2008年1月に発行した『アフリカの食料安全保障を考える』をウェブ化しました。
「6章 アフリカ農業開発における留意点」に出てきた用語について、主として廣瀬昌平氏の著書『国際協力成功への発想』(農林統計協会、2006年)からキーワードを取り上げ解説する。
エコテクノロジー
近代的科学技術を導入しつつ、地域の環境とそこに根付いた伝統的技術、さらに地域特有の生物資源との調和によって築かれた持続可能な営農システムのもと、環境との調和を考えた21世紀の農業技術。[廣瀬昌平]
顔の見える援助
農民・農村に直接役立ち、利益を与えるような住民参加型農業・農村プロジェクトを行う。トップダウン方式からボトムアップ方式への転換。農民の意向を汲み上げ、「現地の声」を直接援助提供者に伝えることである。[廣瀬昌平]
技術協力
現地の自然、社会・経済環境を理解し、それに適応してきた在来技術の存在理由を農民に学び、農民のニーズを知り、彼らとともに技術の改良を組み立て、彼らの自助努力を引き出すこと。[廣瀬昌平]
近代的農業
生産性重視技術である施肥、多収性品種の導入、作付け様式の単純化、単一作物の連続栽培などのこと。エネルギー過剰投下による集約化技術である。[廣瀬昌平]
栽培技術(農法)
栽培技術は、自然および社会・経済的環境のもとでの、土地と作目への労力や生産手段の投入から成り立っている。環境条件の下、農民は持っている有効な技術によって環境を管理・制御しながら、地域に存在する資源と組み合わせ、循環させる農法を生み出してきた。[廣瀬昌平]
砂漠化
砂漠化の要因としては主に3つあげられる。一つは、エコシステムの変化により気候変動、降水変動が起こり、地形、土壌、植生へ影響する。二つ目は、人間によるインパクトである人口増加、過剰伐採、過剰放牧、火入れ、塩類化などにより耕地の劣化をもたらす。最後に、社会・経済インパクトである都市化、工業化、戦争は生態系の劣化を加速する。
砂漠化によってもたらされる悪影響は、食料不足、飢餓、疾病蔓延、燃料材の不足、集団的移動、難民増大、民族間抗争など社会経済的な影響である。[廣瀬昌平]
小規模農民
地域間において、「小規模農民」の定義は異なる。アフリカにおける小規模農民とは、所有する農地が2ha以下であり、簡易な農機具を用いた伝統的農法で自給自足的農業を行っている人々のことである。[JICA]
低投入型技術(在来性ポテンシャルの活用)
低投入型技術とは、伝統的技術を生かした「在来性ポテンシャル」を活用した農業である。「在来性ポテンシャル」とは、農村が持つ生態・社会・文化の相互関係の歴史的な累積体であり、その累積体が持つ多面的な潜在能力・可能性のことである。在来の資源・技術・知識・知恵・制度などのポテンシャルに着目することにより、近代的技術を過度に投入することなく地域環境資源の活用と循環を図る。 [荒木美奈子(お茶の水女子大学)、伊谷樹一・掛谷誠(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)]
適正技術
地域資源の利用・循環によって環境を保全し、生産性、収益性を豊かにする持続可能なエコテクノロジーのこと。(1)農民が何を望んでいるか、(2)そのおかれた自然的、社会・経済的環境の理解を通して、③地域の伝統的技術をどのように改善するかが最重要である。[廣瀬昌平]
伝統的農業
地域の生態環境に合わせて成立している農業のこと。地域の環境(自然・社会・経済・文化)のなかで、あるいは変化する条件のもとで農民が知恵を絞り、試行錯誤のうえに築き上げ、継承してきた、生産性は低いが安定した農法・技術から成り立っている。近代的農業に相対する分類法。[廣瀬昌平]
土壌肥沃度
土壌肥沃度とは、土壌に含まれる有機物や粘土鉱物など植物生育に必要な元素を供給する能力に関する土壌の状態のこと。土壌肥沃度は、もともと樹木や下草などの自然植生を介する養分循環によって維持されてきた。近年、人口増加 に伴う食料増産の必要から、休閑期間をせいぜい4~5年間に短縮せざるを得なくなり、その結果、自然の回復があまりあてにできなくなってきている。そうなれば、他からの養分の補給、特に肥料の使用によって農業生産を維持する必要がでてくる。[国際土壌肥沃度管理研究所]
ネリカ米
アフリカには、西アフリカの原産のアフリカ稲があり、アフリカの気候・土壌条件に適した稲として栽培されていた。乾燥に強く、病害虫にも抵抗性があったが、単収が低く食料不足が生じた。これを改善すべく西アフリカ稲研究所は、アフリカ稲と単収が高いアジア稲との交雑により新品種の改良に取り組み、感想と酸性土壌に強く、雑草との競合にも強い品種が開発された。ネリカ米の問題としては、干ばつに弱く、厳しい乾燥下では大幅に収量が減少(0.2~0.3t/ha)するおそれがあるため、水管理による普及とともに推進することが適当と考えられる。[FAO] 土壌肥沃度管理研究所]
半乾燥サバンナ帯の緑化
半乾燥サバンナ帯は、サヘル地域などに見られる気候であり、西部からモーリタニア、セネガル、マリ、ブルキナファソ、ニジェール、チャド、があげられるが、東部のエチオピアやスーダンを含む事もある。年間降水量は100mm~600mmと少ない半乾燥地で、しかもその降水量は年によって変動がある。このサヘル地域での砂漠化は深刻であり、この地域の砂漠化防止を主目的として、1977年ケニアのナイロビで国連砂漠化防止会議(UNCOD)が開催された。各国は、「砂漠化防止行動計画」に基づき、防止対策を立てたが、1983年と1984年激しい干ばつと飢餓に見舞われてしまった。砂漠をもたない日本でも、このサヘル地域での砂漠化を契機とし、砂漠化に関する関心が高まった。[国立環境研究所]
緑の革命
1960年代、近代的技術を推進するべく高収量性品種(HYV)、化学肥料・農薬をアジアの発展途上国へ普及することによりアジア農業技術の劇的な改変をし、増収・自給率の達成ができた。しかし、その効果は持続せず、1980年代以降は大量の農薬投入から土壌肥沃度低下、水質汚濁などの環境破壊、工業化・機械化による伝統的農村社会の慣習が崩壊するなどの被害をもたらした。[廣瀬昌平]
【用語集の参考文献】
廣瀬昌平(2006) 「国際協力成功への発想-アジア・アフリカの農村から-」農林統計協会
荒木美奈子(2006) 「地域開発と「在来性ポテンシャル」-タンザニア南西部マンテゴ高地における開発プロジェクトの事例から-」 第43回日本アフリカ学会資料 P64
池谷樹一・掛谷誠(2006)「「在来性のポテンシャル」再考-農村開発への一視点」
第43回日本アフリカ学会資料 P69
国際土壌肥沃度管理研究所 http://ss.jircas.affrc.go.jp/kankoubutsu/news/JIRCAS_news/2000/No.23/11.html 最終閲覧日2006年6月21日(2011年8月11日現在 閲覧できず)
国立環境研究所 http://www.nies.go.jp/ 最終閲覧日2006年6月21日
JICA http://www.jica.go.jp/ 最終閲覧日2006年6月21日
FAO http://www.fao.or.jp/special/nerica.pdf 最終閲覧日2006年7月5日(2011年8月11日現在 閲覧できず)