QUAD首脳会議、コロナに関する知的財産権免除に触れず

技術移転・製造・供給能力拡大についても既存の計画の進捗確認にとどまる

第76回国連総会会期中の9月22日に行われた「グローバルCOVID-19サミット」に続いて、バイデン米国大統領は9月24日にワシントンDCの米大統領府(ホワイトハウス)で、「日米豪印4ヵ国安全保障対話」(QUAD)の首脳会談を招集した。会議は対面で行われ、日本の菅総理、オーストラリアのモリソン首相、インドのモディ首相が参加した。QUADは世界各地で影響力を強める中国の存在を念頭においた、日米豪印の4ヵ国によるいわゆる「インド太平洋地域」の安全保障のための対話枠組みであるが、対話の対象としては、軍事的な安全保障のみならず、COVID-19などパンデミック対策や国際保健安全保障、科学技術イノベーションなど、より包括的な安全保障を含んでいる。

QUADは3月の第1回首脳会議で、「QUADワクチン・パートナーシップ」を設立し、東南アジア・南アジア・大洋州諸国を中心とする「インド太平洋地域」へのワクチン供給の拡大について、同地域におけるワクチンの製造能力の拡大を含む行動計画を発表した。

一方、インドが昨年10月に南アフリカ共和国と共に世界貿易機関(WTO)に提案した「COVID-19関連製品への知的財産権の一部・一時免除」提案については、米国政府が5月に、またオーストラリア政府が9月に支持を表明した。これにより、QUAD4ヵ国で同提案への支持を公式に表明していないのは日本のみとなっていた。日本の「新型コロナに対する公正な医療アクセスをすべての人に!連絡会」とヒューマンライツウォッチは共同で提案書を発表し、4ヵ国首脳に対して、(1)QUADとして知的財産権免除提案への支持を公式に打ち出すこと、(2)QUADはmRNAワクチンを含めた研究開発・技術移転・製造・供給の拡大について、インド太平洋地域のみならず全世界に対して責任を果たすこと、の二つを要望していた。

9月24日のQUAD首脳会議の成果は同日、共同声明として発表された。この声明では、COVID-19に関わる知的財産権の免除提案については何ら言及されなかった。また、共同声明で示された4ヵ国のCOVID-19に関する協力は、2日前の「グローバルCOVID-19サミット」で打ち出された誓約と、3月の首脳会議での行動計画の進捗確認の域を出るものではなかった。

共同声明によると、QUD諸国は3月以降、今回の首脳会議までに以下のことを行った。

◎日米豪印ワクチン専門家作業部会の立ち上げ
◎4ヵ国で全世界に12億回分以上のワクチン供与(うち11億回分が米国、6000万回分が日本)
◎7900万回分のワクチンをインド太平洋諸国に供給。(日本は約2300万回分)

また、共同声明では、行動計画の進捗を踏まえ、今後、同地域において以下のことが行われると述べられている。

まず、インドは3月のデルタ株による感染爆発以降停止していた、インド製COVID-19ワクチンの輸出を10月から再開する。

日本は昨年から主にインド太平洋諸国向けに展開している新型コロナウイルス感染症危機対応緊急借款により、インド太平洋諸国のワクチン購入を支援する。

また、オーストラリアは東南アジア・大洋州向けに2.12億ドルの無償援助を行い、これらの国々のワクチン購入を支援する。また、これとは別に2.19億ドルの無償援助により、ワクチンの配送を支援する。

一方、QUADワクチン・パートナーシップが3月以降にワクチン生産拡大のために融資した対象企業であるインドの「バイオロジカルE社」(Biological E. Ltd.、本社ハイデラバード。1953年の創業以降、医薬品やワクチンを製造してきた)は、本年中にCOVID-19ワクチン生産を開始し、2022年末までに10億回分のCOVID-19ワクチンを生産する。

この「バイオロジカルE社」の製造するワクチンのうちの一定数は米J&J社のウイルスベクターワクチンである他、同社は米ダイナバックス社(Dynavax)と連携して新たなCOVID-19ワクチンを開発中である。

QUADが対象とする「インド太平洋地域」は南アジア、東南アジアなど膨大な人口を抱える地域であり、デルタ株の影響でCOVID-19は拡大を続けている。ワクチン、予防、検査、治療とも、現状の供給量は公衆衛生ニーズに全く達していない。必要な供給量の確保に向けては、知的財産権の一時・一部免除により対等な形での技術移転を進め、地域での製造・供給を促進する必要がある。残念ながら、QUADが3月に明らかにした地域での技術移転や生産能力の拡大はインドの一部企業へのテコ入れにとどまっている。また、QUADによるワクチン技術移転・生産拡大の協力は、結局のところ、製造・供給をインドに依存するものにとどまっており、東南アジアや大洋州への技術移転や生産を促進するものにはなっていない。本来、こうした地域協力は、QUADではなく、すべての国が参加できる公開され、透明で責任のある枠組みによって促進されるべきである。