれている。このソフト材の象牙のオークションに参加した日本の象牙組合の人が、ハード材も見たという話もある。
『アフリカNOW No.93』特集:アフリカ熱帯林が直面する課題と日本
アフリカ熱帯林に住む人々が直面している課題 西原智昭
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