イベント概要
- 日 時 :2008年2月23日(土)14:00-16:30
- 講 師 :門村 浩さん
- 会 場 :環境パートナーシップオフィス(EPO)会議
すばらしい自然、多様な動植物、わたしたちが思い描く広大で豊かなアフリカの環境は、地球温暖化の影響を受けて大きくゆらぎはじめています。
大雨、洪水による自然災害の多発、それに伴うマラリアやコレラなどの感染症の蔓延や、干ばつと砂漠化の進行で進む水不足、そして水をめぐる争い、稀少な天然資源をめぐる戦争や紛争、進入外来種をめぐる生物多様性の問題など、さまざまな問題に気候変動は影響しています。
今回のアフリカひろばは、アフリカの環境変動を追い続けて40年、東京都立大学名誉教授・NGO緑のサヘル顧問の門村浩さんに「ゆらぐ地球環境の中のアフリカ」についてお話していただきます。
まず、アフリカの自然環境とその変動の仕組みについて簡単にご紹介いただき、次に、急増する自然災害がもたらす影響、熱帯雨林の生物多様性問題、資源をめぐる争いなど、最近のトピックスについてお話していただきます。
講師プロフィール
門村 浩(かどむら ひろし)さん
広島大学文学部史学科(地理学専攻)卒業後、北海道大学大学院環境科学研究科教授、東京都立大学理学部教授、立正大学地球環境科学部教授を歴任、定年退職後も、アフリカの環境変動と環境問題を、インターネットで毎日追い続けている。アフリカ・サヘル地域で環境保全活動をしているNGO「緑のサヘル」顧問としても活躍中。
イベント報告
門村さんは1969年以来、地形・環境調査等でアフリカと関わり続け、また定年退職後もアフリカの環境変動と 環境問題についてインターネットで毎日追い続けているそうです。 話は非常に多岐にわたり、アフリカの気候システムの仕組みの説明から、メディアでもかなり取り上げられている資源管理に関することまで、 とても盛りだくさんなトークとなりました。参加者は、一般20名(うちAJF会員3名)、ボランティア・スタッフ9名となりました。
以下、お話の概要です。
1-1.地球史の中で育まれた多様な自然環境
アフリカの自然環境は、熱帯雨林から砂漠に至るまで、とても多様です。その多様な自然環境は地殻と気候の大規模な変動によって生まれました。 しかし、近年は人為的要因による地球温暖化が進む中で、アフリカの気候は大きくゆらいでおり、激しい干ばつや大規模な洪水が起こりやすくなっています。
1-2.アフリカ環境の課題
現代アフリカが直面している環境と資源管理の問題について、NEPAD/AU 「環境行動計画」(2003) とUNEP 「アフリカ環境Outlook-2」(2006) に基づいて 広範な課題が説明され、遺伝子組み換え作物、侵入外来生物種、有害化学物質、戦争と地域紛争などが新たな重点課題として注目されていることが紹介されました。
2-1.ゆらぐ気候とそのインパクト
近年、アフリカでは異常気象が頻発しています。 2000年、モザンビークやマダガスカルではサイクロンに襲われて大災害が起きました。 2003年、ヨーロッパが未曾有の熱波に襲われていた頃、サハラ南部とサヘルでは大雨が降り、砂漠の一部に緑が蘇りました。 台地上の農作物は大豊作でしたが、低地では農地が壊滅的な被害を受けるとともに、多数の死者が出る大災害となりました。 西アフリカの乾燥地帯では、例年の10倍もの大雨が降ったところもありました。
2006年、サハラとナミビアの砂漠に局地的な大雨が降り、サハラでは塩の産地として知られるビルマ・オアシスが壊滅的な被害を受け、 ナミビブ砂漠では1時間に70ミリもの豪雨を記録しました。南部アフリカのケープ地方やレソトなどは、何回か寒波に襲われ、大雪も降りました。 10-12月、ケニアでは3年連続の厳しい干ばつに襲われていた乾燥地に、大雨・洪水災害が起こり、リフトバレー熱などの感染症が蔓延しました。 ここでは、2007年の大・小雨季にも雨が少なく、今に至るまで干ばつが続いています。
2006年12月-07年4月,南インド洋では15個のサイクロンが発生し、そのうち6個に直撃されたマダガスカルでは、暴風と大雨・洪水による災害が繰り返して起こり、 50万もの人びとが被災しました。このため、「史上最悪のサイクロン・シーズン」といわれました。 また、多くの人びとがコレラやマラリアなど水媒介感染症蔓延の危険に曝されました。
2007年7-9月北半球の雨季、西・中・東部アフリカの24ヵ国にわたる広い範囲で活発な対流活動による大雨が降り、あちこちで大規模な洪水が起こりました。 直接の被災者は全域で200万人を数え、数百万もの人びとが食料不足と水媒介感染症暴露の脅威に曝されました。
最も被害の大きかったスーダンでは、60万人以上の人びとが直接被災しました。 最近出されたOCHA(国連人道問題調整事務所)の報告によると、雨季がいつもより早く始まった南部アフリカでは、 2008年2月中旬現在、すでに約45万人が洪水で被災しています。また、雨季が終わる5月までに、最悪の場合、280万人が被災する恐れがあると警告し、 国連機関やNGOに対して事前の備えをするよう、異例のアピールをしています。
2-2.乾燥地域の資源管理 ― サハラでは
サハラにはかつて緑豊かだった時代を物語る岩絵がたくさんあります。しかしそれらの文化遺産が今、危機的状況になっています。 石油開発のため破壊されたり、観光客や研究者によって持ち去られたり傷つけられたりしています。こうした違法行為を防止するために、 例えばアルジェリアでは、無許可での四輪駆動車の使用禁止やガイドなしでのツア-禁止等の取り締まりを強化しています。 実際にドイツ系観光客が逮捕された事件がありました。
2-3.熱帯雨林地帯の資源管理 ― コンゴ盆地では
コンゴ民主共和国での紛争(1978-2003)は「アフリカの世界戦争」といわれ、政治問題だけではなく貴重な天然資源を巡ってアフリカ9ヵ国が参戦しました。 コンゴ民主共和国では携帯電話やパソコンに使われるコルタンという稀少な金属が採れるため、紛争中その多くが違法に採掘され国外に密輸されたといわれています。 武装勢力や採掘労働者の多くがゴリラなどの野生生物を密猟して食料としていたため、「携帯電話が野生動物を殺す」という新聞記事の通り、 たくさんの野生生物が殺され、この地域に固有の生物多様性が脅かされました。 今、コンゴ盆地では「コンゴ盆地森林パートナーシップ」(CBFP)など、関係6ヵ国と国連・国際機関・支援国(日本も)・NGOの協力による管理計画が進められています。
2-4.河川・湖沼の資源管理-チャド湖の変動とその再生をめぐって
消え行く湖と呼ばれるチャド湖は周辺の人びとにとって貴重な水資源です。チャド湖はかってとても大きな湖でした。しかし1970年代末以来、どんどん小さくなり、今では、昔の20分の1ほどの大きさになってしまいました。チャド湖がこんなにも縮小した理由として、長引いた干ばつにより降水量が少なくなったこと、湖への流入量が減ったこと、多くの水が灌漑に使用されていることなどが考えられています。中でも、1979年に建設されたマガ・ダム(カメルーン北部)が最大の影響を与えていると思われます。 現在は、チャド湖を再生させるための国際機関によるいくつかのプロジェクトが動いています。コンゴ川支流のウバンギ川らの引水計画もその1つです。コンゴ川水系では、下流部にあるインガ・ダムを大型化して大規模な発電をし、南部アフリカ諸国に送電するとともに、余った電力をヨーロッパに売ろうとする計画も動き始めています。
【質疑応答】
Q1.外来植物が具体的にどういう影響を及ぼすのでしょうか?
A1.例えばメスキート (Prosopis juliflora) の場合、土着の植物にはなかったその硬い実をヤギが食べて歯が折れてしまうということなどがあります。 一番問題なのは、外来種がはびこって土着の有用植物が駆逐されてしまうことです。そうなると、生態系が乱され、他の植物や動物にも悪影響が出ます。
Q2.サハラ砂漠は緑になりますか?
A2.今後サハラ砂漠の広い範囲に緑が戻るかどうかは予測がつかないが、最近の大雨の影響で、今まで砂の中で眠っていた植物の種子が一斉に発芽し、 スポット的に緑になったことは度々ありました。砂地の多くは、十分な雨さえ降れば、緑が戻る可能性を秘めているのです。
Q3.サハラ砂漠では、ツーリズムによる環境へのインパクトがありましたが、現地の人のためになるようには、どういう形で改善すれば良いのでしょうか?
A3.「砂漠に残すのは足跡だけだ」など、環境に配慮したエコツーリズムを見つけていかなければならない。燃料、食料、水などは各自持ち込み、 余ったものや廃棄物は責任をもって持ち帰る、などの配慮が必要だと思います。
ここでアンケートに寄せられたメッセージを紹介します。
- 地理・気候に関する知識の整理ができました。情報ソースが明記されており、参考になりました。これからも変わらず、watchとactionをお願いします。(30代女性)
- 本当に内容が盛りだくさんで面白かったです。特にアフリカの気象についての話は初めて聞いたのでとても興味がわきました。ただ、手元にないパワーポイントも多く、戸惑いました。(20代男性)
- もっと質疑応答が聞きたかったです。短い時間の中でとてもぎっしりと詰まった情報をどうも有難うございました。いろいろ勉強になりました。(30代女性)